Neetel Inside 文芸新都
表紙

虹のかけら
grand bleu

見開き   最大化      


     

splashing about on Flickr - Photo Sharing!
http://www.flickr.com/photos/_belial/2276159988/


     

目の前に広がる冬の海。静かな景色。ただ、ただ波は岸辺に繰り返し打ち上げる。雲ひとつない空からの陽射しと体の中を駆け巡る血潮は私を暖かく包み込む。

「どう?いい眺めでしょ。」

暖かく包み込んでくれるのは彼女もそうだ。私がゆっくり砂の足跡を振り返るとミサが清々しい笑顔で歩み寄ってきていた。風に髪がなびくのを気にしていない様子。私も、視線を足元に落としながら笑顔で答える。

「そうだね。」

カシャ。不意に機械の音が聞こえた。ミサの方を見ると彼女は両手でインスタントカメラを持って明るく笑っている。

「ミサ!」

「ヒロの素敵な笑顔記念だよ。」

そう言っている間にそのカメラから写真が送り出される。ミサは右手にそれを、まるで羽根の生えたようにはためかせ、波打ち際を笑いながら駆け回る。北からの弱い風に私はあまり体温を奪わないでと願う。目の前の天使が私に微笑みをもたらしている間だけは、優しくして欲しいと願う。

「ヒロー!こっちにおいでよー!よく撮れてるよー!」

「待って、今行く!」

小走りに彼女に近づくと、彼女は走って遠ざかる。

「ミサ!待ってよ!」

「あはは!ヒロ!早くおいで!」

白い息が視界を遮る。いつの間にかに走ることを忘れた私の両脚では思うように彼女との距離を縮めることができない。これと対照的に、遠目で見る彼女は少しの疲れもないようだ。それどころか楽しそう。楽しそう?あれ?私と一緒に居て楽しいの?こんなに沈んだ気持ちの、こんなにつまらない人間の私と?

「ヒロー!待っててあげるからー走っておいでー!」

両手を横に大きく開いてたたずむ彼女を見た途端、不意に涙が溢れてきた。いけない、と思い、上を見る。透き通った空の青が目に映る。潮の匂いのする空気の中で深呼吸したあと、一気に彼女の方へ向かい、駆け出した。

彼女の微笑みに見守られながら走った。息が切れそうになりながら走った。その勢いで胸の中へ飛び込む。背の高い彼女の両腕に包まれる。胸の中に入ってくる空気は冷たいけれど、肌で感じるのは暖かい温もり。

「どう?走るのは気持ちいいでしょ。」

いつもそうだ。彼女は何もかも私のことをわかっている。そしていつものようにこう答える。

「そうだね。」

       

表紙

斎七 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha