Neetel Inside 文芸新都
表紙

ロリロリ戦隊ロリレンジャー
第一話 真っ赤なマント!参上ロリレッド!

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「私と共に戦いなさい」
 あまりにも唐突だったので、俺は意識が飛びそうになった。俺が学校に行く途中のことだ。黒いワンピースの上に白いエプロン、金髪ツインテールで、その頂上にそびえるのは白いヘッドドレス、北欧美少女のメイドさんが突然俺の目の前に現れた。突然現れたといっても瞬間移動ではない。曲がり角から飛び出してきたと言ったほうが適切だ。背は俺よりも少し高いようだ。生きているのかと思えるくらいの無表情な顔で俺の方をじっと見つめている。
 季節は春先、学校の始業式が明けてから、二、三週間しか立っていない。
 俺はごくごく普通の小学3年生の女子児童。名前は日比野 藍那(ひびの あいな)。戦うって誰とだ?戦う力はもちろんない。邪気眼みたいな力を作った覚えもない。せいぜいできるとしたら、グロ画像をネットの掲示板に貼り付けることくらいしかできない。そんな俺に何をしろと……わかったぞ! これは俺の幻覚だ! いわゆる中二病だ! 黙っていれば問題はない。黙っていよう。
「……」
 俺は数時間鑑賞していても飽きないほどかわいらしいメイドさんをできるだけ見ないようにして、横を通り過ぎようとした。しかし、金髪ツインテールのメイドさんは俺の行く手をぬりかべのごとく妨害する。
「あなたは戦わなければいけません」
 命令形だ。感情の無い声でつぶやいた。幻覚の青い瞳と無表情な顔が俺に訴えかける。無視しろ俺! 無視するんだ! そもそも今は登校途中。学校に行くことが今の俺のミッションだ。
「……わたしは学校があるので…」
 できる限り俺の考えれる限りの丁寧な断り方をした。その瞬間、俺はすぐさまLRトリガー同時押し。突然現れたモンスターとの戦闘をなんとか全力疾走により離脱。
 ……やべ、俺、突然走り出してしまった。変だと思われてないかな。近所の人たちに。

     

 俺はなんとか幻覚というモンスターの魔の手から離脱し、自分のクラスにたどりつくことができた。俺はしょっていたランドセルを自分の席にかけた。
「おはよう、藍那ちゃん。あれ?どうしたの?そんなに息を荒くして」
 この娘は俺の親友の武知 智(タケチ トモ)。幼稚園の頃からの長い付き合いだ。俺の親友は小動物のようにちっちゃな体を机に座らせていた。そのちっちゃな顔をこちらに向けてくる。なんとも可愛らしい。
「いや…ちょっとね……」
 俺は、このハムスターの問いかけにそう答える。
「どうしたの? 変態さん?」
 ちっちゃな顔が少し右に傾く。
「まぁ、そんなところかな?」
「藍那ちゃん、かわいいからね」
「いや、智ちゃんの方が可愛いよ」
 俺の親友のちっちゃな智ちゃんに俺はいきなり抱きつく。
「やめてよぉ…藍那ちゃん…」
 ちっちゃくて可愛らしい貧乳が俺の頬に当たる。完全にまな板の貧乳じゃないところがまたすばらしい。まな板OPPAIか非まな板OPPAIの判断がつかないくらいの貧乳が俺好みの貧乳としては最高だ。さらにまた、このシマリスが突然のアヒルの悪戯にオドオドしているのは実に可愛らしい。去年の夏のプール学習の着替えのとき、生で見た貧乳の美しさは国宝の源氏物語絵巻と肩を並べてもいいほどの価値をもっているはずだ。某お宝テレビ番組に胸をお宝として出演したとしても、鑑定団の方々がその貧乳に時価数億円と評価してくれるに違いない。俺の方が変態さんだな。
 いつもと同じ、いつもと何も変わらない朝の風景。親友と俺とのこのやりとり。これが俺の日課といってもいい。

     

 休み時間、俺は俺の親友の智ちゃんにトイレに呼び出された。
 女子トイレの一室。俺と智ちゃんの二人だけの世界に入れない便器がやたらとむなしく感じる。
「じつは、わたし、好きな人がいるんだ…」
 一瞬、心臓が止まりそうになった。
 プレーリードッグはちっちゃな声でつぶやいた。この年頃のおにゃのこだったら、好きな男が一人いても、おかしくない。俺はいないはずだが。
「智ちゃんは誰が好きなの?」
「えっとねぇ……」
 智ちゃんは顔をサクランボにして、顔をうつむかせ、もじもじした。目線はトイレのタイルばかり見ている。可愛いなぁ。
「……環くん」
 智ちゃんは目上目線を使って、俺の方を見てきた。環といわれて俺が最初に思い浮かんだのは金髪の高校生の……うん。桜蘭高校ホスト部の。しかし、1フレーム後、俺は思い出した。たしか、環という男子が俺と同じクラスにいた。浮田 環(ウキタ タマキ)。いつも校庭でサッカーをしている色黒の少年だ。なぜか彼を思い出すたびに、いつも、サッカーボールとハッピーセットになっている。顔つきも良く、俺の趣味がインターネットでなければ、俺が惚れててもおかしくない。
「……おかしいかなぁ……?」
 ちっちゃなサクランボは両手を組み合わせながら、目線を下に戻した。
「別に変じゃないよ!」
「……そうかなぁ、ありがとう。智ちゃん。」
 スーパーボールのように弾んだ明るい声で答えてくれた。
「……それでねぇ、ラブレター書いてみたんだ」
 ちっちゃな智ちゃんがおもむろにポケットから出して、渡してくれたちっちゃな手紙。それに書かれたちっちゃな文字。ところどころに蛍光ペンでハートなどの記号を添えている。メールが流行している今の世の中。チョモランマと改名されたエベレストで遭難したとき、吹雪の中、なぜかかまくら、しかもその中に暖かいコタツがあって、コタツでぬくぬくすることができるというときの心情はこんなものだろう。返事は今日の放課後、屋上で待っているのか。返事がノーなら来なくてもいい。青春だな。
「どうかなぁ…? このラブレター?」
 ゴールデンハムスターのつぶらな瞳が俺の方に来る。
「うん、私はいいと思うよ」
「ほんとう!? ありがとう!藍那ちゃん!」
 バスケットボールのように弾んだ明るい声。俺は俺のちっちゃな親友に抱きしめられた。智ちゃんの顔が俺の完全フラットな胸に吸い付く。俺は突然の出来事のため自分の顔が熱くなったのを感じた。智ちゃんのぬくもりが暖かく感じる。一家に一台あっただけでも、冬は越せる。もし仮に妹がいたら、こんなに可愛いのだろうか? 少なくても俺の妄想ではこんなに可愛い。
「さっそく、下駄箱に入れてくるね!」
 俺のちっちゃな智ちゃんは軽快にトイレの一室のドアを開けて、ピアノを弾くようなステップをしながら、俺の目の前を去っていった。

     

 放課後、俺は智ちゃんと一緒に屋上にいた。屋上には俺たちしかいない。雲がまったくない青空と、吹いてくる春風のおかげで寂しさがいっそう増してくる。俺は智ちゃんの恋の行方を見守るために屋上にいる。俺たちの背丈の二倍、三倍以上はあろう、ものすごく高いフェンスがある。フェンスを越えて飛び降り自殺しないようにするためなのだろうが、限度っていうものがある。そこで俺たちは両手でフェンスをつかんで、学校自慢のパノラマを見ていた。
「来るといいね。智ちゃん。」
「……こなかったら、どうしよう……」
 顔を火照らせた智ちゃんが手をフェンスから離した。手をもじもじさせながら俺の方を見つめる。上目使いというシチュほど殺傷能力の高いものはない。
「きっと、来るよ。大丈夫だよ!」
 そういえば、智ちゃんが浮田君と付き合うことになったら、俺はどうなるのだろうか。また一緒に公園でブランコに乗ったりしてくれるのだろうか。一緒に桃鉄してくれるのだろうか。去年のクリスマスみたく、お互いにクリスマスプレゼントを交換しあえるのだろうか。そういえば、智ちゃんからは赤いマフラーをもらったな。
「浮田君と付き合っても、友達だからね?智ちゃん?」
 空には一羽の鳥が空を飛んでいる。カラス、鳩とかの鳥だったら一目でわかる。しかし、それ以外の鳥はあまり見分けがつかないのは俺だけだろうか。
「うん。友達だよ! 藍那ちゃん!」
「絶対だよ! 約束だよ! そうだ、指きりしようよ!」
 俺は強く言った。檻から手を離し、お互いの小指同士をふれさせあう。ちっちゃな智ちゃんのおててに触れる。かすかではあるが智ちゃんの手の温度が伝わってくる。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はりせーんぼーんのーます。ゆびきった」
 ところで、こんな話を知っているだろうか。“指切りげんまん”の“指切り”というのは、遊女がほれてしまった客に愛情の不変を誓うために小指を切断して、それを桐箱に入れて渡したことに由来する。“げんまん”というのはその約束が敗れたら拳固で万回殴ることから由来する。漢字で書くと拳万になる。実際に一万回も拳固で殴ったら、殴った側も疲れるだろうに。
「これで、ずっと友達だよ! 智ちゃん!」
「うん、友達だよ」
 小指を離す。かすかな温度は消え去っていく。

     

 ガチャ……
 屋上のドアが開いたようだ。人影が見える。日焼けで色黒の少年。浮田環。智ちゃんが恋文をだした相手だ。
「……なんだ、日比野も一緒か」
 当然のことだが、俺がいたことに驚いた様子だった。むしろ、驚かなかったら、俺の存在が疑われる。
「わ…わたしは空を眺めたかっただけ。じゃぁ、私は帰るね。さよなら、智ちゃん」
 環君は、両手をポケットに隠し、智ちゃんの近くにそろそろと歩み寄った。俺はドアの前まで走り去り、ドアを開けて俺が去ろうとした瞬間――

     

 ――空から降り注ぐ一筋の黒い光線が智ちゃんを直撃したのだった。
「うわ!? な…なんだ!? メタボリックシンドロームが攻めてきたのか!?」
「何!? 大丈夫!? 智ちゃん!!」
 突然の出来事に俺は、グロ画像をまだ見たこともない頃、蒼星石のエロ画像だと思って開いた画像がグロ画像だったときや、パスワードもウイルスもろくにわかってない頃、エロ同人のZIPのパスワードがやっと判明してやっとのことで開けたがウイルスだったとき以上に驚いた。智ちゃんを襲うメタボリックシンドローム(仮)。命名者は浮田環。メタボリックシンドロームを某国で秘密裏に開発された危険なミサイルだとか、悪の組織の一種だと思っていたのだろうか。滑稽な仮名だが当事者の俺にとっては事態の非日常さに圧倒されて、どうでもいいことと化している。
「あ……あついよぉ……助けてよ……藍那ちゃん…環君…」
 俺と共に御指名を受けた環君はひざを腰につけている。智ちゃんは膝まづき、俺の方に視線をよせてくる。そのちっちゃい体からは湯気、スモッグ、なんだかわからないがとにかく煙がでている。わけがわからない。異常事態だ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああ」
 海が裂けるような悲鳴を聞いた。悲鳴と共に俺のちっちゃな智ちゃんは、黒い光に包まれた。黒い光があふれでる。黒い光で前が見えなくなった。

     

 刹那……もう、考えるのはやめよう。僕、つかれてるよパトラッシュ……
「キシャアアアアアアアアアアアアア!!」
 天が裂けるような鳴き声を聞いた。そこにはちっちゃな智ちゃんの姿がなく、おっきなカマキリがいる。俺の背丈、いや大人よりも大きい。大人の身長二人分くらいのおっきなカマキリがそこにはいた。地面に4本の足をしっかりつけて、二本の巨大な大鎌を装備をしている。これだけでは、どこからみてもただの巨大なカマキリのようだが、体の前方が違った。

 体の前方は紛れもなく智ちゃんである。

 俺が今日という日まで5年間と数週間過ごしてきた智ちゃんである。赤く火照らせていた智ちゃんの顔が緑になっていた。顔だけではない、体全体が緑色、しかも、目の輝きが失せ、顔の表情が昆虫のように無表情と化している。さらに、智ちゃんが十字架に貼り付けにされたキリスト様のようにカマキリの胸に貼り付けにされていて、智ちゃんの両手はカマキリと同化していた。
 俺は声もでないし、体を動かせない。人形だ。空気嫁だ。某工業の空気嫁だ。屋上のドアの前で地面に体を崩しているだけだった。
「キシャアアアアアアアア!!」
 カマキリはまた天が裂けるような鳴き声を発した。大人…いや周囲の人はこの異常事態に気がつかないのだろうか。周囲の人はこの天が避けるような声を子供の叫び声だと解釈するのだろうか。
「や……やめ……」
 環君は怪獣を目の前にして、体がすくんで動けないようだ。地面に体を落としている。やめろと叫ぼうとしたのだろう。そして、逃げようとしたのだろうか。しかし、その一刻――
「キシャアアアアアアアアアアアアアアア」

 グロ画像に耐性がある俺でも生はつらい。智ちゃんが告白に成功した相手はカマキリに食べられていた。智ちゃんの方ではないもう一方のカマキリの口で食べていた。しかし、なぜか俺はこの異常ともいえる事態を地面に体を崩してじっと見つめていた。
 ラノベ、ゲーム、アニメ、特撮、エロゲ、漫画、エロ同人、VIP……俺は見すぎたのか?今朝といい俺はどうかしている。こんな悪夢を見てしまうなんて、本格的な中二病だ。これは現実じゃない。俺はふかふかのベッドで寝ているはずだ。いや、俺は今寝ている。俺のちっちゃな智ちゃんも智ちゃんの家で寝ているのだ。
 カマキリは食事を続けている。

     

アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒ
メタボリックシンドロームマンセーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
次は俺の番かwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwワwwwwクwwwwwワwwwwクwwwwwがwwwwwとまんねwwwwwwwwwww

     

「私と共に戦いなさい。」
 あまりにも唐突だったので、俺は意識を取り戻した。それは俺が壊れかけていたときだ。黒いワンピースの上に白いエプロン、金髪ツインテールで、その頂上にそびえるのは白いヘッドドレス、北欧美少女のメイドさんが突然俺とカマキリの間に現れた。突然現れたといっても瞬間移動ではない。屋上のドアを開けて入って、わざわざ俺の目の前にやってきたと言ったほうが適切だ。背は俺が腰を低くしているのでいっそう高くみえた。生きているのかと思えるくらいの無表情な顔で俺を守るように背を俺の方に向けている。
「……」
「あなたは戦わなければいけません」
 命令形だ。感情の無い声でつぶやいた。幻覚の青い瞳と無表情な顔が俺に訴えかける。
「戦うってどうやって……俺には力がない……無理だ……」
 気がつくと、俺の顔が目からでてくる塩味がする水のようなものでグシャグシャになっている。
「あなたはすでに力を得ている」
「力って何だ。俺にはそんな力は皆無だ」
「思い出しなさい。あなたは一筋の光を浴びている」

 おとといのことだろうか。あれは夢だと思っていた。俺は好きな深夜アニメを実況掲示板で実況しながら視聴した後、ふかふかのベッドに倒れこんだ。意識が失せた後、俺は一瞬白くて明るい光のようなものを浴びた気がした。そのため、少し、目を覚ました。しかし、気のせいだと思っていた。なぜなら、俺の部屋の窓にはカーテンをかけている。光の入る隙間がない。

「俺は確かに光を浴びた気がするがなにも起こっていない。俺はどうすることもできない。俺は戦えない」
「あなたは戦うことができます」
「どうやって……」
「あなたは今、戦いたいですか?」 
「もし力があっても戦うことはできない。誰が好きで自分の親友と戦わなければいけないのだ。」
「あの姿は仮の姿。仮の姿を倒すことにより、元の姿を仮の姿による封印から解き放つことができる。」
「倒す……倒せば俺の親友は戻ってくるのか?」
「はい。戻ってきます。」
「それならば、戦ってやるさ。」
「戦うなら、あなたがなぜ戦いたいのかを心の中で強く思ってください。」
 俺は服の袖をハンカチの代わりにしてグシャグシャになった顔をふいた。

 俺の日常の中にはいつも智ちゃんがいた。俺の方をいつも上目目線でみてくる、可愛い智ちゃん。大好きな、かけがえのない親友の智ちゃん。俺は取り戻したい。この日常を。
 強く強く、俺は心の中で思った。

     

 それは一瞬の出来事だった。俺は光った。まぶしい。太陽のような光。白い光が俺を包んだ。

 俺の目の前の世界は闇になった…と思ったらマントが前をおおっていたようだった…え? マント?
「ぬぁぁぁぁぁあんじゃあこりゃあああああああ!」
 俺はあまりにも自分の変身ぶりに、とても素晴らしい柊つかさのエロ同人の画像を入手したとき以上の声をあげてしまった。
 俺は赤いマントを装備していた。そして俺は真紅に光り輝く鎧まで装備しているではないか。しかも、自分の目から精一杯見える前髪は日の入りのように赤くなっていた。どこの勇者さんですか、これ。何のコスプレですか?マジで。しかし、俺の体は鎧を着ているというのに、鷹のように軽くなった気がする。
「変身に成功したようですね。さぁ、戦いましょう。」
 金髪ツインテールのメイドさんも変身しているようだ。元の姿がメイド姿だっただけに違和感がない。というより、今もメイド姿だ。ただし、先ほどまで黒かったワンピースの部分は黄色くなっている。
「どうやって戦えばいいんだ?」
「あなたの腰を見てください。」
 腰には鞘がある。その中には、もちろん、というのはどうかと思うが、剣があるようだ。
「これのことか?」
「はい、そうです。」
 俺は剣を取る。柄が赤い。刃の部分が太陽をまぶしく反射する。
 剣があるからといって、俺は剣の使い方を知らな・・・知っている? 何でだ? そんなエロゲ知らないし、そんなことを聞いた覚えもない。なぜ知らない知識を知っている?
「知識が流れ込んでくる…」
「はい、この姿に変身すると、どうやらそうなるようです。」
 どうやらそうなるようです。ということは詳しく知らないのだろうか。そもそも、金髪ツインテールのメイドさんがこの現象についてどこまで知っているのかを詳しく知りたい。

「いくぞ!! エター・・・・・・」
 意気揚々に飛び出していった俺を止めたのは余計な知識。なんていうことだ、俺はこの剣の名前も知っているのか。
 エターナル・ホーク・ウィング(笑)
 おい、名付け親でてこーい。どこの中二病患者だ。初めて邪気眼の話見たとき以上に笑ってやるよ。

     

「何をしているんですか? 私と共に戦いましょう」
 金髪ツインテールのメイドさんは顔色を変えずに両腰から金メッキの拳銃を取り出した。どうやら二丁拳銃使いらしい。そして食事中のカマキリに向けて拳銃の発射音が連続して交響曲第五番のように響かせる。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア」
 智ちゃんが苦しんでいる。ベートーベンは智ちゃんの胸に攻撃し続ける。
「や・・・・・・やめろ!」
「大丈夫です。あの姿を倒せば元に戻ります」
 そうだった。今は智ちゃんではなく、カマキリなのだ。カマキリの化け物なのだ。金髪ツインテールのメイドさんは顔の表情を一切変えることなく、また指揮棒を振るう。
「あの姿を倒せば、また元気な智ちゃんに会えるんだな。」
「はい、会えます」
「よし、いくぞ! 俺の剣!」
 俺の剣と改名されたエターナル・ホーク・ウィング(笑)を俺の両手に握り締める。思ったより軽い。いや、俺の力が強くなったのだ。さきほどの軽々しさは俺の力が強くなった影響らしい。
「元の智ちゃんを返せ! 喰らえ! ダンシングウィング!」
 技のやり方と技名が同時に頭の中から自然と浮かんでくる。そのため、大声で叫んでしまった。しかし、智ちゃんを助けたい一身だったので、そんなことは気にも留めなかった。
 俺は背後からカマキリを襲った。そして剣でカマキリにヴィクトリア座のバレーダンサーのような乱れ斬りを浴びせる。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア」
 智ちゃんではなくカマキリが苦しんでいる。前からは無表情の金髪ツインテールのメイドさんの銃撃。背後から俺の剣による連続攻撃。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア」
 悲鳴とともにカマキリは、俺の方に向けて巨大な鎌を振りかざす。
 天にまでとどきそうな金属音。
 俺は、俺の剣で巨大な鎌を防ぐことができた。どうやら、このカマキリの鎌を防ぐくらいの力を俺は持っているらしい。
 俺はカマキリの頭のあたりまで鷹のように飛び跳ねた。脚力も相当ついているらしい。
「これでも喰らえ!! ウィングストライク!!」
 俺はカマキリの首めがけて剣を振った。名前のことについては突っ込まないでくれ。カマキリの頭と体が分離した。カマキリの頭はゆっくりと落ち鈍い音を発する。そして、カマキリの胴体は崩れ落ちた。そして、俺は地面に華麗に着地した。ロボット顔をした金髪ツインテールのメイドさんが俺の方に近づいてくる。
「・・・・・・これで終わりなのか?」
「はい、終わりです。」
 俺は安心した。すると、瞬く間に変身は解ける。鎧や剣やマントは消え去り、俺がさきほどまで来ていた服に戻り、髪もどうやら黒色にもどったようだ。金髪ツインテールのメイドさんのも黄色かったワンピースが黒色に戻っていた。カマキリの体も頭も段々透明になっていき、元の俺の大親友のちっちゃい智ちゃんがでてきた。皮膚の色も緑から肌色へと戻っている。

     

「大丈夫!? 智ちゃん!」
「・・・・・・? 私なら大丈夫だけど、あれ? 環くんは?」
 俺は言葉を失った。環君がいない。どこにもいない。どうしたというのだ。俺は金髪ツインテールのメイドさんに蝶が飛ぶ音のような声で耳打ちをした。
「・・・・・・環君はどこに消えた」
「あの怪物に食べられていた少年ですか? 食べられたのですから、当然死んでいます。仮の姿の食料となり、仮の姿の体の一部となりました。」
「・・・・・・それは、“死んだ”ってことなのか?」
「はい、当然“死にました”」
 金髪ツインテールのメイドさんは当然のように言った。食べられて死んで当たり前といえば当たり前だ。これを智ちゃんにどう説明すればいいのか。しかし、俺が説明をする間も無かった。
「これは・・・・・・環くんの・・・・・・」
 智ちゃんはそうつぶやいた。智ちゃんが両手で持っているのは、環君の体の残骸の一部。
顔ではない。しかし、環君が今日着ていた服を見ていたなら、それが環君のものだっていうことがはっきりわかる。
「環くんはどうしちゃったの・・・・・・?ねぇ、智ちゃん・・・・・・」
「・・・・・・」
 智ちゃんは俺の方に駆け寄り、俺を得意な上目目線で見てきた。しかし、俺は無言のまま黙るしかなかった。
「そ、そんな・・・・・・」
 智ちゃんはちっちゃな両手で持った環君を見つめていた。智ちゃんの涙が環君にこぼれる。
「・・・・・・さよなら、智ちゃん」
 智ちゃんはゆっくりと、ゆっくりと、屋上のドアからでていった。

     

 俺は帰宅後、ランドセルを床に投げ捨て、ソファーに倒れこんだ。いろいろなことがありすぎた。智ちゃんは今どういう気持ちなのだろうか。告白に成功し、好きな子と一緒に街を散歩したり、買い物したり、そんな期待に胸を膨らませた瞬間に好きな子が死ぬ。俺だったら絶えられないだろう。期待が裏切られたときの絶望は大きい。
 不吉なことはあまり思わないほうがいい。なぜなら、現実になったとき自分を責めやすいからだ。

     

 ソファーというタイムマシンで俺は数時間後の未来に来た。おふくろの「藍那ちゃん!  夕食できたわよー」という声が俺を現在に到着させる。
 今日の夕食はハンバーグ。ハンバーグは俺の大好物である。滴る肉汁、広大なアメリカの牧場を想像させる農耕な香り。何をとっても最高だ。おふくろが食卓に座ってる俺の方にハンバーグを運んでくる。しかし、広大な牧場を想わせる濃厚な香りは、小規模な日本の牧場を思わせる香りのように感じられた。テレビは夕方6:30以降なのでアニメも何もやっていない。そのため、ニュースをかけていた。ハンバーグをナイフで切り、そしてフォークで、おいしそうなソースという黒い蜜がかかったハンバーグの一部を口に運ぶ。そのとき、ニュースで信じがたいことが伝えられた。
「ただいま、交通事故にあい、死亡した武知智に関してですが・・・」
 あまりの衝撃にフォークを落とし、俺の目はモノクロと化した。武知智。忘れるわけはない。さきほどまで5年と数週間を過ごしてきた俺のちっちゃな親友の智ちゃん。さきほどカマキリの化け物からとき離れた、親友の智ちゃん。
 どうして・・・どうして・・・

       

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