Neetel Inside 文芸新都
表紙

チョコ・レートチャートを私色に
とまどいのビター&スイート 〜起死回生?〜

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授業終了後も私は席から動けなかった。
 彼女の方を見ないよう見ないようにに、机に突っ伏す。絶対に彼女の視線に触れたくなかった。足下を冷たい風が吹き抜けていく。
私は、息をひそめて休み時間が過ぎるのを待った。
クラスメイトは私のことなんか気にすることはない。椅子の足がキーキーと床を擦る音ともに知っている人の声がざわざわと聞こえてくる。女子の会話には「バレンタイン」という言葉が埋め込まれていた。
今、彼女はどうしているんだろう。
いつものように、周囲の雑音に汚されることなく難しい新聞を読んでいるのか。きっとそう、ビックイベントなんか関わりありませんという顔をしてるんだろうな。
私は、彼女の姿を頭の中に描く。ちょっと掠れた声も響いて――。

「佐藤さん、少しいいかな」
 えっ。
 妄想の中の声が今、吐息とともに私の耳に届けられている。
 さっきまで凍り付いていたように沈んでいた気持ちが瞬時に溶かされて、淹れたばかりの紅茶みたいに温かくなる。まるで夢でも見ているみたい。
 私は誘われるように、机から顔を起こした。
 すると、様子を伺うように顔を近づけているではないか。私の顔と彼女の顔、三十センチも離れていない。
 私は初めて見る彼女の整った美しい顔をチラチラ見てしまう。
生命力に満ちた白い肌は、さわってしまいたくなるくらい綺麗。たぶん、女の子なら誰でもあこがれると思う。これも彼女のことが気になる要因なのだろうか。
「大丈夫? 身体調子悪いのなら保健室についていこうか」
 そういって彼女が表情を曇らせるものだから、私はあわてて首を横に振った。
 安心したのか、彼女はあわてて顔を遠ざける。そのとき短く切られた髪がはらりと揺れてやさしいラベンダーの香りがした。私はその香りを楽しむ。
「よかった。机に突っ伏していたからどうしたのかと思った。実は貴方に手伝ってほしいことがあるのだけれど、いいかな」
 私が彼女の力になれるということに心が躍る。今までは受け身でしかいられなかったけれど、今度は私が行動できるのだという気持ちが湧き上がってくる。
いや、たいした取り柄がなくパっとしない平凡人の私が、まわりのことが見える大人な彼女を手伝えることなんてあるのか、という疑問もよぎった。しかし、私の中では前者の熱い想いが勝った。
「協力させてっ! 力になれるように頑張るから」
「まだ中身を告げてないのだけれど、応えてくれてありがとう」
 まだ詳しい内容を聞かぬまま応えてしまった。これまで十七年間で最悪の早とちりをしてしまった。顔の温度が急騰する。このまま沸騰・蒸発してしまいたいくらい恥ずかしい。穴があったら入りたいくらい。
そうだ、彼女は? 私は恐る恐る表情を見た。
彼女はいままでにないくらい優しい、癒されるような笑顔で私を見てる。ついさっきまでネジが外れたかのように壊れていた私もその顔で見ていたんだろうか。
「ぅぅぅ……」
 どうにかその場を取り繕いたいと必死で考えるほどに、思考が空回りしてひとことたりとたりとも出てこない。
 そうこうしている間に、彼女がつかつかと私の席から離れていくではないか。「どうして」という言葉が漏れたとき、その理由に納得した。やっぱり彼女だった。
 すぐに予鈴が教室中響いたのだ。散っていたクラスメイトが自分の席に帰っていく。教室の外に出ていたみんなも戻ってきた。彼女も予鈴に気がついていたようだ。
 私は少しほっとした。
 しかし、彼女らしくない行動が気にかかる。というのも、彼女は今まで私の問いへ、簡潔に応えてきた。それなのに、今はなかなか本題が出てこなかった気がする。自分から話しかけて来たのに、途中から何もしゃべらなかった。
 ところで、私に協力して欲しいことって何だったの?

       

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