Neetel Inside 文芸新都
表紙

チョコ・レートチャートを私色に
本命は…… 〜形のない利益〜

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 それから彼女とまともな話をしていない。
 私がチョコを誰にあげるのか、それとなく聞いても「今持っているデータから有望な投資先を見当している」というはなしだけで何も教えてはくれない。
 心がざわざわ落ち着かない。せっかく藍理との距離をつめられたというのにこんなことになってしまうなんて。
 二月十四日が近づくのが恐ろしくなっていった。
 もしかしたら、もう彼女との関係がもどることはないかもしれない。
 難しい新聞を読んで投資や株式、社会情勢に精通することが好きで、先見の目をもっている姿。そして、逆に女の子らしい、かわいらしい姿。思い出すと目頭が熱くなってしまう。
 私はなんとかこらえる。そして彼女をできるだけ見ないようにして過ごすことにした。
 それでも、ときどき藍理が私のことをみているもんだから心にうごめく気持ちをなだめるのに必死だった。
 
 何をしてもその日は確実に迫っていた。



 当日。
 私はいつものように教室へ行き、いつものようにすごそうとした。
 だが、女の子たちは色めき立っている。
「ねえねえ、誰にあげるの?」
「まだ、内緒だよ」
 うるさくてうるさくて、早く授業が始まって欲しかった。私の好きな日本史でなくてもいい、なんでもいいからこの惨状を断ち切ってと願っていた。
 私は現実から目をそらしたくて、窓の外の風景を見た。だが、窓際に座る藍理の姿が視界に入ってくる。
 誰にあげることにしたのだろうか。チョコはまだ鞄の中にあるのだろうか。
 考えるのは嫌なはずなのに、私の中から消えなかった。そんな状態だから、授業の内容なんて一切覚えていない。教科すらも時間割からやっとわかる程度だ。
 そんな風に、一日が過ぎていく。
 
 事態が動いたのは放課後のことだった。
 私は藍理に声を掛けられた。
 チョコのことを言われるんじゃないかと思って、思いっきり逃げようとしたけれど、藍理に手首をつかまれてしまった。抵抗すれば逃げられたかもしれないけれど、そこまでする姿を周りにみられたくなかったので、大人しくつきあった。
「眞歩、実は投資先のことなんだけど」
 きた。誰に渡したのかわかるとき。それとも、これから渡すのだろうか。私は唇を噛みんだまま俯き加減でしっかりとした藍理の言葉を聞いている。
「クラスの男子を検討してみた。でも、ダメみたいだった。私のことを変わった奴としか認識していないみたいだから投入した資金に対してリターンがあまり期待できない。元本割れだって覚悟しないと。ほかの学年やクラスも考えてみたけど、クラスメイトほど私のことを知っている男子はいないようだったからこれも投資先として適切でない」
 私は内心ほっとした。藍理は男の子にチョコをあげていない。
 それだけで私にとっていいバレンタインのプレゼントだったのだが。

「リターンが期待出来る投資先を見つけたんだ。よしと思ったけれど、その投資先はあまりメジャーとはいえない。普通そういうところに投資するのは躊躇してしまうもの。でも、冷静に考えたら、今回の投資はリターンを求めるものだった。となれば、メジャーもマイナーもない。ただ私にとって有益なところに投資するだけ」
 藍理はそこで話を切った。
 私は最初なんのことだかわからなかったけれど、視線を感じて少し顔を上げたときにみた真摯な藍理の目をみてわかってしまった。もしかして……。
 藍理は私に近づいてきて、私の手に先日買ったチョコの入った袋を握らせてくれた。そのとき触れた藍理の手はちょっと大きくて温かかった。藍理の温かさが私の心臓の鼓動を早めていく。どくどくどくどく。
「男の子も女の子もない。だって、眞歩といると私は幸せだから。これからもよろしく」
 私は、足の先から頭のてっぺんまでカっと燃え上がるように熱くなった。
 その火力は衰えるどころか、ますます強まっていく。
 私は藍理の熱に酔いながら、今回のごたごたで渡すチョコを準備していなかった恥ずかしさにつつまれていた。

     


       

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