Neetel Inside 文芸新都
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小さな世界

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●小さな世界

ある真冬日。
その日は暇だし、晴れたので、久しぶりに隣待ちまで散歩でもしてこようかと思い、私は私鉄の特急に乗り込んだところだった。
休日ということもあってか、電車の中は人が多く、少し息苦しい。私は座席に向かい合うようにして立ち、吊り革に手をそえた。鞄からウォークマンを取り出し、片耳にイヤホンをぶら下げる。
 ふと座席を見ると、小さな女の子が座っていた。
 髪の毛は短く、グレーのニット帽をかぶっており、ピンクのマフラーを巻いていた。黒のジャージに身を包み、小柄な身体を更に縮こまらせて座っていて、その俯き加減には少し淋しさを覚えた。
 私は気付かれないように、静かにその少女を見つめた。
 その時、少女はこちらに視線を上げた。
 少女の顔はひどくよぼよぼで、頬はたるみ、皺はより、たくさんの染みは更に少女を老けさせてみせた。
 ただ、大きな瞳は真っ直ぐ私を見ていて、どこか悲しそうだった。
 私は少女―なのかは解らないが―から目がはなせなくなって、ただ、少女を見つめ返した。
 どれくらい時間が経っただろうか。少女は口元を少し緩めて、視線を私から足元へ戻し、自身の身体を抱きしめるようにして両手を回した。その仕草からは、少女の気持ちが読み取れるようだった。
 ああ、病気なのだな、と私は思った。テレビで観たことがある。年を取るごとに通常の倍の早さで身体が老いていくという病気。恐ろしい、病気。
 電車がブレーキをかけはじめた。速度が落ちてゆく―。
 少女が立ち上がったので、私は少し後ろに下がった。後ろのひとに鞄がぶつかったので小さく謝る。
 扉が開いた。少女が電車から降りてゆく様子を、私は見送った。
 少女はこちらへ振り向いた。そして、またどかか悲しそうな瞳で、私に小さく笑いかけた。
 イヤホンから漏れてくる音楽なんて、全く耳に入らなかった。世界には、私と彼女しか居なかった。

       

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