街が見える。
立ち上る白煙。
白煙に覆われた巨大なビル郡。
ビルに寄りそう無数の屋台。
屋台の間を縫う様に往来する人々。
それら全てを照らし出す薄暗い光。
どこか街全体が薄汚れていて、けむたい。
『安心ノ製薬、強力ワカモト、強力ワカモト』
ひときわ輝く広告ビルに、白粉を塗った女が映し出されたのを俺は見る。
日本の民族衣装に、見た事も無い凄い髪型をしている、いつもの女だ。
いつ見ても思うんだが、あの頭はどうやって結ってるんだろうか………。
そんな事を考えながら、さっきから広告ビルの周りをグルグルと車で回っている。
そういえば、この広告ビルは二階から十階が駐車場で、一階がオーナーの住処らしい。
何でも、父親から譲り受けた廃ビルを、そのまま駐車場と広告塔に改修、
管理警備はAIとロボットに任せ、優雅な生活を送っている、
まだオーナーは二十代なのに、嫁と子供も居るんだぜ、信じらんねえな、
などとそのビルから出るゴミでお世話になってる浮浪者に話かけられた事がある。
「………」
汗と煙草の香りしかしない職場で働いてる俺にとって、
それは思い出しただけで嫉妬と鬱憤が溜まる環境だった。
専門では無いが、家宅捜索でもやって、何かやってないか調べてやりたいとこだ。
視線を少しだけ下にやると、他の屋台と比べて小さめの屋台があった。
俺はその屋台がまだ営業中なのを確認すると、広告ビルの二階に『車』の方向を修正する。
ハンドルを右へ回し、高度レバーを前へ押し倒し、アクセルを少しずつ戻す。
『車』は空中でゆっくりと右下を向きながら、錆びた分厚い鉄扉の前へと進んだ。
ハンドルとレバーをゆっくり戻し終えると、流れる様な手つきで携帯を取り出し、番号をプッシュする。
コール音が半分も鳴らない内に、聞きなれた電子声。
「ハイ、コチラ、ZATOU、駐車場」
「駐車場、二階で頼む」
「ハイ、了解、致シマシタ、値段ノ、説明ハ………」
「要らないよ」
「今、開ケマス、ニ十四番ヘ、ドウゾ」
しかし毎度毎度、「値段ノ説明ハ?」、と聞かれると疲れるもんだ。
顧客データ識別ソフトとか、音声照合ソフトとか、そんなのをAIに入れてないのか?
普通、こういう商売なら入れといて効率化するもんだろ………。
グワングワンと頭を揺らされる様な音と共に分厚い扉が開き終えると、
俺は車のアクセルを普段より強めに踏みながらニ十四番を目指した。