Neetel Inside 文芸新都
表紙

ヤカタの眼
二日目。゜

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 二日目――午後八時六分。
「みんなで行かなくて良かったんでしょうかねえ?」
 人数もまばらになりつつある食堂の一角で、ほのかは訳が分からないといった調子で橘千空の姿を見て言った。
「西本修……」
 千空は重たい空気を吐きだした。
「ねね、今のどおゆうこと―? 何であの西本って人が頭抱えだしたらあ、みんなの雰囲気変わったのかなあ?」
 鈴を転がしたような声で加奈が小さい身を円卓テーブルの上から乗り出させた。
 千空は口調を変えて言った。
「西本のご両親は九年前に他界しているのは知ってる?」
 頷く一同。その光景はまさに異常であり異観でもあった。個人の過去は弱みであるが故に彼女らはそういった世事に詳しかった。
「その後、しばらくは叔母の家で育てられていたんだけど……まぁ、ここまではただの不幸な子供よね。CLでも何でもない普通の生活のはずだし、この青緑学園とは無縁の人だった。その時までは」
 しかし、今は青緑学園にいる。
 それはつまり、西本が養子である可能性。もしくは、血縁者が存在していることを意味する。
「伝聞では叔母は西本を『売った』らしいわ」
 暫しの静寂の中、彼女たちはその意味を吟味していた。それは初めて聞く話しであったし、何しろ西本という人物はつかみ所のない人柄だ。
「正式なご両親は現在のご両親ということになっている。書面上はね」
 千空以外の彼女達が知っている話しは後者であった。
祖母が実子を売るなどありえないし、そんなことは話しの流れから言っても今の日本では現実的ではない。
 千空の話しを分かりやすくするとつまりはこうだ。
 西本の両親は何らかの理由で育児放棄し、本人は孤児であった。そこを養子に貰われ、約六年生活。その後、養親は他界。養親の叔母か実の叔母かに預けられるが、産みの親が親権を再び取り戻し、生活を送るが実の親はCLとなり現在に至る。
 ありえない話しではない。
 だが、何かが引っかかる。それが西本の謎の一つであった。また、血縁関係については裏が取れないという二つ目の謎もあった。

     

「どっちが実の親なのかはあんまり意味がないよ?」
「あはは、そうだねえ」
「……」
「まぁ、その話しは本当に意味のないものよ。それでも彼が何者かに買われたっていう話しはあまり知られていないはず、そしてその買われた最大の理由が、彼の特殊な力に所以しているって噂。もうここまでいくと本当にただの『噂』でしかないけれど」
 髪を後ろに小さくかき上げて、千空は言葉を紡ぐのをやめた。
「その特殊な力って……?」
 ほのかがわずかに声を上げる。それに言下する千空。
「超能力。死期予知能力(ツェルマーヴェト)とネットで調べたことがある」
「しきかんち? つえるまー?」
「人間と対峙してその人間がもうすぐ死ぬ場合に、予知することができる――そしてその死は絶対に回避できない」
 四人は神妙な面持ちで彼の消えたテーブルを見つめた。
「もしそれが本当だとしたら――」加奈は身を震わせて言葉を止めた。
「――西本は何か知っている」
 誰もいなくなった食堂に千空の清んだ声が不気味にとけ込んだ。

 二日目――午後八時五十分。
 座礁した船舶に三つの影があった。
 外の空気とは裏腹に淀んだ蒸し暑い空気が重い。
 船内に豆のような光が灯った。正体は発電式の懐中電灯で、その一つが西条寺駿の姿を映し出した。
「西条寺……俺達がこんなことする必要があるのか?」
野太い声。聞き慣れたその声が、谷口健二のものであることを理解するのに時間はいらなかった。
「ああ、遅かれ早かれ必要なことだ」
 カツコツという発泡樹脂を叩く音が響く。口を開かない愛を尻目に西条寺は歩を進めた。
 壁に突き当たると動きを止めて、三人は船内マップ掲示板を見上げる。
 目的の場所を確認し、再び歩き始める。
 愛は眼鏡を摘むようにして直した。そうしてゆっくりと開口する。
「今日の未明、前島教員の行方不明を確認しました。西条寺様の予想通り、現在において行方を確認出来ない生徒が数十人いました。数はおよそ二十二人……」
 愛は言葉を徐々に震わせて
「さらに何人かの生徒は消える直前まで行動を共にしていた者もおり、話しを聞くと皆、自分から外へ出て行ったらしいです……」

     

西条寺も谷口も顔色は一つとして変えなかった。時々、愛はその冷淡な心に救われ、また恐怖を覚える。
「その中の一人を探すのもわざわざ船に戻ってきた理由の一つだ」
 関係者以外立入禁止のプレートを一瞥して三人はその部屋へ入った。
 空気は生ぬるいゼリーのように鼻腔にはい上がってきた。
 潮の臭いが鼻から抜ける度に胃が収縮する。
 ライトが照らす光の先には電子機械がつらつらとあった。
 三人は各々に散り、それらしき目当てのモノを探す。
「どれだかわからない」
「あの……」
 良く通る声が響いた。
 谷口と西条寺はその声のする方へ行き、姿を照らす。
「これじゃないですか?」
 その指さす先には携帯の端末とも受話器の端末ともつかない、黒いかたまりが転がっていた。
「多分これだ」
 しかし、歪になったそれは到底使えそうには見えず、どうしたものか三人はただ佇んでいた。
『――ッュ』
 不意に聞き取れた音。それは黒いかたまりが電話としての機能を果たしているということを意味していた。
「おい、ダイヤルするんだ」
 谷口が何かのボタンを押すと、数回の呼び出し音が鳴った。
『Your call is not getting a respond. Please call again later』
「もう一度だ」
 電話の相手は何度やっても血の通わない機械の音声だった。
『Your call is not getting a respond. Please call again later』
「何て言ってるんだ?」
 谷口が受話器を耳に添えている西条寺に向き直る。
「かけ直せと言っているんだが……いや、そんなはずは」
 西条寺は船の衛星電話はチャンネルで繋がることを知っていた。
 しかし、今使っている電話は普通にコールをしている。

     

「この船は個人の私物かもしれない」
「繋がらないのか?」
 首を縦に振って肯定する。
「もし、この電話の契約会社の衛星が受信の範囲外なら、こいつは使い物にならない」
 そう、西条寺達は外部との連絡を考えていた。一日もかけて船に乗っていたわけだから普通の携帯など既に圏外だったからだ。
 『ゲーム』その響きがもうすぐ消えるだろうことは西条寺や谷口、相ヶ瀨にとって確信となっていった。

二日目――九時。
 シッティング・ルームという団らんの部屋で深い椅子に腰掛けた幾人かの影が不安げに揺れていた。
 天井に施された彫刻が時折にやりと笑うような気がして俺は会話を心懸けることに努力を要した。
「宮下は死んだってことね?」
 千空がテーブルに置かれた透明なワイングラスに入ったジュースを弄びながら言った。
 時折、口元に運ぶようなしぐさをしては下の中でそれをころがしながら優雅に落ち着き払っていた。
「いや、この暗がりで追いつけなかった」握り拳を堅くして言う。
 途中までは館の明かりが周りを照らしていたが、あの蒼白な顔に不釣り合いなほどの体力を見せた宮下はとうとう東条の手に捕まることはなかったのだ。
「森本っていう人も行方知れずなのよね?」
 ゆらりと影が揺れた。
 椎名いずみは泣きながら頭を下げた。
「トイレにいくって言ってから帰ってこなくなった」
 筑ノ瀬玲奈は静かに答えた。
「探したの?」
 鈴を転がすような声で玲奈に問うた千空に譏笑の一瞬があったのをこの場の何人かが捉えただろう。
「探さなかったと思うの」
 小忿した声で冷たく返す。
「まだ九時ちょっとよ? 戻ってくることも充分に考えられないかしら」
 東条の隣にいた英美が努めて明るくした。
「そう、充分に考えられるわ」

     

 けれど……と言葉を紡ぐ千空。
「前島は結局帰ってきていないし、他にも行方がわからなくなっている生徒は二十人余りいるのよ。これが、戻ってくることも充分に考えられる森本さんや宮下君と関係がなければいいのだけど」
 初めて聞く内容に東条や英美、舞は動揺していた。
「えっと、それって……ゲームが関係しているんでしょうか」
 舞が目線を逸らしながら萎縮する。
「おお、さすが西本君の一味!」
「加奈は黙ってなさいって言ったでしょ」
「うぃ」
 加奈は椅子からつまらなさそうに立ち上がって壁にある本棚に向かっていった。
「私も失礼する」
 立ち上がったのは長身の村泉京。ほとんど空気のように沈静化していた彼女のオーラからは武芸の物腰が伺えた。
「好きになさい」
「えっと、私もちょっと……」
「え、ほのかはダメよ」
「え」
 そわそわしだすほのか。しかし、千空だけが何も気づいていない。
「千空さん、ここはほのかさんの好きにさせてあげてもらえないですか」
「えらく急に誠実な男に?」
 東条の真剣な眼差しは人としてだめだった。
「わかりました。私についてきてください。ほのかさん」
「ちょっと、どうしてそうなるの? ちょ、待ちなさいッ」
突然ほのかの手を引いてぐいぐいと部屋を出て行った東条を静止するように千空がかけていくが、貴族令嬢の嗜みなのか何なのか、東条には触れようとしないのが何とも言えなかった。
「東条さんのバカ!」
 何故かそのフレーズだけが圧倒的な既知感を伴って耳朶に届いた。
「さっきの話し聞いてたのよね? 東条」
 英美が俺の様子を伺いながら尋ねた。
「東条はもともとああいう奴だよ。打開策云々より、行動するタイプなんだ」
 俺はそこでポケット大のノートを取り出した。
「それって……」

     

 舞には船での一件を思い出させたのか、目を丸くした。
「いや、あのノートはもう使えないよ。状況はもう予測の範疇を超えているわけだし」
 そういって俺はノートをぺらぺらとめくってみせる。真っ白なノートには何も書かれていない。
「明日からこの屋敷の見取り図を作るんだ。出来るだけ丁寧に」
「どうして?」
「行方不明っていってもこれだけ広い屋敷だ。隠れようと思えば隠れられるようなところがあるかもしれないだろ?」
「うん、まぁ」
 俺の意見としては少し不可解だったのだろう英美は小さく唸って同意した。
「それじゃ、明日から二手に分かれて見取り図を作るんだ」
「あの、さ」
「なに?」
「それ、ちょっと危険じゃないの? 仮にも今は消えている生徒もいるわけだし、本当に何かあったとき私と舞じゃどうしようもないと思うんだけど」
「誰が英美と舞で行くように言ったんだ?」

 ――「俺達はいつものメンバーで」このまま次のページへ。
 ――「千空達がいるじゃないか」 一度もどって千空ルートから。

「俺達はいつものメンバーで行く」
 え? といった二人の顔。
「千空……もとい橘さん達にも協力してもらおう」
「ああ、そういうことね」
「だめだよ。ちゃんとお願いしなくちゃ」
「え、今か?」
「当たり前だよ」
 舞は本棚にいる二人を呼びに席を立った。とてとてと舞より小柄な加奈のところに諾足する。
「……そう……えっと」
 何やら話し始まったが、距離が遠くてよく聞こえなかった。部屋はあいつがいないだけで静かなものだ。
「もう二日になるのかあ……ほんとにどこに行っちゃったんだろうね」
「こんな孤島だから、海にでも出ない限りはどこかにいる」

     

「生きてればいいんだけど……」
 英美は淡泊に虚空を見つめて言った。『生きている』とは言えない俺の心はキャンドルを象った装飾品の一つが小さな光を暗転させるように揺れた。

 二日目――?時。
 ぽつりぽつりといるのは青緑学園の生徒だ。
 洋館には似つかわしくない脱衣所で東条と俺はタオル一枚になっていた。
「裸の付き合いですな。西本さん」
「東条さん、それはキモい」
「いつの時代の言葉だよ」
「人類がまだ車に乗っていた時代だ」
「今もありますけど。車」
「まぁ、そんなことより風呂にはいるぞ。風邪引きそうだ」
「おう」
 ガラガラと音がして開いた扉の向こうはさして人もいなかった。
「誰もいねーじゃん」
「いや、わずかにいるのに数えないのはやめような」
 湯気が濛々と立ち籠める中をひたりひたりと進む。この風呂もそうだが、何かとこの屋敷はものが揃いすぎている気がする。これでは本当にゲームなのではないかと信じるのも当然だろう。
 ――ざばあ。
「うわ、飛び込むな!」
 俺が辺りを見回している間に東条は子供のようにたゆたう湯船に飛び込んだ。
「ははは、わりぃわりぃ」
 既に入ってた男子生徒に軽く謝ると俺の名を呼んだ。
「俺は体を洗ってから入る主義なんでね」嘘だ。
 ただ、今やつと一緒にいると俺まで避難の目で見られそうな気がして嫌なのだ。
「これ、隣は女子だな?」
 東条は例のごとく暇さえあればそっちの方向に持って行きたいらしい。
「そ、そうなんじゃないか」
 俺は意識して気にしないようにしていたが、隣は確かに女子だ。先ほどからオクターブが高い声が壁の上から聞こえてくる。
「これ、がんばれば上れるな……」
 まるで誰も気がつかなかったことを気がついたような素振りで感慨深く言ってみせる東条に俺は感服した。

     

「さって、俺はあがるかね」
 隣にいたそいつは東条のことを知ってか知らずか、カミングアウトした。
「ああ、ちょっと待てよ」
 わずかに仰け反るように体を反転させて男は尋ねた。
「な、なに」
「いや、その……なんだ。どうやったら上れると思う?」
「そ、それは学年一のお前が考えればいいだろ」
 確かにもっともな話しである。東条はそんな無垢な男を捕まえてナニをしようというのか。
「そのタオル……置いていってくれないか? 別に何も聞かずにただ、そうしてくれれば、俺はお前とここで会わなかったことにしてやるからよ」
 そう、それはもはや東条の手中だった。男は思いついてしまった。その壁を上る方法を!
「わ、わかった。タオルは貸してやる。だけど、俺は何もしないぞ」
「ああ、わかってくれればいいんだ。お前は黙って見ているだけでいい。ナニもしなくていいんだ」
 何とも滑稽な話だ。男は持っていたタオルを東条に渡すと、東条はそれをよく湯船につけて両端を結ぶ。
 俺はそこまで見届けると黙ってなるべく東条から離れたところにあるシャワーの場所へ急ぐ。
「西本……」
 しかし、いつの間にかこいつは真後ろにいた。
 俺は振り返りざまに、
「東条! 見損なったぜ」と言ってみた。
「いやいや、何をだ? 俺はまだ終わっちゃいない……」
 だめだこいつ……。目の色が違う。
「まぁ、でもお前は体を洗うんだったよな。いいんだぜ、お前のバスタオルがどこへ行ったかわからなくなるだけなんだからな」
 俺を脅そうというのか。なんという執念、目的のためなら友をも切り捨てるそのエロスに俺は戦慄せざるを得なかった。
「俺のタオルは一番下で結べ……それが最大の譲歩だ」
 負けた。今のこいつには従うしかない。
「いいだろう。お前は空気の読めるやつだった」

     

 空気が読める? いや、お前のその空気はお前だけのものだ。読むとかそういう問題じゃないだろう……。
「少し足りないな……」
 東条は三つに繋がったタオルを見ながらうろうろする。
 俺はタオルを諦めて手で体を洗うことにした。
「西本さん」
不意に後ろから声をかけられる。俺は丁度頭を洗い終わったのでシャワーを止めて振り返った。
「ん、なんだ」
 目の前にいたのはさっきの男。織田 蓮(おだ れん)というクラスメイトの一人だった。
「止めなくていいのでしょうか……。あの野郎、じゃなくて、あの東条さんはどこからか四つ目のタオルを見つけてしまいましたよ」
 見ると背丈よりも五割り増しになったタオルが東条の手で水をしたたらせていた。
「やべぇな」
 純粋にそう思った。隣にいる女子の声からは誰のものだかは判断がつかないが、少なくても桶川、佐藤、筑ノ瀬、橘、川口、村泉、立花はいる。
 もし、ばれたらとかいう以前に人としてそれは止めるべきことじゃないだろうか? いや、例えこれが幻であったとしても――。
「西本さん! 何ぶつぶつ言ってんですか、東条さんタオルを壁に投げましたよ!」
 見れば東条は既に濡れきったタオルを壁に掛けたところだった。水によって吸着力を増したタオルはベタリとタイル壁に張り付き、微動だにしない。東条はその強度を確認してニヤリと嬉笑の薄ら笑いを浮かべている。
「東条! 待て!」
 もはや、制止の言葉に何の意味があろうか。そこに楽園があるのに後ろからの亡者の声に一体誰が振り返られるというのか。これだけ音が響く空間だ、女子にもこちらの声が聞こえているのを祈るしかない。せめて、貞操だけは……。
 今まで見たこともない跳躍を見せる東条は一気に壁を駆け上がった。落下すればただでは済まないであろうそのリスクをまるで顧みないのは、やはり東条の成せる技だった。
「おお……」
 織田も今や感嘆の声を漏らしていた。
 だが、登り切る前にタオルが滑り落ち、東条は壁の上に腕だけを残して裸体で張り付く形になった。足さえ引っかかりを掴めれば上れる形だ。しかし、それさえも計算のうちだったのか、東条がいる位置は隅。直角に交差した壁は東条の左足をサポートする形でそこに鎮座していた。
「(の、のぼりきったあ!)」

     

 織田が小声で叫んだ。もはや、俺たちも共犯なのではないだろうか? そんな疑念が心に浮き彫りになる。
 こちらにVサインで答える東条。いや、なんとも裸の男の股を下から眺めることになるとは夢にも思っていなかった。
 幸いにもまだ気づかれていない東条は身を低くして向こう側へとにじり寄る。そしてしばらくしてこちら側へ帰ってきた。
「(おい、すごいぜこっち)」
 息を潜めて東条は俺たちへ声が届くように話し始めた。
「(あー、もう思い残すことはねぇ)」
 なんてこった……。東条は見てしまったのか……、そんな気持ちがもはや覆せない喪失感を伴って俺を襲った。
「俺はもうあがるぜ……」
 こんなの夢じゃなきゃおかしい。こんな現実はあってはならない。
 俺は肩を落として浴場を後にした。
 織田は東条を止めたいのか助けたいのか、ナニしたいのかまだ東条の足下にいた。
 話す相手もいないのでそそくさと着替えを済ませて脱衣所を後にする。なんだか敗北感を伴うのは気のせいだろうか。
 しかし、廊下を出ると不思議なことに桶川舞の姿があった。
「あれ、修君はやいんだね」
「舞こそ、早いんじゃないか」
 そういうと舞は少し困ったような顔をしてだって――と続けた。
「東条君、どうせ覗こうとするでしょ?」
「え」
 馬鹿な。そんな実例は今まで一度もないはず、いやそれよりもそこまで信用を失っていたとは東条は人として超えてはならないラインをいつの間にか軽く……?
「そ、そんなことはないと思うけど……」
 どこか嬉し悲しな俺は舞の表情から内心を読み取ろうとしていた。
「嘘。目が泳いでるよ」
「な」
「あはは、ごめんね。本当は目なんて見てないよ。あは、でも本当に覗こうとしちゃってたんだ……」
「うん」

       

表紙

ゆの舞 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha