Neetel Inside 文芸新都
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我が闘病
最終話

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-最終話-

  
~千の風になって~





旋律が止んだ。


天使の歌声は、その役割を終えた。


ゼロの鼓動、ほのかに胸を過る愛への調べ。


ああ、世界はこんなにも美しいんだね。



もう一度言うよ。


「好きです。」



僕の囁きに、胸ポケットの中から微笑んでくれたような気がした。


そして、目的を果たした僕は、放送機材からCDを取り出した。


もうこの放送室に止まる理由は無い。


「おい、開けろ、おい」


何やら外が騒がしい。そういえば放送部員を追い出したついでに、この部屋に鍵をかけておいた。そしてこれは体育教師の西田の声だ。ヴァリエール嬢の声を聞いた後に醜い声を出さないでほしい。


「先生、これ鍵です」


放送部員の声だ。生かしておいて損した。


そして扉が開いた。最後の闘いが幕を開けた。僕は右手の短剣を突き出し、構えた。もう負けない。



ドアの向こうから現れた西田は、僕を見るなり、


「またお前か、取り合えず殺されたくなければその割り箸を捨てろ」


と言い放った。西田は首にギブスをはめていた。たかしくんから受けた怪我だろう。


僕は臆せず言った。


「僕は自由だ」



瞬間、西田の姿が消えた。


僕の右脇腹に、激しい痛みが走った。


蹴りだった。そうだ、西田は空手の有段者だった。そして短剣では、蹴りに対して、少しばかりリーチが足りなかった。


僕は腕を曲げてはいけないような方向に押さえられた。


「この変態め、こんなもんじゃすまさんぞ」



変態?僕のことを言ってるのだろうか。僕は変態ではない。とにかく、僕は叫んだ。


「釘宮様の声は、お前にだって平等だ。必ず救ってくれる。お前だって一人で生きてるわけじゃない」


激しい痛みの中、僕は続けた。


「なあ、この宇宙で一番美しい音をお前も聞いただろう。僕達は分かり合えるんだ。愛は時空を超えるんだ」


僕の必死の叫びにも、西田は聞く耳を持たなかった。


「教師に向かってお前とは、高木にやられた分もしっかり返してやろう」


みぞおちに膝蹴りを入れられた。息が止まった。声も出ない。



そして、僕はそのまま職員室に連行された。




僕は停学2週間の処分を受けた。僕の所持していた短剣が、凶器に該当するか否かで見解が分かれたようだった。そしてそれは、鉛筆を凶器とみなすか否か、という論点に落ち着き、その上での処分だったようだ。



そして、2週間はあっという間だった。


僕が100時間程、ゼロ時間を過ごし、気が付いたら病院のベッドの上だったり、胸ポケットのヴァリエール嬢と遊園地に出かけたり(ヴァリエール嬢はメリーゴーランドをお気に召してくださったようだ。乗馬が得意な彼女らしい)、亜菜瑠が僕を「お兄ちゃん」と呼んだり。


宿題をたくさん出されたが、僕は全く手をつけなかった。



そして、今日は停学明けの初日。学校なんてどうでもよかったが、僕の起こした釘宮テロの後の、学校内の様子を知りたかった。



通学路が、久しぶりというより、どこか懐かしい感覚だった。



僕の足が、校門の30メートル程前で止まった。何やら人だかりができていた。



「王の帰還だ」



「キング、お勤め御苦労様でした」



「姫殿下」



僕のことか?と考えるまで、10数秒思考停止した。何やら気味が悪かったが、僕は校門に向かって歩いた。


遠くから見て変な違和感を感じていたが、近づいてみてわかった。この集団、なぜかブレザーの代わりにマントを着用している。しかも、男女比が5:5くらい。


一人、茶髪の小柄な男が僕に向かって走り寄ってきた。


「キング、お初にお目にかかります。私(わたくし)、飯田愛人(いいだはあと)と申します」


キング?


更に、続けて駆け寄ってきた集団、僕はわけがわからなかった。


茶髪の小柄の男が、事細かに説明してくれた。


僕の起こしたテロによって数多くの男を目覚めさせたこと。そして僕のテロを模する者がこの2週間で5名現れたこと。そのうちの一人が西田だったこと。そして、テロリスト(勇者と呼ばれている)の中には無類のイケメンがいた為、女子までも味方につけたこと……etc。女子はマントのみならず、オーバーニーソックスも着用している。



「キング、本日は私が勇者となります」


飯田は僕にそう言った。


「はあと、ゆうしゃ」というコールがうっとおしかった。


僕は言った。少なからず、僕は僕の起こした釘宮テロに、思うところがあったから。


「なあ、それが新聞沙汰にでもなったらどう思う?くぎみんを傷つけることにならないか?」



集団全員が黙った。


「でも、キングによって我々は目覚めました」


飯田が言い返してきた。


「それは結果論だ。僕は少なからず、あの日の行為を恥じている。ヴァリエール嬢や、くぎみんの力を乱用しただけだと。もっと、彼女達の為を思うならば、定められたルールを遵守した上での方法がある筈だ。僕は、それを見つけたい。」



「キ、キング…」



飯田のみならず、その場の多くの人間が泣き出した。


だが、僕は更に続けた


「だけど、僕はこの場にいる皆に感謝している」




僕はマントを翻し、校門を抜けようとした。その時、



「腸(ひろし)、待ってたぜ」



「海樹王…どうして」



炎髪灼眼に魅せられ、自我を無くした親友の姿がそこにあった。



「あの日、たまたま退学届を出しにきた時、お前の声を聞いたんだ。そして、ヴァリエール嬢の歌声を。俺、S型+L型に感染したよ。お前より重症だよ」



それ以上の言葉はいらなかった。僕達は抱き合った。涙が止まらない。



「海樹王…僕にも炎髪灼眼を教えてくれ。そしてその次は、共に三千院を学ぼう。死ぬ時は一緒だ」



「ああ。その通りだ、親友」








-千の風になって-


~Type-L Kugimiya's Disease Edition~



私を変態犬と罵ってください


そこに貴族はいません


平民しかいません


千の風に


千の風になって


あのハルケギニアを


吹きわったています




ツンには光になって 畑にふりそそぐ


デレはダイヤのように絶対領域になる


ツンは鳥になって わたしを目覚めさせる


デレは星になってわたしを見守る




私を変態犬と罵ってください


そこに私はいません、死んでなんかいません


ゼロの風に


ゼロの風になって


その小さな胸に


ときめいています。




ゼロの風に


ゼロの風になって




ルイズ・フランソワーズと


呟いています。

       

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