我が闘病
第9話
聞かせてよ
あなたの生い立ち 遠い夢
ちょっと談笑まじえてさ
虚無の曜日の
穏やかな午後に
-第9話-
6時限目の終わりを告げるベルがなるまで、僕はゼロ時間を彷徨い続けた。数多の光と踊り続ける静寂に、そっと天使の声が差し込む、外部とは閉ざされたこの世界の中にいた。
その頃、僕の傍で座っていたたかしくんは、自責の念に苛まされ、ずっと声をあげて泣き続けていたようだった。
だが、僕は幸福感でいっぱいだ。この病と出会ったきっかけを作ってくれたことに、感謝すらしている。
ベルが鳴り出した。さあ、アニメイトに行かなければ。僕の精神は再び現世に舞い戻った。
体育着姿の僕達は、着替えの為に一旦教室に戻った。
そして、着替えを終えた僕の元に、3人の不良が寄ってきた。
「さあ行こう。楽しみだね」
上半身裸で、ナイフを持った唇の厚い男、髪の毛が逆立ってる。ポチ男がそう言い放った。…背中に登山用のリュックサックを背負っている。通学鞄なのだろうか。
「ちょっと待てよ。男ばかりじゃつまらないだろ」
たかしくんはそう言った直後、
「森口さーん、森口さんもこれから僕達と一緒にアニメイトに行くフラグを立ててみたからおいでよ」
教室内全域に轟くような大声で、たかしくんは森口さんに呼びかけた。
森口響愛星(てぃあら)さん。
肩まで伸びた少し明るい茶色の髪、ほんのりと薄化粧、そんなちょっとした努力に少しも下品さを感じさせない清楚な雰囲気。少し大きめの目と、小さくて薄い唇が特徴的な彼女。かつて僕は、彼女の為にパジャマを濡らしたこともあった。
海樹王が彼女の顔面を鷲掴みにし、壁に叩きつけたその時は、親友相手に殺意が湧いた。
しかし、せめてあの紺色のハイソックスが、オーバーニーソックスだったなら、僕は今でもほんの少しばかり心をときめかせたかもしれない。
「ウン、いいよ」
即答だった。こんな気味の悪い不良の誘いに軽々と乗ってくる彼女がおかしいのではない。たかしくんは外見とは裏腹に、人望に厚い男だということは僕は知っている。クラス一の不良で、しかも人一倍優しい。仮にモテてもおかしくない。
「腸クンだよね、初めて話すね」
「ああ、よろしく」
かつて、脳内では散々会話を繰り広げたが。
アニメイトは、学校のある駅の反対口に抜け、ロータリーの先の、そごうと黄色いMマークのレストランの傍にあった。
アニメイトに向かう途中、ヤンキー3人組は腕や指をくねくね動かし、わけのわからない叫びをあげてはしゃいでいた。
エアセックスの前戯(イントロダクション)だそうだ。エアギターなら聞いたことがあるが。
僕は、森口さんと他愛も無い会話を繰り広げていた。
「いつも白目むいて泡吹いてるよね」
「まあね」
とか、
「休み時間はずっとパソコンに夢中だよね」
「そうだね」
とか。どうでもいい会話だ。
ふと、少し左斜め45度が気になった。森口さんの胸だ。
大きいな。全てを包み込むようだ。
…触れてみたい。
ふと瞬間的にそんな感情が湧いた。その時だった。
(この!!!!エロ犬!!!!!!)
僕の中のゼロが発動した。
「すまない、ちょっとトイレに」
トイレで時空の扉を起動し、僅かのゼロ時間を堪能した。
こ…これは……。
外部がらシグナルを受信することによって、より一層濃密なゼロ時間が味わえる。未だ誰も知ることの無かった大陸を、いや、星を見つけた感覚に等しいだろう。なんという素晴らしい発見。
僕は歓喜に打ち震えた。
その後、アニメイトに到着するや否や、それぞれが己の欲を満たす為の物品を調達するが為に分散した。
僕はヴァリエール嬢を探し求めた。そして、辿り着いた。言葉にならない。初めて見るこの世界。例えこれが不良のみぞ知る領域ならば、僕は喜んで不良となろう。
いろんなヴァリエール嬢の姿があった。神々しいそのお姿。いつの日か、私は内臓を売ってでも、ここにある全てを購入いたします。
僕は所持金という現実と闘い、4つの宝を手に入れた。
魅惑のビスチェに身を包んだヴァリエール嬢の人形…いや、神形というべきか。「ホントノキモチ」と「スキ?キライ!?スキ!!!」のCD、あとはビッグタオル(自室の壁に貼っておこう)
もう、今ここで死んでも構わない。