Neetel Inside 文芸新都
表紙

適当を前提にお付き合いください
廻る寿司と廻る想い

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 部屋に戻っていた俺は、まだイライラしたままだった。
 多分、今日ユウは帰ってこない―――いや、この表現も少々おかしいな。別に、ここはアイツの帰ってくる場所じゃないわけだし。
 と思っていた、ドアが開いた。ユウだった。
「・・・・・・よく戻ってこれたな」
 いや、俺の方が悪いのは重々承知なんだが、どうしてかそういう言葉が出てしまうのだ。
 内心では反省しているつもりなのだが、変なプライドが邪魔をしてそういう言葉が出てきた。
 顔からオーラまで不機嫌MAXの俺に対してユウは
「どの口が言ってんのよどの口が!」
 と言ってほっぺたを引っ張られた。
「イテ!イテテテ!わ、悪かった悪かったから!」
 弱いなー俺。その弱さに全俺が泣いた。
「まったく、イキナリ帰るし、金は置いてくし」
 そこでハッっとなった。
 そう、金。勢いで渡しちゃったけど金。
 結構な額である。諭吉で言うと10人位ってえええええええええ!?
 マジ!?mjd俺そんな額勢いで渡しちゃったの!?何やってんの俺!?
 そんなあたふたとしている俺を見てユウはニヤニヤしながら言った。
「コレ?アタシがぜーんぶもらっていいんだよね?そういうことだよね?」
 ああああああああ!諭吉が10人いれば!何だって出来るっ出来るというのにっ!俺は何を!?
 だがしかし、ここで頭を下げるのも情けなさ過ぎる。俺にだってプライドくらい
「すいません、ノリでやりました。分け前ください」
 気付く前に俺は土下座をしていた。

 取り分は、ユウのほうを多めにと言ったのだが、結局折半になった。
 ただし、今から回転寿司に行くので、そこの支払いは俺ということでチャラにしてくれるらしい。
 まぁ、こっちとしてもそれくらいなら構わないっていうか、ありがたいのでそこで手を打った。

 というわけで、寿司屋である。
「俺もう決まってるけど、ユウは?」
「決まってるわよ」
「じゃぁ注文すんぜ」
 席についているスイッチを押すと、スピーカーの向こうから「ご注文は?」という声が聞こえてきた。
「えーっと、サー「カツオ、マグロ、イカ」
「かしこまりました」―――おい」
 何?という顔のユウ。ぶん殴ってやろうか。
 ここの回転寿司は一回の注文で三種類しか注文できない。
 こういうとき、普通空気読んで一種類か二種類し注文して、相手に譲るべきだろう。
「うっさいわねぇ、もう一回頼めばいいだけじゃない。小さいわねぇ」
 コイツ、確実に末っ子だな。末っ子。末っ子のB型。
「A型よ」
「何もいってねぇよ」

 注文したネタが回ってくるのを待っている間に、常時回ってる寿司をひょいひょい取って食べる俺をユウは奇異の目で見ていた。
「なんだよ?」
「いや、なんで回ってるの食べるの?」
「回ってるから回転寿司っていうんだろ」
 馬鹿か、お前は。
「そうじゃなくって、新鮮なほうが良くない?注文してさぁ」
「待てないから食ってるんじゃないか。大体鮮度の違いなんてわかんねーし」
 サーモン、焙りサーモン、サーモンマヨネーズと皿を取りながら返事をすると、ユウの目はさらに据わった。
「なんだよ」
「何でサーモンばっか・・・いいや別に」

 その後は特に会話するでもなく、もっしゃもっしゃと寿司を食っていると、唐突にユウが話を切り出した。
「あのさ、さっきはゴメンね」
「諭吉を独り占めしようとしたこと?」
「んなわけないでしょ。・・・・・・過去がどうたらって話をしたこと」
「あぁ」
 いや分かってたけどね。分かってたけど、もうそれについてあまり話したくなかったから茶化したんだけどね。
 そんな俺を気にするでもなく、ユウはぽつぽつと喋り続けた。
「あのさ、半分は自分に言い聞かせてたんだ。過去に拘りすぎてるんじゃないかって、自分の思い込みなんじゃないかって」
 なんと返してやればいいのかわからず、俺はただ「そうか」とだけ返した。
「アタシのほうが、アンタよりも状況が絶望的だかさ、自分でもどうしたら言いかわかんなくて」
「タイム」
「え?」
 今、少しよくわからないことを言われた気がする。
「俺よりも状況が絶望的ってどゆこと?彼氏には相手いないんじゃないの?」
 ユウはあからさまに「駄目だコイツ・・・・・・早く何とかしないと」って顔をしていった。
「そんなこと言ってないわよ。ただ、ヨリを戻すつもりだ、としか言ってないけどね。」
 はて、では俺と同じ状況ってことじゃねーの?と聞く前に、ユウが説明してくれた。
「多分、彼は結婚するんだと思う」

     

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 アタシの想い人は多分、結婚を前提にお付き合いをしている。
 アタシがそう告げると、りょっちは黙りこくってしまった。
 多分、何を言うべきか考えあぐねているのだろう。
「ね?アタシのほうが絶望的でしょ?忘れなきゃいけないのは、アタシのほうなワケ」
 続けてそういうと、りょっちはアタシと自分の間辺りを見つめながら、見当ハズレな質問をした。
「あー、なんだ。そのカレっていうのは、年上だったのか?」
 やはり、この男はもてないだろうな。と思った。
 多分、コイツは何か「いいアドバイスをしなきゃ」とか「なんとか解決策を」とか思って、「カレ」の情報を集めようとしているのだろう。
 別に、アタシはそんなことを求めて話したわけでもないのに。
 ただ、なんとなく話したくなったから、聞いて欲しかったら言っただけ。
 優しく相槌を打ってくれれば、それだけで―――
 イカンイカン。この駄目な男を前にすると、どうしても「カレ」と比べて、よりいっそう「カレ」が愛おしくなってしまう。
「ええ、そうよ」
「そ、そっか」
 りょっちが次の質問を考えているときに、空気を読まずスピーカーから声がした。
『8番テーブルのお客様、ご注文のカツオ、マグロ、イカ流します』
 その音がすると、ベルトコンベアに「8」と書いた台にのってネタが流れてきた。
 りょっちのほうが近かったので、りょっちがそれらのネタをとると、この男はそれを自分の前に置くと、ヒョイと口に運んだ。
「なにやっとんじゃコラ」
「え?うぉ!?すまねぇ!わざとじゃねぇんだ!」
 しかし、とき既に遅し―――すでにカツオとマグロはりょっちの胃の中に運ばれてしま―――
「えーと、戻す?」
「戻さねぇよ」

「残ったイカを食べ終えると、アタシは仕方なくベルトコンベアの上を回る鮮度の落ちたマグロをとるのであった」
「言わなくていいし、悪かったっつってんだろ」
 口調こそ強気だが、なんか粗相をして怒られた仔犬のような情けない顔をしている。
「そういえばさ」
 アタシは話題を変えるべく切り出した。
「さっきのスロットの時、聞きたいことあったんじゃないの?」
 アタシはまだりょっちに言っていないことがあった。あの説明だけでは足りない部分。
 果たして、この男は気付いていたのかな?
「あぁ、そうそう。聞きそびれてた」
 どうやら、ことギャンブルに関しては集中力が働くらしい。やはり駄目男だった。
「台を選ぶ時、人の動きで決めるって言ってたけどさ。まぁ誰でも『コイツはあの台をさっきから気にしてるな』ってくらいは分かると思うんだが」
 そこまでいって、りょっちはトロサーモンを口に放り込む。コイツさっきからサーモンしか食べてないぞ。
「そういう奴の中には、お前みたいに仕組みは分かってなくて、ただメダルが良く出てて、よさそうな台だからってだけで狙ってる場合だってある。俺みたいにある程度知識がありゃ、それが偶々なのか、良い台だからなのか見極められるけど、分かってない奴はそんなの区別つかねぇ。ユウはどうやってそこ見極め点の?」
 自分の得意分野になるとよく口の回る男だ。女の扱いはてんで駄目なのに。
「簡単よ。その人が何を見てるかを考えれば」
「何を見てるか?」
 多分、りょっち―――いや、大抵の男の人は気付けない。どういうわけか、男って奴は細かい表情を識別できないみたいだ。
「つまり、2000枚OVERとか、メダルがじゃらじゃら出てるところしか見てない人は、分かってない。逆に、液晶画面やデータ表示機、メモ帳やら携帯電話やら変な機械やらをいじくってる人は、よくわかっている。だから、そういう人達が狙ってる台を打てば良いってことよ」
「はぁー、良く見てるねぇ」
「まぁ、コレは後から気付いたことだけどね。最初は皆を観察して、上手くいってる人の共通点を見つけ出せば、すぐ分にかるわよ」
 わかんねぇよ、と苦笑いで言うりょっち。
 確かに、女だからってわかるもんじゃない。だけど、私はどうしてか「その人が何を見ているのか」ということが分かってしまうのだ。
 そう、例えば―――
「簡単よ、例えばりょっちは、今私を見ていないじゃない」
 カツオとマグロの恨みを乗せて、言い放ってやった。

     

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・・・・・・俺が、ユウを見ていない?
 何をいってやがるんでしょうかこの女は。
「意味が、わかんねーんだけど?」
 淹れたばかりの茶に口をつけようとするが、熱すぎて飲めない。ちょっと舌火傷した。
「大体、見てないって何だよ?俺とお前しかいねーじゃん?それとも何?なんかそこらへんのおねーちゃんでも見てるって?」
 舌いてーなぁ、お冷とリに行きたいなぁーとか思いながら、適当なことを言う。
 俺が一息にそういうと、ユウは少し考える素振りを見せてから言った。
「―――そうね、サーモンばっかり」
「お、お前サーモン馬鹿にすんなよ!?俺許さないよ!?」
「ほら、今ほっとしたでしょ?」
―――見事にカマをかけられた。
「りょっちは、ずっとアタシの向こうに違う誰かを透かして見てる。もしくは、アタシに重ねようとしてる」
 そういって、ユウはお茶に手をつける
「アチッ」
 それはもう俺がやった。
「まぁ、誰を見てるなんてわざわざ私が言わなくてもいいわよね?」
 そういうと、近くを通りかかった店員に「お冷下さい」と声を掛けた。それから「あ、二つ」と付け加えた。
 確かに、俺はユウの向こうに智恵を探してたのかも知れない。
 もう戻ってこない。そう自分に言い聞かせようとしても、どこかで「ひょっとしたら」「もしかしたら」なんて思いがあるんだと思う。
 例えるならジグソーパズルだ。
 重要なピースを失くした。でも、どうしてもそのパズルを完成させたいから、必死で違うピースを入れようとする。
 合うはずがない。合うはずが無いのに、無理やり似たようなピースや、代わりになりそうなピースを本物と思い込んで入れようとする。

 嵌るはずが、無い。

 もうそのピースはなくなってしまったのだから。

 もう二度と、そのジグソーパズルは完成しないのだ。

 二度と、という表現は大げさと思われるかも知れない。
 でも、やはり二度と戻らない。
 完成させようとしているジグソーパズルのピースがなくなるなんて、そんなことそうそう起こらない。
 きっと、そのピースがなくなったのは。
 いや、捨てたのは。
 なかなか進まないそのパズルに苛立って、自分で投げ捨てたのだから。

「お待たせいたしました」
 店員の声で我に返った。
「帰ってきたかい?だーりん」
「おう、なんとか無事だ。はにー」
 いけねいけね、トリップしてた。
 すると、何を思ったかおもむろにユウが席を離れ、戻ってきた。
「まぁ、落ち着け」
 灰皿だった。
「ありがと」
 ポケットから煙草とライターを取り出し。火をつける。
 ユウに煙がかからないよう、横を向いて煙を吐き出す。
 あんなことを言われた後だからだろうか、一度横を向いたらユウのほうをまともに見れなくなってしまった。
「コーちゃんもさ」
 ポツリ、という感じでまたユウが喋りだした。
「あぁ、モトカレの名前ね。カレも、そんな目でアタシを見てたんだ・・・・・・」
 俺は、何を言ったらいいのか分からず。そうか、とだけ答えて煙草を咥え直した。
 訪れる微妙な沈黙。なんかユウとあった日を思い出す。あの時もなんか微妙な沈黙があった。
 ただ吸ってるのもなにか落ち着けず、俺はさっきからジッポのフタを閉じたり開けたりしていた。
「それさ」
 沈黙を破ってユウが聞いてきた。
「そのライター何が描いてあんの?」
「あぁ、コレ俺の乗ってるバイクが描かれてんだ。いいだろ?」
 ユウが手を出してきたので、ライターを渡してやる。
「GSX1100Sってのに乗ってんの?」
「・・・・・・乗る予定、に訂正しといて。今乗ってんの250cc」
 ユウがm9(^Д^)って顔してる。
「250cc?アタシのよりしょぼいじゃん!」
「ハハハ・・・(コヤツめ)」
 さっきの沈黙はどこへ行ったのか、俺のこだわりの愛車を馬鹿にするユウと、それにムキになって反論する俺。
 うん、やっぱ俺たちはこういう雰囲気のほうがあっている。せっかく『ゲーム』をしてるんだから、楽しまなくちゃな、うん。
「ニーハン!?キッモーイ!ニーハンが許されるのは小学生までだよねー!?キャハハー!!」
「どこでそんなネタ仕入れてきやがった」
「りょっちのパソコン」
 ・・・・・帰ったらハードディスクの整理をしよう。

       

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Neetsha