適当を前提にお付き合いください
仕事
結局、四人前のパスタを食べきることは出来なかった。
「あぁ、勿体無い。あぁ勿体無い」
数少ない食料であるパスタを無駄に消費してしまった。
「う、うっさいわね!明日買って来るわよ!食費は明日からちゃんと払うからこれ以上ぐだぐだ言うな!」
正直、ソコまで気にはしていないのだがこいつを相手にしているとついこういう風に言いたくなってしまう。
しかし、今何と言った?
「食費払うって、働いてんの?バイトとかなんかしてんの?」
朝から気になってたことを聞いてみる。今日も別にどこかで働いてきたというわけではなさそうだった。
「フン、ちゃんと稼ぎ口はあるわよ。納めるもの納めれば文句ないでしょ」
まぁ、もともとそんなに文句はないのだがもらえる物はもらっておく。
結局今日も俺は寝袋で、ユウがベッドで寝る形で夜を過ごした。
次の日の朝、例によってユウは目覚ましでは起きないので、先に起きて飯を作る。
と言っても、ただ焼いたトーストにピーナッツクリームを塗っただけである。
このピーナッツクリームは正直どのへんがピーナッツ味なのかよくわからない。
「・・・今日の朝ごはんそれ?」
飯の匂いに釣られてユウが起きてくる。
「おう、塗るものはピーナッツクリームしかないぞ」
「ピーナッツかよ」
「ピーナッツかよ、とは何だ。お前コンビニで売ってるサンドイッチのピーナッツといえば俺が中坊の頃から愛してやまな」
「はいはい、ピーナッツでいいですよ」
俺のピーナッツ味のサンドイッチに対する熱い情熱についての講釈は省略されてしまった。
「じゃぁ、俺大学行ってくっから」
「いってらっふぁい」
食べるか喋るかどっちかにしてください。
適当に講義をこなし、昼飯の時間になる。
昼時に限らず、友人達は授業のない時間は大抵特定の喫煙所に集まる。
俺もご多分に漏れずそこへ向かい、一服しに行く。
「おーっす」
「おいすー」
煙草に火をつけながら挨拶をし、灰皿に近寄る。
喫煙所にいたのは、バイク好きの亘(ワタル)だった。
「あれ?ワタルさっきの講義とってなかったっけ?」
「取ってるよ」
「ま た 寝 坊 か」
「フヒヒwwwサーセンwwwwww」
俺の友人達は、特になんのサークルに入るでもなく、集まった人間達だ。
決まった日に集まって何かする、というのが堅苦しい・・・というまぁなんとも怠惰な理由でサークルに入らなかった人が多い。
かといって一人ぼっちで大学に通えるほど強くもないので、友達の友達、とかそんな感じでわらわらと寄り添って出来た集団が俺たちのグループ。
「昼飯、どこで食おうか」
うちの大学には食堂がやたらとあり、第一から第三食堂、それから4つくらい牛丼屋やらラーメン屋なりの企業の入ったフーズコートがあり、食うところには困らない。
その代わり、どこで食うか迷う。
そんな話をしてるうちに、別の講義を受けていた友人達も集まってきた。
「腹減ったー」
「まじ、バーコードの講義意味ワカンネェんだけど、ふざけるのは髪の毛だけにしろって話」
「あ、ワタル来てたの?」
「飯いこー飯ー」
友人達が口々に好き勝手言う。統率力の無さにかけてはピカイチの集団である。
静かだった喫煙所が賑わい、あちこちで雑談が始まるなか、ある声だけが鮮明に俺の耳に届いた。
「ねーねー、フーズコートの中に新しいお店入ったんだって!そこ行かない?」
その声に一瞬身が強張る。
だが、俺はすぐに声のするほうに軽く顔を向け答えた。
「あぁ、いいんじゃねぇ。そこ行こうぜ」
大丈夫、何の違和感もなく返せたはずだ。
俺が一瞬固まった理由、それは声を掛けてきたのが、ユウに話した以前まで付き合っていた彼女―智恵(トモエ)だったからだ。
ユウには「忘れたい」だなんて話したが、そんなこと出来るはずないのだ。こうしてほぼ毎日大学で会ってしまうのだから。
まぁ、でも一瞬ギクリとしたくらいで、今は至って平静。別になんてことはない、友達に戻っただけなのだから。
「じゃ、移動すんべ」
カバンを持って立ち上がり、集まった皆に移動するように促す。
誰かが動き出さねば、この集団はいつまでもここでだべって飯どころではないのだ。
皆が動き始めたところで、智恵が言った。
「あ、待って。達也(タツヤ)がまだ来てない」
お、ホントだ。
気づかんかった。
皆気付いていなかったようだが、俺は気付いていた。
分かっていて移動しようとしたのだ。
見たくないのだ。いくら時間が立とうが、智恵と、達也―つまり、智恵の今の彼氏が一緒に居る所など。
智恵が、彼氏を気遣う言葉を吐いた時から、俺の周りの酸素は何か違う物質に変わってしまったようだった。
上手く、呼吸が出来ない。
「あぁ、じゃぁ俺先に行って席取っておくよ。この人数じゃ行って座れるかわかんねぇから」
それだけ一息に行って、俺がそそくさとその場を離れようとすると、ワタルも後を追って付いてきた。
「俺も行くよ」
「ん―あぁ」
顔も見ずに適当な相槌を返すと、背中をバシっと強く叩かれた。
「お前のバイクには言いたいことがあったからな。さっき見てきたけどチェーンに油が全然ねぇじゃねぇか」
「いや、忙しくってさ」
「ったく。お前のバイクはマスターに恵まれなかった可哀想なバイクだな」
ハハ、と乾いた笑いを返す。
正直、ワタルにはいつも助けられる。
別れた直後、落ち込んでいた俺を励ましてくれたのもコイツだ。
そして、今みたいに―他の人には気付かれなかったが―俺が勝手に苦しんでるときに励ましてくれる。
いい友人に恵まれた、とは思う。
しかし、それでも心に開いた隙間は、もともとあったものでしか埋められないのだと思う。
「あぁ、勿体無い。あぁ勿体無い」
数少ない食料であるパスタを無駄に消費してしまった。
「う、うっさいわね!明日買って来るわよ!食費は明日からちゃんと払うからこれ以上ぐだぐだ言うな!」
正直、ソコまで気にはしていないのだがこいつを相手にしているとついこういう風に言いたくなってしまう。
しかし、今何と言った?
「食費払うって、働いてんの?バイトとかなんかしてんの?」
朝から気になってたことを聞いてみる。今日も別にどこかで働いてきたというわけではなさそうだった。
「フン、ちゃんと稼ぎ口はあるわよ。納めるもの納めれば文句ないでしょ」
まぁ、もともとそんなに文句はないのだがもらえる物はもらっておく。
結局今日も俺は寝袋で、ユウがベッドで寝る形で夜を過ごした。
次の日の朝、例によってユウは目覚ましでは起きないので、先に起きて飯を作る。
と言っても、ただ焼いたトーストにピーナッツクリームを塗っただけである。
このピーナッツクリームは正直どのへんがピーナッツ味なのかよくわからない。
「・・・今日の朝ごはんそれ?」
飯の匂いに釣られてユウが起きてくる。
「おう、塗るものはピーナッツクリームしかないぞ」
「ピーナッツかよ」
「ピーナッツかよ、とは何だ。お前コンビニで売ってるサンドイッチのピーナッツといえば俺が中坊の頃から愛してやまな」
「はいはい、ピーナッツでいいですよ」
俺のピーナッツ味のサンドイッチに対する熱い情熱についての講釈は省略されてしまった。
「じゃぁ、俺大学行ってくっから」
「いってらっふぁい」
食べるか喋るかどっちかにしてください。
適当に講義をこなし、昼飯の時間になる。
昼時に限らず、友人達は授業のない時間は大抵特定の喫煙所に集まる。
俺もご多分に漏れずそこへ向かい、一服しに行く。
「おーっす」
「おいすー」
煙草に火をつけながら挨拶をし、灰皿に近寄る。
喫煙所にいたのは、バイク好きの亘(ワタル)だった。
「あれ?ワタルさっきの講義とってなかったっけ?」
「取ってるよ」
「ま た 寝 坊 か」
「フヒヒwwwサーセンwwwwww」
俺の友人達は、特になんのサークルに入るでもなく、集まった人間達だ。
決まった日に集まって何かする、というのが堅苦しい・・・というまぁなんとも怠惰な理由でサークルに入らなかった人が多い。
かといって一人ぼっちで大学に通えるほど強くもないので、友達の友達、とかそんな感じでわらわらと寄り添って出来た集団が俺たちのグループ。
「昼飯、どこで食おうか」
うちの大学には食堂がやたらとあり、第一から第三食堂、それから4つくらい牛丼屋やらラーメン屋なりの企業の入ったフーズコートがあり、食うところには困らない。
その代わり、どこで食うか迷う。
そんな話をしてるうちに、別の講義を受けていた友人達も集まってきた。
「腹減ったー」
「まじ、バーコードの講義意味ワカンネェんだけど、ふざけるのは髪の毛だけにしろって話」
「あ、ワタル来てたの?」
「飯いこー飯ー」
友人達が口々に好き勝手言う。統率力の無さにかけてはピカイチの集団である。
静かだった喫煙所が賑わい、あちこちで雑談が始まるなか、ある声だけが鮮明に俺の耳に届いた。
「ねーねー、フーズコートの中に新しいお店入ったんだって!そこ行かない?」
その声に一瞬身が強張る。
だが、俺はすぐに声のするほうに軽く顔を向け答えた。
「あぁ、いいんじゃねぇ。そこ行こうぜ」
大丈夫、何の違和感もなく返せたはずだ。
俺が一瞬固まった理由、それは声を掛けてきたのが、ユウに話した以前まで付き合っていた彼女―智恵(トモエ)だったからだ。
ユウには「忘れたい」だなんて話したが、そんなこと出来るはずないのだ。こうしてほぼ毎日大学で会ってしまうのだから。
まぁ、でも一瞬ギクリとしたくらいで、今は至って平静。別になんてことはない、友達に戻っただけなのだから。
「じゃ、移動すんべ」
カバンを持って立ち上がり、集まった皆に移動するように促す。
誰かが動き出さねば、この集団はいつまでもここでだべって飯どころではないのだ。
皆が動き始めたところで、智恵が言った。
「あ、待って。達也(タツヤ)がまだ来てない」
お、ホントだ。
気づかんかった。
皆気付いていなかったようだが、俺は気付いていた。
分かっていて移動しようとしたのだ。
見たくないのだ。いくら時間が立とうが、智恵と、達也―つまり、智恵の今の彼氏が一緒に居る所など。
智恵が、彼氏を気遣う言葉を吐いた時から、俺の周りの酸素は何か違う物質に変わってしまったようだった。
上手く、呼吸が出来ない。
「あぁ、じゃぁ俺先に行って席取っておくよ。この人数じゃ行って座れるかわかんねぇから」
それだけ一息に行って、俺がそそくさとその場を離れようとすると、ワタルも後を追って付いてきた。
「俺も行くよ」
「ん―あぁ」
顔も見ずに適当な相槌を返すと、背中をバシっと強く叩かれた。
「お前のバイクには言いたいことがあったからな。さっき見てきたけどチェーンに油が全然ねぇじゃねぇか」
「いや、忙しくってさ」
「ったく。お前のバイクはマスターに恵まれなかった可哀想なバイクだな」
ハハ、と乾いた笑いを返す。
正直、ワタルにはいつも助けられる。
別れた直後、落ち込んでいた俺を励ましてくれたのもコイツだ。
そして、今みたいに―他の人には気付かれなかったが―俺が勝手に苦しんでるときに励ましてくれる。
いい友人に恵まれた、とは思う。
しかし、それでも心に開いた隙間は、もともとあったものでしか埋められないのだと思う。
-----------------------------
今日受けなければならない講義をすべて受け、帰ることにした。
友人達はゲームセンターに行くようだが、断った。
バイトがある。と言ったが、実のところバイトはない。
断った理由は別にあった。
じゃぁ、バイトの時間まででも行こうと誘う友人に、ワタルが上手く間に入って断ってくれた。
バイクのキーを回す。
ブオオオオン!とご機嫌な音を出す。
GSX250S―通称、コガタナ。
250ccのコイツは400ccや本家の1100cc―つまり『刀』と比較されて『小刀』と呼ばれるが、俺はコイツがお気に入りだ。
もともとこのバイクに憧れていたのだが、コイツは特別製だ。
元の持ち主は少し乗っただけで、ずっと倉庫にしまっていたため、エンジンだけは元気だが他のパーツは錆なり何なりであちこちボロボロだったものを、タダ同然で貰い受けて直したものだ。
塗装のカラーリングも、一般的なカラーとは少し違うディープブルー。
その愛車に跨り、大学を出る。
俺はついスピードを出しすぎてしまうのも気にせず、ある場所へ向かった。
「毎度当店を御指名頂き、誠に有難うございます。御遊戯台のご案内を申し上げます。2F、バラエティーコーナー385番台に―」
俺がやってきた場所は、パチンコ屋だ。
あちこちから様々な効果音やらBGMやらでカオスになりすぎて、何も聞き取れない中、さらにその上を行く音量で場内アナウンスが流れる。
ギャンブルがもたらす高揚感、コレだけがすべてを忘れさせてくれる。一時的にだけど。
(やれやれ、随分と駄目な大人になったもんだ)
微塵も思っていないことを思いつつ、ホールの中を練り歩き台選びに集中する。
とはいえ、今日は急に来ることを決めたので情報も何もあったもんじゃない。
そういう時は、打っている人間を観察する。主に、よく理解していそうな若い人の動きに。
打っている当人達は分からないだろうが、こうして離れた位置から見ていると良く分かる。
2、3人の若者が、一人の老人の動きを先ほどからチラチラと観察していることが。
(カモれる―――)
おそらく、そんなことを考えているのだろう。老人がやめれば即座にその台に移ろうとしているのが良く分かる。
(悪いけど、それは俺がもらいますね)
心の中で謝罪し、俺も少し離れたところ、打っている人間達の死角になる場所か老人の動きをチェックする。
他の人間よりも早く台を確保するにはどうすればいいか?
逐一観察する?隣に座る?否―――話しかければいいのだ。
老人が席を離れようと、椅子にかけた上着や、台の横に置いた煙草を回収しようとした、その時。一言、声を掛ければいいのだ。
(やれやれ、ギャンブルをしに来てるって言うのに、皆図々しさがたりねぇなぁ)
そう思った刹那、老人が動いた。俺はすぐさま老人に声を掛けようと近づき、そして
「「あの―――」」
声が重なった。
今日受けなければならない講義をすべて受け、帰ることにした。
友人達はゲームセンターに行くようだが、断った。
バイトがある。と言ったが、実のところバイトはない。
断った理由は別にあった。
じゃぁ、バイトの時間まででも行こうと誘う友人に、ワタルが上手く間に入って断ってくれた。
バイクのキーを回す。
ブオオオオン!とご機嫌な音を出す。
GSX250S―通称、コガタナ。
250ccのコイツは400ccや本家の1100cc―つまり『刀』と比較されて『小刀』と呼ばれるが、俺はコイツがお気に入りだ。
もともとこのバイクに憧れていたのだが、コイツは特別製だ。
元の持ち主は少し乗っただけで、ずっと倉庫にしまっていたため、エンジンだけは元気だが他のパーツは錆なり何なりであちこちボロボロだったものを、タダ同然で貰い受けて直したものだ。
塗装のカラーリングも、一般的なカラーとは少し違うディープブルー。
その愛車に跨り、大学を出る。
俺はついスピードを出しすぎてしまうのも気にせず、ある場所へ向かった。
「毎度当店を御指名頂き、誠に有難うございます。御遊戯台のご案内を申し上げます。2F、バラエティーコーナー385番台に―」
俺がやってきた場所は、パチンコ屋だ。
あちこちから様々な効果音やらBGMやらでカオスになりすぎて、何も聞き取れない中、さらにその上を行く音量で場内アナウンスが流れる。
ギャンブルがもたらす高揚感、コレだけがすべてを忘れさせてくれる。一時的にだけど。
(やれやれ、随分と駄目な大人になったもんだ)
微塵も思っていないことを思いつつ、ホールの中を練り歩き台選びに集中する。
とはいえ、今日は急に来ることを決めたので情報も何もあったもんじゃない。
そういう時は、打っている人間を観察する。主に、よく理解していそうな若い人の動きに。
打っている当人達は分からないだろうが、こうして離れた位置から見ていると良く分かる。
2、3人の若者が、一人の老人の動きを先ほどからチラチラと観察していることが。
(カモれる―――)
おそらく、そんなことを考えているのだろう。老人がやめれば即座にその台に移ろうとしているのが良く分かる。
(悪いけど、それは俺がもらいますね)
心の中で謝罪し、俺も少し離れたところ、打っている人間達の死角になる場所か老人の動きをチェックする。
他の人間よりも早く台を確保するにはどうすればいいか?
逐一観察する?隣に座る?否―――話しかければいいのだ。
老人が席を離れようと、椅子にかけた上着や、台の横に置いた煙草を回収しようとした、その時。一言、声を掛ければいいのだ。
(やれやれ、ギャンブルをしに来てるって言うのに、皆図々しさがたりねぇなぁ)
そう思った刹那、老人が動いた。俺はすぐさま老人に声を掛けようと近づき、そして
「「あの―――」」
声が重なった。
-----------------------------
声の主は、ユウだった。
「え?りょっち?何―――」
ええい、邪魔をするな。俺の唯一の安らげる時を。
俺はユウを無視し、老人のほうに話しかけた。
「あの、ひょっとしてやめます?そしたら自分打ってもいいっスかね?」
老人は時に気にする風でもなく
「えぇ、どうぞ」
うむ、実に心が広い。きっと年金が余ってるけど、孫とかもいないからこういうところで消費して、経済の循環に協力しているんだろう―――ということにしておこう。
俺がどかっと椅子に座ると、可動式になっている椅子ごとぐるっと回された。周りの人に迷惑だからそういうことしちゃだめだぜハニー
「ちょっと―――!何してんのよ―――!つーか―――!アタシが―!狙って―!たのに―!」
明らかに不機嫌な態度で俺に詰め寄る。
「何って―――見ての通りパチスロ――!つーか――お前こそ――何やってんだ――!仕事――行ったんじゃ――ねーのかよ!」
そうだそうだ。と脳内ではもう二、三人俺が一緒になって言っている。
因みに、周りはうるさすぎるので、この会話は大声で行われている。
「だから――こうして――稼ぎに来てるんじゃない――!」
なんといスロプー(スロットプー太郎)。一目見て駄目人間と分かってしまった。この女間違いなくニート。
とりあえず、大声で話すのもだるいので、台に携帯電話を放り込んで確保し、一度外に出ることにした。
裏口から出て、裏通りの人気の少ないところで、先ほどから気になっていたことを聞いてみることにした。
「ところで、お前スロットなんてわかるの?」
「打ち方なら分かるわよ。最近は打ち方も書いてある紙がおいてあるじゃない」
ジーザス。打ち方だけわかっても勝てるわけが無かろうに。
「おいおい、打ち方が分かってるだけじゃ、良い台なのか悪い台なのかわかんねーだろ」
呆れる俺に、ユウは自信満々に意味不明なことを言い張った。
「それこそ関係ないわよ、出そうなときに打って、出なさそうになったらやめればいいんだから」
馬鹿?
「なによ」
「いや、今度こそ口に出してねーぞ」
「やっぱどうせよからぬことを思ってたんでしょ」
カマかけられた。ふck。
「まぁ、いいや。見れば分かるわよ。さっきの台打つんでしょ?あれはとりあえず打ってもいい気がするわ。止め時はアタシが教えてあげる」
さっき「打ち方」しか知らないといったくせに、この自信である。いったい何の根拠があるというのだろうか。
「いやぁー!姉さん!流石ッス!惚れ直したっす!」
「惚れ直すも、もともと惚れてないでしょーが」
両手をすりすりさせながら、猫背で付いてくる俺にユウがでこピンする。
結局、あの台はかなり爆発し、俺らが止めたあとで、大ハマリ―――つまり、逆に金だけが減っていく状態―――したわけだが、ユウがまさに
「ここでヤメ」
と言ってから、ぴたりと出なくなったのだ。
客観的に見ても、それまで出まくっていたし、その時もチャンス状態であったのだが、強引に止めさせられた。
案の定、近くで見ていた若造が
(マジ?ここでやめんの?ばっかじゃねー?)
見たいな顔で席に座ったが、そのウキウキ顔が青くなるまで30分もかからなかった。
「しっかし、ありゃぁどういう基準できめてんだ?さわりでいいからご教授願いたいもんだ」
この至極当然な俺の問に、ユウはあっさりと
「さわりもなにも、ただのカンよ」
とかいいやがりやがった。
「―――は?」
と、間抜けな声しか出せない。
「だから、仕組みなんて良く分からないから、周りの人をみて台を選んで―――」
そこらへんは、情報収集が不十分なときに俺がとる行動と同じなようだ。
「そんで、なんとなく、この辺かなーってところで止める」
「・・・お前、それで負けなかったの?」
「負けたことは無いわよ。ただ、何回か止めた後にも出ていたことはあったけど」
恐るべし。女のカン―――いや、ユウのカンだな。女のカンだったら女は皆スロプロってことになってしまう。
「カン、ねぇ・・・・・・」
「カンっていうか、なんとなく分かるのよ。あぁ、ここまでだなぁ、って」
「そういうもんかねぇ、やっぱ俺はデータを見て、良い台悪い台を見極めて打つべきだと思うんだが」
「データ、って言ったって、結局過去の話でしょ?ある程度の指針にはなるにせよ、中心に置くべきじゃないわ」
そういって、ユウは振り返って俺に指を指して言った。
「ズバリ、りょっちは過去のデータに囚われて大負けをしたことがある。それも何度も」
「ソンナコトナイヨー」
「何故片言」
ズバリ、その通りである。しかし他にやりようが無いのだから仕方ない。
「じゃぁ、どうせいっちゅーねん」
どうせ僕は負け組みですよー、というオーラを出しながら言う俺に対して、ユウは口元に人差し指を当ててちょっと迷いながら言った
「んー、別に過去のことを参考にするのは悪いことじゃないと思うの」
先ほどから「過去」という言葉を頻発する。多分、コイツが言いたいのはスロットなんかだけのことじゃないんだろう。
「でもさ、その過去のデータが良ければ良いほど、過去が輝いていれば輝いているほど、それはいいモノなんだって確信を拭い去ることが出来なくなっちゃうっていうか」
「・・・・・・言いたいことがよくわかんないんだけど?」
イライラとした口調で返事をした俺に、ユウは少しビクっとしたが、続けた。
「その、だからさ。いくら過去のデータが良かったとしても、その先もそうなる保障はどこにも無いわけで」
「それを何かの例え話にしたいんだったら、例えになってねーから」
俺はそれだけ言うと、先ほど大勝利で得た金を無理やりユウに押し付ける。その拍子に、ユウが持っていた景品のお菓子を取り落としてしまう。その隙に俺はバイクに跨り、エンジンを掛けた。
「ちょ、ちょっと!」
後ろからユウの制止する声が聞こえた気もするが、バイクの排気音がそれをかき消してくれた。
何をイラついているのか、何にイラついているのか。
そんなことは分かってる。
俺はユウに「忘れたい」と説明したが、まだ引きずっていることなど、とうにユウは気付いていたのだ。
自分では、とっくに諦めたつもりだった。忘れたつもりだった。
それが出来ていないことを指摘されて、俺はイラついているのだ。
「どうしょうもないくらい・・・・・・ちいせぇなぁ。俺」
つぶやいた言葉は、バイクの排気音にかき消され、自分にも聞こえなかった。
声の主は、ユウだった。
「え?りょっち?何―――」
ええい、邪魔をするな。俺の唯一の安らげる時を。
俺はユウを無視し、老人のほうに話しかけた。
「あの、ひょっとしてやめます?そしたら自分打ってもいいっスかね?」
老人は時に気にする風でもなく
「えぇ、どうぞ」
うむ、実に心が広い。きっと年金が余ってるけど、孫とかもいないからこういうところで消費して、経済の循環に協力しているんだろう―――ということにしておこう。
俺がどかっと椅子に座ると、可動式になっている椅子ごとぐるっと回された。周りの人に迷惑だからそういうことしちゃだめだぜハニー
「ちょっと―――!何してんのよ―――!つーか―――!アタシが―!狙って―!たのに―!」
明らかに不機嫌な態度で俺に詰め寄る。
「何って―――見ての通りパチスロ――!つーか――お前こそ――何やってんだ――!仕事――行ったんじゃ――ねーのかよ!」
そうだそうだ。と脳内ではもう二、三人俺が一緒になって言っている。
因みに、周りはうるさすぎるので、この会話は大声で行われている。
「だから――こうして――稼ぎに来てるんじゃない――!」
なんといスロプー(スロットプー太郎)。一目見て駄目人間と分かってしまった。この女間違いなくニート。
とりあえず、大声で話すのもだるいので、台に携帯電話を放り込んで確保し、一度外に出ることにした。
裏口から出て、裏通りの人気の少ないところで、先ほどから気になっていたことを聞いてみることにした。
「ところで、お前スロットなんてわかるの?」
「打ち方なら分かるわよ。最近は打ち方も書いてある紙がおいてあるじゃない」
ジーザス。打ち方だけわかっても勝てるわけが無かろうに。
「おいおい、打ち方が分かってるだけじゃ、良い台なのか悪い台なのかわかんねーだろ」
呆れる俺に、ユウは自信満々に意味不明なことを言い張った。
「それこそ関係ないわよ、出そうなときに打って、出なさそうになったらやめればいいんだから」
馬鹿?
「なによ」
「いや、今度こそ口に出してねーぞ」
「やっぱどうせよからぬことを思ってたんでしょ」
カマかけられた。ふck。
「まぁ、いいや。見れば分かるわよ。さっきの台打つんでしょ?あれはとりあえず打ってもいい気がするわ。止め時はアタシが教えてあげる」
さっき「打ち方」しか知らないといったくせに、この自信である。いったい何の根拠があるというのだろうか。
「いやぁー!姉さん!流石ッス!惚れ直したっす!」
「惚れ直すも、もともと惚れてないでしょーが」
両手をすりすりさせながら、猫背で付いてくる俺にユウがでこピンする。
結局、あの台はかなり爆発し、俺らが止めたあとで、大ハマリ―――つまり、逆に金だけが減っていく状態―――したわけだが、ユウがまさに
「ここでヤメ」
と言ってから、ぴたりと出なくなったのだ。
客観的に見ても、それまで出まくっていたし、その時もチャンス状態であったのだが、強引に止めさせられた。
案の定、近くで見ていた若造が
(マジ?ここでやめんの?ばっかじゃねー?)
見たいな顔で席に座ったが、そのウキウキ顔が青くなるまで30分もかからなかった。
「しっかし、ありゃぁどういう基準できめてんだ?さわりでいいからご教授願いたいもんだ」
この至極当然な俺の問に、ユウはあっさりと
「さわりもなにも、ただのカンよ」
とかいいやがりやがった。
「―――は?」
と、間抜けな声しか出せない。
「だから、仕組みなんて良く分からないから、周りの人をみて台を選んで―――」
そこらへんは、情報収集が不十分なときに俺がとる行動と同じなようだ。
「そんで、なんとなく、この辺かなーってところで止める」
「・・・お前、それで負けなかったの?」
「負けたことは無いわよ。ただ、何回か止めた後にも出ていたことはあったけど」
恐るべし。女のカン―――いや、ユウのカンだな。女のカンだったら女は皆スロプロってことになってしまう。
「カン、ねぇ・・・・・・」
「カンっていうか、なんとなく分かるのよ。あぁ、ここまでだなぁ、って」
「そういうもんかねぇ、やっぱ俺はデータを見て、良い台悪い台を見極めて打つべきだと思うんだが」
「データ、って言ったって、結局過去の話でしょ?ある程度の指針にはなるにせよ、中心に置くべきじゃないわ」
そういって、ユウは振り返って俺に指を指して言った。
「ズバリ、りょっちは過去のデータに囚われて大負けをしたことがある。それも何度も」
「ソンナコトナイヨー」
「何故片言」
ズバリ、その通りである。しかし他にやりようが無いのだから仕方ない。
「じゃぁ、どうせいっちゅーねん」
どうせ僕は負け組みですよー、というオーラを出しながら言う俺に対して、ユウは口元に人差し指を当ててちょっと迷いながら言った
「んー、別に過去のことを参考にするのは悪いことじゃないと思うの」
先ほどから「過去」という言葉を頻発する。多分、コイツが言いたいのはスロットなんかだけのことじゃないんだろう。
「でもさ、その過去のデータが良ければ良いほど、過去が輝いていれば輝いているほど、それはいいモノなんだって確信を拭い去ることが出来なくなっちゃうっていうか」
「・・・・・・言いたいことがよくわかんないんだけど?」
イライラとした口調で返事をした俺に、ユウは少しビクっとしたが、続けた。
「その、だからさ。いくら過去のデータが良かったとしても、その先もそうなる保障はどこにも無いわけで」
「それを何かの例え話にしたいんだったら、例えになってねーから」
俺はそれだけ言うと、先ほど大勝利で得た金を無理やりユウに押し付ける。その拍子に、ユウが持っていた景品のお菓子を取り落としてしまう。その隙に俺はバイクに跨り、エンジンを掛けた。
「ちょ、ちょっと!」
後ろからユウの制止する声が聞こえた気もするが、バイクの排気音がそれをかき消してくれた。
何をイラついているのか、何にイラついているのか。
そんなことは分かってる。
俺はユウに「忘れたい」と説明したが、まだ引きずっていることなど、とうにユウは気付いていたのだ。
自分では、とっくに諦めたつもりだった。忘れたつもりだった。
それが出来ていないことを指摘されて、俺はイラついているのだ。
「どうしょうもないくらい・・・・・・ちいせぇなぁ。俺」
つぶやいた言葉は、バイクの排気音にかき消され、自分にも聞こえなかった。