Neetel Inside 文芸新都
表紙

適当を前提にお付き合いください
日常

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 結局、俺は寝袋で寝て、ユウはベッドで寝た。
 わーい、俺の意気地なしー。
 『契約書』に『判』を押し、いい具合に変な空気が流れたところで
「じゃぁ、寝るわ」
 と言うと、ユウは大笑いをし
「あんた、もてないでしょ」
 と言った。大きなお世話である。

 朝になり、久々にマトモな朝食を作る。
 とはいえ、ただのスクランブルエッグなんだけど。
 ユウはまだ寝ている。つーかコイツは何者なんだ?学生なのか?そういえば何も聞いてねぇや。
「ん~、おいしそうな匂い~」
 飯の匂いで目を覚ますとは、食い意地の張った女である。
「もう八時だけど、学校とか仕事とか大丈夫なのか?」
 声を掛けると、パチンと携帯を開ける音が聞こえた。
「八時?んー、いいやぁ。もうちょい寝るー」
 何がどういいのかはあえて聞かないことにした。
「俺は学校あるから行くぞ。飯は米と、フライパンの中にある卵。適当に食えや」
「んー?知り合って間もない人間を家に残して出て行くとは、無用心にもほどがないかいりょっちくん」
「どうせ盗まれるようなものはないからな、むしろゴミが減って都合がいいわ。鍵も掛けなくて結構。あ、それから君のバイクにはキックがついてるからそれでエンジン掛ければ何とかなるんじゃねー?」
 炊飯器から直接ご飯を食べ、フライパンから直接スクランブルエッグを食べる。洗い物が減り、地球に優しくかつ理にかなった食事方法である。衛生的にどうかは知りません。
「机の上に、アドレスと番号書いた紙置いといたから、寂しくなったら呼べや。暇だったら対応する」
「あいよ、いってらっしゃいだーりん」
 布団から出ることもせず、顔も見ずに言われた。
「へいへい、いってきますよはにー」
 こちらも靴を履きながら適当に返事をする。
 バタン。とドアが閉まると、いつもの廊下である。何も変わらない。
 いつもどおり、大学へ行き、友達と合流し、馬鹿な話をして授業を受けバイトへ。
 バイトは個別指導塾の雇われ講師である。塾の講師といったって、教えるのは中学生くらいなものでそんなに大層なバイトってわけでもない。
 バイトもいつもと変わらず、変わったことといえばテスト期間で生徒が多いことぐらい。
 こうしていつもと変わらないルーチンワークのような一日を終えて、んでもって今日は部屋に帰るといつもと変わらない部屋に戻っているんだろう。
 うーん、メール来てねぇ。そういえばコッチから連絡とれねぇじゃん。
「ただいま・・・っと」
 誰がいなくとも、口癖になってしまった寂しい独り言を言って部屋のドアを開ける。
 別に期待していたわけではないが。いや、正直期待していたがユウはちゃんと帰っていた。
 駐車場にもユウのバイクはなかった。
 部屋はすこし片付けられ、トイレットペーパーは三角形に折られていた。ふむ、少しは常識があるようだ。
 とりあえずお湯を沸かし、窓を開け煙草に火をつける。
 彼女が出来たわけではない。普通のカップルのように寸暇を惜しんでメールをしたり、時間を合わせてデートしたりというようなわけではない。何せ、お互いがお互いのことを好きなわけではないからだ。
 まぁ、それでも面白うそうだから『契約』したわけで、そもそもなんか普通っていうの嫌いだし、天邪鬼な性格してるのでコレはコレで性に合ってると思う。
「ま、連絡待ちか」
 別に構わない。少しだろうが、なんだろうが、グレーがかった繰り返しの毎日が変わるなら大歓迎である。なんであれ。
 ぼけーっと外を見ていたら、煙草の灰が庭に落ちてしまった。あ、この辺って俺が勝手に花の種まいた辺りだ、咲いてねぇ。
 勝手に撒いた花の種は、ツーリング先の道の駅でなんとなく買った「千日紅(センニチコウ)」という花である。花言葉は、変わらぬ想いとかだった気がする。
(まぁ、適当に蒔いたって花壇でもない場所に咲くわけないか)
 とか思ったら、おもむろにドアが開いた。
「あ、おかえり。帰ってたんだ」
「・・・・・・・・・は?」
 薬缶がシュンシュンと音を立てて、お湯が沸いたことを告げる音だけが響いた。

     

「……あたかも自分が部屋の主かのように俺の座椅子に陣取るな」
 既に俺の指定席であるベッド・オン・座椅子に腰を掛けてテレビをつけ始めるユウ。テレビのつけ方も覚えたようで既にここの住人と化している。しかも俺の沸かした湯で勝手にコーヒーを淹れている。
「いいじゃん、ホラ、アタシ彼女だよ?」
「都合のいい時だけそういう肩書きを持ち出すな」
 どうやらユウは家に帰ったのではなく、買い物に出かけていただけらしい。買ってきたものは芳香剤。一応お香があるのだがなぜか既に片付けられていた。
 ユウ曰く。
「前の女の匂いがする」
 随分と鼻の聞く女である。
「つーか帰らなくていいのか」
「帰れなくなったの。喧嘩した」
 それが理由でゲームとか言う提案してきたんじゃねぇだろうなコイツ。プチ家出して寝泊りするところを探してただけなのか?
 まぁ、別にどうでもいいか。理由が何であれ『ゲーム』の上では関係のないことだ。
「飯は?」
「マダー?」
 疑問系なのは間違えたわけではなく、俺に作れといっているらしい。殴っていいのかな。
 しかし飯を作ろうにも一人だと思っていたので何も買ってきていない。常備されているものなんて米とパスタだけだ。
 まぁ、とりあえずパスタで良いか。
 ここで特に反抗せず料理をしてしまう俺は我ながらお人よしだと言わざるを得ない。
 鍋に水を入れてIHのスイッチを入れる。んでもってその間に一服。
「失礼」
 テレビの前を横切り、ベランダに出る。
「煙草は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」
「なら売るなってハナシ」
 ユウが落ちていた煙草のパッケージを読み上げるがそんなこと知ったこっちゃないのである。
 煙草には脳の働きを活性化させる働きがあり、アルツハイマーの予防になる、らしい。
 とりあえず、俺はその何が根拠なのか知らない話を信じている。
 アルツハイマーになるよりはいっそ心筋梗塞のほうが良いわ。
 カラカラ、とドアを開けてベランダに出る。煙草に火をつけて一息つきユウに話しかける。
「んで、お前いつまでいるの?」
「いーじゃん、別に」
 それはお前が決めることじゃねぇ。
「帰れよ」
 とは言うものの、実は寂しさが紛れるので本音ではない。強がり&捻くれ者の自分が嫌になる。
「ホントはいて欲しいくせに」
 それ以上にコイツがムカつくのはなぜだろう。

 湯が沸いた。
「沸いてるよ」
「分かるよ、煙草吸ってんだからちょっと待て、早く食いたかったら麺くらい茹でろ。って、それもできないか」
 売り言葉に買い言葉。プギャーと指を指してやる。挑発には弱いらしく、むっと頬を膨らませてパスタを取り出す。あ、ちょっと可愛いかも。っていうかなんで食い物の位置を把握してるんだこいつ。
 俺は外を向いて煙草を吸う。しかし、この挑発を後で後悔する羽目になる。金輪際、飯は自分でちゃんと作ろうと思った。

 茹で上がったパスタの量は軽く四人前を超えていた。

       

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