Neetel Inside 文芸新都
表紙

Sweet Spot!
10th.Match game2 《渡瀬功一の困惑》

見開き   最大化      

 どこから……どこから話を切り出せばいい?
 どうする? どーすんの? どーすんのよ俺!!??  
 隣を歩く恵姉と寺岡先輩がなんだかどうでも良さげなおはなしをしながらケラケラ笑いあっているのを横目に、俺はかなり悩んでいた。
 その主たる理由は、コーダ・オタコンから伝えられたミッションが俺にとってなかなかに厳しい内容だったからに他ならない。
 言いたかねえが、俺はまともに女の子とコミュニケ出来るスタンドを持っちゃいない。
 これまでの壮絶にして過酷? な人生の中で、その分野を鍛えるという発想自体がそもそも欠落していたのだ。ワタッセ・スネークにとって、これは全く想定外の事態だった――――。
 尚、CVは各員脳内での補完を希望する……って、うはww俺脳脱線wwテラゴメスww。
「あのアホが無駄に思い切らなきゃこんな事には……。」
 嗚呼、めんどくせえ。
 俺がここまで困っている理由を明らかにするには、30分程時間を遡らなければならない。


「……よし決めた。コーイチ、俺はやるぞ。」
「んん、何をやるんだ?」
「驚け! 『リフレッシュ大作戦』だ!!」
「はい?? リフレッシュ大作戦? なんだ、そりゃ?」
 いつかの月9あたりで使ったタイトルとかぶってる気がするぞ。
 部室でウェアから制服に着替えていると、突然何かしらの覚悟を決めた様子のゲンキはトランクス一丁というほぼ産まれたての姿で俺に向かってそう宣言したのだった。
 腕を組んだゲンキは瞳をきらっきら輝かせ、我ながら良い作戦だと言わんばかりの表情を漂わせながらウンウンと頷いている。実に誇らしげだ。
 でも、とりあえずズボンを履こうね。
「何って、これまでの想いをカタチにする決心をした訳だよワトスン君。」
「いや、渡瀬です。」
「はっはっ、まあ聞きなさい哀れな子羊よ。で、具体的に言うとだ、明日恵姫をデートに誘おうと思ってんだわコレがww。」 
 ふーん、メグミヒメをデートにねぇ。デートかそりゃいい――――ん、んん??
「ああっ!!??」
 で、デートだあ!?
 ゲンキのまさかの決断に、思わず大声を出してしまった。いや、急に思い立ちすぎだし。
 予想GUYにも程があるぜ……。
「来週の水曜から総体だろ? んでもって、明日は完全休養日だ。こいつはまさに絶好のシチュエーション! このタイミングを活かさない手は無いだろ、常考!」
 ゲンキの計画は実にシンプルだった。
  ①まず、今夜恵姉を誘う(デートではないことを強調する)。
  ②次に、恵姉から了承を貰う。
  ③で、明日は名目上は気分転換してリフレッシュの会(気分は完全にデート)。わーい。
 ……以上でーす。
「おいおい……。なんか勝算とかあんのかよ? あの恵姉がそう簡単にホイホイ男に付いていくとは到底思えないんだが……。」
 少なくとも俺は見たコトねぇぞ。
 俺の懸念に、ゲンキはニヤッと意味深な笑みを浮かべた。
 い、嫌な予感がす――。
「こんな時のコーイチじゃねーかよww。わかってるクセにぃコイツぅー。」
 はぁーっ……。あんまり予想通り過ぎてため息しかでねぇ。
 呆れて脱力した俺に、相変わらずの”四半裸”的状態で喋っていたゲンキは抱きついて頬をスリスリしてきやがった。俺はしばらくされるがままになっていたが、次第に怒りを覚えてきて身をよじり、超アッー! 的状況から何とか抜け出すことに成功した。
「ひっつくなバカ! 俺は何もしないからな! 勝手にしろ。」
 鞄を手に取り、恵姉たちの待つ正門へ向かおうとドアに手をかける。
 が、ゲンキの次の一言が俺を……苦しめた。
「ファンクラブの皆にバラしてもいいのかなぁ~♪」
「うっ……。」
「姫と一緒に住んでるなんて言えば、こりゃ確実に暴動が――。」
「すみませんでしたーーーっ!」
 俺には何も罪なくね? おうちの事情なんだから仕方ねーだろ!!
 死ね! アホ! 死んじまえ! 鬼畜! 
 だああwせdrftgyふじこlp;@!!!
 
 
 結局、俺はその後ゲンキの要求を呑まざるを得なかったのだ。
 
 ――――恵姉が今1番興味を持っているコトを聞き出してくれ。
 
 テニスにしても何にしても、相手との戦いに情報は必須。弱点を衝くが戦略、だそうだ。
 要求にしてはさほど難しくないようだが、自然に訊き出すコトが実はかなり難しい。
 何せ普段そんなコトを話す場面が無いから、どう訊くのが『自然』かサッパリ解らない。
 だから、本音を言えば恵姉に洗いざらい打ち明けるのが方法としては1番手っ取り早い。
 でも、それじゃゲンキが恵姉を誘うことにはならない。
 大切な事は本人の口から伝えなきゃいけないから。
 俺はあくまでサポートするだけ。目立ってはいけない――――。
 ピキーン!!
 そう考えた時、俺の頭を稲妻が駆け抜けたのだった。 

 
 ミッション・スタート。
 まずは、恵姉にバレない様にメールをやり取りしなくては。
 2人の会話を聞いている振りをしながら、俺は最初のメールを送信した。

  『何も言わずに俺の質問に答えてくれませんか?』

 すぐに先輩のケータイが鳴り響く。着信音はXのラスティー・○イルだ。
 先輩は画面を覗くや否や、ニヤッと笑い返信をくれた。

  『わざわざこんな事するなんてww恵にはナイショって事かな?』

 ええ、ご名答です。
 やっぱ女の子って凄いな、と思う。普通に隣の子と話をしながら、全然異なる内容のメールをいとも容易く送信してのける。俺には考えられないキャパシティーだ。
 ま、それはさておき話を続けねば。

  『お察しの通りです。で、最近恵姉どっか行きたい場所とかやりたい事とかって
   先輩に言ってたりしませんか?』

 俺の送信メールを見た先輩はしばらく何か考えていたが、ケータイをパキン! と折りたたんでポケットに仕舞うと、恵姉との会話の流れを壊さずに、しかし大胆な行動に出た。
「ねえ、恵。アンタ今何か観たい映画あるって言ってたわよね? 何だっけ、タイトル。」
「初夏のノクターン! 今上映中で、韓流最高傑作の呼び声高い作品よ。キャストがあんまりアタシの好みじゃないんだけどさ……。」
 さりげない話題転換、お見事っす。
 にしても、やっぱりと言うか何と言うか。ホント韓ドラ大好きだもんなー。
 その後、案の定恵姉はマシンガン・モードに突入。
 熱くしゃべくる恵姉に、先輩は苦笑いを浮かべつつ聞き入っていたのだが、

  『これでおk? 後で電話してお姉さんに洗いざらい話しなさい。コレ命令☆』

 と、機を見て返信してくれたのだった。感謝します、神様・寺岡様・いづみ様! 

 
 その夜、俺はゲンキに報告を済ませて武運を祈った後、MVP級の働きをして下さった寺岡先輩にコトの詳細を伝えるべく電話をかけた。
 3コール目。
「はーい♪ コーイチくん、いらっしゃーい☆」
「や、夜分遅くにすみません。今大丈夫で――。」
「ああオッケーオッケー! さ、さ、話しを!! どぞっ!!」
 ……どうして女の子ってこうテンション高いんかな。
 俺は今日の一連の出来事をゆっくり先輩に報告していった。先輩は始めこそ何か期待する感じで俺の話を聞いていたのだが、何故か真相が明るみになっていくにつれて徐々にトーンダウンしてしまったのだった。何故か全く解らないけれど。
「そう、幸田くんがねぇー……。」
「はい。全く、甚だ迷惑な奴ですよアイツは! 誘うなら勝手に誘えっての!」
「……。功一くんは、その……いいの?」
「えっ??」
 それっきり、先輩は黙ってしまった。先輩が何て言ったのかよく聞き取れず、俺は何度か訊き返したのだが、大したコトじゃないから、とはぐらかされてしまった。

 その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「功、ちょっといい?」
 やっべ、恵姉だ。
「あの、恵姉が部屋に来たんで切りますね!」
「う、うんわかった。じゃ、またねっ。」
 小声で通話を終わらせて返事をすると、なんとも複雑なカオをして恵姉が入ってきた。
 おそらくゲンキの件だろう。
 よーし、知らないフリだ、知らないフリ。

 
 だが、俺の読みは半分しか当たっていなかった。
 恵姉の口から出た言葉は、俺の想像のナナメ上を行くものだったのだ。

--------------------------------

 夕食が済んだ後、ママと私はリビングで取りためていた韓国ドラマの続きを観ていた。テレビを占領されてしまい手持ち無沙汰になった功はしばらくソファーに座ってマンガを読んでいたけれど、韓国語が耳障りだったのかすぐに2階に行ってしまった。
 ちぇっ、まーた逃げられた。
 私がどんなに面白いかを伝えても、功にはさっぱり韓ドラの良さがわからないようだ。とりあえず1話だけ観ればハマるから、と口をすっぱくして言っているのに、あのわからず屋は20分と持たず観るのを辞めてしまう。
「日本のドラマの方がずっと面白いだろ。」
 最後までロクに観もしないのに、頭ごなしに否定する。まったく嘆かわしいったらない。ちなみに功が日本のドラマをワンクール見続けたコトも、片手で数えるくらいしかないという事実もここで言っておく必要があるだろう。
 ドラマは佳境を迎えていた。さまざまな紆余曲折を経て、漸く互いの想いを確かめ合う事が出来た2人が喜びもつかの間に交通事故に遭ってしまい、ともに一命を取り留めたのだが主人公が記憶喪失になってしまった。相手役の女性が自分のコトを忘れてしまった主人公を必死に看病している予告を観ながらママと号泣していた私は、ケータイに着信が入っていた事に全然気付かなかったのだった。
「あれ、電話きてたんだ……。」
 何だろう? 私はグシャグシャになった顔を洗った後、相変わらずシクシク泣いているママを宥めてから部屋に入った。
 さっきまで観ていたドラマの内容が内容だけに、なんだかどっと疲れてしまった。ベッドに体を投げ出して仰向けになった状態で、私は履歴の一番上にある人へと電話をかけた。
 2コール目を聞くことなく電話は繋がった。
「も、もしもし!」
「あ、恵でっす。珍しいね、ゲンキくんがアタシにかけてくるなんて。」
「すみません、お忙しくなかったですか?」
「ううん大丈夫。ごめんねーさっき出れなくてさ。」
「いえ! 電話してもらっただけで俺は……。」
 心なしかゲンキくんは声が震えているように感じる。
 どうしたの? と私が訊ねると、ゲンキくんはかなり緊張した感じで用件を伝えだした。
「あの、あの……。あ、明日ってお暇だったりしますか?」
「明日? うん、今のところ別に予定は入ってないけど。」
 私が答えるなり、電話口から何とも不思議な奇声が上がった。なんだかドッタンバッタンした音も聞こえてくる。
「もしもーし。オーイ、ゲンキくーん?」
「ウォイェーッ……あ、すみません……。え、えとですね、もし、もしも恵さんが良ければなんですけど……。」
 
 映画を観に、行きませんか――――。

「えっ??」
 私は思わずひっくり返った声を出してしまった。
「それって……。」
「あ、いや! 別にデートとかじゃないんです! た、たまたま明日は休みだし……。」
 私のレギュラーの座も安泰だったので、そのお祝いも兼ねて気分をリフレッシュするのはいかがでしょう? というコトだった。
「うーん……。でも、2人はちょっとな……。」
 気持ちは嬉しいけど、やっぱりなんだか気が引ける。私は気持ちだけ受け取って置くね、と言おうとしてケータイを握り返した。
 ……が。
「そ、そうっすよね。やっぱ2人はマズイっすよね……。折角『初夏のノクターン』のチケットが手に入ったから、映画なんぞと思ったんですけど。」
「初夏のノクターン!?」
「? はい。なんか母ちゃんが貰ったとかで――。」
 そりゃ反則だわー! ペアチケかよ、ちくしょう。
 私のアタマの中で、葛藤なる戦闘が開始された。
 行きたい。超観たい。でも、ペアで映画って……。待てよ、ゲンキくんはデートじゃないって言ってるし……。いやいや、やっぱ2人はいかんだろぉー…………でも、観たい。
「……く。」
「はい???」
「行く。」
「行くって……ええっ!? い、いいんですか!!??」
 その後、ゲンキくんは『マジッスか!?』連射モードに入った。
「でもデートとかじゃないって言ったからだよ! ほ、ほら、チケットが勿体無いでしょ!」
「はい! ありがとうございます!! ぃよっしゃあっ!!!」
 弱いなー、私。
 結局、明日の『リフレッシュ会』に参加することに決めてしまったのだった。
 初夏のノクターンは反則だよ。まるで私の気になっているトピックスをあらかじめ知ってるみたいなタイミングだったでしょコレは~。これは偶然といっていいのか? ってなタイミングだよね、まったくもう…………んっ、待てよ……?
「も、もしかして……。」
 ふっと湧いた疑念。私は今日1日を振り返って、いくつかのピースを拾いだした。そしてそれらをつなぎ合わせ浮かび上がってきた仮説を論証するべく、”重要参考人”の許へと向かおうとベッドを飛び出した。

--------------------------------

 沈黙は、恐怖だ。
 恵姉は俺の部屋に入ると、ベッドに腰掛けて雑誌を読み始めてしまった。勉強机に備え付けてある肘掛付きの事務用椅子に座っていた俺は、さっきから何も語ろうとしない恵姉のただならぬ雰囲気に口を開くことが出来ず、ちらちら恵姉を横目にマンガを読む振りをするしかなかったのだった。なんだこの空気は。ゲンキの奴、なんかやらかしたのか……!
「や、やっぱクリスチアーノ・○ナウドはイケメンだよねー……?」
「そう? アタシは○シツキーの方が好きだけど。」
 おおぅ、モーツァルトがお好みでしたか。なかなか乙なもんで……。
 それきり、部屋はまた静寂に包まれてしまった。マンガの内容なんて全然頭に入ってこないし、そもそもあまり面白くない。売却リストにいれとこうかなコレ。
「よ、よし音楽でも聴こうかな!」
 緊迫感に耐え切れずBGMを流そうと俺が席を立つと、それに合わせて恵姉は雑誌をぱたりと閉じ、重かった口を漸く開いた。
「さっき、ゲンキくんから電話があったわ。」
「ふ、ふーん。そりゃ珍しいな。」
 うわぁ、ガン見されてるよ……。誰か助けてくれい。
「全部聞いたわよ……。どうして回りくどいことするのよ? 直接言えば良いじゃないの!」
 やや緊張気味の面持ちで話す恵姉。って、全部聞いたのか……俺意味無ぇーっ。
 でも、確かにその通りだ。
「俺だって面倒だから最初は断ったよ。でも、そしたらゲンキに脅されてさ……。恵姉と一緒に住んでんのファンクラブにバラす、って言われちまって。」
 俺の言葉を聞いていた恵姉は、何度か頷いた後大きなため息をついた。
「あー……、なんかあんまりにもアタシの推理通り過ぎてびっくりだわ。」
「へ?」
 つまり、そういうコト。ゲンキの目論見は見事に看破されていたってこった。
「どうして急にかけてくるかなーって思ったのよ。そしたら帰りに話してた初夏のノクターンのくだりを思い出して、なーんか変だぞって。んでアンタにカマかけたワケさ。」
 なるほど、だから緊張してなかなか言い出せなかったのか……それにしても俺、人の言うこと信じすぎなのだろうか?
「でもさ、どうしてアタシなのさ? 同じクラスに気になる子とかいるでしょうに。どーせなら好きな子誘えばいいのにさ。」
 あれ? 1%もデートだとは思って貰えてない!?
 そもそもゲンキの想いが超絶スルーされている……!!
 こ、これはなんと言うか……リフレッシュ乙! 
 ゲンキぃ、やっぱりお前にはバッドエンドしか用意されていないみたいだわ。合掌。
「ま、まあ楽しんできなよ。観たかったんだろ? 厚意に甘えてきなって。」
「無論そのつもりです。」
 まあ、恵姉がどう思おうがゲンキには嬉しいイベントだからな。
「あー、つっかれたー。」
 肩の荷が下りた感じがして、俺は天井を見上げた。
 が、ラブ? ストーリーは突然に訪れるモノらしい。部屋を去り際に恵姉の言い放った一言に、俺は我が耳を疑った。








「あ、でも明日はアンタも一緒よ。これ、決定事項だから。」

 ちょ、おまっ!! 
 WHY? なぜ? 意味わからんぞコラァ!!!

       

表紙

みど 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha