Neetel Inside ニートノベル
表紙

Cyborg Neet
第十一話『feeling』

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三木さんの着いたぞーの一言でようやく車のロックが

外れ、地獄の揺り篭から開放された俺達。

「あ"ー、やっぱり気持ち悪い。」

ワゴンから降りた鈴音が苦悶に満ちた声をあげながら降りていく。

「俺は、・・・・大丈夫だから・・な」

フラフラしながら俺も俯いて後に続く。

俺の内にある男のプライドが、『車酔い』を許さないので

精一杯に強がりを見せておく。

見せる相手が例え、糞女だけだとしてもだ。

因みに、その当の地獄を創り上げた男は、ワゴンで待ってるから

話がついたら戻って来いと言い残し座席の背もたれを倒して

いきなり寝始めやがっている。

「お待ちしておりました。」

「ぉ、ぉう?」

声がした方向へと顔を上げる。

「――――おぉ!!」

顔を上げた先には、一人の男が立っていた。

いかにもな執事の格好をしており、深々とお辞儀をしている。

俺が驚いたのは、執事さんではなくその執事さんの背後にある物。

テレビだとか映画でしか見た事無い豪邸がそこには、あった。

「ハル様がお待ちです。どうぞ、此方へ」

―――ハル様?  どっかで聞いたような・・・・。

「何、ぼけっとしてんの?行くわよ。」

この女、もうけろっとしてやがる。

「あいよ。」

精一杯の強がりを見せて歩き出す俺。

癪だが、今度萱原に三半規管を強くしてくれとでも頼む事にしよう。







******************************





「こちらです。」

執事さんに促され、依頼主が居る応接室に俺達は入る。

「はいはい、どうも。」

豪華な造りの扉を開けて、部屋に入る。

依頼主は、部屋の奥にどんと構えて俺達を待ち構えていた。

「久しぶりですね、図師さん。 どうぞ、お掛けください。」

「・・・・・うぇ?」

どんと構えているのは、構えているんだが様になってない。

それもそのはず。

―――――――依頼主は、まだ14、5程度の少女だった。

促された椅子へと座りながら思考する。

何で今俺の名前を呼んだんだろう?

かれこれ世間を二回程お騒がせしているのが原因で

俺の名前を知っている事は、そんなにおかしくないんだが

あの、そのー・・・・「久しぶり」って??

「図師さん?」

「ほら、何だか分かんないけどあんたの御指名みたいなんだけど?」

横の鈴音が脇腹を小突いてくる。

「あ、はぁ。その失礼なんですが、何処かでお会いした事がありましたっけ?」

ガキは、ガキだが依頼者なので一応敬語を使う事にした。

すると、目の前の少女は一度目を大きくしてビックリしたような

表情をみせたかと思えば、顔を赤らめたり、眉を細めて唸ったりと

百面相を披露してくれた後に、

「お、覚えていませんか? 私です。
ビル事件の時、貴方に助けて頂いた・・・・。」

と俯きながら言ってきた。

ビル事件?  ・・・・・ん?あ、あぁ!

「あぁ、はいはい!するってぇと、あの号泣しながら小便もらsえぼらぁっ!?」

スパーンと、綺麗に俺の頭に直撃する何か。

言い終わらない内に、頭に強い衝撃を受けて仰け反る。

仰け反りながらも依頼者である少女が、
椅子から立ち上がって何かを投げた姿が確認できた。

「デリカシーがないのよ、デリカシーが!」

鈴音が小声で再び俺に囁いて小突いてきた。

―――――――御前が言うな、暴走女の癖に。

「と、ともかくっ!!
あの時、命を救って頂いた事には深く感謝しています!!」

紅潮しながら大声を張り上げる依頼主。

うんうん。 やっぱり、ガキは元気が一番だと思う。

「ま そんな事を話しに呼ばれたんじゃないんでしょう?俺等は。
そんで『要人警護』って聞いて来たんですけど。」

礼を言われる事に謙遜して、ちゃんと割り切って仕事の話にすぐに移る俺テラビジネスマン。

「貴方が!忘れるから!!悪いんじゃない!!!
私のあんな姿みといて!!普通なら、責任とって貰う所――!!」

ごめんなさい。 知らない内にどうやら、何かの琴線に触れてしまったようです。

「いや!でも、俺 ロリ属性ないから安しnがっ!!」

――――ドスン、と脇腹に突き刺さる肘。

「デリカシーがないのよ、デリカシーが足りないのよ!!」

「なんだよ、それ。 おいしいの?」

脇を抑えながら、耐える俺。

そもそも『俺』をそんなもんで押し付ける気なら
荒野で猛スピードで突っ込んで4mぐらい蹴飛ばしにきやがれ。

バンバンッ!!

強く机が叩かれる。

「そもそも!!貴方を指名したのは、こんな漫才をする為ではありません!!
いい加減、本題に入ります!!!」


「だから、さっき俺が本題に入ろうって言ったじゃ・・・。」

―――――――ッ!!

おっと、そろそろおとなしくしておこう。

先程から後ろにいる執事さんからゾルディック家の某執事張りの殺意が感じられる。

次に何か言おうもんならメガネをクイっとして「許せねぇ」とか
言いかねないような気がしてならない。

「依頼内容は、先程貴方の口から出た通り

―――――――私の『警護』です。」

「はぁ。 で、誰かに狙われてるんです?
狙われてるとしても見た所、そこの執事さんも結構な腕前とは思うんですが
【JOAT】に依頼する程の事なんでしょうか?」

―――――――鈴音の言うとおりだ。  

この執事、後で絶対俺にコインの表か裏かを
当てるゲームを強制的に振ってくるぞ。

「先日、私の元にこのような怪文書が送られてきました。」

バサリ、と一つの封書がテーブルの上に投げ置かれる。

「見て宜しいです?」

「どうぞ」

鈴音は、眉を顰めながら怪文書をじっくりと見て
執事と見えない戦いをやり合ってる俺にも渡してきた。

怪文書には、こう書かれていた。


――――――――――――――

フェアじゃないから、教えてやる。

御前の命を、“ナイト”が狙っているぞ。

――――――――――――――

凄く簡潔な文章だった。

「これを信じたわけ?」

もう依頼者に敬語を使う事すら忘れて率直に俺は言葉を吐いた。

“ナイト”とかアホじゃないんだろうか。


「―――――――“ナイト”
悪戯に見えるかもしれないけどこの業界じゃ、
最近になって有名になってきている『暗殺者』の名前ね。」

実在してんのかよ。

「ふざけた名前だな、誰がつけたんだ。」

「さぁ?」

「で、依頼者様は何か命を狙われる心当りでも?」

怪文書を封書に直しながら、問う。

「あるわ。――――私の父でしょうね。
一代限りで此処まで大きくした会社だもの。
探れば、汚い事何て腐る程出てくると思うわ。
私の与り知らない所で父が汚い事をして恨みを買っているのかもしれない。
恐らく、この前の事もそれが原因じゃないかしら。」

「・・・・・・・。」

彼女の発言に何とも言えない。

俺の目には、彼女がとても寂しい人間に見えた。

流石の俺もシリアスにならざるを得ない。

何と言うか・・・こういう時、どう接してあげるのがいいんだろうか。

「分かりました。
早速、今夜から警備に当たらせて頂きます。
それで、この屋敷の全体図を知りたいのですけれども。」

淡々と、話を切って仕事を進めていく鈴音。

・・・・・・・・・・・・。

その光景にも何か妙な違和感を感じつつも俺はまた何も言えなかった。

「えぇ、それでしたら 此方に・・・。」


テーブルに広げられた見取り図の説明を依頼者から受ける鈴音。

それを只、押し黙って見る事しかできない。




――――――何々だろう。

この胸から湧き上がって来る物は・・・・・・。

       

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