Neetel Inside ニートノベル
表紙

Cyborg Neet
第十二話『It`s too late for regrets.』

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「という事だから、私は今日退院してくるらしい
依頼者の父、河合社長の警護を。
依頼内容とは、別だけど依頼者曰くだと河合社長も
狙われている可能性が大だからね。」

言い終えて、悪魔の眼光が俺へと突き刺さる。

俺は、何にも非がないんだかその眼差しで見つめられ続けると
反射的に謝ってしまいそうになるから俺を見ないでくれ。頼む。

「図師 あんたが、依頼者ね。」

「ぉ、おう」

依頼者ハルのすぐ近くに控えていた執事と一緒に居る事何か
俺には耐え切れない!! と言い出したい所だったが俺は
開きかけた口をその場で押し止める。

決して、この女にビビってるわけ何かじゃないからな!!

ちっぽけなプライドが心の中で、そう叫んでおいた。

「で、三木さん?」

「あぁ」

「あなたは、外ね。」

「夜は、かなり冷え込むと思われるのだが。ワゴンの中で待機してていい訳?」

「・・・・・。」

「嫌だなぁ、冗談に決まってるだろ。」

「ですよね。仕事中、爆睡何かしたら駄目ですよね。」

般若の笑みで返しながら、屋敷の見取り図を広げる鈴音。

「なぁ」

三木さんが、小声で俺に囁いてくる。

「はい」

「ちょっと、流石にこの仕打ちは酷くないか・・・。」

顔面がボコボコに腫れて残念なお顔になっている三木さんがそこにはいる。

ワゴンで気持ちよくお寝んねしていた三木さんは、

鈴音に起きるまで平手打ちを何度も繰り返されたらしい。

いや、その一部始終をバッチリ俺は見てはいたんだが。

「何か言いました?」

「いえいえ」

作り笑いで返す三木さん。

そんな顔じゃ笑っても気味が悪いだけだよ。

「つか、よ」

「なに、図師?」

「その“ナイト”とかいう奴がとてもウレモンな暗殺者か
何だかしらねーけどよ。 あんな子供の悪戯みたいな怪文書を
信じるわけ?」

第一、あんなの第三者からの手紙じゃねぇか。

「信じるわけないじゃない。でも私達は依頼された側だし
何もなければ何もないでいいじゃないのよ。
そっちの方が労力も使わないで大助かりだわ。」

で、でたー、自分さえよければいい奴。

「ま、それだけに冷静になって考えれない程の心当り、
色々な事情があちら側にはあるのかもね。
どちらにしろ引き受けたからには、きちんとやるわ。」

鈴音の言うことは間違ってない。
ご尤もだし、ぶっちゃければ俺としてもそっちの方が楽できて良い。

「な、なによ?あんた・・・・」

「いや、だよな。 その通りだ、御前が正しいぜ。」

素人にほぼ近い新米でもこういう業界は、依頼者とはある程度割り切って
やっていかないと長続きしない物だと何となく分かる。

一々、踏み込んでちゃ只のお人好しだ。

「とりあえず、最低限の事は覚えなさいよ。
もしの事があったら、無線で何処何処から敵が侵入したって
聞いても場所が分からないんじゃ話しにならないわ。

見取り図を指差して俺と三木さんに言う鈴音。

「あいよ。」

「特に三木さん、しっかりと覚えるように。」

「ふぁい。」







**************************







「ねぇ、あんたのせいで面倒な事になってるんだけど?」

明かりもない真っ暗な部屋で私は、ベッドで寝たまま喋る。

「――――――。」

「これじゃ、やりたい事も自由にやれないじゃないの」

滅多に怒らない性格なのだが流石に今回の件に関しては頭がきそうだ。

「一体、何なのよ あんた。」

後ろを向いているため姿は、見えないが今何となく
「フッ・・」とキザッぽく笑われた気がした。

――――――腹が立つ。

「ホントに、何がしたいわけ?」

出会った頃から、コイツは訳が分からなかった。

中身が全く見えてこない。

此処に来る前に仲間達に「気の毒だな」と慰められた。

「ねぇ、聞いてるの!?」

いい加減我慢できなくなって、後ろをバっと振り向く。

振り向いた先に微かに見える黒い影が私を見てニヤリと

笑ったかと思えば窓に足を掛け、ふっと飛び出していった。

「・・・・・ち」

軽く舌打ちを打つ。

本当に何なのだろう、奴は。

――――『私』を試しているというのだろうか?

「本当に・・・・・災難だわ。」

これ以上考えても考えるだけ無駄な事なので私は、再びベッドに潜り込んだ。









***************************









ハッキリ言おう。

俺は、『この仕事』を完璧に舐めていた。


窓から朝日を拝みながら長ったらしい欠伸と共に心底思う。

・・・・元ニートが、そんな簡単に順応できるわけがねぇ。

「ふぁあああああああああああ」

扉にもたれ掛かりながら伸びをする。

「なんちゅう、欠伸をしてんのよ。」

「し、仕方ねぇだろ。 こんな事すんの初めてなんだ。」

見知った声が聞こえてきたので、声のした方向に向きながら
壁に背を預けながらズルズルと下に腰を下ろして座って言った。

「ねぇ、そもそもこういうのって交代交代でやるんじゃないの?」

「これが、【JOAT】クオリティ」

・・・・要するに、人手が足りてないって事じゃないか。

「つか、もう持ち場離れていいの?
鈴音さんは、離れてるみたいですけど。」

片目だけ瞑って情けない声で鈴音に尋ねる。

「まぁね。 依頼主が屋敷内にいる限りは、朝昼の内は
あまり警戒する必要はないわ。
流石に、その時間帯に襲いに来るとも思えないし
何か怪しい人物が近づけば、屋敷の執事さん達だけでも分かるでしょう。」

「・・・と、ということは!」

「そう、この時だけ交代で仮眠がとれます。」

「いやっふー!!」

「でも、あんた新米だし今日もオールね。
私が朝、三木さんが昼で仮眠とらして貰うから。」

「氏ねじゃなくて死んで欲しいです。 先輩」

だがまぁ、中学に通ってた時に鍛え上げた『立ち寝』で何とか・・・。

「因みに、こっそり寝ても即バレだから。」

「そんなぁ! 何でですたい!?」

すぅっと、上を指差す鈴音。

なんと! 指された方向には監視カメラがあるではありませんか!

「後で執事さんに聞いておくから三木さんの様に
なりたくなければ・・・・・分かってるわよね?後輩」

一瞬、昨日の三木さんの顔が俺の頭にフラッシュバックされる。

「了解であります!鈴音軍曹!!」

座ったまま、鈴音の方を向いて敬礼をする。

最低限のプライドの為に言っておく。俺は、ビビリじゃない。

これが、世の中で生き続けていく為の賢い選択だ。

「よろしい、賢明な図師君に褒美をあげよう。」

「ふぇ?」

後ろに腕を組んでツカツカ、と足音を響かせながら
鬼の軍曹が此方に寄ってくる。

え、なに? 俺、何されるわけ?

座ったままの状況である俺は即座に理解した。

―――――――これは、逃げれない。

「ちょww俺まだ何も悪さしてないんすけdぶほっ!?」

言い終わらないうちに口に何かが押し込まれた。

「失礼な奴ね。 差し入れよ、差し入れ。」

―――――差し入れ?

「もごっもごもご!?」

冷静になって、口に押し込まれた物を見るとそれは『肉まん』だった。

「それじゃ、引き続き頑張ってねー。」

そのまま俺を通り過ぎて軍曹歩きのまま歩いていき廊下を曲がる鈴音。

俺は、『肉まん』を咥えたままほけーっとその様子を見て

鈴音が廊下を曲がりきった所でふと思った。


・・・・・・・・この『肉まん』、つめてぇよ。









**************************




―――――――警護三日目の昼





「おーい、新人ー」

俺が大広間で三人の執事とコインの表裏当てゲームをしていると

寝惚け眼をこすりながら三木さんが俺の元へとやってきた。

「三木さん!三木さんじゃないっすか! 
とうとう来ましたね? 三木さん。
フフフ、言わなくても分かりますよ? 三木さん」

「何回、「三木さん」いうんだよ。」

人ってあまりに寝てないと変なテンションになるんだね。

まぁ、それは置いといて・・・・三木さんがこの場にいる

イコール、即ち!

そう! 俺が心待ちにしていた!!


「交代の時間ですね?分かります。」


―――――――夢の睡眠タイム!!

長かった・・・・。 本当に長かった。

初日から三日目の今まで俺は一睡も許されておらず、
睡魔に打ち勝つ為に恥ずかしながらも勇気を振り絞り
持ち場の近くにいた執事さん達と世間話何かをしたりして耐え切っていたのだ。

お陰で凄く仲良くなってしまったんだが・・・ってそれ自体は良い事なんだが。

「いや、何でもクライアント様が御前を呼んでるらしいんだが」

・・・・・・え? どういう事よ。




*************************







「この前は、取り乱して失礼しました。
予てよりお世話になった貴方にはこうしてお礼を持て成したいと・・・」

すんごい長いテーブルの先に居る少女がこれまたテーブルの長さに
比例するかの如く長ったらしく何か言っている。

「私は、あの時!本当に自分の命は「あぁ、これまでなんだな」と・・」

長ったらしく、何かを言っている。

「ですが、その時! 私に一筋の光明が――――」

本当に、本当に、長ったらしく・・・・何かを・・・・

バンバン!!

「うぉっぁ!?」

何かが強く叩かれた音がしてビックリする。

「ちょっと!聞いているのですか!?」

椅子から立って、此方に喝を飛ばしてくる少女。

「すまない、」

かれこれ俺、図師新人と少女、河合ハルはこの遣り取りを
数十分繰り返している。

とてつもなく前置きが長い。

そして、俺はとてつもなく眠たい。

目の前の長机には、口にした事のないような御馳走ばかりが並べられている。

俺の胃袋には、昨日と今日を通して『肉まん』が2つしか入ってない。

腹が減って死にそうでもあるが、とてつもなくも眠い。

しかし、この長ったらしい前置きの前では食欲ですら睡魔に打ち負けてしまう。

「非常に申し訳にくいんだが・・・・。」

額に拳を当て、もう片方の腕を突き出して俺は次の言葉を開こうとする。

『礼がしたいのならば、今すぐこの場から解放して寝させてくれ』 と。

だが、言いかけて俺はどもる。

少女の背後に先程まで悠然として控えていた執事の男が片目を瞑って

両手を合わせてお願いするようなポーズを俺に向けて取っていたからである。

少女は、それに全く気づいておらず「何ですか?」と俺の言葉を待っている。

「い、いや、なんでもない。ちゃんと聞く。 続けてくれ。」

一昨日までの俺ならば、間違いなく今のを無視して容赦なく
「寝させてもらう」の言葉を発していただろう。

だが、しかしここ数日で芽生えた友情を俺は無碍にする事はできなかった。

執事の倉橋さんが「すみません」とアイコンタクトを取ってきたのに
対し、「仕方ねぇな」と返しておいた。

「えぇっと、どこまで話しましたっけ・・・・」

ちょ、頼む! そこは、忘れないでくれ!!



とりあえず友人の顔は、立てて上げなければならない

と思う俺は、必死に睡魔と闘い続けるのであった。







**************************







「三木さーん」

上から自分を呼ぶ声がする。

上を見上げると、鈴音が大広間に居る自分を見下ろして呼んでいた。

「鈴音か。どうした?」

「ねぇ、図師が何処にいるか知らない?
あいつ寝てると思ったら何処にも居ないんだけど」

「ん、あぁ。 新人ならお嬢様に呼ばれてったぞ。
そこらにいる執事さんに聞けば分かるんじゃないか?」

鈴音が新人を探しているってのもおかしいなとふと思う。

「あいつねー。一昨日から何も食べてないから
お腹が減ってると思うのよねー。。
だから、さっき厨房借りて簡単な物作ったんだよね。」

「おぉ? 何だ?? 御前、気持ち悪いぞ?」

「いやねー。 何かよくよく考えてみたら
あいつにとって私って凄く嫌な人じゃない?」

「今更だな、それって」

「今まで流石にやり過ぎたかなってさっき思っちゃったから
お詫びも兼ねて・・・ね。」

「御前は、極端に何でもやり過ぎるからな。
一昨日の俺の顔をボコボコにしたように・・・。」

「それに、康平さんが帰ってきた時に私のイメージが
最悪なままだったらあいつ絶対に言いふらすじゃない?」

「今、軽くスルーしたよな」

「まぁまぁ、三木さんにも少しあげるから許してよ」

黄色い何かの物体が下にいる俺へとひょいっと投げられる。

それをすかさず口でキャッチする。

「うーむ、まずくもないしうまくもない卵焼きだな。」

「食えるだけマシと思いなさい。 じゃあねぇー」

そう言い残して去る鈴音。

「しっかし、まぁ・・・・。食事ぐらい用意して欲しいもんだね。」

もぐもぐ、と卵焼きを頬張る三木のズボンのポケットには
会社から渡されていた食事代のお札がクシャクシャになってあった。










****************************










「あー、食った。 食った。」

「す、凄まじい食いっぷりですね。」

「いや、こんな御馳走 残すの勿体無いしな。」

長机一杯に並べられた御馳走が一瞬にして消えた事に驚くハル。

普通、こういう物って映画とか漫画じゃそのあまりの量に
大体よく残されてるままだったりする。

しかし、元々大食漢であった俺が二日もろくに
食べ物を食してなかったのである。

そりゃ、入る。入る。 次々に胃の中に入るわ。

「馳走になりやした、あざっす。」

体育会系のノリで礼を言う。

「いえいえ。」

そんなふざけた礼に対し、丁寧にペコリとお辞儀がされる。

「・・・・・・・」

俺は、ふと冷静になってじーっと少女を見つめた。

「な、なんですか? いきなり黙って。」

軽く頬を赤らめる少女。

「この前から引っかかってる事があるんだが聞いて宜しい?」


何故だろう?何故、俺はこの時こんな事をしようと思ったのだろうか。


「?  ど、どうぞ」

「――――アンタは、自分の親父と仲が悪いのか?」

気がついたら、そう口にしていた。

「え?」

「アンタの親父さん、河合社長はこの前までビル炎上事件の時
事故にあって重体で病院に運ばれて入院してたらしいじゃないか。」

余計な事を俺は今している・・・。
―――――こんなの俺のキャラじゃない。

「・・・・えぇ。」

「三日前、アンタは自分の父が裏で汚い事をしてまで
会社を復興させたって悲しそうに言ってた。
まぁ、そう思うのには他人には理解しきれない何かがあるんだろうな。
でもな、その当の人物が屋敷に退院して帰ってきても
アンタは一度も部屋から出て様子を見に行ってすらいない。」

本当に訳が分からない。
何様だって話。つか、こんな事しでかしてこの後俺どーすんだ?

段々と少女の顔付きが、明るかったそれから険しくなっていく。

「それがどうしたのかしら?」

年齢にそぐわない冷たい声が返ってくる。

「単純に仲が悪いならそれにも納得が行く。  
んで仲が悪いならば、俺が仲裁してやるから仲直りしに行こう。」


俺が最も嫌いなのは、偽善で適当な事を言う奴だ。
いや、それが今の自分だって言う事は分かっている。


「貴方には、関係ない話だと思うのですが。
それに何を以って、貴方にそのような事を言われなければ――」

「色んな関係の家庭があるとは思っている。
だけどまぁ、命にかかわる怪我をした時は別だ。
一見、安静に見えて次の日に突然死んじまう何て事は珍しくない。
そういう時ぐらいは、どんなに仲が悪かろうが
真っ先に駆けつけてあげるもんだ。」

偽善だか何だか今の俺を何が突き動かしているのかは、分からない。
だが、これだけは誓って言える。自分に酔っていると言う事は絶対にない。

「命の恩人だからって調子に乗りすぎましたね。不愉快です。」

少女はガタン、と立ち上がって前と後に居た執事に
俺を部屋から連れ出すように命令する。

ズルズルと二人の男に引き摺られながらも俺は言葉を発し続ける。

「アンタは、思い違いをしている!
さっきまで俺に感謝している事なんざアンタの親父さんが
【JOAT】に頼んでなければ無かった事だ!!」

何か無茶苦茶にしちゃって倉橋さん、ごめんなさい。
と心の中で謝りながら俺は叫んだ。

「なぁ、おい!! 気がついた時にはもうおせーんだぞ!!!」

「うるさい! 他人にとやかく言われる筋合い何てない!!」

少女の怒号と同時に、目の前で閉まる扉。

「・・・・・。」

そこまで引き摺られて漸く、執事の二人から手を離されドサっと地に降ろされる。

「マジすまんっす、倉橋さん」

「いえいえ、気にしてませんから。」

あんな事しでかしたっていうのに・・・・テラいい人だ。

最初、グチグチ言ってて激しくごめんなさい。


「あーぁ、これからどー接すりゃいいんだ 俺」

うまく立ち回っていけない自分の馬鹿さを呪いながらも
このまま此処に居続けても仕方がないと思ったので
膝をパンパン、と叩きながら立ち上がって仮眠室へと向かう事にした。







**********************







同時刻、同じ場所で――――

「あんな姿見たら、怒るに怒れないじゃない・・・。」

仮眠室へと向かう新人を鈴音は黙って見続けていた。

       

表紙

塩田悦也 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha