Neetel Inside 文芸新都
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W 〜double〜
第1章プロローグ

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第1章プロローグ「キヲク」

彼が言う。
僕は頷く。まだ幼いので彼の言っている内容はほとんど分からなかったが、それでも僕は頷いた。彼の言いたい事は言葉が分からなくても十分に理解できたからだ。それは、幼少期の人間が持つ感受性の高さから成し得た事ではないかと思う。僕は幼いながら彼の考えを理解し、そして共感した。

彼が去った後、僕は早速教えられた事を実行に移してみたいという欲求に駆られた。といっても、僕はまだ幼稚園にすら通っていない赤ん坊だ。歩くことすら間々ならない状況で、果たして今の欲求は満たされるのだろうか。後ろを振り向くと、母親が公園のベンチに座り子供連れの主婦友達と楽しそうに会話している。どうやら僕と彼が話していたことには気付いていないらしい。

そもそも、今の自分が家から外に出る機会なんて滅多に無い。さらにある程度自由に行動ができるチャンスとなると、毎日午後3時に近くの公園でほかの子供と遊ぶ時間、つまり今しかない。

僕はおぼつかない足取りで公園の隅にある草むらまで歩いてみた。蝶が1匹、背の高い雑草の葉にとまって羽を休めている。僕は蝶が逃げないようにゆっくりと両手を伸ばす。ギリギリのところまで接近し、ある程度まで近づいたら一気に蝶を両手で包み込む。勢い余って蝶の腹部を少し潰してしまったが、まだかろうじて生きている。僕は慎重に蝶を左手に持ち替え、右手の人差し指と親指で羽を掴む。そして、少しだけ力を入れてみる。

プチッ

片方の羽がいとも簡単に取れてしまった。もう片方の羽も同じ要領で取る

プチッ

腹部を潰された上、両方の羽をもがれた蝶は僕の手のひらでじたばたとのた打ち回っている。ひとしきりそんな蝶を眺めた後、思い切り手を握り僕は蝶を殺した。僕は今、この蝶を救ったのだ。両手という処刑道具を使い、醜く歪んだ「生」という地獄から1匹の蝶を開放したのだ。
今まで味わったことの無い高揚感だった。周りの雑音が消え、鳥肌が立ち、眩暈で倒れそうになる。究極の快感。やはり彼の言っていたことは正しかったのだ。


気分の高まりが収まった所で、後ろから母親の呼ぶ声がした。僕は母親の元に走りながら、どうやればうまく人を救えるかを考えていた。

       

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