Neetel Inside 文芸新都
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W 〜double〜
第1章

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第1章

4時限目の終了を告げるチャイムが鳴り響き、先生が教室を出て行くとクラス中が一斉に騒がしくなった。
佐々木は、そんな騒々しい中をするすると抜けて僕の所にやってきた。
「ご飯、一緒に食べない?」
「今日は前田達と食べないの?」
「うん、由香里も直子も今日お弁当じゃないんだって。」
そう言うと彼女は前の席に腰を下ろし、僕の机に弁当を広げ始めた。
「今日のはなかなかの自信作。」
確かに自信作というだけあって、楕円形の弁当箱の中には一口大のハンバーグやウィンナー、プチトマト等の野菜がバランス良く詰められている。
「このハンバーグ手作りなんだよ。昨日の夕飯の余りを取っておいたの。」
「僕の弁当とは大違いだな。」
僕の弁当箱の中には、今日の朝レンジで解凍した冷凍食品が並んでいる。野菜はほとんど入っていない。
「野菜も食べなきゃ元気でないよ?たまには包丁握りなさいよ。」
「朝は貴重な時間なんだよ。布団から出た後30分のコーヒーブレイク、これをやんなきゃ僕の一日は始まらないんだ。そこに野菜を刻む時間を入れてみろ、憩いの時間が20分になっちゃうじゃないか。僕はその10分間をどうやって取り戻せばいいんだい」
「10分早く起きればいいじゃない」
「僕の体内時計は6時45分きっかりに起きる様に設定されてる。こればかりは変えようが無い」
「あー言えばこー言う」
軽く談笑をしながら僕達は弁当を平らげた。
程無くして前田と佐藤が学生食堂から戻ってきたので、佐々木は彼女等の元に駆けて行った。



「ふぅ・・・」
僕は溜息をついた。昼飯を他人と二人で食べるなどという無意味な時間を過ごしてしまった事を後悔しての溜息だ。
いつも僕は一人でご飯を食べる。ご飯の時だけでは無く、大抵の時間を僕は一人で過ごす。登校中も休み時間も休日もだ。
それは、程度の低い連中とつるんで意味も無い会話をするよりも、自分の中にある欲求を満たす方法を考えているほうが断然有意義と考えるからだ。
上辺だけの会話も、取り繕った様な笑顔も全て吐き気がする。
しかし、もし今日の様に昼飯に誘われたりしても断らない。
自分自身を偽るというのはかなり疲れるし、訳の分からない会話に適当に相槌を打つだけで気分が悪くなるのだが、こういった努力をしなければ自分は周りから異端児扱いされ、学生特有の遊び「いじめ」を受けてしまうかもしれない。
「いじめ」を受けてしまうと、学生生活に支障が出る。
僕はより良い環境で救済をする必要があり、「いじめ」の被害にあっていると言う環境は、どう転んでも救済に最適な環境とは言えない。
だから仕方なく笑顔を作り、胃袋から逆流してくるモノを堪えつつ会話をするのだ。
しかし何故佐々木は事あるごとに僕に話しかけてくるのだろう。
今日だって別の女子と食べれば良いものを、わざわざ僕と一緒に食べるというのは不可解だ。
別段彼女と仲が良いということはない。
そもそも、僕の中に「友達」とか「仲良し」という概念が無いのだから、彼女の事をなんと表現すればいいのか分からない。
一番近いのは「知人」だろうか。
佐々木とは幼稚園からこの高校までずっと同じ学校だった。
小さな頃から知っている間柄ではあったが、それは「友達」と呼ぶに相応しいものなのだろうか。
どちらにしろ今の僕には関係無いことだ。また余計な事を考えて時間を浪費してしまった。



僕は佐々木をはじめとするクラスメイト達を横目で眺めてみた。どの人間も阿呆面で、見れば見るほど汚らわしかった。
本当に世の中は下らない連中ばかりだ。奴等は今の自分がどれほど醜い存在か分かっているのだろうか。
・・・いいや、この中にそれを理解している人間なんて一人もいない。
ただただ下らない会話をして、下らない遊びをして、下らないテレビを見て、時間を無為に浪費している者ばかり。





そうさ、だから僕が教えてやるんだ。
この悪臭が漂う肥溜めのような世界で唯一救われる方法を。
侮蔑と嫉妬にまみれた地上から開放される術を。この僕が・・・。





そんな事を考えている間に、気が付くと昼休みは残り5分という所まで迫っていた。
5時限目は担任の羽山が受持つ現国だ。
羽山はそのオドオドとした言動や内向的な性格から、先生いじめの対象として一部の生徒達の恰好の標的となっている。
僕も普段からの努力を怠れば、羽山と同じ道を辿るかも知れない。
「気を付けないとな・・・・」
そう呟いた僕は、鞄から教科書とノートを取り出した。

       

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