Neetel Inside 文芸新都
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短編集
コンビニエンス

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東京の隅っこ、西京線の沿線に各駅停車しか止まらない駅がある。このコンビニに来る客は深夜だということを考えても少ない。今日みたいな寒くて逃げたくなるような日は避難しにくる人なんかいても良いと思うんだけど。23時~7時の私のシフトの間でお客さんは多くて7、8人。一人来るかこないかという時もある。この辺は元から寂れてるのだけれど、最近駅寄りに大手のコンビニができてしまったのが痛い。私も駅からなら絶対そこに行く。
暇で暇でしょうがないのに、今日は店長と一緒だからだらけてもいられない。最悪だ。店長は本当に真面目な人で堅苦しくって私とは全く合わない。
私はあんまり思った事を顔に出さない人だから私にばっかり店長は文句をつける。みんなできてないのに私ばっかりに言う。自分だってできてないことまで言う時があるから最低で、コンビニの店長なんてやっててしかもそんなことばかり言ってる人生何が楽しいの?って言ってみたい。

2006年がもうすぐ終わってしまう。もう今日は12月21日で、もうすぐ22日になる。
私はこれから年末に実家に帰ることしか予定がない。彼氏とは先月に別れた。今年はみんな彼氏と旅行とか、とにかく予定があるみたいで、私はこれから一週間連続でバイト。何やってるんだろうな私。何でこんなバイト続けてるんだろう。店長はウザいし、友達になった金子さんは最近は私と入れ違いのシフト。今日は風が強いし帰るのも面倒くさい。

ピンポーン
「いらっしゃいませー」
冴えない男だ。私がここに入ってるとこんなのばっかり来る気がする。ヤング○○みたいなエロ本もどきを周りをチラチラ見ながら立ち読みしている。
こういうところも冴えないなこの人。お店に来る人を観察するんだけれど、この辺は本当に垢抜けないというか、田舎くさい人ばかり来る。金子さんはいるって言ってるけどかっこいい人なんて私は一度も見たことがない。なんとなく目で追っているとなんかこっちに来た。そういえば今働いてるんだった私。
「いらっしゃいませー」
2回目はいらないといつも思う。けど店長もいるし。チューハイ2本と紙パックのお茶にヤング○○。
「ろっぴゃく…」
その時すかさず店長が割り込んできた。
「すいませんお客様ー、こちら20歳未満の方には販売できませんので年齢確認できるものをご提示いただけますでしょうか?」
流暢なセリフ。見分けがつかない時のきまりではあるんだけど、店長しかこんなの面倒くさくて聞いてない。ていうか私の場合全員20歳以上だと思いこむから関係ないし。
しどろもどろという言葉がぴったりの動きをしだす客。あーあ、絶対未成年だなこの人。
「あ…、えっと、あれ…今持ってないみたいです」
そんなことを言って財布を出して調べるふりをしている。こっちから学生証がまる見え…。この人の一生は冴えない運命にあるんだろうなーって思ってしまう。
そのまま得意気に店長は他の品物の会計だけをしてしまった。
「ありがと~ございまーす」
得意気なのに間の抜けるアクセント。麻痺するんだよなー。働いてると。そういうとこも嫌いだ。
ピンポーン
外から風が吹き込んできた。寒い。自動ドア早く閉まれ。入れ替わりに客が入ってきた。
ピンポーン
またこの人も冴えないなー。この街はなんなんだろう。なんでこんな冴えない人ばっかりなの?そう考えているところに店長が話しかけてきた。
「森さん、未成年かわからない時は聞くようにね。さっきみたいな感じで」
「はい。」
これ何回言うんだよ。知ってるよそんなことは。いちいちいちいち・・・。もうやだ。…みんなレベルが低いんだよ。わかる人は少ないだろうけど、みんなレベルが低くてやってられない。いつもそう思うんだ。
「最近色々厳しいから、気をつけてね」
「わかりました」
話が終わったところにさっき入ってきた客がレジに来た。
「いらっしゃいませー」
ビール3本と柿ピーにミネラルウォーター。一人酒かなこの人。冴えないなー。
あ、けどハタチ以上か微妙。どうしよう。店長が近づいてきてこっちをチラチラ見る。だるい。けど聞かなきゃなあ。
「あのーお客様、えっと、こちら20歳未満の方には販売できないので…年齢確認できるものをお持ちですか?」
「あ、はい」
財布から保険証を出してすんなり見せてくる。なんだ、未成年じゃないじゃんか。生年月日を一応見なきゃいけないから…1986年12月22日…
「えっ??」
声が出てしまった。
「…今日なんですよ」
時計は0時2分、3分。とにかく今日はもう12月22日だ。
「あ…、お…おめでとうございます」
何故かそんなことを口走ってしまった。
「会計は?」
「すいません、えっとお会計、719円になります」
千円札を受け取る。
「281円のお返しです。ありがとうございました」
「どうも」
ニヤリとした顔でそう言って客は歩いていった。
ピンポーン
開いたドアの外からは風が吹き込んで、私もなぜかニヤリとしていたのだった。

       

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