Neetel Inside 文芸新都
表紙

短編集
愛憎

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暑い夏の夜に大学生の男と女がまぐわっている。若い女は、一人暮らしの若い男の家に泊まりに来たのだった。講義も試験も終わった夏休み、

真っ暗の中に二人の目はもう慣れて、お互いの表情もわかるくらいになった。開け放しの窓では蝉がこれでもかと鳴いている。
「こっちは硬いのに・・・こっちはやわらかい」
男は女の勃起した乳首を弄った後で、乳房を優しく触った。女は少し呆れたような顔をして、そのくせゆるい表情であさってを見ている。その顔を手でグイと動かし男は女にキスをした。
女はそれを受け入れて、力を抜いてただ為されるままになっている。唇をそっと触れるものに始まり、下唇を甘噛みしたり、わざと少しずれた位置にしたり、男は軽いキスを何度もした。だんだん移動していき右の首筋に口付けを浴びせる。女はそれ程の快感を味わっているわけではないが、このスキンシップは心地良いものだった。女の心の緊張したものや拘っていたものが崩れるような感覚だった。
ついさっきこの男女は性交をし終えた。彼女にとっては不思議な事に、それを終えても男は女にくっつきたがった。それは嗜みと言われるような女を気遣ってしている物ではなく、ただ単純に男は女のことが好きで好きで仕方なかったからだった。女にもそれがわかった。だからなお女は幸せだった。
男は女と出会うまで童貞であった。しかし女の体には本当に興味があった為、一度行ってそれからはいつもとても素直に女の体を遊んだ。もちろん、女を心から好いている。
男は女の乳首をすすっていた。手のひらでもう片方の乳房の柔らかな感触を確かめた。男は女性の胸にずっと憧れていた。この女の乳房はさほど大きくはないが醜くも無かった。だが、男にとってはその女の身体的特徴がどうだろうと関係なかった。
女は乳房を弄られながらもう一回かな、と思っていた。彼女は男と出会う前に処女を捨てていた。何人かの男と寝たことはあるが、今までの男と違って今度の男は彼女にとって純粋で無垢な男だった。その事は彼女がその男を好きになる理由であったし、性的な時に興奮してしまう材料でもあった。
けれども、男はもう一回目をすぐに始めようとはせずじゃれ続けた。二人は他愛の無い会話と肌の触れ合いを楽しんだ。女は男のそういう心のやり取りをしようと思わせる所も好きになった。

「最近何かいいモノあった?」
二人の間で「モノ」とはこの場合、音楽に映画というようなものから、大学の授業やお菓子までを幅広く指す。
「私最近無いなー」
そう言いながら男の乳首をちょっとつねると男は悶えた。男はかなり敏感だった。女は面白くって、いたずら心にもっとやってやろうと思ったが男が手を握って制した。
「ビルマ金融道よかったよ」
「マンガのほう?」
「そう。赤木雄一は良いよ。たぶん絵柄が受け付けなさそうだけど」
「ふーん。どんな感じなの」
女は今そういう話をしたい気分ではなかった。だがわざと話を聞きながらまた男の体を触り始めた。
「絵は下手だね。けどほんとに書き込みっていうか、いちいち細かい。下手だけどやれるだけ書いてる感じが良いんだよね。内容は、正に社会って感じだね。善悪の話じゃない」
いつもお喋りなのは女の方だがこういう‘モノ’の話になると男はよく喋った。喋っている途中に何度も触っている手に甘えた目を向けた。
「お金を借りに来る人の、そういう心理とかが?」
「うーん。まあそれもそうだし、貸す方もそうだし、金って人の情とかと別の部分にあるっていうか。」
女は男の解釈を聞くと長くて面倒くさいので手っ取り早い質問をした。
「今ある?」
そういって明かりをつけた。明かりがつく間の点滅と蝉の声が妙に頭に響いた。女は本棚からマンガを取ってベッドに座り直して眺めた。女は焦らしていた。別に見ている途中に何かしてきても良かった。むしろ、それを待っていた。男はボロの薄布一枚だけに覆われてマンガを読む女をただ見つめていた。間が持たなくなって男は喋った。
「性描写とか受け付けないかもしれない」
女は黙って読んだ。本当は男は後にして欲しかった。すぐに読んでわかるような物ではないし、今読み続けられても困る。そう思っていると女は本を置いてこっちを向いた。
「後で読むから貸して」
「19巻まであるけど」
「1冊だけ持ってく」
男としてはどうせなら淫欲乱太郎の話までは読んで欲しかったが、まず淫欲乱太郎という言葉をあまり言いたくなかった。赤木雄一を教えたいなら「バカチトレ」を貸したほうがポップで良かったかもしれないと思った。
女は噛み合わなくて醒めてしまっていた。ビルマ金融道とか赤木雄一の事なんて好きそうになれないし、本当はどうでも良かった。せめてもっと楽しいどうでも良い話をしたかった。なんとなく男に背を向けて寝転がるとその気持ちにも気づかずに男は仰向けで話しかけた。
「一番好きなマンガって何だっけ?」
「浅尾さん」
女は閉じていた目を開けた。
「さん」をつける女のミーハーっぽい感覚を男は気に食わなかった。
「浅尾さん、ね」
「うん。貸したの読んだ?」
「読んだ。けど、俺どうしても浅尾兄緒のマンガの良さがわからないんだ。むしろ結構嫌いかも」
真っ向から否定されて女は驚いた。
「なんで?私すごい共感できるのに」
「まず何か雰囲気がお洒落でしょ。いや、それはいいんだけどさ・・・」
絵柄は関係ないなどといつもは言うくせに、と女は思った。
「お洒落な絵柄がダメっておかしくない?」
「うーん、書いてる事が自己愛だけって感じがするんだ。それでなんかお洒落っぽいからそれをもっと助長してる感じに見える。しかもそれが若者代表って感じになってるのが嫌だな」
「ふーん・・・」
女は諦めた。どんな物でも思う事は人それぞれだから、議論する事は結局無駄であると彼女は知っていた。自分の好きな物を否定されて良い気分ではないし、男の話が面倒くさいのでもうやめたかった。もうそういう事をする気分でも無かったので、携帯を開いて着ていたメールを見始めた。男は手持ち無沙汰になって、窓の外の蝉の音が途切れていたのに気づいた。シャワーを浴びて来ると言って男はその場から一旦逃げた。

ぬるめのシャワーを浴びながら男は反省した。いくら自分が嫌いな物でもあんな風に言ってはいけない。そして、女は恐らくビルマ金融道に興味が全く無かった。そこに器の違いを感じたような気がした。自分が悪かったな、と思っているとまた性欲が湧いてきた。また女の体に触れていたいと思った。ボディソープをスポンジに取り体を洗いながら、戻ったら明るく行こうと考えていた。
「入るよ」
それだけ言って女は浴室に入ってきた。男は気まずい雰囲気を自分がどう変えるかを考えていたので、まさか女から来るとは思わず驚いた。黙って女の立ち入る場所を作る為に浴室の一歩奥に動いた。
二人入るのがやっとの狭い浴室の中で、男の前に立った女は何も言わないまま背を向けてシャワーを浴びる。その沈黙が少し続いた後、シャワーを浴びているままの自然な動作でいきなり男の顔面にシャワーを掛けた。男も「わかったわかった」などと言いながら、ふざけた。男はさっきの事なんて全部忘れたように、笑ってはしゃいだ。女はシャワーを当てるのをしばらくやめなかった。笑っていたけど、男の事が少し憎いと思ったからやめなかった。男が参ったように顔を背けてもずっとシャワーを当て続けた。女がもう飽きてきた頃にやっと男はシャワーの持ち手を取り上げた。目を開けるとさっきまでの柔らかかった体が近かったのでそのまま抱きしめて強いキスをした。そうしてお互いに愛撫を始めた。男はポディソープを少し手にとって、その手で女の体を腰から触った。徐々に直接的な場所に手を進めると、女はマッサージを受けるように力を抜いて身を委ねた。男は敢えてそこに触れる前にまた強く抱きしめた。その時不意に、女の体に勃起していた物が当たってしまった。男から小さく声が出た。それで急に二人とも止まって、気恥ずかしい雰囲気になった。いじらしくなった女は改めてそれを指先で突付くように二度三度触った。男は感じてしまいビクっと動いた。その一連の反応が女のいたずら心を刺激した。
「舐めてあげるよ」
男はそれをされるのは初めてなので、緊張して一瞬言葉に詰まった。
「あ、うん」
それを聞くのを待たないで同時に女が腰を下ろした。もう膨らんでしまったそれをまたつついて遊び始めた。
「あ、そうだよ」
男は思いついたように言った。
「何かこういう感じが理解できないんだよ、あの人のマンガ!」
女はきょとんとして男の顔を見た。男は中々真剣な顔をしていた。
「結局人間は下品だ、みたいな事を確信的にやるから・・・」
女の眼前には真剣に話している男の真剣な物があった。男は熱弁し始めていたが女は無視してそれに口づけをした。すると男は弱弱しい声を出しながら自分の言う事など全て忘れているように見えた。女は男の声や肉感をいとおしく思い優しく扱いながら、噛み切ってやろうかとも腹の中で思っていた。

       

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