Neetel Inside 文芸新都
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何故か、メイドさんが居る訳だが
第5話

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彼女のつくる料理は普通だ。
まずくもないし、うまくもない。

ありがたみが無い。温もりも無い。


「お口に合いますか?」

温かくしているつもりでいて、芯は冷たいまま。
その声は暖まりきっていない冷凍食品だった。


それに、不思議なことに、彼女に特別な感情が持てない。
語弊があった。特別な感情が"無くなった"。

別に俺が心底冷血な人間だから、って訳じゃあない。
こんなこと、いちいち言わんでも、これまでの様子を見れば分かるだろうけど。
とにかく彼女を始めて見たときの、あの高揚感はもうない。
それどころか、人間に対して、いや、生物に対して持つような、特別な感情も無い。

再び、彼女に対する疑惑が湧き上がった。

「前も聞いたけど、君、なんでここに居るんだ?」
「契約をなされたからです。」
「確かに契約はした。でも、なんで契約する前から居たんだ?」
「キャンペーン中でして…」

…  …  …。

「キャンペーン中だからって他人の家にズカズカと入り込んできていいのか!?」
「それは…」
「それは何?それって、おかしいんじゃないの?」
「ええと、その…」
「いきなりアカの他人が家の中にいるのって、まずいでしょ」
「…」
「新手のデリヘルか?」
「違います。」
「じゃあ、ホンモノの給仕?」
「メイドです。」

… … …。

「キャンペーンって事は、どこかから派遣されてきたんでしょ?」
「違います。」
「?」
「個人でやってます。」

… …。
意味が不明だ。

「…ん、通院歴、あったり、しない?」
「はい。風邪にかかったりした時に通いました。」

ユーモアが通じない人だな。
この際、ユーモアで済ませられない気もするんだがな。

「この部屋の、前の住人?」
「違います。」
「探偵?スパイ?」
「違います。」
「ホームレス?」
「違います。」
「家出少女?」
「違います。」
「もしかして、違う世界から来たとか?」
「大丈夫ですか?」

…貴方に言われたくないです。


「あ、そういえば、値段はいくらなんですか?」
「無料です。」
「ふーん。………ん?」
「タダです。」
「ああ、そうですか。」

タダより安いものは無い。

「キャンペーン中だから、ですか?」
「元々無料です。」
「じゃあ何で…」
「キャンペーン中にしたほうが、景気が良い気がいたしましたので。」

なんだコノ人?今更ながら、そう思う。
正直な所、もう帰ってほしい。
というか、こっちが「ご主人」なはずなのに、向こうのペースになってる。

「契約破棄はできますか?」
「キャンセル料が発生してしまいますが、よろしいですか?」
「ええと、いくらなんですか?」
「110円です。」

安い!うまい棒10本分じゃないか。

     


                  * * *


「じゃあ、払うから。帰っていいよ」
「分かりました。失礼します。」

110円を財布から取り出し、彼女の掌に置いた。
以外にも温かい手だった。

「今までありがとうございました。」
深々と頭を下げ、頭を上げると、なんとも無いようにそこを去った。

ああ、煩いのが居なくなって良かった。
俺は横になって、音楽を聴き始めた。
すぐに眠くなってきた。そういえば、最近は快眠不足だった。
あんなのが居たら、睡眠だって悪質になって当然だろう!


その時には机の上に名刺が置いてある事には気付いていなかった。

       

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