Neetel Inside 文芸新都
表紙

たゆたう
第一章 いたづらなまいにち

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 たゆたう





























 毎日、毎日、繰り返すことがある。フロに入って、歯をみがいて、ベットに入る。朝起きて、顔を洗って、コーヒーを飲む。砂糖はひとさじ。自分としては苦めに。そして空虚な一日のどこかで彼女のことを思い出す。今日も同じように繰り返す。同じようにコーヒーを飲む。自分としては苦めに。昨日は今日と同じで、今日は昨日を模したもの。明日はすでに在った日のどこか。毎日毎日繰り返す。あきもせず、何も考えず、まるで敬虔な何かをしているかのように。

 繰り返す日常の中で時々自殺を考える。感覚的には自殺ではなく、終わらせる行為。部屋の机の引き出しからおもちゃのピストルを取り出して、そして引き金を引く。小学生の頃、どこかへ旅行に行った時に両親か誰かに買ってもらった、軽くて、小さい、一応撃鉄があって引き金がありそれを引けば「カチンッ!」と音がするけれど、できることはただそれだけのちゃちなピストル。そのピストルを自分のこめかみにあてて引き金を引く。できるだけ想像力を膨らまして、重く、大きな、弾丸の飛び出る、ホンモノを創造する。僕の頭を粉々にするホンモノを。


「カチンッ」


 引き金を引く。何も起きない。何も起こらない。引き金を引く。頭の中が真っ白になる。引き金を引く。これが本当で、薄れゆく意識の中それでも僕に何かを考える余裕があったなら僕は何を考えるのだろう。やっぱり彼女のことなのだろうか、と思う。そんなことばかりを毎日繰り返している。僕の物語はもう終わってしまっているような気がする。そんな気がする。

彼女のことを考える。

 彼女の名前は神楽加奈。しかし彼女をその名前で思い出すことはほとんどなくなった。名前では彼女のことを思い出し過ぎてしまうのだ。だから彼女とは世間でいうところの「僕の」彼女ではない。だけれど他に彼女を表す適切な代名詞も思いつかないので彼女のことは「彼女」ということにしている。どうせ僕の頭の中だけだし誰も困らないだろうと思う。彼女は十六歳。今の僕は十九歳。僕と彼女は同い年だったけど彼女はもう年を取らない。彼女が彼女でいる限り、彼女は永遠に十六歳の高校生だ。彼女は僕の知る限り、絵を描くのが好きで、おとなしい子で、たまに気が強くて、勉強はあまりできないほうで…といった感じの子だった。思い出せばまだまだ彼女の性格、というか特徴をあげられるだろうけど、まぁ、きりがないので止めておこうか。ただ、僕のことが好きで、ということも入れておきたいのだけども、まぁ、それは信憑性にいまいち欠けるので止めておこう。「彼女が僕のことを好きだった。」というコトバは終わってから僕の友人に聞かされたものなのだけれど、それを確かめる方法は今もその時、それを聞かされた時も、何もないのだから。
 僕はそういった色恋沙汰なお話は本人達同士で行い、第三者は話を盛り上げるエッセンス程度の登場、というのが恋愛物語としては正統なのだと思うのだけど、現実はやっぱりそうはいかなかった。それもこれもあいつが死んでしまったからだ。追憶が過ぎると、僕は彼女のことを「あいつ」と呼ぶようになる。そのうち「なに、十六の若さで死んでるんだよ。ここは水と平和はただで手に入ると思っている日本人の国だぜ?ちゃんとした医療も受けられる。肺炎程度治せよ。」と思いはじめる。どんな国でも死者への冒涜はしてはいけないことになっているだろうと思う。僕もそう思う。でも止まらない。きっと本人が聞いたら怒るだろうな。でもそれでもいい。怒って、僕の前に現れてくれるようなら、僕はもっともっと彼女を罵るだろう。そんなことをよく考える。僕は彼女の墓前に立った時も、そこで初めて「ずっと前から好きでした。」と言うわけなのだけど、その言葉を言った瞬間に背景から何か音楽が鳴り響き、そしてちょっと光が強くなったりして、それでもって彼女の幻影が出てくるぐらいのことは、当然のように起こると思っていた。かなりバカだけど本気でそう思っていた。もちろん実際はなにも起こらず、ただただ静寂のみが「告白」の前と、いや、もっともっとそれ以前と同じように、流れているだけだった。何も変わらないこと、何も変わらないということが、とても悲しかった。
 僕は十九歳。現在、大学生。僕の社会的な呼び名は僕が年を重ねるに連れて変わっていくのだろう。社会人、フリーター、ひきこもり、加害者、被害者、ホームレス。そんな中で僕自身が変わることはないのだろうか。決して変えられないこともあるけれど、変わらなければいけないこともあるだろうと思う。僕は彼女の死をきっかけに、何か変わったということが欲しかった。僕の中で、彼女の死によって変わるような何かがあったなら、僕は彼女の死を認め、そして彼女への想いを思い出に変えることができると思っている。そう思っている。


















第一章

















夢を見た。

 僕は草原の中にいる僕を眺めていた。余談だけど僕は夢を見ると大抵二つの視点を持つ。夢の中の僕自身を見下ろす視点と夢の中の僕が見ている視点だ。なんか変な感じだけど違和感はない。もっとも夢の中で何が起こっても違和感を持ったことなんてないのだけれど。夢の中、僕は草原に風車があることに気がついた。回っている。僕は風車が回っていることで風が吹いているということに気付いた。風は優しく、穏やかに、夢の世界全てを包み込むように吹いていた。僕の髪や着ているものも風に吹かれなびいていく。暖かい。このままこの世界の一部になってもいいな、と思った。僕は風車小屋の前に子供が立っていることに気がつく。そしてその子供はこちらへ向かってきた。この世界はどうやら僕が認識しないと始まらないものらしい。多分、僕が目を閉じたら草原も風車も目の前の子供も、何もかも消えてしまうのだろう。そう思うととてもこの世界がはかなく見えた。僕のほうへ走ってくる子供は五、六才で女の子だった。黒い髪、黒い瞳。そのまま僕の横を通り過ぎて行く。サラサラとした髪の毛が風になびいて僕の視界を覆う。女の子の顔が見える。その顔は見覚えのある顔だった。

 夢から覚めた時に顔が濡れていて、それで僕は自分が泣いているということに気がついた。何で僕は泣いているのだろう。僕は涙を拭って起き上がる。枕下に置いてある目覚し時計を見ると九時半で、こいつが僕を起こすにはまだ三十分早い。でもまぁいいや。気分がいいので僕はそのまま起きることにする。草原の夢。まだ、暖かいあの風の感触が肌に残っている。僕は雨戸を開け、そして朝の光を体いっぱいに浴びた。朝の光の暖かさが夢の草原の陽気を少し思い出させてくれる。そのまま僕は目を閉じて夢の草原を思い浮かべなおした。忘れるには惜しい夢だったから。
 人間というのは、日の光を浴びると昨日までの時間の流れがリセットされるらしい。そうすることによって生活のリズムが作れるという。僕を形づくっているひとつひとつの細胞も、死と再生を繰り返し、そして二週間もすればまったく新しいものと入れ替わるそうだ。じゃあ僕とはなんだろう。僕を僕として形づくるものというのは記憶だろうか。じゃあ僕が記憶を作り変えたとしたら、僕は別人になれるのだろうか。日の光を浴びながらそんなことを考える。
 どうもまだ頭がすっきりしない。それで僕は夢うつつの頭をすっきりさせるために冷蔵庫からポカリスエットを取り出して飲もうとする。と、その時ドボルザークのユーモレスクが居間から鳴り響いた。ちなみに居間とは寝室で、いま僕がポカリを飲もうとしているここは台所兼入り口。バス、トイレ付きの学生にしてはわりと豪華な僕の根城。ペットだっている。豪華なものだ。僕はポカリをコップに移さずそのまま口をつけて一口飲み、そして音楽の鳴り出した方、居間へと、戻る。
居間へ戻ると、黒い物体が音源に向かうのが見えた。
「こらっ、ラビスラズリ。携帯を喰うな。」
 管理人未承認の僕の友達、黒猫のラビスラズリが音の出る不思議な箱に喰らいつく。ある冬の日にミルクをあげたらついて来て、部屋に入れたらそのまま居着いてしまった黒猫がこいつである。だからペットというよりは同居人なのだけど、もちろん管理人さんに見つかったら僕はそんなことは言わずに別の口実を考えるつもりでいる。僕がラビスラズリから携帯を取り上げると、彼は「ニャ―」と言って替わりの品を僕に要求してきた。僕は携帯を持っていない方の手で床に転がっている猫缶とテーブルの上に昨日寝る前に置いておいた眼鏡を取り、そして携帯を見た。妹からの電話だ。
「エクスキューズミー?」
 僕はそう言って電話に出る。一応誤解のないようにしておくと僕の妹は純粋な日本人だ。国内を出たことも無い。ただ「そういえばもう中学生になったんだっけな」と思ってからかっただけである。僕は今、妹の習っているだろう点数を取るためではない、話すための英語を勉強しているので発音は完璧なはずだ。多分。
 「あの…これ佐々原周一の携帯電話ですよね」
 我が妹はそう返してきた。僕としては「オー、イエース」とか言って返して欲しかったのだけれど冗談が通じない。仕方が無いので普通に出てやることにする。
「そう、世界で一人だけの君の兄様さ、あかり。」
 僕は携帯を肩と耳で挟み、両手で猫缶を開けながらそう言い直す。ちなみにあかりとは妹の名前である。「あかり」の名前は本当は僕の「周」に対応させて、「集」と書いて「たかり」と読ませたかったのだという話を昔両親から聞いた。周りと中心の二人で一つ、というようにしたかったらしいのだけど「たかり」は烏合の衆が何かにたかる、など悪い意味のほうが連想しやすいので中途半端に一字だけ変えて「あかり」にしたらしい。結果僕は中心のない拡散した人間になってしまったわけだけども、僕もこっちの「あかり」のほうが雅な感じでいいと思っている。
「あ…。もう、間違えちゃったかと思ったじゃない。」
 言い直した僕の声を聞いて妹は途端にくだけた感じの声になった。もしかして昔だったらあかりは怒って、「間違えましたー」とか言って電話を切るぐらいのことはしていたかもしれない。妹も少しは成長したらしい。だけれどいくら成長しても兄を追い越すようにまでは成長しないでくれ、と思うのは僕の勝手なエゴだろうか?そんなことを思いながら猫缶の中身をテーブルの上の昨日僕が使ってそのままだった皿に盛り付ける。と、今度は台所からチャイムが鳴った。来訪者だ。今日はなにかと忙しい。
「ごめん、あかり。誰か来たみたいだから後で掛けなおすよ。」
 僕のその言葉にあかりは意地悪く笑ってこう返してきた。
「お兄ちゃんはかわいい妹の電話と、お客さんのどちらをとるの?」
 確かにかわいい妹だ。意地悪な微笑の中にもまだ子供らしい幼さが残っている。僕はラビスラズリが猫まっしぐらに朝食にありつく様を見てから、通話を切って玄関へ向かった。戸口の向こうから「えっ、ちょっと待って、お兄ちゃんー」という声が聞こえる。 僕は玄関の鍵を開けて、そして外の妹が開いた拍子にぶつからないようにそっとドアを開ける。
「あ、わかった?さっきのお返ししようと思ったのに。」
 どうやら僕の英語の発音はかなり良かったらしい。だけど何故あかりがここにいるのか、と思う。僕の部屋には成人男子として見られたくないものがそれなりにあるので(まぁ、理由はそれだじゃないけど。)、妹に来る時には必ず連絡するように言っているのだ。だから僕はあかりに向かってこう言った。
「なんだよ、こんな早い時間に。」
 あかりが答える。
「なんだよじゃないよ。遊園地に行くって約束したよ?それにもう十時だよ、全然早くなんかない。」
約束なんて覚えていない。いや、僕は薄情な性格の持ち主ではない。むしろ僕はこういった約束の類は手帳に書いて絶対に守るようにしているのだ。だけど何事にも絶対はない。それに電車で三時間はかかる実家から僕の家までの道のりを多分一人で来ただろう中学生の妹を門前払いにするわけにもいかない。
「休日の十時は平日の七時だ。まぁ、とりあえず入れ。」
 遊園地の話題は避け、とりあえず僕はあかりを中に入れる。昼の日が差す頃とはいえ寒い。よく見るとあかりがどこかで拾ったのか、赤々としたもみじを持っているのに気づいた。もう秋は冬に近づいているようだ。
「はい、おみやげ。」
 そう言ってあかりは手に持っていたもみじを僕に差し出す。正直こんなもの今手渡されなくても玄関を出た数歩先で手に入る。そう思ったけど、むげに妹のおみやげを捨てるのもなんなので僕は一応それを受け取ることにした。今読んでいる本のしおりにでも使おう。あかりは部屋の主を置いてさっさと中に入り、僕の生活空間を観察する。成人男子として見られたくないものは机の引出しの中などにあるので多分見つからないで済むだろう。
「あっ、ラビ。こんちわー。」
 あかりはテーブルの下の生き物を見つけたようだ。ラビスラズリに挨拶をする。ちなみに彼はよく「ラビ」とか「ラビスラ」と省略される。当のラビスラズリはさっき僕があげたご飯を食べながら、一瞬だけあかりのほうを振り向いて「にゃあ」と言って、再びご飯のほうに向き直した。
「ひとりで来たのか?」
 見ればわかるが一応僕はあかりにそう聞いてみる。あかりは、「そうだよー。」と答えた。こんな時は、誉めてあげるべきなのだろう。
「すごいな。」
 ひねりが無いけど僕はそう言ってあかりを誉めた。
「すごくなんてないよ。ボクはもう中学生だよ?電車くらいひとりで乗れるもの。」
 あかりは女の子なのに自分のことをボクという。多分僕のせいだ。ボクはもう電車くらいひとりで乗れるほどに成長したらしい。でも普段あまり誉めない僕の言葉のせいもあってか、少し嬉しそうになっているところが愛らしい。
「そうか、あかりも大人になったな。ところでお腹は減ってる?なにか食べにでも行こうか?」
 僕が何かを食べたいからそう言ったのだけど、僕にとっては朝食、あかりにとっては多分昼食でお互い時間間隔が違っている。だがあかりはさらに感覚、というか僕の予想を超えたことを言ってくれた。
「遊園地。」
 話題は最初に戻される。ところであかりには悪いけど僕は遊園地が嫌いである。自ら絶叫を求めに行くというのが僕的にどう考えてもナンセンスだし(正直なところ絶叫マシンは怖いから嫌い。)、幽霊屋敷はむしろびっくり屋敷とでもいうようなものだと思うし、なによりあのきぐるみ達。あれらが幼少のころなぜだかとても怖かった記憶があるのだ。だから僕が遊園地に持つイメージは概ね否定的なもので、肯定的なイメージは恋人や家族がベンチでアイスクリームを食べているといった和やかな、けれど遊園地とはあまり関係ないようなところだけなのだ。まぁそれはともかく、
「なぁ、あかり。その約束っていつしたんだっけ?悪いんだけど僕は覚えてないんだけど。」
 僕は大学の生徒手帳に書き込んであるスケジュールをあかりに見せながらそう言った。今日の日付は空欄になっている。自分自身なんとなく薄情なセリフだな、とは思う。言ってから「言ってしまった」とも思うのだけれど仕方があるまい。僕は本当に覚えていないのだ。
「お兄ちゃん?」
 僕の言葉にあかりはそう言って微笑む。いけない、泣くか?怒るか?どちらにしても近所迷惑の危機なのはたしかだ。
「えっと、ほら、今からだと行ってもそんなに遊べないだろ?冬休みにでも今度は泊まりで来なよ。」
 僕はそういってなんとか妹をなだめようとする。
「今度?」
 いけない。危機到来か?あかりの顔から笑みが消えた。
「そう。そしたら、僕はあかりの好きなケーキとかも買って用意しておくからさ。」
 女の子をなだめるものはケーキ。これでどうだ。
「ボクはお兄ちゃんの作るケーキが一番好き。」
 きっと妹が言っているのはチーズケーキのことだ。作るのも食べるのも僕自身が好きなので、よく妹の誕生日や記念日なんかの時に作ったやつのことだろう。あかりがそんなことを思っていたなんてなんだか複雑な気分であるけど、とりあえずはこれでなんとか話を逸らせそうだ。
「そうか、ありがとう。じゃあ今度のやつはあかりスペシャルでつくるよ。」
 ちなみにあかりスペシャルといえども内容はなにも考えていない。真心があれば良し。だがそんな僕の気持ちは通じず。あかりは、
「いや、いいよ。普通に作って。」
 と言った。さらに続ける。
「だってお兄ちゃん、スペシャルとか言ってケーキの上にポテトチップスを突きたてたり、中にこんにゃくを入れたりするんだもの。」
 返す言葉がないがこいつは料理人の創作意欲というものがわかっていない。まぁグミっぽい感触を入れたらおいしいかな、と思って手元にあったこんにゃくで試した僕が悪いか。しかしこれでなんとか遊園地のことを忘れてくれそうだったので、
「わかりました。あかり姫のおおせのままにいたしますよ。」
 と僕は言った。
「うん。今度こそ約束だよ。」
 あかりは笑ってそう答えた。なんとか危機は去ったようだ。僕は安心してご飯を食べ終わったラビスラズリの頭を撫でる。でも兄として、というか約束を忘れた者としてこのまま何もしないわけにもいかないだろうと思うので何かあかりにしてやらなくてはいけないな、と思う。
「ねぇ、お兄ちゃん。お腹減ったから何か作って」
 我が妹ながら結構な暴言である。でもきっとあかりは、疲れたから自分で作りたくないということではなくて、ただ単に僕の料理が食べたいということなのだろう。僕は約束のこともあるので素直に台所へ行って冷蔵庫の前へ立った。
「いいよ。スパゲッティぐらいしかないけどいい?」
 僕が言う。こうやってあかりに料理を作ってやるのはいつ以来のことだろう。今年の夏か、去年の冬だったか。一人暮らしをしてから大分疎遠になってしまったような気がする。
「一緒に作れるようなのがいいんだけどな。まぁいいや。スパゲッティでいいよ。」
 そうあかりが答える。昔僕らは両親が共働きだったので家事を僕が担当していたのだけど、小さいあかりはそれをよく手伝ってくれた。あの頃は結構大変だと思っていたけれど、そういった大変さは過ぎてしまえば忘れてしまうものだなと思う。
「あかり、CDかけてくれない?今日の天気に合った感じので。」
 あかりは僕の言葉を聞くと、居間にあるCDラジカセの前へ行き、「なにこれ、聞―たことないー。」などと言いながらCDを探し始めた。
「ラビ、一緒に探してやってくれ。」
 この家の音楽ならあかりよりもラビスラズリのほうがくわしい。しゃべれればきっとあかりの助けになるだろう。しゃべれればだけど。数十秒後「ニャ―」という声が居間から聞こえ、続けて「これねっ」という声が聞こえた。太陽の光が差し込む和やかな部屋の中、兄と妹とそれから猫の間に流れた音楽はクラシック系の音楽で、最近買ってまだあまり聞いていないやつだった。
「なんか悲しい歌。」
 あかりが感想を述べた。たしかに少し悲しげで、なんていうか「はかない」メロディであると思う。だけど今の僕にはよく合う気がする。

 タン、トン、タン、トン、タタタ

 部屋には音楽とサラダを作る包丁の音が鳴り響いた。僕はクラシックを聞きながら音楽に合わせてキュウリを刻む。
ふと横目にあかりを見るとあかりは居間でラビスラズリと遊びながら何かを見ていた。僕はキュウリをお皿に盛り、次にゆで卵の殻を剥きながら居間のあかりの方へ行く。あかりが見ていたものは僕のスケッチブックだった。僕は美大生というわけではないけれど昔から絵を描くことが好きで、今も暇を見つけては(というより、感情が昂ぶった時という表現のほうが正しいのだけれど)絵を描いている。昔はよくあかりに描いた絵を見せたりもしていたのだけれど、今はすべて見せるというのは勘弁してほしいところである。成人男子として見られて恥ずかしいものが描かれているわけでもないけど、兄として自分の作品をあまり妹に見られたくはないのだ。絵には僕の心が描いてあるから。
「あかりー」
 いまさら遅いとは思うけれど、僕はスケッチブックを見るのを止めさせるためにあかりを呼ぶ。だけどあかりは集中しているのか僕の声に気付いてくれない。
「悲しい絵だね。」
 あかりはそう呟く。そしてそのあかりの声は再び開きかけた僕の口を閉ざした。
「約束を忘れたのに。」
 まただ。あかりはまだ〈約束〉のことを気にしていた。あかりはそういうことに嘘をつくような子じゃないとは思うけれど、約束をした覚えが僕には全然ない。単に僕が忘れているだけなのだろうか。多分そうなんだろう。でもそれにしても、それはいつ頃した約束なのだろう?それにあかりがこんなに気にするなんて一体約束とは本当に遊園地のことだけなんだろうか。他にもあるんじゃないだろうか。全然思い出せない。
「お兄ちゃん?」
 僕は顔を見上げたあかりと目が合う。僕はそこでなぜだかとても気まずくなってしまったので、「ああ、もうご飯だよ。」と言って台所へ退散した。再び料理を作りながら僕は思う。あかりは僕のどの絵を見て悲しいと思ったのだろう。全部だとしたらなんだか僕は悲しいことになるな、と思った。
料理の仕上げはあかりも手伝った。あまりもののトマトやニンジンを使って作った僕お手製のミートソースのスパゲッティと、レタスとキュウリと卵のサラダ、それにインスタントのコーンスープがテーブルに並ぶ。箸(この家にフォークはない。)を用意して、そして僕らはテーブルに向かい合うように座った。
「いただきまーす。」
 あかりは行儀正しくそう言った、それを見習って僕も一応「いただきます」と言う。こうしたことに抵抗があるわけではないのだけど、一人暮らしで一人でご飯を食べることに慣れてしまっていることと、そもそもキチンとご飯の時間を決めた生活をしているわけではなく、大抵絵を描いたり、勉強したりと、なにかをしながらご飯を食べるといった妹には見せられない行儀の悪さが普段の僕であるから「いただきます」というタイミングを忘れてしまっていた。それで僕は、きっとあかりは学校では結構素行が良いのだろうな、と安心してみる。兄バカだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。このスケッチブックのことで聞きたいんだけど、」
いただきます、と言っておきながらあかりは箸を置いて、先程のスケッチブックを持ってきて僕にそう言う。嫌な予感がする。
「あかり、行儀が悪いよ?」
 もちろん僕は全然人のことを言えない。そして話題を変えたかったという理由のほうが強いのだけれどそういったことを誤魔化して僕は妹にそう注意する。
「この女の人、誰?」
 あかりは僕の言葉は無視してスケッチブックを開き、その中のある絵を指差して僕に向けた。僕は一瞬戸惑ったけどこう返答する。
「おまえ」
 今度はあかりが一瞬戸惑う。だけどすぐに
「嘘、ボクだったらすぐにわかるもの。誰なの?あかりに言えない人?」
と言い返してきた。
「なんだ、嫉妬か?おまえもう中学生だろう?兄離れしろ。」
いけない。僕は口が悪くなってきた。こんな時は素直に誰だか言うか、言いたくないなら言いたくないなりに嘘でもつけばいいのだろうと思う。でもこの絵に描かれている人物の名前は僕に取って素直に言えるような人ではなく、そして僕は嘘が嫌いだった。すぐにわかる嘘はついても、本質的な嘘はつかない。そのほうが本当に嘘をつきたい時に嘘がつけるからだ。
「やっぱり、ボクじゃないんだ。誰?」
 あかりは僕の言葉に声を荒げてくる。嘘は嫌いだけど、でもここは嘘をつくべきだったかも知れないと思う。なぜあかりがここまでむきになるのかはわからないけれど限りなく面倒だ。
「その人はいないほうがいいんじゃない?」
 ―――キレた。
「あかり。別におまえに秘密にしようとかそういう気はないけれど、僕にだって知られたくないことっていうのがある。おまえにだってあるだろ?そういうことを考えずに人を悪く言う奴はどんなに勉強ができようがただの馬鹿だ。僕はそう思う。おまえがそういう馬鹿でもいいって言うならいいけどな。ただそういう想像力の欠けた人間が僕の近くにいることはとても迷惑だ。」
 六つ離れた妹に対して本気で怒るのはかなり大人気ないことだと思うけど、僕は怒る時はいつでも本気で怒るべきだと思っている。それと同じくらい楽しむ時なども本気で楽しんだりとするべきだと思うのだけど、あいにく今は怒る時だ。



 ふと机の上の時計を見ると時計は三時を指していた。あかりの帰った部屋の中で僕は散乱したスパゲッティを片付けている。絨毯に落ちた染みがなかなかとれない。僕は水を含ませた雑巾でダンダンと殴りつけるようにして、染みをぼかしていく。そんな僕を横目に猫のラビスラズリは興味なさそうにベランダから外へ出て行った。きっとお隣のミケに逢いに行くに違いない、気楽なものだ。僕は「ほう」と溜息をついて携帯を見る。先程あかりに送ったメールはまだ返事がない。電話をしようとも思ったけど電源が切られている。一人で来たのだから一人で帰れるのだろうけれど問題はそんなところじゃない。もっとも僕はあかりと連絡がついた所で何を言おうかと迷ってしまうと思うけど。帰ってきて片付けをやれ。あらかた終わったけれどまだフライパンの中にスパゲッティが残っているからせめて昼飯ぐらい片付けてから帰れ、とか。いけない、ただのいいひとだ、それは。しかしやっぱり怒りすぎたのでちょっとは謝ったほうがいいなと思う。
 あかりは先程僕との口論の末に、口喧嘩では兄に勝てないと悟ってか、あろうことにテーブルの上のものを僕に投げつけてきたのである。僕が激怒するもなく、あかりはその後すぐに泣き出して部屋を飛び出ていった。僕は部屋に取り残され、そして今に至る。追いかけるべきだったのかもしれないけれど、それももう後の祭りだ。
「やれやれ」
 僕はベランダの窓から外を眺めながらそう呟いた。そして軽く頭を掻いてから床に落ちているスケッチブックを拾い、あかりの開いていたページを開けてみる。そこには青をベースに水彩画で描かれた中学生ぐらいの女の子がちょっと後ろをむいた感じで立っている絵が描いてあった。着ている服は制服のようで単に制服に見えるだけの私服のようでもある。背景は描かれていない。この絵はこの子だけが描きたかったから描いたものだったから。特に構成なども考えなかったような気がする。被写体も実際いたわけではない。なにも考えずにただただ僕の記憶に残っている映像を見ながら描いた作品だった。そしてこれは未完成。何枚も何枚も描いて、描き直して、でも決して完成しない絵なのだ。
 あかりがこの絵を見てなにかを感じたというのなら、女の勘という奴は凄いものだと思う。僕に残っている一番鮮明な彼女の映像が中学生の頃で、そこから描いたのがこの絵だからである。もう彼女が亡くなってから三年は経つ。こんなことばかりをしていてはいけないなとも思うのだけれど、僕は想いを止められない。他人にこそ言わないけれど、いや、他人に彼女のことで口を開かないからこそ、想いが内に溜まっていく。そしてその溜まったもので僕は描いてしまうのだ。だからあかりや、僕の僕を知る人には僕の絵をあまり見て欲しくないのだ。「心を込めて描いた絵」といえば聞こえはいいかもしれないけれど、決してその心がキレイなものとは限らないのだ。そして僕はあかりや僕の僕を知る人の前ではつねにキレイでいたいと思うのだ。キタナイ自分を見て欲しくはないのだ。
 ああ、そうやって僕はいつも心を閉ざしていくのだけれどね。キレイといっても所詮はキタナイの裏返しなのだとも気付かずにさ。
 彼女のことばかりが頭を過ぎる。今朝もそうだ。草原の夢。あの草原にいた少女は確かに子供の頃の彼女だった。寝ても覚めても彼女がいる。生きている世界で死んでしまった人のことばかりを考えてしまっている。僕は大丈夫だろうか。大丈夫になれるのだろうか。彼女のことを思い出すのは苦しいけれど、彼女のことを忘れた時が僕の心に安らぎが訪れる日だったりとしたら、それは嫌だと思う。彼女のことを忘れたくはない。
 僕はスケッチブックを本来それが収まっていた机の上の本棚に戻す。そして携帯と財布をジーンズのポケットに突っ込んで、それからコートを羽織ってから外へ出た。今日はまだ一歩も外へ出ていないからということもあるけど、あまり家に留まりたい気分ではなかった。
 外は風が強く、木枯らしが身にしみる。しかしどこへ行こうか。あかりを捜しに行くか。いや、やめよう。本屋や、スーパーにでも行って気分転換するかな。でもそれもなんだか怠惰な感じがする。てくてくと歩きながら色々考える。その間僕の視界には枯れ木や、色とりどりの園芸や、三輪車に乗った子供、車などが過ぎり、聴覚にはそれこそ色々な、鳥の鳴き声や、人の声、車の走行音、足音、どこかの家のピアノの音などが通過していったのだけれど、僕はそれらひとつひとつに感情的になることは決してなくて、ただただ自分の内面にだけ目を向けているのだった。これでは家の中にいるのと変わらない。おそらく今の僕を小説かなにかの手法で描写したとしたならば、僕は恐ろしく機械的で自分からは何も摂取しないような、そんな受動的な表現の人間になるのだろうな、と思ってみる。興味の対象が自分の内面だから、だから昨日は今日と同じで今日は昨日の繰り返しなのだ。成長がない。つまり根底的な変化が起こりえないのだ。今の僕と同じ道の中で、他の誰かたちはもしかしたらカラスの鳴き声に夕方を感じたり、仲間同士外で遊ぶ子供たちになにか、微笑ましさのような感情を抱いたりするのかも知れないのに。大切なのは感情だ。なにかを感じること。それが僕には希薄な気がしてならない。
 そんなことを思いながらも僕は結局本屋へ行き、それからコンビニへ行って、すぐにまた家へ帰ってくるのだった。家へ帰ってきた僕はまだ完全には片付いていない部屋の中、携帯を見て、そしてあかりからの連絡がないのを確かめてから少し眠りにつくことにした。





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 これから始まる物語のために少し、すでに終わってしまった物語を語っておこうか。ああ、ひとつ断っておくけれど「物語」といっても僕の人生だ。人生なんて物語であってもいいと思う。例えそれが誰か達の描いた物語や、空想や、果ては妄想と呼ばれるようなものであっても。
 物語、人生などと呼ばれる何か、に大切なことは生き抜くことだと思う。僕は生きることに意味なんてないと思うけど、それでももしあるとするならば、生きることとは本当に生きることそのものだけの意味だと思うのだ。そう思うのだ。
 終わってしまった物語。僕―佐々原周一と彼女―神楽加奈の物語。僕は彼女と僕との関係を詳しく人に話すようなことはないけれど、それでも、僕は僕と彼女の関係をどう人に言い表せば良いのだろうかと迷ってしまうことがある。彼女は「僕の」彼女ではない。僕らは世間的には、同じ小学校で、同じ中学校で、そして家が互いに近くにあって、という程度の共通点しかなかった。僕は彼女のことを「幼馴染」と呼びたいのだけれど、彼女は僕が小学校の二年生の頃にどこからか(そうだ、そんなことも僕は知らない。)越してきた転校生なので、彼女を僕の「幼馴染」と呼ぶにはちょっと適さないところがある。「友達」か。「友達」っていうのはどの程度の仲からそう呼んでいいのだろうか。一方がそう思い込めば「友達」は成立するのだろうか。僕と彼女はあの頃の僕らの環境から考えてみれば仲が良いほうだったとは思う。ただ、確かに僕らは男と女の組み合わせにしては仲が良いほうだったとは思うけれど、僕自身の男友達や彼女の一緒にいた女友達と比べて、僕らの仲はそれほどでもなかったような気がする。じゃあ彼女と僕とは「知り合い」なのかな。知り合い以上友達未満。それが本当は一番適した彼女の代名詞なのだろうと思う。だけどそこまで考えたところで僕はいつも思うことがある。何故たかが「知り合い」に僕はこんなにも苛まれるのだろうか。初恋の人だ。ずっと好きだった。だけど死んだ。僕にあるのはそれだけだけど。

 まぁ、そんなわけで彼女と僕の仲はそういうものだった。「そういうものだった」としか言いようが無い。だから僕と彼女の間に人に感銘を与えるような「物語」なんて本当は何も無いんだ。ごめんなさい。だけれど、それでももし、僕と彼女の間に人に感銘を与えるような何か、物語、があったとしたなら多分それは終わってしまった後の「彼女の死」から始まったものなのだろうと思う。
高校生の時だ。確かあれは十一月の晴れた日だったと思う。中学生の時はよく遊んでいたけれど、高校生になってからは疎遠になっていた友達と僕が偶然再会した日。再会した僕とその友人達はそのまま僕の家へ行くことになった。
僕はその頃彼女とも疎遠になっていた、はずだったけど家がすぐ近くにあったというせいか、全く会わないということはなかった。彼女を好きになってしまったのはその頃、僕が中学校を卒業して高校生になった頃だった。不思議なものだ。毎日毎日会っていた時はなんとも思っていなかったのに、会わなくなってから好きになるなんて。それが「恋」だと自分自身で認めるのは、当時幾分か世俗離れしていた僕にとってかなりの時間を要したのだけど、その時の、十一月の晴れた日の昔馴染みが家に来る日までには、僕は毎日毎日彼女のことを考えるようになっていた。

 これはまた別の機会に話すことになると思うけど、その頃の僕は憎しみの中にいた。毎日毎日この世を呪っていた。みんな嫌いだった。あかりですらも。そんな中で唯一彼女は嫌いになれなかった。そして毎日毎日の憎しみの中で、毎日毎日「愛」とか、恥ずかしいが、多分そう形容できるような形のものを僕は考えていた。そうして僕は僕でいられた。そのことを僕は今でも彼女に感謝している。彼女の存在がなかったら、僕はきっと憎しみに溺れて壊れていたに違いない。そう思う。
けれどもその「憎しみ」と「愛」のバランスも簡単に崩れることになった。「彼女は死んだ」と十一月の来訪者は言った。その時僕らは卒業アルバムを見ながら昔話に華を咲かせていた。
 人には誰でも理解したくないものがあるだろうと思う。それを目の前にした時、例えそれが単純明快な世の真理であったとしても、人はそれまで自分が培ってきた知識や経験の全てを使ってそれを否定するのだろう。僕はそうした。そして自分の知識や経験が現実という圧倒的な力に対してあまりにも無力であると知った。あるものはそこで壊れるのだろうか。僕は生憎壊れなかった。薄弱だと思っていた自分の精神の頑丈さに腹が立った。頭の中を全て白くしたいのに、なにかを考えてしまうという正常さが絶え難かった。
「彼女は死んだ。」
 僕は頭の中で否定した。(きっとこんなに数秒で頭をフル回転させたのは後にも先にもこの時だけだろう。)なにかの間違いだ。多分彼女にはお姉さんがいたからその人だ。いや、ご両親だっていい。僕は悪魔に魂を売る。売れるものなら売る。非道い考えかただけれど、彼女が死んでしまったという最悪の結果でなければ他の誰が死んでいようが構わない。いや、彼女自身だって、死んでなければいい。四肢がなくなっていようが、原因不明の病に侵されていようが、生きていさえすればいいのだ。そうして僕は生きている彼女を想い続けることができるのだ。でもダメだった。どうやら友人の言っていることは真実で、僕はその後彼女の自宅にも電話を掛けて確認したのだけれど、そこには彼女が出てくることはなく、僕は友人の言葉を肯定する内容を電話口の彼女のお母さんから聞くことになった。
 僕は泣いた。数時間後、「死」という言葉を理解してしまった後に、泣いた。泣いて、泣いて、止まらないほど泣いた。鼻水も流した。嗚咽も漏らした。体は震え、まるで雪の中に裸でいるかのようにガクガクいっていた。止まらなかった。「泣く」という行為が理性ではまだ認めていない彼女の死を「認めている。」のだとわかっていても、涙は止まってくれなかった。僕の本能は彼女の死を理解していた。
 その後、友人達から多くの慰めの言葉をもらったような気もするのだけど、僕は何も覚えてはいない。いや、それ以来僕は彼らに会うことを避けたし、彼らからも連絡が来るようなことはなかったから、多分あまりなかったのだろう。
「彼女が僕のことを好きだった。」という言葉は、それからかなり後になってから十一月の来訪者の彼らの中の一人から聞いた言葉だ。なんで彼がその時になってからそんなことを言ったのかわからない。遅くなった僕への慰めだったのかも知れない。けど彼が何を想っていたにせよ、それは僕にしてみれば「もうほとんど意味を成さない言葉」であった。けれど、もしその言葉が本当で、僕と彼女は両思いのままに片思いだと思い続けていたのだとしたなら、それはそれでとても悲しいことのような気がする。そんな気がする。
 僕がジュウイチガツノハレタヒを境に壊れたのか、壊れなかったのか、本当はわからない。本当は壊れてしまったのだろうか。そしてもう戻りはしないのだろうか。わからない。
僕の「終わってしまった物語」はこんなところで幕を閉じることによう。




















       

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Neetsha