Neetel Inside 文芸新都
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EXAM to LIVE
第2話

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 「これが最後のやつかな?」
 「ん、ああ」
 「あいあいさー」
 どうせだから、と自称死神は搬入作業も手伝ってくれた。
 それも驚くべき手際の良さで、実は“死神”というのは何処かの業界用語で引っ越しサポート業を指す言葉なのではないかと思う程だった。
 最後の1箱も運び込み、トラックの中が空っぽになったところで声が掛かる。
 「それじゃ、振り出しに戻る?」
 「振り出し?」
 「帰るのは出発したとこで良い?ってこと」
 往路だけではなく復路も運転してくれるらしい。
 どっちにしろ頼むつもりではあったが(俺運転出来ないし)。
 「そういうことね。ちょっと待って」
 携帯電話を取り出し、着信履歴を開く。
 その中からあの人の電話番号を選択し、決定。
 俺は基本的に電話帳機能を使わないので、この方法が一番早い。
 “呼出中”の表示が“通話中”に変わったのを確認してから、携帯電話を顔の横へ持っていった。
 「もっしー?」
 「もしもし、翼さんですか?」
 「俺以外の奴が出たらどうするつもりだった?」
 「“すいません、間違えました”って言うしかないでしょう」
 間違えようのないかけ方をした、というのは置いといて。
 「んで、何?そっちはもう終わった?」
 「ええ、一応」
 「オーケイ、じゃあいつもの店まで来てくれるか?こっちも後2、3件ってとこだから丁度良いだろ」
 「分かりました」
 いつもの店、と言ってもどこにでもあるような居酒屋だ。
 なんでも屋の仕事を手伝った時や、愚痴を聞かされる時なんかにそこでご馳走してもらっている。
 全国展開しているチェーン店だが、個人経営の店のように常連にはサービスしてくれるのでリピーターが後を絶たない。
 電話を切り、行き先(帰り先?)が変更になったことを告げ、助手席へと乗り込んだ。
 それにしても翼さん、まさかシスターの格好のまま居酒屋に入るなんて暴挙に出るんじゃないだろうな……。



 唐突だが、名は体を現すというのはあながち間違いじゃないと思う。
 例えばシスター姿で大ジョッキを一気し、『うんめぇ~!』と声を上げるこの人。
 いくらなんでも、自由過ぎるだろう。
 「本当、翼って名前似合ってますよね」
 「ん?いきなりどうした?言っておくけど俺は酒入ってもガード固いぜ?」
 「怖くて手出せませんよ」
 「どういう意味だ?」
 「いえ、なんでもないです」
 名前、か。
 そういえばちゃっかり同席してるこの自称死神の名前、まだ聞いてなかったな。
 「なぁ」
 「ん?何かな」
 「まだ名前知らないんだけど」
 「あー、後で教えるよ」
 「なんで後でなんだよ」
 「いやほら、学校でもそうでしょ?」
 「学校?」
 「“今日から貴方達の担任になる○○です”、みたいな」
 それがどう関係あるのか分からない。
 考えても仕方がないので、ツッコミ待ちの状態だと解釈してツッコミを入れようとすると、翼さんが遮るように言葉を発した。
 「おいおい、名前も知らない奴とドキドキ☆トラック2人旅かよ」
 「何ですか、その素敵に不愉快な2人旅は」
 「いやー恐れ入っちゃうなー、最近の若いのは凄いねー」
 棒読みだった。
 多分この人の青春時代はもっと凄かったんだろう。
 「恐ろしいのはこれからですし、ドキドキするのもこれからですよ?何せ命懸かってますから」
 そこのデンパ、意味深なこと言うな。
 「熱いねぇ、そういうの嫌いじゃないぜ?」
 「まぁ、仕事ですから」
 はい?
 仕事?
 もしかしてこれは新手の美人局だったのか?
 誰かに脅されてこんなことしてて、失敗したら殺されるとか。
 だから、“死神”?
 「おい」
 「何?」
 「どういうことだ?」
 「へ?」
 「そういうこと、だろ」
 「ちょっと、翼さん!?」
 何だ?
 翼さんは何か知ってるのか?
 いや、そもそも俺に運転能力が無いことを知っている翼さんが何故車を用意した?
 それに加えて、都合良く登場した自称死神。
 此処でネタばらしがされることが前提だったとしたら──……
 この2人と一緒にいるのは、マズい。
 美人局なんてまだ平和な方だ。
 相手の1人はあの翼さんだ。
 絶対に敵に回したくない人ナンバー1のこの人が、既に敵に回っていたとするならば。
 何をされるか、分かったものじゃない。
 「つ、翼さん」
 「ん?」
 「ちょっと外の風に当たってきます」
 「嘘だろ?」
 「……」
 あちらは手の内こそ晒してはいないが、“何か”があることは示している。
 となれば、堂々と退路を断つことが出来る。
 既に、逃げ場は無かった。
 「あ、でも丁度良い時間ですよ?」
 死神が言うと、翼さんが腕時計を見た。
 俺も店内に設置されてあるデジタル式の時計に目を遣る。
 23:57。
 そういえば死神は言っていた。
 “試験開始は今夜0時”。
 それと何か関係してるのか?
 「あー、もうこんな時間か」
 そう言うと、翼さんが店員を呼ぶコールボタンを押した。
 「梅酒1つ追加ね、ロックで」
 え?
 「梅ロックお前好きだろ?」
 あぁ、はい、そういうことですか。
 思えば酒を覚えたのもこの人と出逢ってからか。
 未成年なんでって断ったら、『じゃあジュースみたいなのからイッてみるか』ってカシスソーダ注文してくれたっけ。
 「たーだーし!少しの間おあずけだ」
 「どういうことですか?」
 さっきの翼さんのように、死神が言った。
 「そういうこと、だよっ」
 「お前には聞いてねぇよ」
 「これから一緒に、文字通り死線を越えに行くってのに冷たいなぁ」
 「は?」
 本当に訳が分からない。
 日常も非日常もあったものじゃない。
 止まった思考は逆回転することもなく、ただ時間のみが過ぎていった。
 「1分切ったな」
 つまり23時59分を回ったということだろう。
 時計を見てからの約2分間が、何十分にも、何時間にも感じられた。
 「ほらよ、今回の礼だ」
 対面に座った翼さんから、何かが入った袋を手渡される。
 「梅ロックが届いて、氷が溶けきるまでに戻って来い」
 戻って来れるのか?
 何処へ行くのかも、分からないというのに。
 誰が敵なのかも、分からないというのに。
 上の空のまま、死神に促され店の外に出る。
 残暑の季節には珍しい冷たい夜風が、妙に頭を冴えさせてくれた。
 そして、判断した。
 目の前の光景も、死神の存在も──……
 どうしようもないくらい、まぎれもない現実だと。

       

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