Neetel Inside ニートノベル
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掘ーリーランド
第五掘「肛門爆破」

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ベースは何のための楽器か?
答えは簡単だ。
人を殴るための道具だ。
セックス・ピストルズのあの偉大なシド・ヴィシャスが言ってるのだから間違いない。
やがて驚愕から覚め、現状を把握してゆくのと共に、沸々と江川の中に怒りがこみ上げてきた。
あの堀が。 あの堀ススムが自分に向けて牙を剥いている。
あの堀が俺を殴りやがった。
あの堀が尾藤を掘りやがった。
あの堀が。
糞。 糞。 赦せるか。 赦せるものか。
這いつくばらせなければ。 
殴り倒して地べたを這いつくばらせなければ気が済まない。
いいや、それだけで済ますものか。
このミュージックマン・スティングレイで脳漿をぶちまけてやらなければ。
殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!
微塵に粉砕してやる! 臓物を掻き出してやる!
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
あらゆる呪詛の言葉を脳内で反芻しながら、江川は立ち上がった。
ハードケースの中から、エレキ・ベースを取り出す。
女の前だが、暴力を躊躇する理性は今の江川の中になかった。
今の江川の内は、ススムへの憎悪と憤怒で満たされていた。














イレギュラーな事態だった。
久坂を付け狙っていたら、街で偶然に江川に遭遇した。
気づかれなければ問題なかったのだが、間の悪い事に江川はススムの存在に気づいてしまった。
ススムが退学する前の二人の関係を考えれば、絡まれるのは必然だ。
ススムには、江川と対峙する以外に選択肢はなかった。
しかし、女が隣に居たのは誤算だった。
これでは江川を秘密裏に消す事が出来ない。
しかし、もう矢は放たれた。
後には退けない。
やるしか。 もうやるしかないのだ。

江川が立ち上がる。
ベースを、金属バットのような肩に構える。
どうやらベースを得物にするらしかった。
「来い、コラァ! グッチャグチャにしてヤンよ!?」
DQNの常套句を吐き散らして、江川が威嚇にベースを振り回す。
その引き際を狙って、ススムは飛び込む。
「――――――!?」
意識の間隙を突かれた江川は、それに瞬時に対応出来ず、鼻頭にススムのジャブをくらう。
「あがっ!」
この機を逃さず、ススムは続けざま右の拳で江川の顎を打ち抜いた。
江川の頭蓋が横に揺さぶられる。
膝の力が抜けた。
ベースが叩きつけられた先は、地面だった。
ススムの右と左のコンビネーション・ブローが、江川の意識を一瞬で刈り取っていた。
「な……ん…………だと…?」
江川は、自分が地面に膝を着いたのが信じられないという様だった。
しかし、それは紛れもない現実だった。
足が完全に笑っていて、力が入らない。
そこにススムが、まるでサッカーのフリーキックでもするように距離を取って右の足を引いた。
「お、おい、ちょっと待――――――――」
ススムは、江川の言葉を待たなかった。
ススムは軽く助走をつけると、江川の頭部に向けて、渾身の回し蹴りを放った。
江川の意識が、そこでぶつりと途切れた。

















アスファルトの床の冷たさで、江川は目を覚ました。
そこは、何処かの廃工場のようだった。
ボロボロに寂れたトタンの屋根の上から、真っ赤な月が顔を覗かせていた。
手足が、動かない。
どうやら、両手両足がガムテープでぐるぐる巻きにして拘束されているらしかった。
「――――――お目覚めかい」
声のした方に目をやると、外套に身を包んだ堀ススムがそこに立っていた。
何ともいえぬ不気味な空気を身に纏っていた。
一年前の堀ススムとまるで違っていた。
それは、あの圧倒的な彼我戦力差からも明白だった。
この堀ススムは―――――『ヤンキー掘り』は、江川の理解の範疇の外にある圧倒的な力を持っている。
強い。
「俺と一緒にいた女はどうした?」
江川は言った。
「帰した。 無関係の人間を巻き込むのは、ポリシーに反する。 どの道、お前が囚われてる限り事件には出来ない」
「…………一年前の、復讐のつもりか?」
「――――――だとしたら、どうする?」
「お前を掘ったのは、俺じゃない。 松野だ」
ススムは、その言葉に、顔をしかめる。
「だから、どうした? 指を咥えて見ていれば、罪にならないとでも?」
ススムは、屋根の隙間から、赤い月を見上げる。
「同じだよ。 松野も、お前も。 村井も久坂も尾藤も。 お前達は共犯だ。」
『尾藤』の名を耳にした途端、江川の顔が憤怒に歪んだ。
「ふざけんじゃねぇ! それで、尾藤を掘ったってのか!? 尾藤を! 尾藤を! ふざけやがって! そいつで正義を気取った心算か!? ああ!? てめぇのやってる事は、無差別テロだ! 畜生がっ! くたばりやがれ!!」
ばたばたと芋虫のようにもがきながら呪詛を吐き続ける江川に、ススムは汚物でも見るかのような冷ややかな視線を送る。
「そうだ――――――――『ヤンキー掘り』は正義なんかじゃない。 自分の復讐の成就の為だけに標的を狩り続ける、一種のテロルだ」
「ああ?」
ススムは、ガチャガチャとベルトを外し出した。
ススムがやろうとしている事に気づき、江川は血の気を引かせた。
「僕はお前らの裁決を、甘い少年法になど委ねない。 僕は僕の裁量でお前らを裁く。 お前らを、血祭りに上げる」

















     


     









































ずぶりっ
































     


     

















その日の夜。
久坂、村井、松野の三人に、江川のケータイから写メールが届いた。
そこには、江川の掘られている映像と共に、次のようなメッセージが一言、添えられていた。









「残る肉便器は、みっつ。」




       

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