Neetel Inside 文芸新都
表紙

4の使い魔たち
入れ違いの使い魔

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「「ええぇぇぇ――!」」
「ゆ、ユウト。ごめんなさい、私のせいでっ」
「いや、シーナは悪くない――けど、どうなっちまうんだ?
 あいつらハルバト退治に行ったのか?」

 魔法陣は転送後の余韻でマナを帯びて光っている。
 紛れもなく魔法陣が発動した証拠だった。
「多分そうです、これを見て下さい」

 そう言ってシーナは黒板にあったクエスト一覧を指さす。
『ハルバト退治――100ポイント@現在進行中』
 どうやらこのクエストへは何度も飛べるように設定されていたらしい。

「良かった、これで追えるぞ」
「で、でも……」
「何してるんだ? 早く行こう」
 ユウトはシーナを急かすが、シーナは曇った顔でいた。
 この間のダンジョンに沸いたサンドワームなど比ではないからだ。

「頼む、シーナ」
「は、はい」
 ユウトが頼めばシーナは頷くしかない。
 悪いと思いつつも、魔法陣へユウトが乗ると、シーナも思い切ったのか、続いて乗る。

「よろしいですか?」
 魔法陣の横からしわがれた声で投げかけられる。
「はい、ハルバト退治でお願いします」
 シーナはそう言うと、メイジは瞬時に転送装置を作動させた。
 ぐわりと空間が歪み、光りが収縮される。
 ユウトは前回の失敗を思い出して、シーナの手を握った。


 …………。
 ――――――。
「ユウト……」
 はっと気がつくと、景色は一面茶色だった。
「普通に飛んだんだな……」

「もしかして、前のを思い出して手を握ったんですか?」
 シーナはくすりと笑った。
「あっご、ごめん」

     


 ほどかれた手を名残惜しそうに見たシーナだったが、すぐに辺りを見回した。
「アリスさんたち、いませんね……」
「少し進んでみよう」

 平らな足場の両端を囲むように様々な大きさの岩が並んでいる。
「シーナ、気をつけて」
「はい」
 道は右回りに続いており、岩のない場所だと左は崖になっていた。
 上を見ると、垂直の岩壁が雲へ届かんとばかりに伸びている。

「こりゃ、大変だ」
 このような断崖絶壁の山間でモンスターに襲われると大抵は命を落とす。
 滞空系の魔法を掛けていなければ、退がることができないからだ。

「シーナ、フライかアンチフォールの魔法はあるかい?」
「フライならなんとか出来ます」
「じゃあ、まずそれを掛けて――」


 二人は少し登って来たところで、拓けた平地へと出る。
 そこにランスとアリスの影があった。
「アリス?」
「……」
 アリスはあからさまに怒っていた。
 その双肩はつり上がり、両手拳は硬く握られている。
 ランスの方は笑っていた。

「良かった、二人とも無事だな」
「おいおい、使い魔に心配されていたのかい?」
 時折下から吹き荒れる風が、アリスのスカートをめくるように通り過ぎていく。
 慌ててアリスはスカートの裾を抑える。

「っちょ――」
「さっきからこんな調子でね、先へ進もうとしないんだ」
 ユウトはなるほどと思ったが、同時に笑いも堪えなければならなかった。

「あ、あによ! 山登りなんか初めてでこんなの聞いてないって話しよ! だいたいね――」
「おや、シーナの方は平気みたいだね」

 見ると、シーナは風が通りすぎようとも衣服一つ揺れていない。
「ど、どういうことよ。何かクエストに補助装備とか支給されてた?」
 ユウトはアリスの慌てる様子を見ていたい気もしたが、可哀想なので教えることにする。

     


「フライの魔法で常に風を遮ってるんだ」
「なるほど、そんな方法が」

 ユウトは敵と遭遇した時の危険度や、落下した際の対応などを詳しく説明した。
 また、山で起こる突風や濃霧、雨などのほとんどは魔法で対応していくことも話す。

「行く前にさっさと教えなさいよ、バカ! そもそも何で後ろについていないわけ?」
「君はいつもこんな扱いを受けているのかい?」
 ランスは笑いながらユウトに言った。

「もう慣れたよ」
 ユウトも笑って答える。


 休憩も兼ねて一旦、各々で休んでいると突然アリスのポイントカードが高い音を立てて鳴り響いた。

『ピピピピ――』
「? 何よこれ、壊れたの?」
 見ると、アリスのポイントカードが凄い勢いでマイナス得点を刻みだしていた。

 同時にシーナのポイントカードも鳴り始める。
「……私もですか?」
 ランスは不思議に思う三人を置いて、一人合点がいったような表情を浮かべる。

「使い魔のルールだ」
 掲示板に新しく追加されたルール。
 使い魔の同伴をルールに追加されていたことを思い出す。

「でも、私の使い魔はここにいるわよ?」
 アリスがそう言ってユウトに近づくが、ポイントカードは鳴り止まない。
「違う、アリスの使い魔はこっちだ」
 ランスはオコジョのような白い毛並みの小動物をアリスに差し出した。
 それを受け取ったその瞬間、ぴたりとポイントカードの音が止まる。

「なによ、どういうことよこれ」
 今度はユウトがシーナの方へ行くと、シーナのカードは鳴り止む。
「そういうことだな」
 ランスは魔法陣へ乗った時のことを思い出せと言った。

「まさか、魔法陣に乗って飛ぶにはメイジと使い魔がセットなのか?」
「そうなんだろう、使い魔を貸すのも良いとは書いてあったが、まさかこんなことになるなんてな」
 ランスは肩を竦めて見せるが、アリスの不満はもちろん収まらない。

     


「ランス。あんたの使い魔はどこよ」
「ん? 僕の使い魔はこれだ」

 そう言ってランスが横へずれると、何やら半透明の球体が垣間見える。
 とても生き物とは思えない。ぐにぐにとしたゴムボールのようだ。

「何よ、ちゃんといるんじゃない。じゃあ何よ、この使い魔は」
 アリスはオコジョをずびしと前へ突き出す。
「おいおい、気の弱い使い魔なんだ、大事に扱ってくれ。そいつはユレン、僕の友達の使い魔さ」
「はぁ? 何で友達の使い魔をあんたが連れて歩いてるのよ」
「彼は今、風邪をひいていてね。
 使い魔だけでも一緒にクエストを行えば、ポイントが加算されるかと思ったのさ」

 アリスはオコジョを見つめる。きゅうっと鳴いてお辞儀をした。
「持ち方がおかしいんじゃないか、首絞まっちゃってるぞ」
 そのままそっと下へ降ろすと、オコジョはアリスの肩へと登って留まった。

「…………頭が痛いわ」
 こんな小動物に使い道があるとは思えない。
 アリスはげんなりとした気持ちで項垂れた。
「はは、まあ仲良くしてやってくれよ。
 気は弱いが、人懐こくて可愛いヤツなんだ」

 しかし、どうにもランスの態度は軽すぎるとユウトは思う。
 まるで、ハルバト退治なんかどうでも良いようだ。
 ユウトはそんな懐疑的な心を諌める。

 ほどよくマイナス点になったことで、先を急ぐことにした。
 話し合いで、ユウト、ランス、シーナ、アリスの順に並び進む。
 シーナはユウトのサポートをすると言って聞かなかったが、

 前衛は男の方が何かとユウトも気が楽だと二番手はランスに任せた。
「ユウト、だったね」
 アリスの同期なら年下だろうか、二枚目の少年に呼び捨てにされる心境は良くなかった。

「そうだけど」
 道らしい道を進んでいるだけで、今のところ危険はない。
 ユウトはそう判断して、ランスにこたえる。

「君はアリスのことをどう思ってる」
 突然そんなことを聞かれ、胃が絞まる思いだった。
「どうって……」
「いや、ならいいんだ。
 まさか、使い魔がメイジを『主』以外の目で見るなんてことはないだろうと確認したかっただけさ」

     


 ユウトは一瞬かっと来るものがあった。
 しかし、それを吐き出すのは違うと思い直して平静を保つ。
「使い魔とメイジは関係ない、俺はもう俺の意志でアリスの側にいるだけだ」
「それは立派だね」

 癪に障る言い方ではあったが、
 よく考えればアリスはユウトにとって主以外の何かというわけではない。

 道は途中で途切れていた。
「ここからはフライか、岩登りだな」
 崖の遙か上に、雲がかかっている。
 一行はフライを詠唱しはじめた。

       

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