Neetel Inside 文芸新都
表紙

4の使い魔たち
ダブルワンド

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 ――数日後。
 週に一回のクエストが明日に迫った。
 教室ではアリスがユウトを隣に従えて、机に向かっている。
 他の生徒達も真剣な眼差しで机の上を見ていた。
 今日は週末試験で、点数が悪いとポイントカードに大きくマイナス得点を与えられる。

 アリスは昨日の朝、ポイントカードはマイナスポイントにもなるという事実を教師に確認し、大慌てで勉強した。
『問七――使い魔に関するバランス表記其の四。
 三化成要素のバランスを表す記号を書きなさい 十点』

「(二化成に続いて三化成ですって? △ね)」
 ユウトは横からアリスの解答を見て驚く。
「(違うぞ、三化成は⊥だ)」

「(はあ? なんで突然二化成の<から⊥になるのよ、△でしょ。常考よこんなの)」
「(いいか? 元々使い魔の属性っていうのはな――)」
 周りの生徒達の視線がアリスに集まる。

 当然だった、ユウトの一言一句は大ヒントだし、
 アリスだけ使い魔とタッグでテストを受けているなんて腑に落ちないからだ。
 ユウトがアリスに答えを告げたその時、突然後方の席が揺れる。

「ミス・マジョリア先生、質問があります!」
 突然生徒の一人が立ち上がった。長い桃色の髪を一本に結わいた女の子だ。
「何ですか? ミス・ホオイェン」
「使い魔をテストに参加させるのはアリなんですか?」
 それを聞いてマジョリアは顎を上げた。

「当然です。使い魔と協力するということはテストもクエストも同義。
 使い魔は己の半身と心得なさい」
「……はい」

 それでもその少女はどこか納得できない面持ちで席へ座った。
 マジョリアが設問を解答し終えたアリスの前へと立った。
「ミス・レジスタル」
「はい、何でしょうか先生」
「使い魔が戻ってから随分と成績を持ち直したようですが、あなた本人の実力は向上しているのですか?」
「っぅ……しています」

 アリスは最近、研究もあまりしていない。
 暇が出来ると研究室の書庫を漁ってみるのだが、
 めぼしい資料はもう大方読んだし、ここ最近はあのエレメンタルにつきっきりだった。

 だからアリスはせいぜい虚勢を張ることにした。
 悪い癖だと思いつつもやめることは出来ない。
「ほう、それはどういったところで?」
「ダブルワンドを成功させました(夢でだけど……)」
 クラスがざわりと沸いた。

     


「(ダブルワンド? セイラですら出来なかったあれか?)」
「(あの崖っぷちのアリスが成功させただってっ?)」
「静まりなさいっ!」

 マジョリアは一喝する。それに応えるようにクラスに沈黙が訪れた。
「よろしい。では、アリス。それを次の授業の初めに見せてもらいましょう」
「ええ、よろしいですよ」
 アリスは半ば茶化すように言った。

 マジョリアの顔が一瞬さっと染まったが、すぐに薄ら笑いを浮かべて言う。
「楽しみにしていますよ」
 マジョリアが踵を返すと同時に鐘が鳴る。
 クラスの悲痛な叫びが木霊した。


 がやがやと喧騒の鳴り止まない教室で、アリスの机の前に影が落ちる。
「本当は出来ないんでしょ、アリス」
 そう言ってきたのは先ほど使い魔のことで食ってかかってきたホオイェンという少女だった。

「何のこと? セイラ」
 どうやら呼称はセイラで通っているらしい。
 クラスの生徒たちの視線がアリスに集まる。

「ダブルワンド。つい出任せで言っちゃっただけだもんね?」
「…………」
 アリスは特に答えるふうでもなく、たださっと机から立ち上がってユウトを促した。

「何とか言ったらどうなの?」
「そこにいるシーナも出来るんじゃないかしら」
「えっ?」
 不意に出たアリスの言葉にセイラはシーナを見た。
 シーナはぼうっとユウトを見ていたのだが、突然話しを振られて目を白黒させる。
「そうなの? あなたも出来るの?」

「えっ?」
 アリスはいいチャンスだと思い、言い回しを変えることにした。
「そうよ、私は彼女から教わったんだもの。彼女は天才よ、百年に一度のメイジだと思うわ」
 そうよね、とアリスはシーナに視線を送った。
「よせよ、シーナが困ってるだろ」

     


 ユウトがすかさず反応するが、これが返って墓穴を掘った。
 シーナはがたりと椅子をならして立ち上がる。
「出来ますっ、やらせてもらいます!」
 クラスがわっと沸いた瞬間だった。
「お、おい」
 スーシィはノートに複雑な計算式を書いていたので、クラスの怒濤のような声で我に返った。
「……ん、どうかしたの? ちょっと、シーナ?」

 アリスからユウトを奪う前にユウトをがっかりさせることはあってはならない。
 コントラクトを断られれば、契約はできない。
 シーナはそんなことを思いながら握り拳を作ったのだった。
「それじゃ、裏庭にでも行きましょうか」
「あれ、ちょっとシーナ、今日の研究は――」
 スーシィの声も空しく、クラスは一丸となって裏庭に向かった。


 裏庭ではシーナとセイラ、ユウトを囲んでクラスメイトたちが円状に集まる。
「ダブルワンド……ですか」
「そうよ、アリスより先に出来たっていうらしいじゃない。私に見せてよ」
「私、今はこれ一本しか持ってないです」

「なっ、嘘だったの? 出来るって言うのは」
「だから、あれはアリスのせいだって」
 ユウトはさっきから自分のことに耳を貸さないセイラをイライラとした気持ちで見ていた。

「こら、使い魔! アリスはどこよ」
「俺はユウトだ。アリスならここに来る途中でどっかに行ったよ」
 ざわざわとクラスメイトたちが騒ぐ。どうせ嘘だったんだと口々に言っていた。

「逃げたのね……はぁ、心配して損したわ。やっぱり所詮はアリスね」
 シーナとユウトを残して全員が帰ろうとしたとき、声が上がる。
「……待ってください」
 シーナは杖を片手に言った。
 ユウトを前に自分の言ったことを撤回することは出来ない。
 それに、アリスのことを悪くいう、目の前の少女にもシーナはなんとなく嫌な気分がした。

「アリスさんは決してあなたが思っているようなメイジではありません」

     


 セイラは眉をぴくりと動かした。
「待ってよ、それはどういう意味?
 あはは、アリスが落ちこぼれじゃないって? それを主張するの?」

「そうです、ユウトがいる以上アリスさんは落ちこぼれじゃありません!」
「いや、それはどうかと思うよ」
 ユウトはすかさずツッコミを入れるが、セイラは引き攣った顔を隠そうともせずに続ける。

「でも、万年成績最下位だった事実は変わらないわよ、何であんな子をかばい立てするの?」
 シーナは例のダンジョンでアリスが光りの魔法を使ったことを話した。

「まぁ、確かに光りの魔法は習得するまでに相当な精神力を必要とするわ。
 けど、火花はその中で最も下級にある魔法よ? 私は半日で覚えたわ」
 腕を組んで横目でシーナを見るセイラ。
 ユウトはアリスもどうかと思うが、このセイラという少女が何だか気に入らなくなってくる。

「そこまで言うならもういいです。
 でも、やると言った以上はやってからこの場を離れさせて貰いますっ」
「ダブルワンド? はっ、あなた初めてなんでしょう?
 わけがわからないけど、やりたいのならご自由にどうぞ」

 そう言ってセイラは自分の持っていた恐らくスペアの一本をマントから取りだしてシーナに渡した。
 ユウトの目から見ても、
 その杖がアリスやシーナのそれとは一線を画した品であることが見て取れる。

 それはシーナにも伝わったのだろう。
 シーナは明らかに対照的な杖を両手に持って詠唱を始めた。

「――hyeli isscula!」
 ばっと光ったのは片方だけだった。
「ふふ、それじゃ、その杖は出来たら上げてもいいわ。明日には返してね」
 そう言ってセイラは踵を返した。

 ユウトは茶化す生徒を尻目にシーナへ寄った。
「なあ、シーナ。意地になるのはよそう、ダブルワンドなんて俺だって見たことない」
「だめです、ここで引いたら女が廃ります。二言はないんです」
 裏庭だけあってか人の影は閑散としていて、
 シーナの気迫に居たたまれなくなった生徒たちも次々と去っていく。

     


「――……la!」
 ぱきんというおかしな音と共に不発回数が増えていくシーナ。
 初めから無理だったのだとユウトは思う。
 シーナの顔色も徐々に悪くなっている。
「ユウト……私のことは良いですから、先に――」
 首を横に振って答えるユウト。
 シーナにはもう時間の感覚がなく、十分おきにこんなことを言っている。

「――悔しい……」
 ユウトはこんなシーナを初めてみたと思う。
 日はとうに暮れ、月明かりの下でシーナとユウトだけがいる。
「……」
 途中でシーナは手洗いに行ったりしたものの、
 すれ違う生徒にまで心配されるような疲労状態だった。

「シーナ、そろそろ休まないと」
「いいえ、ユウトこそ……」
 こんなやりとりももう何回もしている。
「――……la!」
 ぽんと光る球体は両方の杖に籠もることはない。
 ユウトはそんな中、こつこつと石畳の上を歩く音が、近づいてくるのを感じていた。
「あ」
 月明かりの影から小さな声がした。そこで明かりを受けた髪が金色に漂う。
 その姿がアリスだとわかると、ユウトは聞いた。

「なにしてるんだ?」
 無神経な物言いかとも思い直したが、それも仕方のないことだろう。
「それはこっちのセリフよ。もう消灯時間も近いのに――」
 アリスは近づいて来ると、シーナがダブルワンドを構えているのを見て目を丸くする。
「は、ダブルワンド? 何のために」
「俺にもよくわからない」

「はあ、何よそれ」
 アリスはしばし考えた後、シーナのやり込みように見入ったのか口を閉ざした。
「……――la!」
「どうしてついて来なかったんだ?」
 ユウトは気になることを聞いた。アリスがもともとの原因なのは確かだ。
 それを逃げるように消えたのは腑に落ちなかった。

     


「私が何を言ったところで、あいつらは全部嘘だと決めつける。
 だから、何を言ってもいいのよ」

 どうせ嘘だったんだ、という台詞がユウトの中で反芻される。
 しかし、それだけだろうか。ユウトは釈然としない。
 アリスには自分のせいでこうなったのだという責任があるのか、シーナに静止を求めた。

「シーナ? ちょっといい?」
「あ、アリスさん?」
 アリスはシーナの驚きをよそに、こんなことを言い出した。

「ダブルワンドってことは、詠唱もダブルなのよね?
 どうして杖一本分の詠唱しかしていないのよ」
「あ……」
 ユウトは思わず納得し、声を上げる。

「私が見たダブルワンドの詠唱はね、
 声を空間に反響させてその音を補強しながら二つのスペルを同時に放つタイミングを作る感じだったわ」
「「えっ?」」
 ユウトとシーナは驚く。

「あによ、何か変なこと言った?」
「アリス、ダブルワンド出来ないんじゃなかったのか?」
 アリスは夢で自分がどのようにダブルワンドを成功させたのかを説明した。
 なるほどと二人は納得した。

「でも結局本当にはならないじゃないか」
「うるさいわね。夢で成功させました、なんて言えると思う?
 だからこれから私も練習するのよ」
 アリスがシーナを心配して来たのだと何となくわかった。

「ほら、もともとマナって大気にあるものでしょ。
 自分の中のマナも起爆剤のように使うけど――」
 夜は更けて行き、月明かりに三人の姿は裏庭に浮かび上がっていた。
 それからしばらくして、シーナがダブルワンドを成功させてしまうことをだれも予想できなかった。

     


 気がつけば空もうっすらと陽が差し、成功を終えた直後、
眠るようにして倒れたシーナだったが、驚くことに朝にはいつも通り元気だった。

「大丈夫?」
 ベッドから半身を起こすシーナにスーシィが言った。
「はい」
 アリスはユウトの横で複雑な顔をしていた。
 時折そのクリーム色の髪を指で持て遊びながら暇を持て余している。

「それにしても、ずっとそんなことをしていたなんて呆れるわ」
 スーシィはシーナの額に手をやったりしながら、調子を見て言った。

「そうよ、あの時スーシィに頼めばもっと簡単に教えてくれたんじゃない」
「まぁ、確かに私ならダブルワンドくらい出来るけど、
 そんなものをおいそれとやってしまって目立つわけにはいかないわ」

 スーシィが大人のメイジだということは三人の秘密だ。
 シーナにはこの事実を隠すようにアリスたちは適当に話題を逸らす。
「さ、支度をして行きましょ。セイラに目に物見せてやらないとっ」

 ユウトはシーナがベッドから降りると、早々に部屋から追い出された。
 廊下に出ると、二つの影が部屋の前を通り過ぎていくところだった。

「リース……」
 その背中に呟いた。
 リースはカインの元へ戻ったと聞いた。
 少し寂しい気持ちはあったものの、うまくやっているのだろうかとユウトは思う。

 カインの背中を歩きながら、リースはゆっくりと横顔をユウトへ向けた。
 その顔は最初に見た時よりも、しっかりと芯のあるものとなっている。
「……」
「――元気でな」
 廊下の角に消える二人の影――。リースは小さく微笑んでいった。

 数十分してから支度の終わったシーナが出てくる。
「ユウト、あの剣なんですが……」
「ああ、ずっと気になってたよ。ありがとう」
 部屋の隅にあったユウトの大剣。
 何やら赤い布でぐるぐる巻きにされていたが、
 シーナが持っているのなら問題はないと安心する。

 ユウトは今のところその大剣を特に必要と感じていない。
 それにこの学園では使い魔の武器にストックが許されていなかった。
 ユウトにはまだツェレサーベルの剣がある。
「そうですか、では置いておきますね」
「二人だけの秘密だぞ」

     


「はい……」
 嬉しそうなシーナの後ろからアリスたちが出てくる。
「ダブルワンドが出来ればエレメンタルに注意を引きつけておいて真逆の魔法をぶち込めるわ」
「だから何度も言うけど、敵だってただバカみたいに突っ立っているだけじゃないのよ?」

 何やら口論しているようだったが、共に教室へ向かう。
 廊下に生徒の数はなく、四人は段々と口数が減っていった。

「ちょっ――あんですって!」
 アリスは教室の中を見て愕然としていた。

 とっくにクエストは開始されており、またも受けられるクエストの数は数えるほどしかない。

「(元気でな、とか余裕こいてる場合じゃなかったのか……)」
 ユウトの悔恨をよそに閑散とした教室にて、クエストを確認する一同。


『ペベロチカの肉合成――10ポイント』
『ウォータースライムの狩猟――20ポイント』
『超遠征! ~一ヶ月は返って来られない~トゥカトゥールカの国境付近でキノコ採集――50ポイント』

「……なんなのよ、この最後のカスクエストは――」
「初期の250ポイントを取り逃したのが痛手ですね……」

「あれ、スーシィは?」
 ユウトはふと、スーシィがいないことに気づく。
「どうせ、大人の余裕ってやつでしょ。
 それより、私たち本当にこのままじゃ進級できないわよ」
「アリスさん、こっちにもう一つクエストが」

 廊下側の隅からシーナが呼びかける。
 そこだけ死角になっているのが実に怪しい。
「え?」
 今まさに『超遠征』を選ぼうとしていたアリスに待ったが掛けられて、ユウトはほっと胸をなで下ろした。

『ハルバト退治――100ポイント』
 アリスはぱっと目を輝かせる。反対にシーナは落胆した。
「これよ! これでいくわっ!」

     


「ちょちょ、ちょっと待った!」
 ユウトは慌ててアリスを止めに入る。
「ハルバトって何だか解ってるのか?
 中級モンスターのさらに上、ハンターと同レベルの肉食モンスターだぞ、
 しかも魔法も使ってくるんだぞ?」

「そんなの知ってるわよ」
「まてまて、じゃあ何で」
「私たちは高いポイントのクエストを受けていかないと進級試験の終わりまでに500ポイントが間に合わないからよ。
 当たり前でしょ」

 後何回クエストを受けられると思ってるの? と逆に叱られる始末だった。
「あのな、それで怪我でもしたら今回のクエストでポイントを貰っても、
 次のクエストを受けられないかもしれないだろ」
「うっさいわね、じゃあ超遠征にするわよ」
 一同はそこで無言になる。


「おいおい、何だ。まだ誰かいたのか」
 優雅な声が響く。
 現れたのは、金髪をさらりと流した美男子だった。
 カインよりさらに自己陶酔したような鼻持ちならない感じを漂わせる。
「げ……」
 アリスはあからさまにそいつを見て尻込みした。

「おや、アリスじゃないか」
「その後ろにいるのは――ああ、頭の良い使い魔とシーナだね」
「こ、こんにちは」
「…………」
 整った歩きでこちらへとやって来た。
 徐々にその整った面持ちがはっきりとしてくる。

 シーナは金持ちが苦手なのか、両手を胸元で結んで萎縮しているが、
 アリスは反対に威嚇するように構えていた。
「ランス。珍しいのね、一人でいるなんて」
「おいおい、冗談はよしてくれ。僕だってクエストを受ける時くらい一人に決まってるじゃないか」

 そういうとランスは顎に手を当ててクエストの一覧を眺める。
 形の良い眉は目蓋の上にすらりと直線を描いた男らしいものだ。
 目尻はしっかりし高貴な瞳を思わせ、整った鼻筋は高く、唇とよくバランスがとれていた。

 その考え込む姿はなかなかに優美でヒロイック。
 特に淡い金髪は人形のようにしなやかで、ユウトですらランスというこの男がイケていると思える。

     


「ふむ、良いクエストは残っていないようだね……おや、このクエストはなかなか良いようだ」
 するとその目先には先ほど揉めたクエストが書かれていた。

「だめよ、それは私たちが今から受けようとしているクエストなんだから」
 アリスは背中にそう言うと、彼は立ち上がってやれやれと肩を竦ませてみせる。

「なんだい、君たちこのハルバトを倒そうと本気で考えていたのかい?」
 ランスはただカマをかけただけらしい。アリスはうまく乗ってしまったことに後悔した。
「だ、だったらなんだっていうのよ」

「……、…………」「――っ、――――!」

 当然のごとく、アリスの性格からランスと口論のようになる。
 ユウトは何処か安心したような気持ちが不可解だった。

「ユウト……」
 シーナが暇となったユウトのそばにやってくる。
「どうしたのさ」
 何か怯えたようなシーナにユウトは少なからず可愛いと思ってしまう。

「ハルバトは中級クラスのモンスターなんでしょう?
 危ないと思うんです……もし、アリスさんが本気で今のクエストを受けようとしたら……」
「そうだな、でもまだ行くと決まったわけじゃ――」
「そうです……でも、アリスさんの様子を見てると、何というか――」
 二人はそのやりとりを見守った。


「――そこまで言うなら行ってやろうじゃない!」
「はぁ……、どうして君はそう短絡的なんだ」
 二人は話しの決着がついたのか、魔法陣へ乗る。

「そっちにいる君、早く来ないか」
「え? 行くのかよっ」
 あまりの急展開について行けず、ユウトはシーナの手を引いて走り出した。
 しかし、アリスは後ろにユウトがいたままだとでも思っているのか、
 そばにいた先生にお願いしますとか言っている。

「――おい、まてっ!」
「ゆ、ユウトっ、速い!」
 シーナが転びそうになったところで、ユウトは走るのを躊躇った。
 アリスは最後の一瞬だけ魔法陣から離れたユウトと目がかち合った。

 その時、目の前にぶわっと閃光が起こり、アリスとランスの姿がかき消える。
 そうして、静まりかえった教室にシーナとユウトだけが取り残されるのだった。

       

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Neetsha