Neetel Inside 文芸新都
表紙

スクウェア◆ライフ
あざとあざとさ

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「・・・・・・なんだこれは」
 目を覚ますと、そこは大惨事だった。
 黒を基調とした俺の部屋。それはいい。
 しかし黒のカーペットには酒がこぼれ、乾燥してミンクがバリバリしてる。
 ガラスのテーブルの上には空になった杏露酒のボトルが6本。
 そして―――
(俺の手を握って寝ているコイツはなんなんだ)
 少しずつ思い出してきた。
 確か昨日、どういうわけか俺の部屋でナオと飲み比べをして・・・・・・途中から記憶がない。
 そのまま寝たから服装は乱れているが、特に事故は起きてなさそうだ。
 布団をかけた記憶はないのだが・・・・・・ユキちゃんだろうか。
(・・・・・・ってことは、ユキちゃんにこの光景を見られたということじゃないか・・・・・・)
 何を言われるかわかったもんじゃない。
 それより、この現状を打破しなきゃならない。
 チラと横で寝ているナオの方を伺う。
 俺と同じように適当に寝ていたため、衣服は乱れ、胸の辺りがはだけている―――
 が、別に胸は見えない。見えてるかも知れないが、どこだかわからない。
 最初会った時にも思ったが、ナオは胸小さいな。
 触ってもわかるかどうか・・・・・・。
 ・・・・・・ん?触っても分からないなら触っても平気じゃね?
 やばいな。俺天才だ。
 やっぱり胸が無くなってたら大変だしな。これは確認する必要がある。
 なんだか自分の言ってる理論が一人称視点と二人称視点をごっちゃにしている気がするが、寝起きだからあまり難しいことは考えられない。
 まぁ本能に従って動けばいいだろ。人間だって動物だ。
 そんなわけで、俺はそろそろとナオの胸(と思しき辺り)に手を伸ばして―――
「―――イヤァ!!」
 触れたか触れないかの瞬間にスパーン!と手を弾かれた。
 ナオはそう叫んだ直後、飛びのくようにして俺から離れた。
 あ、眼が覚めた。
 あれ、俺今だいぶヤバいことしてない?
「お、落ち着けナオ!これはだな!Paseoの家主として居住者の身体に異常を発見したから、これを早急に堪忍して適切な処置を施す必要があってだな―――!」
 飛びのいて離れたナオに俺はあわてて誤解(でもないが)を解こうと必死にまくし立てたが、いきなり飛び起きた本人の目の焦点はあっておらず、なんだかまだ寝ぼけているようだ。
「・・・・・・えーと、ナオさん?起きてらっしゃる?」
 という俺の呼びかけにも応答せず、2,3回目をパチパチした後。
「なんだ―――コウイチか」
 とだけ言ってまたコテンと横になった。
「・・・・・・助かった―――のか?」
 ようやく頭が覚醒してきた。
 寝起きが悪いのは俺の悪い癖だが、今回は流石に酷かったな。
 俺はぽりぽりと頭を掻いて少しだけ反省したところで、ナオをちゃんとベッドで寝かしてやることにした。
「おい、ベッドに移すぞ」
 反応はないが、一応声だけは掛ける。
 どうやら酒強くないみたいだな。
 脇の下と膝裏に腕をまわして持ち上げる。
(軽いな・・・・・・)
 そんなどうでもいい感想を抱きながら、ナオをベッドに寝かせる。
「ううーん・・・・・・」
 苦しそうな吐息を洩らしながら寝返りを打つナオ。残念なことに、酒の匂いが混じって全然色っぽくない。
 ただ、寝返りを打った拍子に、今度はシャツがまくれへそが出ている。
「・・・・・・流石にこれは仕方ないだろ」
―――ってなんで俺言い訳みたいな事言ってんだよ。
 親切心だろ親切心。
 ・・・・・・早くシャツを戻してやろう。
 そう思って、服に手をかけようとして、ナオの背中に入れ墨みたいなものを発見した。
(マジかよ、タトゥーかよ。親からもらった体をなんだと思ってやがるんだこいつは)
 まぁ、俺もピアス開けてるけどね。
 髑髏だろうか、蛇だろうか。
 紫のタトゥーなんてきっとろくな柄じゃないだろ。
 そう思ってシャツを直してやろうと手をかけたところで、それがタトゥーなんかではないことに気がついた。

 痣、だった。

(―――は?何これ・・・・・・でかすぎだろ)
 転んだ時に打ったものではないハズだ。
 包帯を巻いているのは反対側だし。
 待て待て、思い返してみればコイツには色々とおかしいところがあった。
 転倒したというのに病院に行くそぶりは見せないし。
 雨の日を除いて、寒いというわけでもないし、むしろ暑いくらいなのに常に長そでにパンツだ。
 やたらと肌を露出したがらない。
 それは、もしかして―――
「ううー、おいコウイチ、ぶっ殺すぞ」
 いきなりの声にびくっとして意識を戻すと、ナオはすやすや寝ていた。
 寝言だった。
 物騒な寝言だなおい。
 俺はとりあえずナオにタオルケットを掛け、部屋をでる。
 ナオの体にあった痣―――それ自体は問題じゃない。
 いや、問題ではある。
 しかし本人が話さない以上、聞いてほしくないことなんだろう。
 問題は、だ。
 このことはユキちゃんは絶対に知っているということだ。
 ナオがこの家にやってきたとき、ユキちゃんはナオの手当をしている。
 その時にナオの体を見ているはずなのだ。
 

     

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「あぁ、知ってたよ」
 ユキちゃんはそれがどうした?とでも言うような感じでいけしゃあしゃあと抜かしやがった。
 そしてそれが大したことでもないかのように振り向いていた顔を再び原稿に戻した。
「知ってたなら、何で何も言わないのさ。ほら、家主として一応抑えておかなきゃだめでしょ、俺」
 Paseoの契約は俺が家主、ユキちゃんは居住者という形で住んでいる。
 家賃の引き落としやら、何か問題が起きた時の責任なんかは基本的に俺だ。
 そういう意味で、この家の家主は俺ということになっている。
 無駄にでかいテレビやら、光回線、その他諸々のインフラは共有して使うとは言えメインで使うのはどうせ俺なので金を払ってるのは俺である。
「何でって、コウちゃんそれ聞いたらどうせナオちゃんにあれこれ詮索するでしょ」
「・・・・・・まぁするだろうな。だって何も知らなきゃ、何もできないじゃないか。しってりゃ、何か力になれるかもしれないだろ」
 そこまで言うと、ユキちゃんはペンを置いて自分の肩をもみながら言った。
「『かも』ね。そうじゃない『かも』知れないことだってあるって考えた?」
「それだって『かも』だろ。だったらプラスになる『かも』しれない方のがいいじゃないか」
 俺がそう言うと、ユキちゃんは微妙にため息をついた。
 ように見えた。
「だからさ、それだってプラスなことだけじゃないじゃない。何か事情があって、それが人に知られたら嫌われるようなことだったり、自分だけで解決したいことだってあるじゃない」
「なんだよそれ。俺は何の事情があろうがそんな偏見なんて持たないし、協力できることは協力した方がいいだろ」
「そうだね、コウちゃんはそうかもね。でもそれはコウちゃん自身の事だから言えるだけであって、他の人がコウちゃんがどう思うかなんてわからないでしょ?コウちゃんのように自分に置き換えて考えるなら、自分が偏見を持つような人間だったらなおさら他の人に言えないよ」
「ナオはそんな奴じゃないだろ」
 俺がそう言いきると、今度は誰が見てもわかるように溜息をつき、こちらに振り返って言った。
「そうやって何でも自分の考えてることが正しいと思うのはコウちゃんの悪いところだよ。自信があるのはいいけど、こういうデリケートな問題はもっと客観的に見れるようになった方がいい。それに、コウちゃんってこういうデリケートな問題に関わったことないでしょ?」
 自分の考えてることが正しい?
 そんなこと思ってない。
 わかんないことだらけだ、だから知りたいだけ。
 知らなくていいことだから、自分だけ知らないで周りの人が苦しむなんてまっぴらごめんだ。
「何それ?そもそもデリケートな問題かどうかすらわかんないじゃん。だから聞いてみないことには―――」
 俺がまくしたてようとしたところで、強引に遮られた。
「だから、デリケートな問題って気づいてない時点でもう駄目なんだって。結局コウちゃんは自分が蚊帳の外ってのが嫌なだけなんだよ。コウちゃんは何でも自分が納得するまでやろうとするけど、いい加減大人にならないとだめだよ。半分社会人なんだし」
 ―――ユキちゃんの言ってることはわかる。
 でも、それが大人だっていうなら、ご免こうむる。
 そうやって納得できないことを『仕方がない』が片付けてたら、いつまでもそこから進めない。
 いつだって自分が納得するまで、たとえ自分がどんなに傷つこうがとことんやったから今の俺があるんだ。
 言いたい事は山ほどあるが、ありすぎてうまく口に出せないでいると、ユキちゃんは続けて言った。
「コウちゃん、自分がされてもいいから、他人にもしていい。なんて道理はないからね」
「―――うっさいな。いいよ、ユキちゃんには迷惑かけないから。好きにやらしてもらうよ。今までだって俺はそうやってきたし、変えるつもりもない」
 それだけ言ってリビングを去ろうとしたところ、ユキちゃんにいきなり左腕を掴まれた。
 それもかなり強く。
「変えてもらうよ。今までとは違うから。俺に迷惑掛かるんだったらいいよ。他の人に迷惑だって言ってるんだ。いい加減わかってくれないかな」
「放せよ」
「やだ」
 俺は不意打ち気味に身体を捻りながら右の拳を繰り出す。
 しかし、それはあっさりとユキちゃんに腕を掴まれて阻まれてしまった。
「コウちゃん、一回冷静になった方がいいね。腕っぷしで俺にかなわないなんてわかりきったことでしょ」
「それはお互い様でしょ。冷静にさせるつもりなら、なんで余計頭に来るような言い方しかできないかな」
「そだね。コウちゃんが馬鹿すぎて頭に来てる」
「喧嘩売ってんの?」
「教育って言ってほしいな。またアバラ折られたい?」
 あ、カチンときた。
 俺は腕を掴まれたまま、右足を繰り出す。
 今度は防がれることなく、そのままきれいにユキオのももに直撃した。
 その瞬間手の拘束が弱まった。
 俺は拘束から逃れようと後ろに下がろうとしたが、そのままユキオに突き飛ばされてしまった。
 後ろ向きに倒れ、背中を机にぶつける。
 激痛が背骨に走る。ユキオは容赦するつもりはないようだ。
 痛みの他に、右手に何か当たる感触があった。灰皿だった。
 俺は灰皿を掴むと、その中身をユキオに向けてぶちまける。
 ユキオの視界を奪ったところで、態勢を低くして近づいてアッパーを―――

 かまそうとしたところで、顔面に強烈な衝撃が走った。
 それはユキオに蹴りで、俺はそのまま横に吹っ飛ばされる形になった。
「コウちゃんさぁ―――俺に勝てないの分かっててなんで向かってくるの?納得できないから?そういうひたむきな姿勢は嫌いじゃないんだけどさ、いっつもどっか方向間違ってるんだよ。なんで身をもって知ってもやめようとしないかな」
 ユキオが何か言ってるが、頭がぐわんぐわんしててよく聞き取れない。
「それにさ、中途半端におひとよしなんだ。今だって灰皿そのまま投げればよかったのに、俺が怪我するといけないから投げなかったんでしょ?でもわかったでしょ?そんなことしても俺は手加減しないって。コウちゃんはところどころそうやって中途半端なんだよ」
 一発で手足の感覚がおかしくなった。
 本気で容赦しなかったようだ。
 ユキちゃんは強い。
 そんなことはわかりきっていたけど、分かってるからやらない、なんてスマートなことは俺にはできない。
「いいかい、この件についてはしばらく忘れて、ナオちゃん本人が何か言うまで黙ってるんだよ?分かった?」
 すでに先ほどまでの殺気じみた気配は消えて、いつものユキちゃんっぽい感じに戻っている。
 でもだからと言って、俺はほいほい自分の考えを変えられない。
 だって頑固だから。
「・・・・・・わかんねー」
 俺がそう言ったところで、ユキちゃんの表情が凍りついたように動かなくなった。
「そっか。じゃぁ一回死ぬ寸前まで行ってみれば考えも変わるかな?」
 あ、流石にこれはヤバい気がする。
 ユキちゃんの武勇伝は色々見聞きしてきたが、自分に向けられる日がこようとは。
 よし謝ろう。さすがにこれは死ぬ。
 ―――とは思うけど、どうしてか俺の目はユキちゃんを睨んだまま動かないし。口は開こうとしない。
 自分の考えは変えない。多少人の意見を聞いて軌道修正することはあっても、方向転換することはない。
 あー、でもなんでこんな意地になってんだろ。
 他のどうでもいいことならホイホイ妥協するのに。
 仕事でもないのに、こんなに意地はるのなんて久しぶりかも。
 そんなことをぼんやりと考えていたら
「え?は!?ちょっと何やってんの!?」
 そういえば、問題の中心にいた人物―――ナオが現れた。

       

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Neetsha