俺は今日告白に失敗した。
隣のクラスに居る吹奏楽部の副部長にアッサリと断られた。
ちょっと小さめの身体で、肩口まで伸びた黒髪が可愛い
女の子らしい女の子だった。
「あぁ~。ヤル気でねぇよ~」
俺はぼやきながら学校の屋上でたそがれていた。
暫く、空を見つめていると俺を呼ぶ声に気がついた。
幼馴染の女の子だった。
「どうしたんだい?家にも帰らずにこんな所で?」
「ああ~、人生の寂しさにたそがれてたんだよ。」
「あらら?君はそんな人間だったかな?落ち込んでるように見えるけど?
オネェさんに相談してみなさい!峰をかすよ!」
元気だけが取り得のような彼女に相談など普段ならしないのだが
気が滅入ってた俺は今日の事を話した。
「いやなぁ…今日、好きな子に告白したんだ…でもアッサリとフラれてさ…」
「へっ!?」
女の子が少し固まった。
「?」
「いや!へ…へぇ~。そうなんだ!そういうことか!ソレは仕方ないよ!
元気だしなよ!女はソイツだけじゃないよ!」
「…月並みな励ましありがとうよ…」
「い、いやぁ!それでも君を振ったのは正解だ!
幼馴染の私からみても君の男としての評価は低い!」
「…なんだよ…励ますのか?馬鹿にすんのか?どっちだよ?」
「いやいや!君の面倒を見れるのは私くらいだといいたいのだよ!」
「ははつ!お前かよ…こっちが願い下げだ」
突然、女の子が叫んだ。
「イタイのイタイの飛んでこい!」
男は驚いたがあきれたように返す
「…なんだよ…ソレ…」
「私が、『今の私イタイなぁ~』って時に使う逆転の呪文なのだよ!」
「呪文?どこが?」
「私には一応呪文だ!」
そういった女の子のよく解らない所は俺は嫌いじゃない。
確かに今の俺は“イタイ子”かもしれない。
なら、なおさら“イタイ”事があっても大丈夫だ、頑張れるって意味だろうか?
よく解らないが慰められている。
俺はつい笑った。
「ははっ…ありがとう。俺も使わせてもらうよ。」
「駄目!」
「へつ?」
「君はイタイ子じゃない!イタイのは私なの!」
俺は少し考えたが、答えは俺の頭より
女の子の表情に現れていた
啜って赤くなり始める鼻
滲み出る涙。
流石にそこまで愚鈍じゃない俺は
どういう状況なのか気付いたはいいが、
困惑してしまい、
「…ゴメン…なんか悪かった…」
謝ってしまった。
「謝るな!ばか!」
堪えていたのだろうか、女の子の顔から感情が噴出した。
怒っているのか。悲しんでいるのか判らないその表情は
俺の胸に深く突き刺さった。
思わず俺は女の子を抱きしめた
「イタイのイタイの飛んでいけ!」
俺は女の子を抱きしめながら叫んだ
女の子は俺を振り解こうとしたが俺は離さない。
「イタイのが好きな奴なんているかよ!イタイ事は全部、吐き出しちまえ!
確かに俺が悪かった!だけど知らねぇ事だってあるんだよ!
イタイの来いなんてふざけた事言って強がってんじゃねぇよ!
俺が悪かった!気付けなくて悪かった!だから
イタイのイタイの飛んでいけ!」
俺は自分でも良く解らない事を叫んでいた。
しかし女の子は抵抗するのをやめ、鼻を啜りながら話はじめた。
「意味解んないよ…ばかぁ…そんな子どもの呪文なんて…」
「これだって一応呪文だ、立派な呪文だ!だから泣くな!
俺で良かったら傍にいてやる!ずっと居てやるから!」
「ひっく…振られた奴が粋がんなよぉ~…」
「そうだな…お前は振られてねぇからな…今さっき振られたくせに
俺はお前の良さに今気付いたからな。
格好悪いけどお前の気持ちは受け取るよ。
だからイタイのは飛んでこねぇよ。」
「…じゃあ私も言う…」
「うん?」
「…イタイの…」
「おう!」
「イタイのイタイの飛んでいけ!!」
夕空に女の声が響いた。
俺たちから“イタイ”気持ちが消え去った。
でも“イタイ”カップルが生まれた。