Neetel Inside 文芸新都
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文藝瞬発創作企画
02『イタイのイタイの飛んでいけ』   作:虎政

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俺は今日告白に失敗した。
隣のクラスに居る吹奏楽部の副部長にアッサリと断られた。
ちょっと小さめの身体で、肩口まで伸びた黒髪が可愛い
女の子らしい女の子だった。

「あぁ~。ヤル気でねぇよ~」

俺はぼやきながら学校の屋上でたそがれていた。
暫く、空を見つめていると俺を呼ぶ声に気がついた。
幼馴染の女の子だった。

「どうしたんだい?家にも帰らずにこんな所で?」

「ああ~、人生の寂しさにたそがれてたんだよ。」

「あらら?君はそんな人間だったかな?落ち込んでるように見えるけど?
 オネェさんに相談してみなさい!峰をかすよ!」

元気だけが取り得のような彼女に相談など普段ならしないのだが
気が滅入ってた俺は今日の事を話した。

「いやなぁ…今日、好きな子に告白したんだ…でもアッサリとフラれてさ…」

「へっ!?」

女の子が少し固まった。

「?」

「いや!へ…へぇ~。そうなんだ!そういうことか!ソレは仕方ないよ!
 元気だしなよ!女はソイツだけじゃないよ!」

「…月並みな励ましありがとうよ…」

「い、いやぁ!それでも君を振ったのは正解だ!
 幼馴染の私からみても君の男としての評価は低い!」

「…なんだよ…励ますのか?馬鹿にすんのか?どっちだよ?」

「いやいや!君の面倒を見れるのは私くらいだといいたいのだよ!」

「ははつ!お前かよ…こっちが願い下げだ」

突然、女の子が叫んだ。

「イタイのイタイの飛んでこい!」

男は驚いたがあきれたように返す

「…なんだよ…ソレ…」

「私が、『今の私イタイなぁ~』って時に使う逆転の呪文なのだよ!」

「呪文?どこが?」

「私には一応呪文だ!」

そういった女の子のよく解らない所は俺は嫌いじゃない。
確かに今の俺は“イタイ子”かもしれない。
なら、なおさら“イタイ”事があっても大丈夫だ、頑張れるって意味だろうか?
よく解らないが慰められている。
俺はつい笑った。

「ははっ…ありがとう。俺も使わせてもらうよ。」

「駄目!」

「へつ?」

「君はイタイ子じゃない!イタイのは私なの!」

俺は少し考えたが、答えは俺の頭より
女の子の表情に現れていた
啜って赤くなり始める鼻
滲み出る涙。
流石にそこまで愚鈍じゃない俺は
どういう状況なのか気付いたはいいが、
困惑してしまい、

「…ゴメン…なんか悪かった…」

謝ってしまった。

「謝るな!ばか!」

堪えていたのだろうか、女の子の顔から感情が噴出した。
怒っているのか。悲しんでいるのか判らないその表情は
俺の胸に深く突き刺さった。

思わず俺は女の子を抱きしめた

「イタイのイタイの飛んでいけ!」

俺は女の子を抱きしめながら叫んだ
女の子は俺を振り解こうとしたが俺は離さない。

「イタイのが好きな奴なんているかよ!イタイ事は全部、吐き出しちまえ!
 確かに俺が悪かった!だけど知らねぇ事だってあるんだよ!
 イタイの来いなんてふざけた事言って強がってんじゃねぇよ!
 俺が悪かった!気付けなくて悪かった!だから
 イタイのイタイの飛んでいけ!」

俺は自分でも良く解らない事を叫んでいた。
しかし女の子は抵抗するのをやめ、鼻を啜りながら話はじめた。

「意味解んないよ…ばかぁ…そんな子どもの呪文なんて…」

「これだって一応呪文だ、立派な呪文だ!だから泣くな!
 俺で良かったら傍にいてやる!ずっと居てやるから!」

「ひっく…振られた奴が粋がんなよぉ~…」

「そうだな…お前は振られてねぇからな…今さっき振られたくせに
俺はお前の良さに今気付いたからな。
格好悪いけどお前の気持ちは受け取るよ。
だからイタイのは飛んでこねぇよ。」

「…じゃあ私も言う…」

「うん?」

「…イタイの…」

「おう!」

「イタイのイタイの飛んでいけ!!」

夕空に女の声が響いた。
俺たちから“イタイ”気持ちが消え去った。
でも“イタイ”カップルが生まれた。

       

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