男は、いつもの如く彼女の作った弁当を加古川沿いの土手で食べ、ベンチで一息ついていた。
温かいペット緑茶を一口飲み、携帯を開き、時間を確認する。
「まだ客先行くまで大分時間はあるわ・・・あ、あのスレ進展あったんかな」
スーツの上に着ていた営業用ジャンパーを膝に掛け、携帯からパート速報VIPを開く
冷たい川沿いの風が、およそ営業には似つかわしくない、耳に掛かる程の淡い茶色を含んだ彼の長髪を撫ぜる。
それを掻き分け男はベンチに座ったまま携帯を眺める。
彼の癖なのか、ずっと尖らせていた口元はやがてすぐに緩み、独り言を漏らした。
「ああ?wなんやこれwこのスレ主ほんまなっさけないなあw」
その後、男は軽く興奮した様子で携帯に文字を打ち込んでいる。
何度か送信を繰り返したかと思えば、次は通話を開始し始めた。
「ああwどない大阪は?はあ、ほんまにぃ、いやいやそんなんよりもな、あんた工学系やんか?
ちょっと教えて欲しいねんけど時間いける?」
親しい友人と話しているのだろうか、目が懐かしさを含んだ細い目になっている。
「幅がどうとか・・」
「500tプレスがな・・・」
「そうやねん、詳しい話が俺は分からへんからコピペしてメールで送るから計算してくれへん?」
「ほんで彼女とうまいこといってんのん?」
「いや・・・まぁ・・wwwそやねんww」
「ほな頼むでw孔明w」
幾度かのやり取りを経た後、男は携帯を閉じた。
彼の後ろを写生大会の中学生達が通り過ぎる。
男の背は、中学生達と変わらない程の低さだ。
だがその肩幅と上半身の大きさは、中学生のそれとはまるで別物のように見える。
鋭い目つきと切り上がった眉は、彼の人生経験の豊富さと潜り抜けた修羅場の多さを物語る。
28という年齢よりも若く見える彼は、困ってる人を見るとただではおかない。
否が応でも親切の押し売りの如く助けるのみ。
かつてパー速でとあるVIPPERを、自身の持つ人脈と腕力でリアルで助けた事のある彼は、
今またとある凹を救おうとしているどうしようもないお節介VIPPER
プリキュアと仮面ライダーをこよなく愛するどうしようもない反社会的会社員。
後に「スネーク急便」として凹の人生に深く関わってくる男なのである。