ここはとある独裁国家の研究所。完全防護服を着た研究者が電子顕微鏡でシャレーの中をのぞいている。この研究者が見ているものはウィルスであった。
この研究所は生物兵器の開発を行う研究所なのだ。この研究者はウィルスに関する研究をしていた。この研究所は普通の研究所とは違う。この研究所は反体制派の人間を使った人体実験ができるのだ。
研究者はウィルスを投与すべく、実験体がいる部屋へと向かった。看守達に声をかける。
「実験をしたいので実験体を連れ出してもいいかね」
看守はうなずき、部屋の扉を開けた。実験体たちは、おびえていた。一人の看守がその中から適当に選び出し、外に出した。
その時である。逃げ出したものがいた。看守は頭に向け銃を撃った。実験体は頭から血を流し、倒れた。そして、
「やれやれ、片づけが面倒だ。それに上司に怒られてしまうな」
とつぶやいた。そして、部屋から実験体を補充した。
看守と研究者は実験室へと向かった。研究者にも拳銃が渡されている。実験室まではそれほど距離がない。研究者はよく実験体を観察した。若いのもいれば老いているのもいる。どういう違いが出るか、研究者には楽しみでしょうがない。
実験室は、完全に密閉されている。酸素は、自動的に供給される仕組みになっているので普通なら一月ぐらい過ごせる。もちろん水と食料もある。が、研究者の記録では五日以上ここに過ごしたものはいない。
研究者は実験体に注射をし始める。抵抗するものには拳銃を向ける。注射が終わったものは実験室に押し込む。そして外側から鍵をかけた。実験室はガラス張りで実験体がよく見えるようになっている。また監視カメラもある。
研究者は実験が始まると、ここに住み込みで観察する。実験室の前から一歩も離れない。机や椅子、寝袋を実験室の前におく、机と椅子は記録をとるため、寝袋は睡眠をとるためだ。
いつも研究者は目を見開いて、ガラスに顔をつけて観察した。
やがて、体に気味の悪い模様が出始めると、実験体はガラスを叩いたりして、出ようとする。また暴れたりする。どれだけ痛みがあるかよく分かる。研究者は微笑しながらその光景を観る。
最後の実験体は研究者に哀願した。特効薬を打ってほしいのだろう。が、残念ながらそれはまだ開発中だった。あとどのぐらいで完成するか、研究者が考えているうちに散々苦しみながら最後の実験体は息絶えた。
今回のウィルスは即効性だったので、一日もしないうちに実験体は全滅してしまった。研究者は物足りない感じがした。それに自分の予想が外れたのに落胆した。予想では明日の朝までもつはずだった。
研究者は実験室の空気を洗浄し、部屋の中へと入った。そして、実験体の体の一部を収集した。貴重な資料となる。
そして記録をよくみる。年齢や、性別で違いは出たか。出たとしたら何が原因か。男の興味はどんどん膨らんでいくのだ。
研究者はそんなことを毎日のようにしていた。が、時は流れ、やがてその研究所にも終わりが来た。独裁国家が崩壊してしまったのだ。
占領軍が、研究所での非人道的な人体実験を発見した。研究者は逮捕され、死刑を宣告された。
また占領軍はこの研究所を大々的に宣伝した。この研究所は悪の独裁国家の象徴となった。
だが、しかし話はここで終わりではない。この研究者の研究はとてつもない成果を生み出した。研究者の研究から偶然にも癌を完治させる効果のあるウィルスが発見された事が分かった。
最初のうちはそれでもこの研究者のことを非難する人間が多かった。だが、やがて悲惨な人体実験の記憶はどんどん薄れていった。もう研究者の研究で人が死ぬことはないのだ。そして今や、たくさんの人々が男の研究で助かっている。批判しているものの中にも男の研究で救われたものがいるのだ。
やがて、国際機関から男に対して、勲章が授与された。当然のことと言えよう。研究者の研究によってたくさんの命が救われたのだ。それに人体実験が行われたのはもう数百年前なのだ。無論犠牲になった人々はたまったものではないが……。