Neetel Inside 文芸新都
表紙

鳳龍院シャドウの戦い
プロローグ

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「なあ、何でいじめって起こるのだと思う?」
岡田にふいにそう訪ねられたのは、放課後のことだった。
僕は、放課後だというのに、未だに教室に残っていた。
別に何かしらの用があって教室に残っているわけではない。
ただ家に帰ってもすることがないから教室にいる。ただそれだけ。
教室は二年なので二階で、僕の席は、窓側の後ろから三番目の席。
その席で僕は机に俯せながらただ時間が過ぎていくのを感じていた。
窓の外からは、色々な部活の掛け声やら怒声が聞こえてくる。
そんなとき、岡田からいきなり話しかけられたのだ。
俯せ状態から顔を上げると岡田は僕の前の席に座って、僕を真正面から見つめていた。

それにしても、いきなりそんな事を尋ねてくるなんて、こいつはいじめられているのだろうか。
「言っておくけど、俺はいじめられたりなんかしてねえぞ」
岡田は、僕の心を見透かして言った。
内心ビクッとしたが、平静を装い、岡田の質問を真剣に考える事にした。
しかし、何故いじめについてなんか聞くのだろうか。
いじめなんてただの自然現象だ。
起こるところでは起こるし、起こらないところでは起こらない。
台風みたいなもの。当たったらご愁傷様。残念でした。来世では頑張ってね。……と、そんなもん。
自然現象だから、防ぎようない。

しかし、岡田にこんなこと言ったって、「この屁理屈ヤロー」とか言われるのが落ちだ。
さて、この質問に対するベストアンサーは何だろうか?
岡田をチラリと見る。
岡田は何時になく神妙な顔つきで僕を見ていた。
僕は、気まずくなって、視線を外に移した。
空は、薄く伸びた雲がオレンジ色に輝いている。
ふと、下を見ると、サッカー部が練習試合をしていた。
緑のユニフォームは三年生、青のユニフォームは一年生が着ている。
圧倒的な力で緑のユニフォームもとい三年生達がシュートを決めていっている。
早くも点数は12対0になった。
これも一種のいじめと言うのだろうか?

サッカー部のチート過ぎる試合を見るのに飽きた僕は、再び岡田の方に向き直った。
「で、なんでいきなりいじめについてなんか聞いてきたんだ?」
岡田は、困ったように眉尻を下げ、表情を曇らせた。
岡田はいつもそうだ。自分から話題を持ちかけておいて、肝心なことを聞くと聞くのを躊躇うような困った顔をする。

前に、そんな顔をするなら最初から話すな、と言ったことがある。
そしたら岡田は、少し怒ったように「言わなきゃ誰も俺を理解してくれない」と嘆いた。


僕が黙っていると。ようようと岡田が話し始めた。
「今、このクラスでいじめがある事知っているだろ?」

僕はただ「ああ」と答えた。

確かにこのクラスではいじめが起きている。
しかし、そのいじめ=自然現象に当てはまらない希有な例だ。
つまり、自分のせい。難しい言葉を使うと因果応報。

「なあ、このままでいいのか?」
岡田は問う。
いいんだよ。声には発さず自分の心に言う。
「うーん、って言われてもなあ」
僕は、はぐらかすように曖昧な返事をした。
「俺はいやだ、クラスでいじめが起きているなんて最悪な気分だ」
岡田な、吐き捨てるように言った。
僕はため息をついた。
岡田の性格は一言で言うとまじめ。
そんな性格は僕と出会ったころ、中学二年生の頃からずっと変わっていない。
「僕だっていじめはいやだよ?でもさ、仕方ないじゃん当の本人があれなんだし」
僕らが、いじめ良くない、なんて言おうと当の本人があのままだったら、いじめがやむことはないだろう。
「だからお前に聞いてるんだよ」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故僕に?
……まあ、理由は分からなくもない。
「お前は経験者だろ?」
追い打ちをかけるように岡田は言う。
経験者?どっちの?
無論どっちもだってことは分かる。ただ心が否定したいだけ。
「元いじめられっこ兼厨二病患者に聞いてるんだよ」
頭に強い衝撃がきた。もちろんそれは直接的な痛みじゃなくて間接的なほう。

膝ががくがくして、口がぱさぱさに乾く。
僕のそんな状態を見て、岡田は顔を青くして謝ってきた。




僕のクラスではいじめが起きている。
一人の少女が『アリス』と自分を名乗り。
わたしは異空間からとばされてここに来た。
私は聖なる秘宝『エレメンタルフォース』を探している。
などを言い。クラス中から疎まれている。
最初は避けられているだけだったのだが、最近に入って椅子に画鋲だとかカミソリレターだとかの古典的な嫌がらせに発展していった。
本人はそれを悪魔からの罠だとかゴブリンの悪戯だとか訳の分からないことを言い。自分がいじめられているという状況から現実逃避をしている。

そして最悪なことに、この状況は僕の三年前の中学二年生の時の僕の状況の酷似している。
僕はある事件を元に厨二病から抜け出すことができた。
失った代償は大きかったけど……。


つまり、結論から言うと、僕は他人の厨二病に関わっている暇なんて無いって事だ。



     





岡田と別れた後、僕はすぐに家に帰った。
家に帰っても何もすることはないのだが、それでも早く家に帰って、自分の部屋に閉じこもって、毛布にくるまることにした。
自分の精神を落ち着かせるには、部屋に閉じこもり外界からの影響を全部シャットダウンすることが一番良いと知った。
しかし、閉じこもり過ぎは良くないことも同時に知った。
あまりにも退屈な時間が続くため、色々な自己嫌悪に走りやすいからだ。
なんで僕は、みんなが部活に精を出している時間に引きこもっているのだろう。とか、クラスの吉村なんか今頃デートしているだろうに何で僕はディスプレイに向かってキーボードをカタカタと鳴らしているのだろうかなど。
考えているだけで鬱になりそうだ。
僕はこの鬱々とした気分を晴らすために、近くの公園に向かうことにした。



公園の名前は『芳野公園』。
公園だというのに遊具がブランコ一個しかない、そしてそのブランコさえも錆び付いていて、すぐに壊れてしまいそうな代物である。
非常にやる気のない公園だ。
そのせいか、今まで公園で誰かが遊んでいるところを一回も見たことがない。


しかし、今日の公園には先客がいた。
ブランコと格闘している女がいる。

女が蹴る度にブランコがガシャコンガシャコンと揺れてる。
良い蹴りだなあ……。
はじめに浮かんだのは、そんな下らない感想だった。

「てりやああああああああ」
女は掛け声を上げると共に、上げた脚を思いっきり振り、ブランコに会心の一撃を与えた。
凄まじい音と共にブランコは崩れ落ち、壊れた。

女は壊れたブランコを見て、「たわいもないな魔獣ケルベロス、貴様如きが私に勝てるわけないだろう?」と言った。
そのまま踵を返して女はことらに向かってくる。
僕は、訳の分からない展開に脳がついていけず立ちつくしていた。
女が僕の横を通り過ぎようとした瞬間になんとか僕は我に返り、女の手首をつかむことに成功した。
「おまえなにやってんの?」
僕が、尋ねると、女は冷静に言った。
「私は魔獣ケルベロスを討伐した。ただそれだけだが何か?」
いや、だからその魔獣ケルベロスってなんだよ。ていうかブランコだろ?ここってブランコのことを方言で魔獣ケルベロスって言うんだったっけ?
だいたい、この女格好からして怪しい。
黒のローブみたいなものを羽織って、顔の半分をシルクハットで隠している。
髪の長さと声から判断して女だと分かったけど。どうみても変質者だ。
「そろそろ離してもらおうか、私にはまだまだやるべきことがある」
そう言って、女は僕の手を無理矢理解いた。
「ちょ……ちょっと待てよ」
僕は女の肩を掴んでこちらに引き寄せた。
しかし、女が暴れてバランスを崩し、僕にのし掛かってきた。
「きゃっ……」
「うをっ……」
体を地面に打ち付け、腰を強打したため、腰がめちゃくちゃ痛い。
苦痛に耐えながらなんとか目を開けると、シルクハットがとれて、素顔を表した女がいた。

「佐藤……真理……」

倒れた拍子に打ったであろうおでこをさすりながら涙目になっている変質者女は……





いじめられっ子の『アリス』だった。

       

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