美少女70万人vsタクヤ
第十二話@収束する者(シーザー)
第十二話「シーザー」
閉塞された空間。タクヤの力によってそこにある四つの呼吸が木霊していた。
「はぁぁっ――」
みつきは正拳を放つ。鮮やかな体の捌きで結衣はそれを躱す。
――シュッ。
何度目の投擲だろうか、結衣は攻め倦ねていた。小型ナイフは弧を描き、みつきの体に弾かれる。
修羅の創造と不変の創造を併せ持つみつきは最強最悪の能力を有していたのだ。
「体捌きだけで私の攻撃を去なし続けるなんて、何者?」
「……」
結衣に答える余裕はない。みつきの拳は結衣の足元でコンクリートを粉砕した。
一撃でも食らえばそこで自分は戦闘不能になるだろうと結衣は確信する。
結衣が今まで攻撃を食らわないでいられたのは、
格闘技の経験者であるが故に型に嵌りすぎているみつきのためだ。
達人という域ならまだしも、中堅クラスというそれが、みつきの行動を合理的、かつ模範的なものにしていた。
幸い地形に優劣はなく、結衣の圧倒的センスと身のこなしがみつきを上回っていた。
――シュッ。
高炭素鋼線を尾につけたナイフを投擲する。
「小癪な」
みつきはそれを蝿でも払うかのようにはじき飛ばした。
ふらふらと不規則な軌跡を描いてそれは地面に落ちた。
「そろそろ何か感じないか」
「……?」
よく見ると結衣の体が何かを反射するように所々光っている。
「なんだっていうの、その体についてる光のこととでもいうわけ?」
そう言いつつ、一歩踏み出そうとしたところでみつきの後ろ足がくんっと引っ張られる。
「……!」
振り返ろうと体を反転させると、今度は腕が引っ張られ、みつきは重心を崩す。
「きゃっ」
むすっと尻餅をついたところで、自身の体に巻き付く細いピアノ線のようなものに気がついた。
「やっと見えたか。それが今回の作戦の一旦、対みつき用の仕掛けだ」
腕や脚に絡む線は結衣の体の節々に繋がっていた。
「……あはは」
閉塞された空間。タクヤの力によってそこにある四つの呼吸が木霊していた。
「はぁぁっ――」
みつきは正拳を放つ。鮮やかな体の捌きで結衣はそれを躱す。
――シュッ。
何度目の投擲だろうか、結衣は攻め倦ねていた。小型ナイフは弧を描き、みつきの体に弾かれる。
修羅の創造と不変の創造を併せ持つみつきは最強最悪の能力を有していたのだ。
「体捌きだけで私の攻撃を去なし続けるなんて、何者?」
「……」
結衣に答える余裕はない。みつきの拳は結衣の足元でコンクリートを粉砕した。
一撃でも食らえばそこで自分は戦闘不能になるだろうと結衣は確信する。
結衣が今まで攻撃を食らわないでいられたのは、
格闘技の経験者であるが故に型に嵌りすぎているみつきのためだ。
達人という域ならまだしも、中堅クラスというそれが、みつきの行動を合理的、かつ模範的なものにしていた。
幸い地形に優劣はなく、結衣の圧倒的センスと身のこなしがみつきを上回っていた。
――シュッ。
高炭素鋼線を尾につけたナイフを投擲する。
「小癪な」
みつきはそれを蝿でも払うかのようにはじき飛ばした。
ふらふらと不規則な軌跡を描いてそれは地面に落ちた。
「そろそろ何か感じないか」
「……?」
よく見ると結衣の体が何かを反射するように所々光っている。
「なんだっていうの、その体についてる光のこととでもいうわけ?」
そう言いつつ、一歩踏み出そうとしたところでみつきの後ろ足がくんっと引っ張られる。
「……!」
振り返ろうと体を反転させると、今度は腕が引っ張られ、みつきは重心を崩す。
「きゃっ」
むすっと尻餅をついたところで、自身の体に巻き付く細いピアノ線のようなものに気がついた。
「やっと見えたか。それが今回の作戦の一旦、対みつき用の仕掛けだ」
腕や脚に絡む線は結衣の体の節々に繋がっていた。
「……あはは」
「何がおかしい、もう動けないはずだ」
みつきの体に果たしてそれで通用するのかどうかはわからなかったが、
体が不変の創造効果を得ているのなら、もう微動だにできない状況であろうと思われた。
いくらこの強化型ステンレス線が像でも契れない代物でも今のみつきに長く通用するとは考えにくい。
「…………(ナミ、早くして)」
一方でナミは不変の創造主である鈴音をなんとかしなければならなかった。
一言で言えば鈴音の動きは初心者。対してナミは知識である武術や体術がそのまま応用、投影できるため制圧は簡単に思われた。
しかし、ナミは鈴音に触れることができない。
出来ているのは辛うじて結衣たちの戦いに鈴音を介入させないことだけだった。
「空間の光を屈折させて不可視にさせることができるなんて、この力がなかったら勝負にならなかったわ」
現に鈴音の両眼にナミの姿はなく、また結衣たちの姿もなかった。
――タン、タン、タン。
何処からともなく繰り出される攻撃に鈴音の体はびくともしない。
ナミの一撃は全て急所への一撃だというのにだ。
「……やはりだめですか」
一切を受け付けない鈴音の身体。ナミは諦めた様子で姿を現した。
「…………」
「やっと諦めたの?」
「ええ、あなたとは元から戦う必要などなかったようです」
「――へえ」
鈴音の口元がつり上がる。
「どちらにしろ、あなたには攻撃の手段など存在していない。倒せない敵は倒さないだけです」
鈴音はもう歪む顔を隠さず、ナミに向かって走り出す。
「じゃあ、あなたは倒されるのね」
『不変の創造(エターナルクリエイト)――』
ナミに回避の選択肢を与えないため、鈴音はナミの体の周りに不変を施す。
それと同時に鈴音は異変を感じた。
「な――くっ、はっ――?!」
後数歩というところで、鈴音の身体はナミの足元に崩れた。
「あ――、うっ」
充血していく目は必死に何かを求めてた。
何が何だかわからないまま、鈴音はそのまま沈黙した。
「ふう……」
鈴音が気を失ったことで、不変の創造が解ける。ナミは勝利したのだ。
鈴音の体が徐々に赤く腫れていく。
原因はナミが不変を施された時、ナミは自分の回りの大気密度を変えたからだ。
ほとんど無酸素、深空状態になった空間で鈴音は窒息したというわけである。
当然、急激な変圧によって目は充血し、体内の細胞、血管、血液のいくらかは破壊されることとなる。
「――あなたの落ち度は人間をやめなかったことです」
ナミは一人そう呟いた。
鈴音は自身に不変を施して置きながら、その実、生命原理である呼吸や食事などを無くすことは考えていなかった。
創造の矛盾がここに発生するのである。
つまり、鈴音の具現していた不変は表層的なものに留まっており、
ナミはそこを見逃さなかった。
一方で、結衣のほうはみつきの修羅の創造であるその実体に息を呑んでいた。
「…………」
巻き付いたステンレス線は当に体に食い込んでおり、
出血もおおよそ普通の人間が流すような量は当に超えていた。
しかし、みつきの顔色は衰えず、むしろ楽しんでいるようだった。
「はッ――」
鈍い音がして、結衣の脇に拳がかする。
「ぐっ」
続いて回し蹴りがくるパターンはもう既に読めているのに体がついてこない。
ガードなどという選択肢を選ぶくらいなら結衣は潔く死んだ方がマシだと思える。
――ドシャ。
無理矢理捻りを加えた体が、そのバランスに耐えきれず崩れる。
当然、そこをみつきが逃がすはずはないのだが、みつきは動かないでいた。
「相手の足にナイフ突き立てるなんて、どういう戦い方を学んだわけ?
戦闘訓練でもしてたみたいじゃない」
ざくりと自分の足からおもむろにナイフを抜き捨てる。
「今のナイフは毒塗りだ。ただのナイフじゃない」
結衣は大型のナイフをあんな土壇場で捨てるような真似をしたことを小さく後悔したが、
毒なんかが今の相手に通用するだろうかとも考えていた。
「何も感じないけど?」
みつきは無心の状態で常に修羅の創造を行っている。
結衣は消耗戦を覚悟した。
ナミが来ない今、自分に出来ることは時間を稼ぐことくらいだと思ったからだ。
からからとナイフが地面を伝って行き、何かの影に当たった時だった。
「こんにちは」
二人の視線がまるで、幻覚でも見るかのように見開かれた。
少女は初めからそこにいたように、ナミを後ろに従えて悠々と構えていたからだ。
「どういうこと……?」
結衣の言葉も虚しく、響いたころ少女がナミに落ち着いた態度を見せる。
「――ナミ、あの二人を制して」
落ち着いた口調、とりとめのある物言いによって、その影は動いた。
ゆっくりと、そして流麗にナミは両手を二人に向けるとおもむろにそれを発動する。
「――加圧、500kPa……」
きぃんという耳鳴りと共に肩からのめりめりという音が突然響いた。
そこで結衣の意識は途切れる。
「……」
大気が凝縮し、蒸し上がるような暑さが二人を襲う。
「……く、あぁっ――」
真っ先に倒れたのは結衣だったが、みつきは膝を突きながら唸っていた。
「凄い子……、ナミ」
「――twice」
ドンッと地面のコンクリートが鳴った。そこでみつきはくしゃりとその体を折り、ついには沈黙する。
そして事態はこの突然の乱入者に任されることとなった。