美少女70万人vsタクヤ
第十四話@可逆記憶(タイムクリエイト)
第十四話「タイムクリエイト」
柊みつきは幼少の頃から父に相手にされることがなかった。
それは彼女の中で一つの事実を醸成していった。
『私は、父に嫌われている』
そんな中、みつきはある日男の子にいじめを受けることとなる。
「お前のその長い髪がうざいんだよっ」
長いと言っても肩くらいまでの長さしかないのだが、
それでもみつきにとってその男の子の言ったことと、
ただそれだけの理由で叩かれたのがショックであった。
父にも同じことを言われるのではないかという強迫観念が、みつきの中でわき起こる。
「お母さん、私の髪、変かな……」
母はそんなことはないよと慰めてくれたが、みつきの不安は払拭されることはなかった。
「やーい、ながかみ女」
5つにも満たない幼児の煽り。
先の男の子は幼稚園という集団の中で、執拗にみつきをそう言ってからかう。
しかし、みつきは我慢強い子であった。
「…………」
何を言っても反応しない、という存在は子供達の中で好奇の的になるのにそう時間はかからなかった。
「それっ」
「やぁ――」
行為は次第に言葉だけでは足らず、物を投げつけられたり、髪を引っ張られたりなどのものにエスカレートしていった。
「こらっ! やめなさい!」
砂場で遊んでいたみつきの顔面に泥の塊を投げつける名前も知らぬ男の子。
幼稚園での先生は事ある度にこれを諫めるが、それは一時なものだ。
みつきの男に対する嫌悪心は急速に蓄積されていった。
そんな日が続き、みつきが6つになった時だった。
母の計らいで、幼稚園を休んで誕生日パーティが開かれた。
「誕生日おめでとう、みつき」
みつきがもらったのは可愛い蝶々の髪留め。
「わぁ、ありがとう!」
ガラス細工で綺麗に装飾されたそれは、意外にも父から手渡された。
『お父さんが、私にプレゼントをくれた!』
みつきが人生で一番嬉しいと思った時だった。
そのプレゼントはすぐに次の日からみつきの頭に留まった。
柊みつきは幼少の頃から父に相手にされることがなかった。
それは彼女の中で一つの事実を醸成していった。
『私は、父に嫌われている』
そんな中、みつきはある日男の子にいじめを受けることとなる。
「お前のその長い髪がうざいんだよっ」
長いと言っても肩くらいまでの長さしかないのだが、
それでもみつきにとってその男の子の言ったことと、
ただそれだけの理由で叩かれたのがショックであった。
父にも同じことを言われるのではないかという強迫観念が、みつきの中でわき起こる。
「お母さん、私の髪、変かな……」
母はそんなことはないよと慰めてくれたが、みつきの不安は払拭されることはなかった。
「やーい、ながかみ女」
5つにも満たない幼児の煽り。
先の男の子は幼稚園という集団の中で、執拗にみつきをそう言ってからかう。
しかし、みつきは我慢強い子であった。
「…………」
何を言っても反応しない、という存在は子供達の中で好奇の的になるのにそう時間はかからなかった。
「それっ」
「やぁ――」
行為は次第に言葉だけでは足らず、物を投げつけられたり、髪を引っ張られたりなどのものにエスカレートしていった。
「こらっ! やめなさい!」
砂場で遊んでいたみつきの顔面に泥の塊を投げつける名前も知らぬ男の子。
幼稚園での先生は事ある度にこれを諫めるが、それは一時なものだ。
みつきの男に対する嫌悪心は急速に蓄積されていった。
そんな日が続き、みつきが6つになった時だった。
母の計らいで、幼稚園を休んで誕生日パーティが開かれた。
「誕生日おめでとう、みつき」
みつきがもらったのは可愛い蝶々の髪留め。
「わぁ、ありがとう!」
ガラス細工で綺麗に装飾されたそれは、意外にも父から手渡された。
『お父さんが、私にプレゼントをくれた!』
みつきが人生で一番嬉しいと思った時だった。
そのプレゼントはすぐに次の日からみつきの頭に留まった。
早起きして、母の朝食作りを手伝い、父に見て貰うべく席に着いた。
「お父さん、おはよう」
父の姿を見るなり、みつきは髪留めをした姿でそう言った。
「ああ、おはよう。よく似合っているね」
「うふふ、ありがとう」
みつきの身長からは父の顔に一瞬影が差したことなど、よくわからなかった。
ただ、みつきはこの時初めて父に受け入れられたのだと錯覚する。
「おい、なんだよこの髪留め」
真っ先に目をつけたのは例の男の子『たち』だった。
彼らは一つのグループとなっていた。3人の男のたちがみつきを取り囲む。
「やだ――、触らないで……」
すぐにそれがみつきの大切なものだと理解したのか、男の子たちは今までにない、その怯えた目をみて笑った。
「やーだよ!」
そう言ってちょんっと触る。
「いやぁ!」
「「あははは」」
その反応が面白いのか、男の子たちは盛り上がった。みつきが涙を流すことも無視して。
「やめろー!」
突然みつきとの間に入ったのは、見たことのない男の子だった。
「んあ、あんだよお前」
「この子泣いてるだろ、どうしてそんなことするんだよ」
「お前には関係ないだろ。来たばっかのくせにナマイキだぞ、たくや」
「なにを!」
次の瞬間、ばこっという軽快な音がした途端、みつきの髪留めを触った男の子の一人が尻餅をついた。
「おまえ~、やったな!」
いじめグループの一人が反撃で繰り出した拳を、目の前の子は子供とは思えぬ動きで躱し、懐に膝を入れた。
「ぐゅはっ」
今まで聞いたこともない声を出しながら、男の子は地面でもんどり打った。
「ゲホッ、ゴホッ。うわぁぁん、いたい、いたいよぉ~!」
その尋常ならざる叫び声に慌てて先生が駆けつけてきた。
「一体どうしたの!」
先生に問い詰められ、はっきりとたくやという子は言った。
「この子が怒ってその子を蹴った」
「――は?」
「ぇ……」
先生が来た頃には、たくやはみつきの後ろにいたので、何も裏をとる方法がない。
「みつきちゃん、そうなの?」
先生はみつきの顔を真摯に見つめて言った。
「(うんって言わないと、あの男の子にまた嫌なことされるよ?)」
みつきは後ろで聞こえた声に戸惑いながらも頷いた。
「まあ――!」
先生は意外というか、まさかといった面持ちで呆気なく信じた。
それは恐らくみつきの泣きはらした顔と、
たくやの傍観者のような悠長な態度が、大人の邪推を裏付けたためだろう。
『髪留めを守るためだもん……仕方ないよね』
この時、みつきはたくやが一体何者で、どんな人物であったかは覚えていない。
何しろ、突然背中姿で現れて、次に気づいた時には後ろから囁いただけなのだから。
「よくやった! みつき!」
男の子は結局、肋が数本折れているとのことで絶対安静の為、入院。
そのことは両親の間で一応の解決を見たようだったが、男の子側が、女の子をいじめていたということもあって、みつき自身が誰かから責められるということはなかった。
また、父がしきりに関係者へ謝罪していたのを見ていた。
みつきはてっきり怒号でも浴びせられるかと思っていただけに意外であった。
「あー、父さん、みつきのように強い子を持って幸せだよ」
初めての父の抱擁にみつきはわけがわからずとも、頬が弛む。
それと同時に、みつきの中で父親が求めていたものを正確に見出だすことができたのだった。
『そっか、強ければいいんだ』
みつきはそれから徹底的に己の強さに固執し始める。
転園した子が二人いると聞いたが、
柔道や空手といったものを習い始めていたみつきがそのことを知るのはずっと後のことだった。
「なるほどねえ……」
深夜、マンションの一室でみつきのおでこに手を当てていた女は頷きながら首を傾けた。
みつきは皮肉にも自分に強さを求める契機を与えた人間と敵対していたということになる。
しかし、女が納得したのは別のことだった。
「新しく男の子を登場させて、その後にこの蝶の髪留めを破壊されたという設定(じかん)を作りましょうか。
もちろん、タクヤが男の子……」
この和服の女。名を千尋と言い、時を創造(タイムクリエイト)する人物であった。
人の過去を覗き、その過去になかったことを吹き込む。]
そうするだけで、人は意図も簡単に現在の考えを改める。
この力は直接相手に影響を及ぼさないが、
人は自分の経験を疑わないだけに、この力で与えられた過去は絶対という確信を持って記憶となる。
「なかったことが、あったことになる。ふふ、あははは――」
ただし、触れた者と一定時間視界に捉えた者でなければ可能ではない。
そして、みつきの髪留めを自分の髪留めにする。
「意外と似合うか」
そうやって髪留めをいじっていると、部屋をノックする音が響く。
「私です。手はずは整いましたか?」
「ああ、今し方終わったところよ。そっちも結衣の身柄はきちんと束縛したのだろうな」
「はい。万が一にも抜けられません。仮に抜けたとしても、この建物からは出られないでしょう」
お互い相違がないことを確認すると、みつきを起こす。
無論、この二人とは初対面である。
「な、――え?」
『時の創造(タイムクリエイト)――』
この瞬間、みつきは先の記憶に加え、ナミや千尋と共闘しているという記憶が植え付けられる。
「あ、千尋さま……」
みつきの声に千尋の口元がにやりと歪む。
「休憩はもういいであろう? 今宵、タクヤを始末する」
「はい」
修羅の創造を得たみつきの傷は治り、完全とも言える状態まで回復していた。
三人はマンションを後に月下へ躍り出る。