美少女70万人vsタクヤ
第十五話@秘密裏(シークレット)
第十五話「シークレット」
件名:2XXX年四月
タクヤの監視は今日で終わりです。
×時×分、空間の隔離が起こります。
そこで、朝陽鈴音を倒した後、私と会いましょう。
――千尋。
パソコンのメールはここで終わっていた。
タクヤの記憶によると、ナミがこのようなことをする時間などない。
ただでさえ、ナミは施設の管理に追われる身であるからだ。
「――時の創造……」
亜夕花が黒いショート髪を横から覗かせて言った。
「どういうことだ?」
「予想が正しければ、ナミにコンタクトを取った人物は『時の創造』を扱う者。
そして、時の創造とはなかった事実をあったことにしてしまう力……」
「みつきや結衣さんはそれで攫われてしまったと?」
鈴音が全身を包帯で巻いた姿で言う。
「朝陽、まだ寝てなくちゃだめだ」
タクヤに心配された鈴音は自嘲するように嗤った。
「私はあんたを殺そうとしてたの。そ、そんな気を使われたって迷惑なだけだわ」
「はぁ……」
「何よ、その冷めた目は」
「心配されたくなかったらその包帯をどうにかしろ。
俺は確かにこの街を豹変させた元凶だが、誰も死ぬことを望んでなんかないし、
むしろ死んでもらっちゃ困るんだよ」
真摯な目を向けるタクヤに鈴音は一瞬たじろいだ後、ふいっと明後日を見やる。
「……(調子狂っちゃう)」
「タクヤを殺したところでこの街はどうもならんよ。鈴音嬢」
「え?」
亜夕花が鈴音に言った。
「そう……」
鈴音はそうは考えていなかったのか、少なからずショックを隠しきれないように狼狽していた。
「酷いな。それじゃあまるで俺が死んだ方が良いような反応だ」
「そうよ……元の世界に戻らないと、私の弟――昴は返ってこないっ……!」
「……そうか」
件名:2XXX年四月
タクヤの監視は今日で終わりです。
×時×分、空間の隔離が起こります。
そこで、朝陽鈴音を倒した後、私と会いましょう。
――千尋。
パソコンのメールはここで終わっていた。
タクヤの記憶によると、ナミがこのようなことをする時間などない。
ただでさえ、ナミは施設の管理に追われる身であるからだ。
「――時の創造……」
亜夕花が黒いショート髪を横から覗かせて言った。
「どういうことだ?」
「予想が正しければ、ナミにコンタクトを取った人物は『時の創造』を扱う者。
そして、時の創造とはなかった事実をあったことにしてしまう力……」
「みつきや結衣さんはそれで攫われてしまったと?」
鈴音が全身を包帯で巻いた姿で言う。
「朝陽、まだ寝てなくちゃだめだ」
タクヤに心配された鈴音は自嘲するように嗤った。
「私はあんたを殺そうとしてたの。そ、そんな気を使われたって迷惑なだけだわ」
「はぁ……」
「何よ、その冷めた目は」
「心配されたくなかったらその包帯をどうにかしろ。
俺は確かにこの街を豹変させた元凶だが、誰も死ぬことを望んでなんかないし、
むしろ死んでもらっちゃ困るんだよ」
真摯な目を向けるタクヤに鈴音は一瞬たじろいだ後、ふいっと明後日を見やる。
「……(調子狂っちゃう)」
「タクヤを殺したところでこの街はどうもならんよ。鈴音嬢」
「え?」
亜夕花が鈴音に言った。
「そう……」
鈴音はそうは考えていなかったのか、少なからずショックを隠しきれないように狼狽していた。
「酷いな。それじゃあまるで俺が死んだ方が良いような反応だ」
「そうよ……元の世界に戻らないと、私の弟――昴は返ってこないっ……!」
「……そうか」
話しによると朝陽鈴音には朝陽昴という弟がいたらしい。
それがある日、忽然と姿を消した。
最初は昴のことも忘れていた鈴音であったが、街の様子を見ているうちに違和感を覚えていく。
そして、タクヤが目の前に現れた時、鈴音の力は記憶とともに不変の創造として顕現したのだった。
「俺は取り戻そうなんて思っていない」
「無茶苦茶よ、あんた自分が何しでかしたかわかってるの?」
「俺だって好きでこの現状を作り上げたわけじゃない。ただ、うまくできなかっただけだ……」
一番ベストな形はタクヤの元に美少女たちが次々に訪れるというスタイルだろう。
しかし、今のタクヤにそれは叶わない。
掌握するには説得か強制かそれに近い行為が必要だ。
タクヤの中では既にこれが闘いに他ならなかった。
そして鈴音の協力がなければ、タクヤは一人でいかなければならない。
不変の創造がなければそもそもこちらには時間の創造に対抗する手段がないのだから……。
二人は和解することはできず、タクヤは今、一人で敵地に赴いていた。
「一人で堂々と現れるとは、良い覚悟だ」
「……」
二人は示し合わせたわけでもなく、そこにいた。
「あれでも立派な住まいなんでね、押しかけられて破壊されるのは御免だ」
「だが、解せぬよ。何故、我らの位置がわかった」
和服の女は簪(かんざし)に手をあてるようなしぐさをして言う。
「勘だ」
「ほう……」
「なあ、お前の目的は何なんだ?
こんなことをしても世界は元には戻らないし、俺を殺すことに何の意味がある?」
「大ありだよ。私はずっと一人で生きてきた。
来る日も来る日もどうでもいい人間共と時間の無駄ばかり――
だが、この力があれば一人じゃなくていい、この力さえあれば、私は、皆に受け入れられる!」
「ナミ、みつき」
二人は虚ろな目をしながらもタクヤの眼前に立ちはだかる。
「貴様を倒せば、私にもはや弊害などない。この世界は悉く私のモノとなる」
白唇がそう豪語した直後、ナミとみつきの身体が跳躍する。
「大気の――」
ナミが両手をさしだしてタクヤへ標的を定めると同時に、タクヤは何かを呟いた。
「あ……つ……」
「?」
ナミはその行動を直前で停止し、頭を垂れるように停止した。
「はっ――」
ごう、と空気を巻き込みながらみつきの拳がタクヤの横をすり抜けた。
トラックが駆け抜けたかのような風圧がタクヤの髪をわさわさと靡かせる。
なんとかたたらを踏んで留まるが、第二派の蹴りはイマジンクリエイトを使わざるを得ない猛突だった。
『初期化概念――(イニシャライズ)』
タクヤに触れるものの威力をゼロにするこの創造は不変とは違い接触のみを無効化する。
ふっと音もなくみつきの脚は止められ、続く連撃をもタクヤは軽々と受け止めてみせる。
「馬鹿な、ナミはどうした。何故動かないのだ」
「無駄さ、こういう状況を予め予期していたナミはそういうシークレットコード(暗号信号)を備えていただけの話しだ」
「は、何がシークレットコードだ。それではまるで人間ではないかのようではないか」
「ナミは俺が唯一自分の手で作った女だから当然だろ」
「な、に――」
黒の長髪が白磁の肌に翳り、その少女は地肌を一層青黒くさせた。
「お前は『時間』を創る。俺は『想像』を創る。お前のいるこの世界だって、俺の想像でしかないんだぜ」
「たわけたことを……私の力は私だけのものだ! ふふ、そうだ。お前にも使ってやろう――そうすれば……」
しかし、それがタクヤに影響を及ぼすことは無かった。
「……」
タクヤはこの時、時の創造が自身に影響を及ぼすのかどうかという点において全く確信がなかった。
ただ、唯一判るのはその力によって自分が死なないということだけである。
『イマジンクリエイト――』
一方、タクヤの家では艶めかしい声が響いていた。
「け、怪我人に何考えて――やっ……そこっ」
「諦めなよ、誰も忘れることができない君は、
これから何もかも忘れるくらいの甘い世界に溺れて、あの子の為に生きないといけないのだから」
亜夕花は鈴音の肢体をベルトのようなもので固定し、内股にパッドを張った。
そこからは電極が伸び、何やら得体の知れない大きな機械に繋がれている。
「ふふっ、私の開発したこれはね。性感を自由に弄ぶものなんだ。
元は軍用に自白装置として開発したものなんだが、失敗作でね。自白する前に精神が崩壊する」
鈴音はその大がかりな設置に息を飲む。
これから何が始まろうというのか、鈴音にとっては亜夕花の一挙一動が暴挙に見えた。
「こ、こんなことしてただで済むと思ってるの? それに私は不変の――」
「いいや、無駄なんだよ」
そういうと、鈴音の口元に何かがやられた。
「い、な――何よこれ……」
「ただの通電剤。飲まないと無理矢理飲ませることになるから、大人しく飲んだ方が利口だよ」
やむを得ず、口元に運ばれたどろりとした液体を嚥下する鈴音。
その瞬間に胃袋の中から猛烈な拒否反応が現れた。
「うっ……」
「これもあの子の為だ。君にはもう過去を諦めてもらわないとならない」
朦朧とする意識の中で、『あの子』というのが、タクヤに重なる。
頭の中に木霊する亜夕花の声がいつまでも鳴り響いていた。
「う、うわあああああ!」
タクヤの絶叫が大気を震わせた。
「はははっ、時の創造(タイムクリエイト)に敵はない!」
織物で出来た服が乱れながらも、タクヤへの介入に成功を果たした千尋は、
ついに精神崩壊を起こすところまでタクヤへの時間付与を成した。
「はぁ――はぁ――、しかし、お前の脳内は一体どうなって……
これほど時間を必要としたのはお前が初めてであったぞ」
「うぐっ……あぁぁぁ――――」
両膝を折って肩を抱きながら悶え苦しむタクヤの姿にすかさずみつきが攻撃を加える。
その刹那。ぎゅんっと空間が歪み、みつきの姿とタクヤの姿が揺らいで見えた。
「な、なるほど――どこまでもデタラメな男だ。
お前は精神が崩壊しても現実を認めない妄想をすれば、それが事実になるのであろう。
そこまでの力を持っていたとは……ある意味私が勝てたことの方が軌跡であったな」
冷や汗を米神に浮かべながら千尋はその光景を見守った。
いずれその考える力も衰えた頃にタクヤはみつきに引導を渡されるであろう。
後はみつきに任せればいい。これで一安心だと千尋は肩から力を抜いた。
「いや、ほんとにね」
「!?」
それは一瞬の出来事だった。