『次に、生徒会長 鎌倉健太さんのお言葉です』
夏休み前日。どの学校でも当たり前のような一学期を終了する終業式が今日あった。
いつもなら、慶介と蓮葉と一緒に終業式などそっちのけでバカやってたりしたんだろうけど……今回だけは違った。
まず一つ目に本当に生徒会長は彼女ではないのかという確認のため。
二つ目に、
――単に暇だったから……
生徒会長の人が堅苦しい話をしているがそんなのボクの耳には入らなかった。べつに霧梓 燕南が生徒会長をやっていなかったのに驚いているわけでも動揺しているわけでもなかった。
でも謎は解決しなかった。ここにくれば燕南先輩はくると思っていたから。
そういえばこの謎に迫ろうとした時期くらいからだろうか彼女を見かけなくなったのは。時々は図書室にもいったけどまったく顔を出さずにそのまま夜が明けることもあったくらいだ。
――彼女はどこへ行ったんだろう?
そんなことを思う。知り合ってから数日、たった数日しか経っていないのになぜこんなにも惹かれてしまうのだろうか。
いや、違う。昔に会っていたんだ。とうの昔に。
だから普通に話していた。
笑っていた。笑顔でいたんだ。
『これで終業式を終わります』
素っ気無いマイクで終了を告げる声。
皆、立ち上がり一人また一人と体育館から抜け出ていく。
ボクも遅く立ち上がりノロノロと歩いていく。その先に燕南先輩はいた。
「先輩!」
笑っていた。その笑顔でボクはどれだけ浮かれただろう。
近づこうと二、三メートル付近で先輩の手の平で止められる。
――キミは記憶がない方がいいんだよ
声は出さない。口がそういっていた。
俯いていて顔の様子はわからなかった。でも、沈んでいるのは目に見えていた。
顔を上げ無理して笑った顔を作る。
――最後の……警告だ。
そしてボクに背を向け体育館の扉を曲がっていった。
「先輩!」
ボクは走って先輩の後を追う。
だがもう人の姿すらいない夏の暑い陽射しだけがボクを照らしていた。
「わけわかんないよ……先輩」
先輩は誰なのか、ボクは誰なのか、その答えを知るためにもう一度ボクの故郷に戻る必要がある。
そして母に会うことも。