屋憧学園の近くにある駅から三つほど乗りそれからまたバスで三時間いった山奥に藍胴刑務所(あいどうけいむしょ)というムショがある。
ここにボクの母は閉じ込められている。いや、監禁されているといってもいいかもしれない。
「囚人番号1175! 面会だ!」
そんなに大きな声を出さなくても事前にいっているのに迷惑な看守だ。
知っているか? 看守は警察の落ちこぼれがやる仕事らしい。(プリズン・ブ○レイクから)
のっそりとドアの向こうからニコニコしながら出てくる。
殺人罪の容疑者、瀧澤 恵美(たきざわ えみ)親戚の話だと母は十四歳でボクを生んだ。リアル十四歳の母だったらしい。だが、どう見ても三十路っていう顔じゃない。二十代に見えること間違いないだろう。
「ハロ~しゅうちゃん」
陽気に手なんか振ってる。
「どうも」
「あん。しゅうちゃんなんでそんなに他人行儀なの? お母さんちょっと寂しいな~」
「殺人魔の母に馴れ馴れしい言葉なんてありません」
「そういえば私もうすぐ仮釈放になるんだよぉ? 手紙読んだ?」
しゅうちゃんもその日は空けといてね、と笑いながら話す。まるでここが刑務所じゃないように。
バン!とプラスチックで出来た透明な壁を殴る。
「うるさい! 父さんを殺しやがって! いままで何人殺してきたと思ってんだよ!! 三人だぞ! アンタには罪悪感ってものがないのか!!!」
自分には似合わない怒声を発す。
「あるよ~。だから死刑でも無期懲役でもなかったんじゃないの」
半眼でボクを見つめる。
「………」
上目遣いでニッコリと笑うと話をすり替えてきた。
「で! しゅうちゃんはなにしに来たの? お母さんとお話しするためにきたんだったら嬉しいな~」
「あぁ。そうだよ。ちょっと聞きたいことがあって」
「ん? なになに? 話して話して!」
「霧梓 燕南っていう子知ってる?」
「知らないな~」
予想外の反応。
「本当に?」
念を入れて聞いてみる。
「知らない。本当だよ~」
お母さんを信じて、といわれるが犯罪を犯した人を信じるのは無理だろう。
「そうか。ありがとう」
「でねでね! 聞いてよしゅうちゃん! 昨日ね新入りが生意気だったからいじめようかと思ったけどしゅうちゃんが悲しむからやめたんだよ~褒めて褒めて!」
「じゃあ、なんで」
――アンタはまともな道を進めなかったんだ……
三十分後ボクはムショをでた。そんなに話すこともなかったからずっと母の話を聞いていた。
ムショにはレズっ気のあるやつらが多いとか、弱い奴はそのレズっ気のある強い奴に媚びるとか、とにかく気分が悪くなるようなことばかりだ。
「収穫なし、か……」