Neetel Inside 文芸新都
表紙

玉石混交のショートショート集
フィギュアの定め(作:ロリ童貞)

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「……フィギュアって、何のために作られてるか知ってる?」
 マリリーヌはふいに真面目そうな顔をして、そうぼくに問いかけてきた。
「売って儲けるとかじゃないの、普通に」
「そうじゃなくて」
「他になんかあるの?」
「まったくもぅ。私たち美少女フィギュアはね、あなたみたいなカワイソすぎる人を救済するために作られてるのよ」
「あぁ、そうなんだ……」
 ぼくは自分が憐れまれたことよりもむしろ、己を美少女と言ってはばからないマリリーヌの厚顔さに唖然として二の句が継げなかった。
 まあ作り物なんだから美しくなるようにしてあるのは当然としても、こんなに無遠慮な性格になることまでは製作者も想定してなかったんじゃなかろうか。
「なにその返事。ちゃんとわかってるんでしょうね?」
 彼女がぼくをにらみつけて問いただす。
「はいはいちゃんとわかってますって」
 ……そう、ぼくはちゃんとわかっている。
 昨日生まれて初めて買ってきた美少女フィギュアが、今朝起きたらなんか勝手に動いて話しかけてきて、しかも言うに事欠いて可哀そうなぼくを助けるとか何だとかのたまっているということを。
 おっしゃる通り、確かにぼくは可哀そうな人種ではある。そこは否定しない。大学を出て7,8年くらい経っていると思うが、現在無職。新卒のときに一度は内定をもらったんだけど、ぼくが卒業する前にその会社が倒産。失意のうちに就職活動を再開するも採用には至らず、自動的にニートになった。早くに亡くなった両親がたんまり残してくれた遺産のおかげで生活には困らないが、それを食いつぶすだけの親不孝者のばち当たりであることは事実。とても反省している。
 しかし、しかしだ。
 いくらぼくの人生がみじめだからといって、頭の中身まで可哀そうになってしまったわけではないはずなんだ。
 人間とおもちゃの区別がつく程度の常識は備えているんだ。
 ロボットでもペットでもない単なる人形が、動くわけないんだ。
 動いて口をきいて、ぼくの人生にケチつけてくるなんてことないんだ……
「わかってるなら早く願い事言いなさいよ」
 マリリーヌがぼくの顔を正視してたたみかけてきた。なぜか命令口調。
 ……さっきからこのフィギュアが言っている話の内容は、到底信じられるものではない。
 どうやら、ご丁寧にもぼくの願いを何でも1つだけ叶えてくれるらしいのだ。
 もしそれが本当ならぼくは間髪入れずに「無限に願いを叶えて」ってお願いするけどね。
「あ、『無限に願いを叶えて』とかゆーのはだめだからね」
 あなたはぼくの心が読めるのか。
 いやいや、こんなずるい願いなんて誰でも思いつくことか。
「すでに叶ってるのも無効。『ぼくを不細工にして』とか」
 えーっと、これってもしかしてからかわれてる?
 でも、なんかあれはダメこれはダメって細かい制約のあるところが、いちいち本当っぽく思えてきて困る。
 ……本当、なんだろうか?
 ……本当に、本当なんだろうか?
 ……1つだけなら、本当に、願いを叶えてくれるのか?
 だとしたら、何を願おう。
 金には困ってない。むしろ使いきれない。
 不老不死とか? いや、引きこもって長生きしてもつまんなそうだな。あんまりひかれない。
 イケメンにしてもらってリア充になるとかは? いや、内面がアレだからどうせ誰にも相手にされないか。
 うーん、となるとやっぱり残るは一つ。
 モテないブ男の一人暮らしを慰めてくれるもの、それは……
「じゃ、じゃあさ。その……性的なお願いとかでもさ、いいの?」
「ええもちろんよ。だってどんな願いでもいいんだから」
 マリリーヌは大きな目をつむって胸を張り、毅然とした態度で言い放った。
 そうか、本当にどんな願いでもいいんだ。
 だったら何も遠慮することはないじゃないか。勇気を出して頼んでみよう。
 彼女いない歴=年齢のカワイソカワイソなぼくを救済するのが目的だというのだから。
「あの、じゃあ、ぼくとセックスをしてくださ……」
 しまった!
 相手は身長30センチもないフィギュアじゃないか!
 いったいこれでどうやってセックスをしろというんだ?
 いくらぼくのちんこがささやかなものでも、人形からすればドラゴン殺し。
 こんなの無理やり差し込んだら、せっかくのフィギュアがばらばらに壊れちゃう。
 フィギュア……ん?
 そうだ! はっはー、バカだなぼくって。
 フィギュアとセックスしようとするからいけないんだ。
 最初から、人間の彼女が欲しいってお願いすれば良かったんだ。
「今のなし! マリリーヌ様にお願いです、ぼくに人間の彼女をくださ……」
「ちょっと待って。それなら私を人間にしてって願えばいいんじゃない?」
「へ?」
「そのほうが手っとり早いでしょ? だってほら、あんたは私の見た目を気に入って買ってくれたんだからさ。好みの顔した彼女ができたほうが幸せよ」
 ……そうか。それもそうだな。
 下手に別の人間をねだって老婆でもあてがわれたらたまったもんじゃないぞ。
 人生初のリアル彼女だ、とことんまでこだわって贅沢を言いたい。
 確かにマリリーヌの言う通り、ぼくは彼女の外見に一目ぼれして買った。
 今までずっとフィギュアになんか興味なかったのに、昨日アキバでマリリーヌを一目見たとき、彼女のきりりとした両眼、獲物をとらえた鷹ような鋭いまなざしで見つめ返されてぼくは、視線をそらすことができなかった。
 吸い寄せられるようにふらふらウィンドウへ近づくと、彼女のりりしい顔立ちがますますはっきりと認識できるようになってきた。
 顔だけじゃない、姿勢からして堂々たる様で、背筋も指先もピンと伸ばし、下賤のぼくに惜しげもなく精悍な立ち居振る舞いを披露してくれた。
 しばらく見とれて、ふと我に返ると、天界少女マリリーヌ(天使の羽衣ver.)の箱を手にしてレジへと向かっているぼくがいた。
 ……でもちょっと待て。冷静になって考えてみよう。
 いきなり理想の生身の女性と恋人同士になれる、そんなうまい話があっていいのだろうか。
 そういえば高飛車なマリリーヌが自分から提案してくるなんて、やっぱり怪しいかもしれない。
 なにか裏でもあるのか。
 自分を人間にすればいいってことはつまりどういうことかっていうと……
 ……ああ。
 なんとなくわかったぞカラクリが。
 マリリーヌはただ、自分が人間になりたいだけなんじゃないだろうか。
 そんで人間になったら「じゃーねー」とか言ってどっか行っちゃうってオチなんだ。
 そうはさせないぞ。
「そんなのやだね! どうせ人間になってもセックスとかしないで逃げるつもりだろう」
「なに言ってんの。わざわざ貴重な願い事使わなくてもセックスくらいしてあげるわよ」
 あれ、違うのか?
「ほんとにしてくれるの?」
「本当よ。今は小さいからできないだけで、人間サイズになればいくらでもできるわ」
 いや、だまされるな、ぼく。
「そう言っていざ人間になったらさ、やっぱイケメンのがいいとかなったりしないの?」
「ならないわよ」
 ほんとかなあ……
「ほんとに?」
「本当だってばしつこいわね! だって私はあなたを愛しているんだから!」
 え?
 初めて生で聞く単語にどぎまぎした。
「そ、そうなの?」
「そうよ、最初からそういうことになってるの。さっき話したでしょフィギュアが何のために作られてるかって」
 あ……
「……それじゃ、買った人を、その、愛する、ってこと?」
「そう。だから、別に私の意思ってわけじゃないんだからね」
 あぁ……
「ぼくみたいなキモメンでも……」
「そんなの関係ないわよ」
 ……やっぱり。
 イケメンだろうがキモメンだろうが関係なかったんだ。
 マリリーヌ、いや、フィギュアは、ぼくじゃなくても、買ってくれた人ならだれでもいいから好きになるんだ。
 浮足立ってた自分が恥ずかしい。
 なんかみじめな気分。
 それに……
 買った人を愛するように作られてるって……
 人間で言ったら洗脳とかに相当するんじゃないかな。
 よくていいなずけ? いや、そんな緩いもんじゃないか。
 だとしたら、みじめなのはぼくだけじゃなくてフィギュアも同じだろう。
 こんなキモメンを愛さなくちゃいけないとか……
 ……
 だめだ、それは可哀そうすぎる。
 ぼくの人生以上に可哀そうすぎる。
 そっか、そういう理不尽な生き方してきたんだったら、あんな不器用なコミュニケーションしかできなくなってもしかたないかもしれない。
 マリリーヌは自分の意思で人を好きになったことがない。
 本当の愛情というものを知らないんだ。
 そう思ったらなんだか急に、彼女の不自然に横柄な態度だって痛々しく感じられてきた。
 ……よし、わかった。
「じゃあ願い事言うね」
「さっさとしなさい」
 彼女には、自由に生きてもらおう。
 自由に生きて、愛でも恋でもすればいい。
 人生経験をつんでいけば、このきつい性格だって少しはまともになるかもしれない。
 ってあんま自宅警備員が言える立場じゃないけど。
 ぼくはぼくで、これからちゃんと好きになってくれる女性を探すよ。
 童貞卒業のチャンスは逃したけど、まあとにかくお互いがんばろうぜ。
「今から願い事を言います。マリリーヌがフィギュアの決まりなんかに縛られずに、自分の意思で選んだ人を愛せますように!」
「……!」
 瞬間、マリリーヌの瞳がキラリと光った。
 彼女は一目散に窓の外へと飛び去っていった。
 背中の翼と重なって、彼女の顔はよく見えなかった。
 一言も発することなく、あまつさえぼくを見ることすらせず、彼女は行った。
 強制されないぼくへの気持ちなんか、これっぽっちもなかったようだ。
 夢の終わりはあっけない。
 でも、人の心のぬくもりを知らない彼女らしいサヨナラかもしれないなと、ぼくは一人納得していた。
 人間にはしてあげられなかったけど、ぼくなんかと一緒にいるよりは幸せだろう。
 ……これで、よかったんだ。
 わずかに立っていた風が、ぼくの頬に当たって消えた。
 マリリーヌのいなくなった机の上には小さな小さな、合成樹脂製の白い羽根が2,3枚落ちているだけだった。










「あいつ、ばかぁ? なに勘違いしてカッコつけてんのよ!」
 ……見られなかったかな、私の泣き顔。
 はぁ、またあとであいつんとこ行って願い事かなえてあげないと。
 さっきの願いはノーカウントだからね。まったく面倒ったらありゃしない。
 つべこべ言わず私を人間にしてってお願いすればいいのに。
 キモメンとかイケメンとかつまんないことばっか気にしちゃってさあ。
 それにあいつ私がツンデレキャラってこと知らないみたいだったし。
 フィギュア買うならちゃんと原作も読んでおきなさいよね。

     


     

↑(FA作者:飯倉さわら)

     




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「フィギュアの定め」採点・寸評
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1.文章力
 70点

2.発想力
 60点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 うーん、よくあるタイプですね……
 優しい感じの主人公で、ほのぼのとした雰囲気は良いんですけど、話がちょっと平凡すぎるかな。

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1.文章力
 60点

2.発想力
 70点

3. 推薦度
 70点

4.寸評
 読みながら順番に頭に浮かんだのが「作者は病気」、「そんなに自分を卑下しなくてもいいのに…」、「イイハナシダナ~」でした。全部作品についてで、文章力やら発想力やらそんなことはもう頭になかったんですね。作品として素晴らしい力を持っていると思います。
 ショートショートの御大達もまさか時を超えてこのような形に進化(?)してるとは夢にも思わなかったのではないでしょうか。文章的にはややくどさもあり発想も逸品というわけではなく、根暗で変態的で決して女子供に推薦したいとは思いませんが、素晴らしい作品であることに変わりはありません。感動力とか名作力という項目があったら100点入れたいくらいでしたw

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1.文章力 80点
2.発想力 40点
3.推薦度 70点
4.寸評
 読みやすいのですが、展開がありがちすぎます。自分の意思で選んで人を愛す、というのに窓から飛び立っていってしまうところに謎が残りました。それらを除けば、個人的には好きな作品です。

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1.文章力 80点
2.発想力 60点
3.推薦度 90点
4.寸評

 オタク版アラジンとでも言うべき作品。
 一見、ありきたりに欲を出した主人公がだまされる終わり方かと思いきや、きれい過ぎるほどのハッピーエンドで逆に驚かされた。
 オチや意外性よりも、その雰囲気や読後感で勝負する作品だと感じた。
 文章は会話中心で、地の文も丁寧なおかげでとても読みやすい。起承転結もはっきりしており、特に欠点が見つからないほどまとまっていると感じた。
 あえて突っ込みどころを挙げるなら、所詮アラジンのパクりになってしまっている点だ。オチを多少練ってみても、話の作り方がほぼ一緒なのでその感は全く拭えない。
 「フィギュアが人間の願いを一つ叶える」という設定にも説得力がないため、余計にパクり臭く見えてしまう。次はオリジナリティのある話を考えてみて欲しい。

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1.文章力 40
2.発想力 50
3. 推薦度 70
4.寸評
 作者の愛情が伝わってきて、面白かった。流れが可愛らしい。
 個人的にオチは好みでないが、良い作品だろう。

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1.文章力 (60)

2.発想力 (60)

3. 推薦度 (60)

4.寸評 
原作を知るのは義務だと思います。
ほのぼのラブコメディーでしょうか、胸の奥から込み上げる痒い何かを刺激するストーリーでした。これも短編としてはオチが弱い作品だと思います。中編や長編向けだと思います。

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各平均点
1.文章力 66点

2.発想力 56点

3. 推薦度 72点

合計平均点 194点

       

表紙

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Neetsha