Neetel Inside 文芸新都
表紙

玉石混交のショートショート集
悪(作:rusna)

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「これで終いだ」
 その台詞は、勝者と敗者を明確に分かつ言葉であった。つまり、こうだ。彼、物語の主人公であるAの剣先は魔王の喉元にしっかりと固定されて、動かない。勝負が決まった瞬間だった。揺ぎ無い勝利を確信したAは、これまでの長い道程を思い返し、一つ息を吐く。
 魔王は、その様子を冷静に見つめていた。敗北の確信からくる諦めなのだろうか。命乞いをするわけでもなく、抵抗さえしない。勝ち誇ったように自身を見下ろすAを、不気味な笑みを浮かべて見ているだけだった。
「何を笑っている」
 怪訝な顔をするAを他所に、魔王はくすくすと笑う。
「これで終い? 何が終いだと言うのかね? 全くもって可笑しな話だ」
「……気でも触れたか」
「そうじゃない。貴様は私を殺して終い、と本当に思うのか?」
「当たり前だ。お前の所為で人々が苦しんでいるんだ」
「つまり、人々を苦しめ、果てには殺す私は悪だと?」
「今更何を言っている。罪のない人々がどれだけ死んだと思っている!」
「罪の無い者を殺すことが悪だと言うのか。ならば、貴様達、人間は悪でないと言い切れるのか? 動物を、植物を、環境を殺し、それでも尚、悪ではないと言い切れるのか」
 その瞬間、Aの剣先が魔王の喉元を貫いた。
「黙れ……」
「悪とは何か?」
 喉元を突いたにも関わらず、魔王はまだ不気味に微笑んでいた。その生命力はまさしく魔王と呼ぶに相応しい。この強い生命を絶つため、Aは全体重を剣に乗せる。血が飛び散り、辺りは赤く染まる。
「貴様が今まで殺してきた者は皆、罪が無かったと言い切れるのか? そもそも、罪とは何だ?」
 Aは息遣い荒く、剣を抜きは、直ぐにまた突き刺した。何度も何度も、それはまるで猟奇的な殺人犯のように映った。その姿を見て、魔王はさらに大きく笑う。
「私は悪だ。では、人間は悪でないと言い切れるのか?」
 早く殺さねば、と焦るAは汗まみれになり、目は血走っていた。そして、最後の一撃が魔王の心臓に深く突き刺さると、魔王はそのまま笑って絶命するのであった。

 街に戻れば、人々は彼が魔王を討伐した事を祝い、また平和な世界に歓喜し、大いに盛り上がっていた。
 これからは、怯えて暮らす必要も無いのだ。と、笑顔と笑い声で溢れていた。
 だが、Aは考えていた。
 ――平和とは何なのか? 人が満足に暮らせる世界が平和なのだろうか? 人から見ればそうかもしれない。だが――。

「ありがとうございます!」
 そう駆け寄ってくる村人の数々に、Aは無表情で生返事をした。どんなに功績を称えられようと、Aは喜べなかった。

 そして、考え終えると、Aはその場で剣の柄に手をかけた。

     




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「悪」採点・寸評
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1.文章力
 70点

2.発想力
 55点

3. 推薦度
 60点

4.寸評
 ちょっと浅いかな、と。
 魔王の散り際の一言二言で、ここまで揺さ振られてしまう勇者に違和感を禁じ得ません。最後は自殺したのか、村人を惨殺したのか、どちらかは分かりませんが、どちらにしても短絡的に感じてしまいますね。
 文章に問題は見られませんが、主人公の名前が「A」である意味はなんなのでしょう。「勇者」じゃダメだったんですかね?

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1.文章力
 60点

2.発想力
 50点

3. 推薦度
 40点

4.寸評
 浅い。浅いですね。
 考えさせようと思えば、読者に宿題を与えようと思えばいくらでもやりようがあったテーマですが、最も安易な形を取りそれまでの構成を台無しにした感があります。
 こういうものを扱う時は最初から、スッキリ終わらせることができないハンデがあるのですから、とことんやるべきです。これではただテーマに作者が遊ばれているだけ。
 文章は普通に読みやすいものです。捻りなどはなく、いたって普通。
 申し訳ないですが推薦には値しないです。

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1.文章力 60点
2.発想力 40点
3.推薦度 45点
4.寸評

 キャラクターの掘り下げが何もないまま始まった問答で、魔王は死の間際で環境問題を唐突に持ち出し、勇者はあっけなくそれに狼狽する。
 ここまでの冒険を示唆する文章が何もなく、また勇者の名前をわざわざAと置くところから、作者が登場人物に個性を持たせたいと思っていないことは分かるのだが、だからこそ考えを投げかけるようなセリフに共感が持てなかった。
 また、問答の後の展開が唐突でオチもはっきりとせず、結局勇者がどう行動するのかは読者の判断に委ねられている。こういう形式の話は個人的に好きではないため、推薦点を低くさせてもらった。
 文章自体はできていると思うのだが、勇者と魔王の掛け合いも作者の独り言を聞いているようでどうにも不自然に思えた。登場人物にもう少し魅力を持たせてみて欲しい。

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1.文章力 40
2.発想力 30
3. 推薦度 30
4.寸評
 オチがあってよかったという安心。だが面白いまではいかない。
 これは誰しもが考えるような事なので、もっと大きく裏切ってほしかった。

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1.文章力 50
2.発想力 30
3. 推薦度 40
4.寸評
文章に対する「熱」が感じられない。具体的には、臨場感や場面説明への配慮がない。また主人公の名をAとしてしまうあたりや、悪の化身が単なる魔王であるなど、箱書きに多少の肉付けをしただけのような中途半端さを感じてしまう。
主人公が魔王の台詞に心を動かされてしまった経緯や合理的説明がないため、オチが機能していないように思える。

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1.文章力 (50)

2.発想力 (60)

3. 推薦度 (50)

4.寸評 
面白いテーマだと思いますが、文章に荒が目立ちます。特に作中の「貴様が今まで殺してきた者は皆、罪が無かったと言い切れるのか? そもそも、罪とは何だ?」というセリフは、罪があったと言い切れるのか? にするべきでは無いでしょうか。些細なミスですが、意味は大きく変わってしまいます。
オチに関してはイマイチです、中二病全開といった感じでしょうか。主人公のとった極端な選択に全く共感が持てず、驚きもありません。

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各平均点
1.文章力 56点

2.発想力 41点

3. 推薦度 43点

合計平均点 140点

       

表紙

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Neetsha