僕は旅先のホテルで老人から一本の煙草を貰う。
老人に礼をのべて、さっそく僕は煙草に火を点ける。
煙があがると僕の口には、今まで味わったことの無い不思議な味が広がる。
原始的な旨みだけを抽出したかの様な、ひどく粗野だけど病み付きになる味。
僕はくらくらしながら、その煙草を吸いつづける。
煙草が燃え尽きると言いようの無い虚無感が僕を襲う。
僕が呆然としていると老人はもう一本、煙草をすすめてくる。
礼も言わずに僕はそれをひったくり急いで火を点ける。
奇妙な安心感に包まれ、僕は呆けた様な笑みを浮かべる。
老人はそんな僕を見て、怒るでもなく呆れるでもなくただニヤニヤ笑っている。
薄暗いロビーで灰色の煙を吐きだしながら僕は
「あと何本、老人から煙草が貰えるだろうか」
と混濁した頭で何度も何度も同じことを考える。