終焉の巣
真っ暗い夜が終わり始め、かすかに物の輪郭を認識できる闇の中で眠りから目が覚めた。
意識はまどろみながらも一種の感情が支配していた、不快だ。
嫌な夢を見た訳では無い、眠りから覚めた事に対する苛立ちでも無い。急に襲ってきた自身に対する嫌悪と不安、情けない、不甲斐ない、そんな感情が不快を与える。
それは闇の様に心を覆う、頭ではあらゆる理論を積み立てて闇を払うが、まどろみの中にいる今は心が追いつかない。
なぜ自分はこんななのだろう、不快な感情を不快な感情が焚きつける。
過去の失敗、言動、記憶、気にしているのは自分だけだ。しかし、気にしなければいけないのも自分だ。
何度となく嫌悪と脱却を繰り返してきたこの闇は、なぜ不快だけを隠さず見せつけるのだろうか。
そんな感情に支配されながら、寝返りをうつと部屋の輪郭が目に入ってきた。
色を認識するには暗く、影と輪郭が造形だけを認識させる。
目に止まったのはゴミ箱だ、高さは30センチも無いだろうか、楕円の口を開けてたたずむそれは暗闇の宇宙にたたずむブラックホールの様で、その口は周りの影より一層暗く、全てを飲み込んでくれそうだった。
その中にこの不快な闇も入れてしまいたい。
そう思うと少しだけ楽になる感じがした、自身の不快をゴミ箱に詰め込んでいく。湧き出る感情は抑えきれず、楽になっていく感情に溺れ自身の闇を捨てていく。
全てを受け入れるそれは感情の巣箱のように、闇を形成し続ける。
人の感情はどれくらいの大きさなのだろう、この小さなブラックホールに全て入るのだろうか。
恐らく入るのだろう、自身の闇など小さな物だ。
この程度の闇を許容できない程、自分は小さいのだ。
これは不快の感情では無い、闇を掃って現れた新たな感情なのだろう。
それらを受け入れる事をできた自分が爽快だった。
急に眠気に襲われる、この襲ってきた闇は心地良かった、全てを覆い吸い込んでいく。
その支配に身をゆだねる。
起きたらゴミを捨てよう、今日はゴミの日だ。
自身の不快を閉じ込めて、溜まれば捨てればいいだけだ。
捨てる場所はあるのだから。