セーブストーン 1 2
みすずの場合
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-1
『ハリセンを抱いたティンカーベル』
日暮れの帰り道を、わたしたちは並んで歩いた。
「楽しかったな!」
勇はいっぱいの笑顔だ。
「うん!」
わたしも笑顔が止まらない。
「あそこにはなんどか行ってるけど、今日が一番楽しかったわ!」
「俺も!」
「また行こうね」
「ああ。
あ、それじゃここでな。
…今日は、ありがとな」
「…うん。ありがと」
立ち止まった、そのとき。
マトモに目が合ってしまって、顔が熱くなって、わたしは視線を外した。
勇も、同じようにしてる。
「………それじゃねっ」
もう、照れてしまってたまんない。
わたしはそそくさと、家への角を曲がったのだった。
実はきのう、わたしはこの状況そっくりの夢を見ていた。
下駄箱に、手紙が入っていて。
その文面に従っていつもの神社に行くと、彼が待ってて…
翌日の放課後には、駅向こうの遊園地で初デート。
うちのちかくの分かれ道で解散。
…うーん。
予知夢とか正夢って、本当にあるものだったんだな~。
まさか、自分が体験することになるとは思ってなかったけど。
でも、こういう夢なら大歓迎だ。
今日だって、あの夢のおかげで、2回告白してもらえて2回デートできちゃったような、なんかすっごくトクしちゃった気分だし♪
もし、これがゲームなら。
ぜったいセーブするよね!
うん、ぜったいする!
わたしは思わずバンザイしながら、こんなことを言っていた。
「あ~、セーブできたらなー!」
「できますよぉ♪」
「?!」
そのとき横合いから、いきなり女の子の声。
わたしはとりあえず、声のした方を見た。
するとそこにはティンカーベル? が浮かんでいた。
「え…妖精…?」
「はーいだいたい大正解です~☆」
そうのたまったティンカーベル(仮)は、どっからかとりだした応援セットで“どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~”をやらかした(笑)。
「はじめましてミスズさん。あたしはアプリコットっていいますぅ。運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理。でもでも親しみを込めてプリカちゃん☆って呼ぶのも可ですぅ♪」
「……はぁ」
(ほかにもいろいろとツッコミどころは満載だけど)なんでアプリコットでプリカなんだろう。まあいいか。
ティンカーベル、あらためプリカは、派手に見得を切りながらこういった。
「あたしがアナタの前に現れた理由はただひとつ!!
そこにセーブを求める人がいるから!!
というわけで運命向上委員会開発・セーブのできるマル秘アイテム『セーブストーン』をアナタにお売りいたします!!
定価はその時点での全財産、3194円!
たったそれだけでやり直しのきく安心な未来がアナタのものに!!
いかがですかミスズさん?!」
わたしは気おされながらも、言った。
「えっと…試してから決めてもいい?」
「もちのろんですう!」
そういうと彼女はどこからか、紺色のビー玉を取り出した。
「ここのちょっと銀色になってる部分に指を置いて念じればぁ、セーブロードができるんですよぉ」
「こう?
――えーと、“セーブ”!」
わたしはさっそくセーブ。
手の中のビーダマは一瞬青白い光を放つ。
「はい~これでセーブ完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。ちなみにセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。ご注意くださいね~」
「なるほどね。
それじゃ、いまからロードの実験するけどいいかしら?」
「ええ、もちろんどうぞ」
髪に縛っていたリボンを解き、手首にくるくると巻きつける。
ロードして、これが頭に戻っていれば、“セーブストーン”はホンモノということになる――
「“ロード”!」
念じると、手の中のビーダマは一瞬黄色っぽい光を放った。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
黄色の光が消えると、プリカがさっきのセリフを繰り返しはじめた。
リボンは、うん、ちゃんと頭に戻っている。
実験成功――なんと、これはホンモノであるらしい!
「上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。ご注意くださいね…ってこれ一回言いましたよね」
え?!
ロード…失敗??
「ふふふおどろいてますねぇ。大丈夫失敗したわけじゃないんですぅ。
データロードしてもその間の記憶は世界中の全員に残るんですよぉ。
まっセーブストーンのこと知らない人は、予知夢マボロシでじゃびゅ見たかな~って思うだけなんでナンでもないんですけど、知ってるあなたは過去のっていうか未来の失敗を覚えててやりなおすなんてこともできるんですぅ。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
なんだかすごいんだなあ(いや、この↑長ゼリフじたいすごいけど(笑))。
「いちおーワレモノですからぁ、お取り扱いには注意してくださいねぇ。故障以外で返品交換はできませんからぁ。
アフターさーびすはセーブストーンを額に当ててぇあたしを呼んでくれれば24時間いつでもOKですぅ」
――でもこれで、どうやらこれがホンモノらしい、ということはわかった。
「ありがとう。それじゃこれ、いただくわ。
…あ」
しかしバッグの口を開けたところで、わたしは手を止めた。
プリカはそれこそ、千円札よりも小さいくらいのサイズなのだ。そんな彼女に、はいっとトーゼンのよーに全財産を渡してしまったら、墜落したりしないだろうか??
「ふふっ、その点はご心配なくぅ。
魔法でしゅわっと! はいいただきました」
プリカが指を一振りすると、奇妙な感覚に襲われた。
念のためバッグから財布を出してみると、あ、お金はなくなっている。
「…すごい…
このチカラあったら銀行強盗なんてやり放題だわ(爆)」
「ミスズさん…さすが文芸部でいらっしゃいますね(笑)」
「あ、ごめんなさい! そんなつもりじゃなかったの」
しまった、またやっちゃった!
「大丈夫ですよ☆ ミスズさんがそんな方でないということは、目を見ればわかります。
どうかこれから、宜しくお願い致しますね♪」
でもプリカは気を悪くすることもなく、にっこり笑ってこういってくれた。
「それではこれで失礼します。
まいどありがとーございましたぁ~。ってはじめてでしたっけ☆ やーんあたしったらはじめてなんて☆☆」
そうしてひとりかわいらしく盛り上がって、ぱっと姿を消した。
わたしはセーブストーンをバッグの隠しポケットに大事にしまうと、家に向かって歩き出した。
みすずの場合 1-1
『ハリセンを抱いたティンカーベル』
日暮れの帰り道を、わたしたちは並んで歩いた。
「楽しかったな!」
勇はいっぱいの笑顔だ。
「うん!」
わたしも笑顔が止まらない。
「あそこにはなんどか行ってるけど、今日が一番楽しかったわ!」
「俺も!」
「また行こうね」
「ああ。
あ、それじゃここでな。
…今日は、ありがとな」
「…うん。ありがと」
立ち止まった、そのとき。
マトモに目が合ってしまって、顔が熱くなって、わたしは視線を外した。
勇も、同じようにしてる。
「………それじゃねっ」
もう、照れてしまってたまんない。
わたしはそそくさと、家への角を曲がったのだった。
実はきのう、わたしはこの状況そっくりの夢を見ていた。
下駄箱に、手紙が入っていて。
その文面に従っていつもの神社に行くと、彼が待ってて…
翌日の放課後には、駅向こうの遊園地で初デート。
うちのちかくの分かれ道で解散。
…うーん。
予知夢とか正夢って、本当にあるものだったんだな~。
まさか、自分が体験することになるとは思ってなかったけど。
でも、こういう夢なら大歓迎だ。
今日だって、あの夢のおかげで、2回告白してもらえて2回デートできちゃったような、なんかすっごくトクしちゃった気分だし♪
もし、これがゲームなら。
ぜったいセーブするよね!
うん、ぜったいする!
わたしは思わずバンザイしながら、こんなことを言っていた。
「あ~、セーブできたらなー!」
「できますよぉ♪」
「?!」
そのとき横合いから、いきなり女の子の声。
わたしはとりあえず、声のした方を見た。
するとそこにはティンカーベル? が浮かんでいた。
「え…妖精…?」
「はーいだいたい大正解です~☆」
そうのたまったティンカーベル(仮)は、どっからかとりだした応援セットで“どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~”をやらかした(笑)。
「はじめましてミスズさん。あたしはアプリコットっていいますぅ。運命向上委員会セーブストーン普及課副課長代理。でもでも親しみを込めてプリカちゃん☆って呼ぶのも可ですぅ♪」
「……はぁ」
(ほかにもいろいろとツッコミどころは満載だけど)なんでアプリコットでプリカなんだろう。まあいいか。
ティンカーベル、あらためプリカは、派手に見得を切りながらこういった。
「あたしがアナタの前に現れた理由はただひとつ!!
そこにセーブを求める人がいるから!!
というわけで運命向上委員会開発・セーブのできるマル秘アイテム『セーブストーン』をアナタにお売りいたします!!
定価はその時点での全財産、3194円!
たったそれだけでやり直しのきく安心な未来がアナタのものに!!
いかがですかミスズさん?!」
わたしは気おされながらも、言った。
「えっと…試してから決めてもいい?」
「もちのろんですう!」
そういうと彼女はどこからか、紺色のビー玉を取り出した。
「ここのちょっと銀色になってる部分に指を置いて念じればぁ、セーブロードができるんですよぉ」
「こう?
――えーと、“セーブ”!」
わたしはさっそくセーブ。
手の中のビーダマは一瞬青白い光を放つ。
「はい~これでセーブ完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。ちなみにセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。ご注意くださいね~」
「なるほどね。
それじゃ、いまからロードの実験するけどいいかしら?」
「ええ、もちろんどうぞ」
髪に縛っていたリボンを解き、手首にくるくると巻きつける。
ロードして、これが頭に戻っていれば、“セーブストーン”はホンモノということになる――
「“ロード”!」
念じると、手の中のビーダマは一瞬黄色っぽい光を放った。
「はい~これで完了ですぅ。なかにセーブタイトルと記録時間がみえるでしょ? これで内容確認できますぅ。…」
黄色の光が消えると、プリカがさっきのセリフを繰り返しはじめた。
リボンは、うん、ちゃんと頭に戻っている。
実験成功――なんと、これはホンモノであるらしい!
「上書きセーブしない限り、何度でもこのシチュエーションをロードできるってワケなんですぅ。あ、いいわすれてましたけどセーブデータは1ストーンにつき1コだけですぅ。ご注意くださいね…ってこれ一回言いましたよね」
え?!
ロード…失敗??
「ふふふおどろいてますねぇ。大丈夫失敗したわけじゃないんですぅ。
データロードしてもその間の記憶は世界中の全員に残るんですよぉ。
まっセーブストーンのこと知らない人は、予知夢マボロシでじゃびゅ見たかな~って思うだけなんでナンでもないんですけど、知ってるあなたは過去のっていうか未来の失敗を覚えててやりなおすなんてこともできるんですぅ。さっすが運命向上委員会! いずれこのシアワセを全世界の人々に!! う~ん、マンボ!! じゃなくってサイコー!! ひゅー!!」
「………はぁ」
なんだかすごいんだなあ(いや、この↑長ゼリフじたいすごいけど(笑))。
「いちおーワレモノですからぁ、お取り扱いには注意してくださいねぇ。故障以外で返品交換はできませんからぁ。
アフターさーびすはセーブストーンを額に当ててぇあたしを呼んでくれれば24時間いつでもOKですぅ」
――でもこれで、どうやらこれがホンモノらしい、ということはわかった。
「ありがとう。それじゃこれ、いただくわ。
…あ」
しかしバッグの口を開けたところで、わたしは手を止めた。
プリカはそれこそ、千円札よりも小さいくらいのサイズなのだ。そんな彼女に、はいっとトーゼンのよーに全財産を渡してしまったら、墜落したりしないだろうか??
「ふふっ、その点はご心配なくぅ。
魔法でしゅわっと! はいいただきました」
プリカが指を一振りすると、奇妙な感覚に襲われた。
念のためバッグから財布を出してみると、あ、お金はなくなっている。
「…すごい…
このチカラあったら銀行強盗なんてやり放題だわ(爆)」
「ミスズさん…さすが文芸部でいらっしゃいますね(笑)」
「あ、ごめんなさい! そんなつもりじゃなかったの」
しまった、またやっちゃった!
「大丈夫ですよ☆ ミスズさんがそんな方でないということは、目を見ればわかります。
どうかこれから、宜しくお願い致しますね♪」
でもプリカは気を悪くすることもなく、にっこり笑ってこういってくれた。
「それではこれで失礼します。
まいどありがとーございましたぁ~。ってはじめてでしたっけ☆ やーんあたしったらはじめてなんて☆☆」
そうしてひとりかわいらしく盛り上がって、ぱっと姿を消した。
わたしはセーブストーンをバッグの隠しポケットに大事にしまうと、家に向かって歩き出した。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-2
『消えた月曜日』
いつもより、早く目覚めた翌朝は、とてもとてもいい天気だった。
まるでわたしのココロを映し出しているように。
今日から新たな人生のスタートだ!
…というのは大げさだけど、学校に行けば、そこにはあのひとが待っている。
――勇。
一番の仲間のひとりで、憧れの存在で――
いまはわたしだけの、トクベツなひと。
今日は部活はない。友達の誰とも約束してないし、授業は五時間目までしかないし、勇に予定がなければ放課後さっそく初デート(v)なんてこともできちゃうかもだ!
ああ、どこにいこうかな~。やっぱりあの遊園地かな。それとも…
わたしはうきうき気分でクローゼットを開けると、さっそくコーディネートに取り掛かったのであった。
うちは朝ごはんの席では、ラジオでニュース番組を聴くことになっている。
いつもどおり、トーストをかじりながら何とはなしに聞いていたわたしはしかし、妙な違和感を覚えた。
昨日聞いたはずの記事が流れている――
と思ったけど、お父さんもお母さんも反応なし。
ひょっとしてデジャブかな?
『それでは「月曜の声」のコーナーです』
いや、やっぱりおかしい!
今日は火曜日だ。「月曜の声」が流れてくるなんておかしい。
「何言ってるのよ~。今日は月曜日よ」
しかしお母さんのこたえは、いつもどおりののほほーん。
「うそ~」
でも、テーブルに載ってる新聞にも、月曜とかいてある。
「えっそんな…じゃあ…」
あれは夢だったのか。
だって、あれは…
勇が、手紙をくれて。
告白してくれたのは、月曜だもの。
間違いなく。
でも、いったん部屋に戻って、勇の手紙をしまったはずの書類いれをあけてみても、あのかわいらしい封筒はなかった。
なんだ。夢だったのか。
って、それにしちゃ~リアルすぎなんですけどっ。
…でも、いま気がついてよかった。
夢と気づかないまま勇にデートの相談してたら、ものすっごく恥ずかしかったものね。
気を取り直してわたしは、いつもどおり学校に行くことにした。
「おはよう!」
教室につくと、勇(と、相棒の淳司)はもう来ていた。
「おはよ、みすず」
淳司はいつもどおり、穏やかに笑って挨拶を返してくる。
「… あ、おう」
そのとなりで勇はいつになく、ほっぺたを赤くしてそわそわし始める。
淳司にひやかされると、さらに赤くなって「だー!」とか言い始める。
うーん、この光景もなんか、見覚えあるなあ…
しかも夢と同じように、勇は昼休みになると、そそくさと教室を出て行った。
胸騒ぎを覚えたわたしは、すかさずそれを追いかけた。
勇が向かったのは、下駄箱。
わたしの、下駄箱のまえだ。
辺りを見回しちょっとまよって、そして気合を入れた彼は、夢とおなじ、かわいらしい封筒をわたしの下駄箱に入れたのだった!!
(しかしわたしはしばらく、手紙をとるのを待たなければならなかった。
これまた夢とおなじように現場を押さえた淳司が、それはたのしそーに勇をからかいはじめたからだった)
夢とそっくりの封筒。
その中味もまた、夢とおなじだった。
『みすず様へ
今日、とても大切なハナシがあります。
放課後、いつもの神社でお待ちしてます
勇』
いつもの神社。
たまに、勇と淳司と三人でよって、いろいろ打ち合わせたり相談したりする場所。
三人の、大事なハナシはいつもここと決まっている。
本格的に、胸がどきどきしはじめた。
これは。
これってば…。
――はたして放課後、いつもの神社で。
勇は、わたしに告白してくれたのだった。
『明日、デートの日次と場所を決めよう』。そう約束してわたしたちは解散した。
これもホントに、夢どおりなのだが、もういいやどうでもいいや。
明日は五時間目までしかないし、部活もないし、友達との約束もない。
つまり、勇に予定がなければ放課後さっそく初デート(v)なんてこともできちゃうかもなのだ!
ああ、どこにいこうかな~。やっぱりあの遊園地かな。それとも…
服やバッグやアクセサリーはもうコーディネートしてある。クローゼットを開けて確認。
よしOK、これでいくぞ。
わたしはうきうき気分で布団に入った。
みすずの場合 1-2
『消えた月曜日』
いつもより、早く目覚めた翌朝は、とてもとてもいい天気だった。
まるでわたしのココロを映し出しているように。
今日から新たな人生のスタートだ!
…というのは大げさだけど、学校に行けば、そこにはあのひとが待っている。
――勇。
一番の仲間のひとりで、憧れの存在で――
いまはわたしだけの、トクベツなひと。
今日は部活はない。友達の誰とも約束してないし、授業は五時間目までしかないし、勇に予定がなければ放課後さっそく初デート(v)なんてこともできちゃうかもだ!
ああ、どこにいこうかな~。やっぱりあの遊園地かな。それとも…
わたしはうきうき気分でクローゼットを開けると、さっそくコーディネートに取り掛かったのであった。
うちは朝ごはんの席では、ラジオでニュース番組を聴くことになっている。
いつもどおり、トーストをかじりながら何とはなしに聞いていたわたしはしかし、妙な違和感を覚えた。
昨日聞いたはずの記事が流れている――
と思ったけど、お父さんもお母さんも反応なし。
ひょっとしてデジャブかな?
『それでは「月曜の声」のコーナーです』
いや、やっぱりおかしい!
今日は火曜日だ。「月曜の声」が流れてくるなんておかしい。
「何言ってるのよ~。今日は月曜日よ」
しかしお母さんのこたえは、いつもどおりののほほーん。
「うそ~」
でも、テーブルに載ってる新聞にも、月曜とかいてある。
「えっそんな…じゃあ…」
あれは夢だったのか。
だって、あれは…
勇が、手紙をくれて。
告白してくれたのは、月曜だもの。
間違いなく。
でも、いったん部屋に戻って、勇の手紙をしまったはずの書類いれをあけてみても、あのかわいらしい封筒はなかった。
なんだ。夢だったのか。
って、それにしちゃ~リアルすぎなんですけどっ。
…でも、いま気がついてよかった。
夢と気づかないまま勇にデートの相談してたら、ものすっごく恥ずかしかったものね。
気を取り直してわたしは、いつもどおり学校に行くことにした。
「おはよう!」
教室につくと、勇(と、相棒の淳司)はもう来ていた。
「おはよ、みすず」
淳司はいつもどおり、穏やかに笑って挨拶を返してくる。
「… あ、おう」
そのとなりで勇はいつになく、ほっぺたを赤くしてそわそわし始める。
淳司にひやかされると、さらに赤くなって「だー!」とか言い始める。
うーん、この光景もなんか、見覚えあるなあ…
しかも夢と同じように、勇は昼休みになると、そそくさと教室を出て行った。
胸騒ぎを覚えたわたしは、すかさずそれを追いかけた。
勇が向かったのは、下駄箱。
わたしの、下駄箱のまえだ。
辺りを見回しちょっとまよって、そして気合を入れた彼は、夢とおなじ、かわいらしい封筒をわたしの下駄箱に入れたのだった!!
(しかしわたしはしばらく、手紙をとるのを待たなければならなかった。
これまた夢とおなじように現場を押さえた淳司が、それはたのしそーに勇をからかいはじめたからだった)
夢とそっくりの封筒。
その中味もまた、夢とおなじだった。
『みすず様へ
今日、とても大切なハナシがあります。
放課後、いつもの神社でお待ちしてます
勇』
いつもの神社。
たまに、勇と淳司と三人でよって、いろいろ打ち合わせたり相談したりする場所。
三人の、大事なハナシはいつもここと決まっている。
本格的に、胸がどきどきしはじめた。
これは。
これってば…。
――はたして放課後、いつもの神社で。
勇は、わたしに告白してくれたのだった。
『明日、デートの日次と場所を決めよう』。そう約束してわたしたちは解散した。
これもホントに、夢どおりなのだが、もういいやどうでもいいや。
明日は五時間目までしかないし、部活もないし、友達との約束もない。
つまり、勇に予定がなければ放課後さっそく初デート(v)なんてこともできちゃうかもなのだ!
ああ、どこにいこうかな~。やっぱりあの遊園地かな。それとも…
服やバッグやアクセサリーはもうコーディネートしてある。クローゼットを開けて確認。
よしOK、これでいくぞ。
わたしはうきうき気分で布団に入った。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-3
『それでも火曜日』
いつもより、早く目覚めた翌朝は、とてもとても、いい天気だった。
まるでわたしのココロを映し出しているように。
ラジオからは果たして、ちゃんと火曜のコンテンツが流れてき、新聞もちゃんと火曜日。
やった。
こんどこそ、今日から新たな人生のスタートだ!
…というのも大げさだけど、学校に行けば、今度こそあのひとが待っている。
――勇。
一番の仲間のひとりで、憧れの存在で――
いまはわたしだけの、トクベツなひと。
わたしはトーストを平らげるのももどかしく、ウチを飛び出した。
昼休み、屋上にてこっそりおこなった打ち合わせの結果は上々だった。
勇も予定をあけてくれていて、わたしたちはめでたく放課後、いつもの遊園地でデートすることになったのだった。
終礼が終わると同時にわたしたちは教室を飛び出した。
速攻でウチに飛び込んだわたしは、準備してあった私服に着替え、髪を整え、アクセサリーをつけ、ちょっとグロスも塗って、スカートのすそにひと押しだけコロンをふいてみたりして。
バッグの中味を確認。靴ももちろん準備してあったのをはいて。
よーし、いくぞー!
待ち合わせは今日も神社、大鳥居の前。
笑いを含んだお母さんの声を背に、わたしは家を飛び出した。
――この遊園地には、わたしたちは何度も来ている。
文芸部のメンバーで。クラスの友達と。
または、淳司と勇と三人で。
ちょっとまったり系、というか、悪く言えばマンネリ化しかけの定番スポットであるそこは、しかし今日にかぎって、ディズニーリゾート顔負けの楽しさだった。
メリーゴーランド乗って、ジェットコースター乗って、コーヒーカップ乗って、観覧車乗って…
その合間に、アイス食べてジュース飲んでポップコーンとたこ焼きとみかんも食べて…。
午後六時の鐘がなるまで、ぶっ通しで遊び倒したのであった。
日暮れの帰り道を、わたしたちは並んで歩いた。
「楽しかったな!」
勇はいっぱいの笑顔だ。
「うん!」
わたしも笑顔が止まらない。
「あそこにはなんどか行ってるけど、今日が一番楽しかったわ!」
「俺も!」
「また行こうね」
「ああ。
あ、それじゃここでな。
…今日は、ありがとな」
「…うん。ありがと」
立ち止まった、そのとき。
マトモに目が合ってしまって、顔が熱くなって、わたしは視線を外した。
勇も、同じようにしてる。
「………それじゃねっ」
もう、照れてしまってたまんない。
わたしはそそくさと、家への角を曲がったのだった。
本当に、正夢ってあるものだ。
今日一日。楽しかったけど、すっごく楽しかったけど、ホントに夢とそっくりだった。
ひょっとして、あの子も出てきたりして。
――プリカ。
わたしはこそっとつぶやいてみた。
「…セーブしたいなー」
「できますよぉ♪」
声のした場所には、はたして彼女がいた。
みすずの場合 1-3
『それでも火曜日』
いつもより、早く目覚めた翌朝は、とてもとても、いい天気だった。
まるでわたしのココロを映し出しているように。
ラジオからは果たして、ちゃんと火曜のコンテンツが流れてき、新聞もちゃんと火曜日。
やった。
こんどこそ、今日から新たな人生のスタートだ!
…というのも大げさだけど、学校に行けば、今度こそあのひとが待っている。
――勇。
一番の仲間のひとりで、憧れの存在で――
いまはわたしだけの、トクベツなひと。
わたしはトーストを平らげるのももどかしく、ウチを飛び出した。
昼休み、屋上にてこっそりおこなった打ち合わせの結果は上々だった。
勇も予定をあけてくれていて、わたしたちはめでたく放課後、いつもの遊園地でデートすることになったのだった。
終礼が終わると同時にわたしたちは教室を飛び出した。
速攻でウチに飛び込んだわたしは、準備してあった私服に着替え、髪を整え、アクセサリーをつけ、ちょっとグロスも塗って、スカートのすそにひと押しだけコロンをふいてみたりして。
バッグの中味を確認。靴ももちろん準備してあったのをはいて。
よーし、いくぞー!
待ち合わせは今日も神社、大鳥居の前。
笑いを含んだお母さんの声を背に、わたしは家を飛び出した。
――この遊園地には、わたしたちは何度も来ている。
文芸部のメンバーで。クラスの友達と。
または、淳司と勇と三人で。
ちょっとまったり系、というか、悪く言えばマンネリ化しかけの定番スポットであるそこは、しかし今日にかぎって、ディズニーリゾート顔負けの楽しさだった。
メリーゴーランド乗って、ジェットコースター乗って、コーヒーカップ乗って、観覧車乗って…
その合間に、アイス食べてジュース飲んでポップコーンとたこ焼きとみかんも食べて…。
午後六時の鐘がなるまで、ぶっ通しで遊び倒したのであった。
日暮れの帰り道を、わたしたちは並んで歩いた。
「楽しかったな!」
勇はいっぱいの笑顔だ。
「うん!」
わたしも笑顔が止まらない。
「あそこにはなんどか行ってるけど、今日が一番楽しかったわ!」
「俺も!」
「また行こうね」
「ああ。
あ、それじゃここでな。
…今日は、ありがとな」
「…うん。ありがと」
立ち止まった、そのとき。
マトモに目が合ってしまって、顔が熱くなって、わたしは視線を外した。
勇も、同じようにしてる。
「………それじゃねっ」
もう、照れてしまってたまんない。
わたしはそそくさと、家への角を曲がったのだった。
本当に、正夢ってあるものだ。
今日一日。楽しかったけど、すっごく楽しかったけど、ホントに夢とそっくりだった。
ひょっとして、あの子も出てきたりして。
――プリカ。
わたしはこそっとつぶやいてみた。
「…セーブしたいなー」
「できますよぉ♪」
声のした場所には、はたして彼女がいた。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-4
『あの夕方に戻っちまえ』
「えと、プリカ…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
彼女はどっからか取り出した応援セット一式でどんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~をかました。あいかわらずのハイテンション。
…って、ちょっと待ってよ。
今日は、月曜。
プリカと会ったのは、夢。
だよね??
なんだよね??
「どうしてあなた、わたしのこと知ってるの?」
「そりゃ~初対面じゃありませんからぁ♪
だってあたしは昨日の今日に、ミスズちゃんと運命的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったもの☆」
「え…」
「決定的証拠はバッグの隠しぽっけをご確認ぷりーずですぅ♪」
このバッグの隠しポケット。そう、そこに、夢のわたしはセーブストーンを入れた。
でも、それは、夢のはず…
はたして濃紺色のビーダマは、そこにあった。
でも、あれは。
「あれは、夢…よね???」
それでも。
光の文字を透かす濃紺色の球体、ガラスのようなつるつるした感触のそれは、たしかに今、ここにある。
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
プリカが静かに告げる。
となれば。
セーブストーンがここにあるからには。
わたしは、確かに『現実で』プリカからセーブストーンを買っていたのだ。
つまり。
『夢』は『夢』なんかじゃなく、紛れもなく実在した、わたしが体験した『現実』だった、ということになる。
なぜなら、セーブストーンがここにあるから。
…ってことは、つまり???
「だれかがデータロードをしたんですよ。
ミスズちゃんがあたしから、セーブストーンを買った後に」
プリカのその言葉に、わたしはぽんっと手を打った。なるほどそうだったのか。
「そのひとのデータ記録時点が月曜日の朝だったんですね。だからこういうことになった、と。
まあ、あんまりあることじゃありませんから。大目に見てあげて下さいよ」
「そうね。
うん、許す」
ていうか、おかげで2回も告白してもらって、初デートもできちゃったのだ。わたしは純粋に、トクをしているんだし(♪)。
「それはよかったですぅ。
こういうことはたまーにあるんですけど、最初のときはみなさん混乱しますからぁ。こーして担当がフォローに回るわけなんですねぇ。
というわけで、すっきりさっぱりガッテンですねっ。ではではプリカはこのへんで☆
またなんかあったら呼んで下さいねぇ。恋のあどう゛ぁいすとかでもOKですよぉ、な~んてきゃっ、あたしってば☆」
プリカはひととおり盛り上がると、虚空に姿を消した。
わたしはとりあえず、セーブストーンを手に握り、この状況をセーブした。
セーブストーンをもとの隠しポケットに大切にしまい、再び歩き出す。
と、バッグから振動を感じた。
バイブ。メールがきたようだ。
…勇かな?
ケータイを取り出したわたしはしかし、とんでもない災難に見舞われた。
なんと。
ストラップが切れ――ケータイがおちて――
ケータイはするすると路面を滑って、折悪しく走ってきた大型トラックに轢かれて。
玉 砕
「やだ…うそー!!!!」
ケータイには、今日ふたりで撮った写真もはいってた。勇がさっき買ってくれたチャームもついてた… がこれも再起不能にこなごな!
「こんなのって…ないよ~…」
わたしは思わずその場に座り込んでしまった。
そのとき、なにかがちかっと街路灯の光をはじく。
わたしのバッグのなか。濃紺色の、ビーダマ。
セーブストーン。
そうだ!
ロードしよう。
こういうときのために、これってばあるんだものね。
幸いさっきセーブしたのだ。わたしがその時点にロードしても、さっきの“だれかさん”が過去の失敗現場に引き戻されることはない。
わたしはセーブストーンをにぎりしめた。
銀色の部分に親指を置いて、念じる。
「“ロード”!!!」
黄色い閃光が表れて消える。
するとわたしはさっきのように、セーブストーンを握った状態で、道端に立っていた。
よし、もどった!!
セーブストーンを隠しポケットに大切にしまい、家に向かって歩き出すと、バッグから振動を感じた。
バイブ。メールがきたようだ。
ストラップを引きケータイを取り出そうとして、しかしわたしは思いとどまった。
――ここでまたストラップが切れて、ケータイ落としたら…
(↑ 思い出しただけで半泣き)
わたしは慎重に、本体を握ってケータイを取り出す。
来たのは、友達からのメールだった。
ストラップはよく見ると、やっぱり切れかけていた。念のためわたしは、それをケータイから取り外し、そうして、家に向かって歩き始めた。
みすずの場合 1-4
『あの夕方に戻っちまえ』
「えと、プリカ…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
彼女はどっからか取り出した応援セット一式でどんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~をかました。あいかわらずのハイテンション。
…って、ちょっと待ってよ。
今日は、月曜。
プリカと会ったのは、夢。
だよね??
なんだよね??
「どうしてあなた、わたしのこと知ってるの?」
「そりゃ~初対面じゃありませんからぁ♪
だってあたしは昨日の今日に、ミスズちゃんと運命的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったもの☆」
「え…」
「決定的証拠はバッグの隠しぽっけをご確認ぷりーずですぅ♪」
このバッグの隠しポケット。そう、そこに、夢のわたしはセーブストーンを入れた。
でも、それは、夢のはず…
はたして濃紺色のビーダマは、そこにあった。
でも、あれは。
「あれは、夢…よね???」
それでも。
光の文字を透かす濃紺色の球体、ガラスのようなつるつるした感触のそれは、たしかに今、ここにある。
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
プリカが静かに告げる。
となれば。
セーブストーンがここにあるからには。
わたしは、確かに『現実で』プリカからセーブストーンを買っていたのだ。
つまり。
『夢』は『夢』なんかじゃなく、紛れもなく実在した、わたしが体験した『現実』だった、ということになる。
なぜなら、セーブストーンがここにあるから。
…ってことは、つまり???
「だれかがデータロードをしたんですよ。
ミスズちゃんがあたしから、セーブストーンを買った後に」
プリカのその言葉に、わたしはぽんっと手を打った。なるほどそうだったのか。
「そのひとのデータ記録時点が月曜日の朝だったんですね。だからこういうことになった、と。
まあ、あんまりあることじゃありませんから。大目に見てあげて下さいよ」
「そうね。
うん、許す」
ていうか、おかげで2回も告白してもらって、初デートもできちゃったのだ。わたしは純粋に、トクをしているんだし(♪)。
「それはよかったですぅ。
こういうことはたまーにあるんですけど、最初のときはみなさん混乱しますからぁ。こーして担当がフォローに回るわけなんですねぇ。
というわけで、すっきりさっぱりガッテンですねっ。ではではプリカはこのへんで☆
またなんかあったら呼んで下さいねぇ。恋のあどう゛ぁいすとかでもOKですよぉ、な~んてきゃっ、あたしってば☆」
プリカはひととおり盛り上がると、虚空に姿を消した。
わたしはとりあえず、セーブストーンを手に握り、この状況をセーブした。
セーブストーンをもとの隠しポケットに大切にしまい、再び歩き出す。
と、バッグから振動を感じた。
バイブ。メールがきたようだ。
…勇かな?
ケータイを取り出したわたしはしかし、とんでもない災難に見舞われた。
なんと。
ストラップが切れ――ケータイがおちて――
ケータイはするすると路面を滑って、折悪しく走ってきた大型トラックに轢かれて。
玉 砕
「やだ…うそー!!!!」
ケータイには、今日ふたりで撮った写真もはいってた。勇がさっき買ってくれたチャームもついてた… がこれも再起不能にこなごな!
「こんなのって…ないよ~…」
わたしは思わずその場に座り込んでしまった。
そのとき、なにかがちかっと街路灯の光をはじく。
わたしのバッグのなか。濃紺色の、ビーダマ。
セーブストーン。
そうだ!
ロードしよう。
こういうときのために、これってばあるんだものね。
幸いさっきセーブしたのだ。わたしがその時点にロードしても、さっきの“だれかさん”が過去の失敗現場に引き戻されることはない。
わたしはセーブストーンをにぎりしめた。
銀色の部分に親指を置いて、念じる。
「“ロード”!!!」
黄色い閃光が表れて消える。
するとわたしはさっきのように、セーブストーンを握った状態で、道端に立っていた。
よし、もどった!!
セーブストーンを隠しポケットに大切にしまい、家に向かって歩き出すと、バッグから振動を感じた。
バイブ。メールがきたようだ。
ストラップを引きケータイを取り出そうとして、しかしわたしは思いとどまった。
――ここでまたストラップが切れて、ケータイ落としたら…
(↑ 思い出しただけで半泣き)
わたしは慎重に、本体を握ってケータイを取り出す。
来たのは、友達からのメールだった。
ストラップはよく見ると、やっぱり切れかけていた。念のためわたしは、それをケータイから取り外し、そうして、家に向かって歩き始めた。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-5
『また、消えた』
目覚ましの音が聞こえる。
「…え??」
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
「わたし…?」
わたしは、ウチのドアを開けて、靴を脱いでいたところ…のはず。
でもそこから後が思い出せない。
倒れちゃったんだろうか?
とりあえず、目覚ましアラームを止めるべく、時計に手を伸ばす。
「…えっ??」
デジタルの表示はMon。
月曜は昨日だったはずなのに。
ずれているのかな。それとも、また夢とか?
バッグにセーブストーンは入っていた、けど、だからって今のが夢でない、という保証もまたない…
とりあえずわたしは時計をそのままに、着替えると台所にいった。
「おはよう」
「おはよう~。
今日はちょっと遅かったわね。大丈夫?」
お母さんはのほほーんとのたまう。
「う、うん。
お母さん、わたし、…昨日、倒れたり、した?」
「ううん?」
お母さんは首を左右に振る。
『それでは「月曜の声」のコーナーです』
そのときラジオの声がそういった。
「月曜日…」
またか。
また、もどされたらしい。
じゃなきゃ、夢、みたらしい。
…夢と思っておこ。
わたしはそのまま、ふつうに学校に行った。
そして、勇に手紙をもらい。
告白、してもらった。
夢と違って、服のコーディネートはしていなかった。
夢と同じで、いいかな。
アレがいちばんのお気に入りなんだし。
さくさくと勝負コーデのアイテムを揃えると、ケータイのストラップ(これも夢どおり、切れかけてた)もとりかえ、わたしは早めに寝てしまうことにした。
夢でだいたいのところはわかっていても、デートの相談、そして初デートは、楽しいものだった。
さて、今度こそ、大丈夫よね?
わたしはこの今をセーブした。
次にまたもどされたら、ここに戻ってしまうことも、視野に入れて。
そうして、家に向かって歩き始めた。
目覚ましの音が聞こえる。
「…え??」
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
「わたし…?」
わたしは、ウチのドアのまえで、チャイムをならそうとしたところ…のはず。
でもそこから後が思い出せない。
倒れちゃったんだろうか? それとも…
とりあえず、目覚ましアラームを止めるべく、時計に手を伸ばす。
「…あ」
デジタルの表示はMon。
――月曜は昨日だったはずなのに。
また夢とか?
それとも、また戻されたのか。
バッグを確かめると、セーブストーンは入っていた。けど、だからって今のが夢でない、という保証もまたない。
とりあえずわたしは時計をそのままに、着替えると台所にいった。
「おはよう」
「おはよう~。
あら、なんか浮かない顔ね。大丈夫?」
お母さんはのほほーんとのたまう。
「う、うん。…
お母さん、今日って… 月曜、よね?」
「ええ、そうだけど?」
お母さんは明確にうなずいた。
『それでは「月曜の声」のコーナーです』
そのときラジオの声がそういった。
「月曜日…」
またか。
また、もどされたらしい。
じゃなきゃ、夢、みたらしい。
…って、そろそろ夢と思えないんですがっ。
ていうか、ちょっとこれは、うーん、だ!
みすずの場合 1-5
『また、消えた』
目覚ましの音が聞こえる。
「…え??」
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
「わたし…?」
わたしは、ウチのドアを開けて、靴を脱いでいたところ…のはず。
でもそこから後が思い出せない。
倒れちゃったんだろうか?
とりあえず、目覚ましアラームを止めるべく、時計に手を伸ばす。
「…えっ??」
デジタルの表示はMon。
月曜は昨日だったはずなのに。
ずれているのかな。それとも、また夢とか?
バッグにセーブストーンは入っていた、けど、だからって今のが夢でない、という保証もまたない…
とりあえずわたしは時計をそのままに、着替えると台所にいった。
「おはよう」
「おはよう~。
今日はちょっと遅かったわね。大丈夫?」
お母さんはのほほーんとのたまう。
「う、うん。
お母さん、わたし、…昨日、倒れたり、した?」
「ううん?」
お母さんは首を左右に振る。
『それでは「月曜の声」のコーナーです』
そのときラジオの声がそういった。
「月曜日…」
またか。
また、もどされたらしい。
じゃなきゃ、夢、みたらしい。
…夢と思っておこ。
わたしはそのまま、ふつうに学校に行った。
そして、勇に手紙をもらい。
告白、してもらった。
夢と違って、服のコーディネートはしていなかった。
夢と同じで、いいかな。
アレがいちばんのお気に入りなんだし。
さくさくと勝負コーデのアイテムを揃えると、ケータイのストラップ(これも夢どおり、切れかけてた)もとりかえ、わたしは早めに寝てしまうことにした。
夢でだいたいのところはわかっていても、デートの相談、そして初デートは、楽しいものだった。
さて、今度こそ、大丈夫よね?
わたしはこの今をセーブした。
次にまたもどされたら、ここに戻ってしまうことも、視野に入れて。
そうして、家に向かって歩き始めた。
目覚ましの音が聞こえる。
「…え??」
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
「わたし…?」
わたしは、ウチのドアのまえで、チャイムをならそうとしたところ…のはず。
でもそこから後が思い出せない。
倒れちゃったんだろうか? それとも…
とりあえず、目覚ましアラームを止めるべく、時計に手を伸ばす。
「…あ」
デジタルの表示はMon。
――月曜は昨日だったはずなのに。
また夢とか?
それとも、また戻されたのか。
バッグを確かめると、セーブストーンは入っていた。けど、だからって今のが夢でない、という保証もまたない。
とりあえずわたしは時計をそのままに、着替えると台所にいった。
「おはよう」
「おはよう~。
あら、なんか浮かない顔ね。大丈夫?」
お母さんはのほほーんとのたまう。
「う、うん。…
お母さん、今日って… 月曜、よね?」
「ええ、そうだけど?」
お母さんは明確にうなずいた。
『それでは「月曜の声」のコーナーです』
そのときラジオの声がそういった。
「月曜日…」
またか。
また、もどされたらしい。
じゃなきゃ、夢、みたらしい。
…って、そろそろ夢と思えないんですがっ。
ていうか、ちょっとこれは、うーん、だ!
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-6
『岐路』
わたしは速攻でトーストを平らげると部屋に戻った。
バッグからとりだした濃紺色の球体を、額に押し当てて念じる。
「プリカ、来てくださいっ!!」
「はぁ~い☆ よばれてとびでてにゃにゃにゃにゃ~ん♪ ってやっぱこれパクりかしらね? まいっかぁ~☆☆」
すると間髪いれず小さい妖精は現れた。
手にしたハリセンでぺしっとおでこを叩きつつ、こんなことをのたまわる。
しかし、さすがは長のつく役職者。プリカはみずから軌道修正してくれたのだった。
「ところで、ミスズさん。ご用件はなんでしょう?」
「ええ。実はちょっと困っていて…。
どうもわたし、なんども“今”にもどされているみたいなの。
前回は夢なんじゃ…て思えたけど、そろそろちょっと…ね。
多分ロードしてるのって、あの“だれかさん”だと思うけど……
なんとかしてあげる方法はないのかしら?
困ってるなら、手助けしてあげる、とか……」
「う~ん……
できないことは、ないです。
ただ……
微妙な問題になるかもしれません」
「?」
「セーブストーンのデータをロードすると、事実上『時が戻り』ますね?
でも、そういうふうになるのは、当事者だけのはずなんです」
プリカはどこからか、小さいホワイトボードと眼鏡を取り出して、かきかき板書しながら解説を始めた。
「つまり、『時が戻る』のは、
1.ロードしたヒトご本人 とか……
2.前略ご本人が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってたヒトやモノ とか……
3.セーブまたはロードの直前とかに、前略ご本人となんかイベント起こした(爆)ヒトやモノ とか……
だけなんですね。
具体例として、ミスズさんの二回目のろーどを例にとりますと――
ミスズさんがしたロードで『時が戻る』のは
1-A.ミスズさん
(本人)
2-A.ミスズさんのケータイ、ケータイひき逃げ犯(ともちろんそのトラック)、いれば、目撃者
(リセットしたい事件に関わってたヒトとモノ)
3-A.あたしとか
(セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物)
だけなんですねぇこれが。
それ以外のヒトには、なんとなく、でじゃびゅちっくな想いが残るだけ。
つまり、ミスズさんともーちょっとまえにイベントしてたイサミさんとかは、なんかちょっとぼーっとしちゃったかな~、くらいしか思ってないんです、原則。
例えば、ひき逃げされそうになってた、とかそういうことだったら、さすがに「今時もどんなかったかオイ?!」てことになりえますけどね。
まあそれはおいといてですね……
“だれかさん”のロードに、この図式をあてはめてかんがえますと、
1-B.=ご本人
はトーゼン“だれかさん”ですから…」
「わたしは、
2-B.=“だれかさん”が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってた人物
か
3-B.=“だれかさん”が、セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物
ということになる、てわけよね」
「はい、そのとおりですぅ。
でもぉするってぇとその“だれかさん”はミスズさんの身近な人である可能性も高いんですぅ。
“だれかさん”がデータロードしてる原因は、ミスズさんが無自覚に作ってたりして大ショック、とかありうるしぃ…」
プリカはここで(マルサの女ふうに)眼鏡を外した。
「つまり、ヘタにかかわるとシュラバです。
人生決定的にかわっちゃうかもです。
それよりは、ひとを信じ、願いを込めてもう一度今日を繰り返した方が無難は無難です。
…いまならまだ間に合いますよ。平穏な今日を繰り返す選択」
わたしにとっては……
一世一代の告白(される)の日は、平穏な1日じゃない。
おまけに、せっかくの初デートをリセットされまくって、黙ってなんかいられるか。
(もしも勇がこのことを“夢”て思ってなかったら、もっともっとしんどいはずだし!)
やらなくちゃ。
そもそも、身近なだれかが悩んでるなら。
大事な誰かが、わたしが原因で悩んでるなら……
「ほうってなんかおけないわ。
絶対に!
助けたいの。わたしのためにも」
「決意は固いようですね。…わかりました。
方策をお教えします。
“今日”をくりかえしてください」
みすずの場合 1-6
『岐路』
わたしは速攻でトーストを平らげると部屋に戻った。
バッグからとりだした濃紺色の球体を、額に押し当てて念じる。
「プリカ、来てくださいっ!!」
「はぁ~い☆ よばれてとびでてにゃにゃにゃにゃ~ん♪ ってやっぱこれパクりかしらね? まいっかぁ~☆☆」
すると間髪いれず小さい妖精は現れた。
手にしたハリセンでぺしっとおでこを叩きつつ、こんなことをのたまわる。
しかし、さすがは長のつく役職者。プリカはみずから軌道修正してくれたのだった。
「ところで、ミスズさん。ご用件はなんでしょう?」
「ええ。実はちょっと困っていて…。
どうもわたし、なんども“今”にもどされているみたいなの。
前回は夢なんじゃ…て思えたけど、そろそろちょっと…ね。
多分ロードしてるのって、あの“だれかさん”だと思うけど……
なんとかしてあげる方法はないのかしら?
困ってるなら、手助けしてあげる、とか……」
「う~ん……
できないことは、ないです。
ただ……
微妙な問題になるかもしれません」
「?」
「セーブストーンのデータをロードすると、事実上『時が戻り』ますね?
でも、そういうふうになるのは、当事者だけのはずなんです」
プリカはどこからか、小さいホワイトボードと眼鏡を取り出して、かきかき板書しながら解説を始めた。
「つまり、『時が戻る』のは、
1.ロードしたヒトご本人 とか……
2.前略ご本人が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってたヒトやモノ とか……
3.セーブまたはロードの直前とかに、前略ご本人となんかイベント起こした(爆)ヒトやモノ とか……
だけなんですね。
具体例として、ミスズさんの二回目のろーどを例にとりますと――
ミスズさんがしたロードで『時が戻る』のは
1-A.ミスズさん
(本人)
2-A.ミスズさんのケータイ、ケータイひき逃げ犯(ともちろんそのトラック)、いれば、目撃者
(リセットしたい事件に関わってたヒトとモノ)
3-A.あたしとか
(セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物)
だけなんですねぇこれが。
それ以外のヒトには、なんとなく、でじゃびゅちっくな想いが残るだけ。
つまり、ミスズさんともーちょっとまえにイベントしてたイサミさんとかは、なんかちょっとぼーっとしちゃったかな~、くらいしか思ってないんです、原則。
例えば、ひき逃げされそうになってた、とかそういうことだったら、さすがに「今時もどんなかったかオイ?!」てことになりえますけどね。
まあそれはおいといてですね……
“だれかさん”のロードに、この図式をあてはめてかんがえますと、
1-B.=ご本人
はトーゼン“だれかさん”ですから…」
「わたしは、
2-B.=“だれかさん”が、ロードつかってリセットしちゃいたいイベントにかかわってた人物
か
3-B.=“だれかさん”が、セーブロードするときや直前に、イベントおこしてた人物
ということになる、てわけよね」
「はい、そのとおりですぅ。
でもぉするってぇとその“だれかさん”はミスズさんの身近な人である可能性も高いんですぅ。
“だれかさん”がデータロードしてる原因は、ミスズさんが無自覚に作ってたりして大ショック、とかありうるしぃ…」
プリカはここで(マルサの女ふうに)眼鏡を外した。
「つまり、ヘタにかかわるとシュラバです。
人生決定的にかわっちゃうかもです。
それよりは、ひとを信じ、願いを込めてもう一度今日を繰り返した方が無難は無難です。
…いまならまだ間に合いますよ。平穏な今日を繰り返す選択」
わたしにとっては……
一世一代の告白(される)の日は、平穏な1日じゃない。
おまけに、せっかくの初デートをリセットされまくって、黙ってなんかいられるか。
(もしも勇がこのことを“夢”て思ってなかったら、もっともっとしんどいはずだし!)
やらなくちゃ。
そもそも、身近なだれかが悩んでるなら。
大事な誰かが、わたしが原因で悩んでるなら……
「ほうってなんかおけないわ。
絶対に!
助けたいの。わたしのためにも」
「決意は固いようですね。…わかりました。
方策をお教えします。
“今日”をくりかえしてください」
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-7
『行動開始』
プリカが言うには。
『ミスズさんはそのひとと直接イベントを起こしているか、そのひとに関わる重要なイベントを起こしているはずです。
“今日”をくりかえしなぞりながら、身の回りに目を光らせてください。
あなたが会話したひとか、あなたがしたことでダメージをうける誰かが、探しているそのひとです』
…つまり実際のところ、何も変わらない、のだ。
しかし、運命向上委員会でも顧客情報はカンタンには開示できないらしく、現時点では、これしか取れる方法がない。
わたしは、かばんを掴むと気合を入れた。
待ってなさい“だれかさん”。
絶対、見つける。
絶対、たすけるからね!
わたしはそのまま、ふつうに学校に行った。
そして、勇に手紙をもらい。
告白、してもらった。
わたし的には、三度目だけど。
やっぱりうれしい、彼からの告白。
でも、わたしは同時に、この様子を伺う存在に気づいてもいた。
社殿の影に、ひとり。
木立のかげにも、またひとり。
「…でもうれしいな。
ここで初デートの場所決めちゃいたいけど、今日はもう遅いから、明日またね。
あしたゆっくり決めよう。いっしょにお昼しながら。ねっ」
「ああ。
また、明日な」
「明日ね!」
とりあえず、ここは退場し、彼らの後ろに回り込もう。
わたしは走って神社を出た。
全速力で神社のわきにまわりこみ、停車していた大型トラックのかげあたりから侵入。
すると、木立に潜んでいる人物の後姿が見えた。
大学生くらいか? どことなーく見覚えのあるような、ちょっとひょろっとしたカンジの青年。
その向こうには、黒い学生服。
こちらは一瞬で誰だかわかった――淳司だ。
なるほど、勇のことからかいに来たんだな(笑)
しかし今の淳司は、それどころでないカンジ――木立の影の青年に気づいたようだ。
危機感を覚えたらしい、まもなく淳司は社殿の影から出て行くと、大鳥居の前で(遠目からでも明らかに)シアワセに浸っている勇に声をかけた。
「おい。
なーにこんなくっらいとこでひたってんだよ。
特定のシュミの奴が見てたらさらわれるぞおまえ」
「あいかわらず破壊されたツッコミをなさいますねあつしくん」
「おかげさまで」
ふたりは(…というか、勇が淳司に誘導されて、だけど)しゃべりながら神社をでていった。
いっぽうで木立の影の青年はしばしぼーっとした様子で立ち尽くしていたけれど、やがてくるっとこちらを向いた。
とはいっても、彼の目に入っていたのはトラックだけのよう。
とっさに身を引いたわたしの前をほわーんと歩いていくと、トラックのドアを開け、運転席に乗り込んだ。
うーん…このひとなんだろうか??
そんなカンジは、なんかちっともしないんだけど。
でも、現時点ではこのヒトが、かなり怪しいことは確かだ。
これまで、このひとはここにいなかった、気がするから。
セーブロード前後で行動がかわっている、ということは、セーブロードを使いこなしている=セーブストーンを持っている可能性が高い とも考えられるから。
とりあえずわたしは、プレートのナンバーを暗記した(メモしてもロードされたらなくなってしまうだろうし)。
そして、ゆっくり走り出すトラックを、できるところまで追いかけてみることにした。
いやな話、もしこの直後にこのトラックが事故とかおこせば、このヒトが“だれかさん”確定ということになるのだから。
今朝、プリカは口にしていた――
『例えば、ひき逃げされそうになってた、とかそういうことだったら、さすがに「今時もどんなかったかオイ?!」てことになりますけどね』
なにもなくて、ひき逃げ、てコトバがでてくるとは、ちょっと思いがたいことであるし。
大型トラックは、夕暮れの道を走っていく。
偶然か意識的にか、勇と淳司のうちがある方向へ。
もちろん、生身のわたしの足でおいつけるわけもない。距離はどんどん開いていく。
50mも開いたとき、ついにわたしはあきらめた。
うう、やっぱりムチャだった(笑)
しかたない。次回はさっさとこっちに先回りしよう。
わたしは立ち止まって息を整えた。
そのときトラックの行った方角から、遠くクラクション、ブレーキ音!
『事故だ』
直感し、わたしはもう一度走り出した。
いやな予感――まさかよね、勇!
とにもかくにも、現場を確かめて、救護しなくちゃ!!
しかし。
走るわたしに、黄色い閃光が、立ちふさがった。
一瞬だけわたしの部屋の天井が見えた。
そしてそれを塗り消すかのように、もう一度閃光!
わたしはふたたび、夕暮れの道を走っていた。
大型トラックを追って。
差は、さっきほどじゃないけれど、もう大分開いている。
あきらめようか。いや、また事故が起こるとしたら、立ち止まってるヒマなんかない。
わたしは気力を奮い立たせてしばらく走り続けた。
……が、あのおそろしい音はいっこうに聞こえてこない。
事故、回避できたんだ……。
そう感じると、思わず足が止まっていた。
同時にひざが笑い出す。ホントにもうムリだ。わたしは、追跡を打ち切った。
そして、苦しい息を整える――
みすずの場合 1-7
『行動開始』
プリカが言うには。
『ミスズさんはそのひとと直接イベントを起こしているか、そのひとに関わる重要なイベントを起こしているはずです。
“今日”をくりかえしなぞりながら、身の回りに目を光らせてください。
あなたが会話したひとか、あなたがしたことでダメージをうける誰かが、探しているそのひとです』
…つまり実際のところ、何も変わらない、のだ。
しかし、運命向上委員会でも顧客情報はカンタンには開示できないらしく、現時点では、これしか取れる方法がない。
わたしは、かばんを掴むと気合を入れた。
待ってなさい“だれかさん”。
絶対、見つける。
絶対、たすけるからね!
わたしはそのまま、ふつうに学校に行った。
そして、勇に手紙をもらい。
告白、してもらった。
わたし的には、三度目だけど。
やっぱりうれしい、彼からの告白。
でも、わたしは同時に、この様子を伺う存在に気づいてもいた。
社殿の影に、ひとり。
木立のかげにも、またひとり。
「…でもうれしいな。
ここで初デートの場所決めちゃいたいけど、今日はもう遅いから、明日またね。
あしたゆっくり決めよう。いっしょにお昼しながら。ねっ」
「ああ。
また、明日な」
「明日ね!」
とりあえず、ここは退場し、彼らの後ろに回り込もう。
わたしは走って神社を出た。
全速力で神社のわきにまわりこみ、停車していた大型トラックのかげあたりから侵入。
すると、木立に潜んでいる人物の後姿が見えた。
大学生くらいか? どことなーく見覚えのあるような、ちょっとひょろっとしたカンジの青年。
その向こうには、黒い学生服。
こちらは一瞬で誰だかわかった――淳司だ。
なるほど、勇のことからかいに来たんだな(笑)
しかし今の淳司は、それどころでないカンジ――木立の影の青年に気づいたようだ。
危機感を覚えたらしい、まもなく淳司は社殿の影から出て行くと、大鳥居の前で(遠目からでも明らかに)シアワセに浸っている勇に声をかけた。
「おい。
なーにこんなくっらいとこでひたってんだよ。
特定のシュミの奴が見てたらさらわれるぞおまえ」
「あいかわらず破壊されたツッコミをなさいますねあつしくん」
「おかげさまで」
ふたりは(…というか、勇が淳司に誘導されて、だけど)しゃべりながら神社をでていった。
いっぽうで木立の影の青年はしばしぼーっとした様子で立ち尽くしていたけれど、やがてくるっとこちらを向いた。
とはいっても、彼の目に入っていたのはトラックだけのよう。
とっさに身を引いたわたしの前をほわーんと歩いていくと、トラックのドアを開け、運転席に乗り込んだ。
うーん…このひとなんだろうか??
そんなカンジは、なんかちっともしないんだけど。
でも、現時点ではこのヒトが、かなり怪しいことは確かだ。
これまで、このひとはここにいなかった、気がするから。
セーブロード前後で行動がかわっている、ということは、セーブロードを使いこなしている=セーブストーンを持っている可能性が高い とも考えられるから。
とりあえずわたしは、プレートのナンバーを暗記した(メモしてもロードされたらなくなってしまうだろうし)。
そして、ゆっくり走り出すトラックを、できるところまで追いかけてみることにした。
いやな話、もしこの直後にこのトラックが事故とかおこせば、このヒトが“だれかさん”確定ということになるのだから。
今朝、プリカは口にしていた――
『例えば、ひき逃げされそうになってた、とかそういうことだったら、さすがに「今時もどんなかったかオイ?!」てことになりますけどね』
なにもなくて、ひき逃げ、てコトバがでてくるとは、ちょっと思いがたいことであるし。
大型トラックは、夕暮れの道を走っていく。
偶然か意識的にか、勇と淳司のうちがある方向へ。
もちろん、生身のわたしの足でおいつけるわけもない。距離はどんどん開いていく。
50mも開いたとき、ついにわたしはあきらめた。
うう、やっぱりムチャだった(笑)
しかたない。次回はさっさとこっちに先回りしよう。
わたしは立ち止まって息を整えた。
そのときトラックの行った方角から、遠くクラクション、ブレーキ音!
『事故だ』
直感し、わたしはもう一度走り出した。
いやな予感――まさかよね、勇!
とにもかくにも、現場を確かめて、救護しなくちゃ!!
しかし。
走るわたしに、黄色い閃光が、立ちふさがった。
一瞬だけわたしの部屋の天井が見えた。
そしてそれを塗り消すかのように、もう一度閃光!
わたしはふたたび、夕暮れの道を走っていた。
大型トラックを追って。
差は、さっきほどじゃないけれど、もう大分開いている。
あきらめようか。いや、また事故が起こるとしたら、立ち止まってるヒマなんかない。
わたしは気力を奮い立たせてしばらく走り続けた。
……が、あのおそろしい音はいっこうに聞こえてこない。
事故、回避できたんだ……。
そう感じると、思わず足が止まっていた。
同時にひざが笑い出す。ホントにもうムリだ。わたしは、追跡を打ち切った。
そして、苦しい息を整える――
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-8
『チャレンジ2回目~推理のお時間~』
歩き出そうとすると足は柔らかいものに当たった。
見えるのは天井。
わたしはベッドに横たわっていた。
わたしの部屋。朝だ。
もどされたのだ――さっき誰かがロードしたのだ。
今度は、事故は起きてなかったはずなのに…
とりあえず、起きよう。
いつものようにベッドから出て、まずカーテンを大きく開ける。
ああ、朝日がまぶしい。
今のでいくつかわかったことがある。それを整理しておきたい。
今日はとりあえず早めに学校いっとこう。
わたしは気合を入れて身支度にかかった。
授業内容はすでに頭に入っている。わたしは授業時間中に(もちろんノートはとったけど)、今のことをまとめてみた。
◆前提(確実なこと)
・セーブストーンはふたつある
月曜朝のデータがセーブされてるのと、月曜夕方のふたつがある。
・「朝」のひとが“だれかさん”
このひとは、月曜夕方と、火曜夕方にロードしている。
・「夕方」のひともいる。
このひとは、前回の月曜夕方にはじめてロードしてる。
◆時系列順の列挙とそれへの推測
●“だれかさん”は、火曜夕方にロードをしている。
→“だれかさん”的には、火曜夕方の状態であるのは、本意でない、と考えられる。
月曜朝の状態であってほしかった? それが何かは不明
●昨日(いや主観的に)、つまり月曜夕方の二連発ロード
これは同じひとつのことに対して、ふたりがほぼ同時にロードした結果おきたしろものだろう。
タイミングからいって、それは、あの事故。
事故現場に、ふたりのセーブストーン持ちが居合わせて。
それぞれが勝手にロードした。
少なくともどっちかが、相手の存在を知らなかったか――
知ってても、あわてたのか、で。
●で、なおかつ“だれかさん”は、この状態でさらにロードをしてる。
→“だれかさん”的には、事故回避もしたかったんだろうけど、でも月曜夕方の状態であるのは、本意でない、と考えられる。
→「夕方さん」はこれに対して、ロードをしなおしてない。「夕方さん」は単に事故回避をしたかっただけのようだ。
◆横断的推測
●“だれかさん”「夕方さん」は、同時にあの交通事故にかかわってる(轢いたか、轢かれたか、目撃者かの違いはあるけど)。
・もし、轢いたほうが“だれかさん”なら…“だれかさん”はあのトラック青年である、ということになる。
→「夕方さん」は勇か淳司?
・逆に“だれかさん”が轢かれたほう、おあ目撃者なら…それは、勇か淳司?
→「夕方さん」はトラック青年、ということになる
(あのときの自分の直感を信じるなら…ひき逃げの被害者は勇だけど、
詳しくはまだ不明だ)
●“だれかさん”は、最初は火曜夕方にロードしてた。けど、結局月曜夕方にもロードした。
→“だれかさん”の気に入らないことは、流動的な状況でおきうることである。もしくは“だれかさん”は、複数の“やなこと”に対してロードしている。
(プリカのコトバから勝手に推測するなら、それはひき逃げ事件)
――ちょっと、不確定要素が多くてわかりにくい。
“だれかさん”は勇か、淳司か、トラック青年か。
“だれかさん”のデータロードの引き金はいつ起こるのか・なんなのか。
ただひとつ確実にいえるのは、“だれかさん”がリセットしてもいいと思うことは、すくなくとも月曜の朝以降に起きてるということだ。
月曜日…
といったら、勇が告白してくれた、わたしがOKした、日だ。
この時点で、勇は“だれかさん”じゃなくなる。だれが成功した告白をなかったことにしたいと思うだろうか。わたしが勇で、セーブストーンを持ってたら、告白のあとに速攻セーブするし。
淳司も違うだろう。淳司は、勇をずっと応援してたのだから。
ということはやっぱり、あのトラック青年が“だれかさん”なのだ。
違うとき、違う場所で同じヒトが何度もひき逃げされるというのは考えにくいけど、同じヒトが何度もひき逃げをしてしまうことはありうるし(やなハナシだけど…)。
さて、そうなると、困った。
よく知らないヒトが、いつなにでロードするかわからない。
そうなると、どう対策をとったらいいのか…。
わたしの持ってる、火曜夕方のデータには、そのひとにとっての“やなこと”が含まれてるとするなら。
それが原因でロードを繰り返されるなら。
わたしは一旦、このデータを破棄するしかないのだろう。
月曜朝から、こまめにセーブを繰り返して――
もし月曜朝に飛ばされたら、こっちもロード。
そのあと、また月曜朝にもどされなければ、ok。
もどされたら、やなこと含みのデータなのだから破棄。また月曜朝からやりなおす。
あああ、先が長い~…。
とりあえず、容疑を固めておこう。
事故現場を押さえる。で、そのひとに会おう。
勇からの手紙をうけとり神社に行き、告白OKするとわたしは、さっそくあの現場へと向かった。
みすずの場合 1-8
『チャレンジ2回目~推理のお時間~』
歩き出そうとすると足は柔らかいものに当たった。
見えるのは天井。
わたしはベッドに横たわっていた。
わたしの部屋。朝だ。
もどされたのだ――さっき誰かがロードしたのだ。
今度は、事故は起きてなかったはずなのに…
とりあえず、起きよう。
いつものようにベッドから出て、まずカーテンを大きく開ける。
ああ、朝日がまぶしい。
今のでいくつかわかったことがある。それを整理しておきたい。
今日はとりあえず早めに学校いっとこう。
わたしは気合を入れて身支度にかかった。
授業内容はすでに頭に入っている。わたしは授業時間中に(もちろんノートはとったけど)、今のことをまとめてみた。
◆前提(確実なこと)
・セーブストーンはふたつある
月曜朝のデータがセーブされてるのと、月曜夕方のふたつがある。
・「朝」のひとが“だれかさん”
このひとは、月曜夕方と、火曜夕方にロードしている。
・「夕方」のひともいる。
このひとは、前回の月曜夕方にはじめてロードしてる。
◆時系列順の列挙とそれへの推測
●“だれかさん”は、火曜夕方にロードをしている。
→“だれかさん”的には、火曜夕方の状態であるのは、本意でない、と考えられる。
月曜朝の状態であってほしかった? それが何かは不明
●昨日(いや主観的に)、つまり月曜夕方の二連発ロード
これは同じひとつのことに対して、ふたりがほぼ同時にロードした結果おきたしろものだろう。
タイミングからいって、それは、あの事故。
事故現場に、ふたりのセーブストーン持ちが居合わせて。
それぞれが勝手にロードした。
少なくともどっちかが、相手の存在を知らなかったか――
知ってても、あわてたのか、で。
●で、なおかつ“だれかさん”は、この状態でさらにロードをしてる。
→“だれかさん”的には、事故回避もしたかったんだろうけど、でも月曜夕方の状態であるのは、本意でない、と考えられる。
→「夕方さん」はこれに対して、ロードをしなおしてない。「夕方さん」は単に事故回避をしたかっただけのようだ。
◆横断的推測
●“だれかさん”「夕方さん」は、同時にあの交通事故にかかわってる(轢いたか、轢かれたか、目撃者かの違いはあるけど)。
・もし、轢いたほうが“だれかさん”なら…“だれかさん”はあのトラック青年である、ということになる。
→「夕方さん」は勇か淳司?
・逆に“だれかさん”が轢かれたほう、おあ目撃者なら…それは、勇か淳司?
→「夕方さん」はトラック青年、ということになる
(あのときの自分の直感を信じるなら…ひき逃げの被害者は勇だけど、
詳しくはまだ不明だ)
●“だれかさん”は、最初は火曜夕方にロードしてた。けど、結局月曜夕方にもロードした。
→“だれかさん”の気に入らないことは、流動的な状況でおきうることである。もしくは“だれかさん”は、複数の“やなこと”に対してロードしている。
(プリカのコトバから勝手に推測するなら、それはひき逃げ事件)
――ちょっと、不確定要素が多くてわかりにくい。
“だれかさん”は勇か、淳司か、トラック青年か。
“だれかさん”のデータロードの引き金はいつ起こるのか・なんなのか。
ただひとつ確実にいえるのは、“だれかさん”がリセットしてもいいと思うことは、すくなくとも月曜の朝以降に起きてるということだ。
月曜日…
といったら、勇が告白してくれた、わたしがOKした、日だ。
この時点で、勇は“だれかさん”じゃなくなる。だれが成功した告白をなかったことにしたいと思うだろうか。わたしが勇で、セーブストーンを持ってたら、告白のあとに速攻セーブするし。
淳司も違うだろう。淳司は、勇をずっと応援してたのだから。
ということはやっぱり、あのトラック青年が“だれかさん”なのだ。
違うとき、違う場所で同じヒトが何度もひき逃げされるというのは考えにくいけど、同じヒトが何度もひき逃げをしてしまうことはありうるし(やなハナシだけど…)。
さて、そうなると、困った。
よく知らないヒトが、いつなにでロードするかわからない。
そうなると、どう対策をとったらいいのか…。
わたしの持ってる、火曜夕方のデータには、そのひとにとっての“やなこと”が含まれてるとするなら。
それが原因でロードを繰り返されるなら。
わたしは一旦、このデータを破棄するしかないのだろう。
月曜朝から、こまめにセーブを繰り返して――
もし月曜朝に飛ばされたら、こっちもロード。
そのあと、また月曜朝にもどされなければ、ok。
もどされたら、やなこと含みのデータなのだから破棄。また月曜朝からやりなおす。
あああ、先が長い~…。
とりあえず、容疑を固めておこう。
事故現場を押さえる。で、そのひとに会おう。
勇からの手紙をうけとり神社に行き、告白OKするとわたしは、さっそくあの現場へと向かった。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-9
『チャレンジ2回目~張り込みタイム~』
勇の家への最終コーナー(笑)をタテにするように、わたしは張り込みを始めた。
しばらくすると、勇が歩いてくる。
うーんと夜空に伸びをして一言。
「あ~。セーブしてぇ~」
「できますよ☆」
するとプリカがあらわれた。
「アプリコット…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
これに驚くか、現実逃避するかと思われた勇はしかし、動じない。
むしろこんなことを言い出した。
「って、そーじゃねーだろこの会話っ。
だいたい俺たち初対面だろ?! どうしてこう、ふつーにお知り合い的会話してるんだよ?! つかなんっでこんな未知の生命体みてゼンゼンおどろかねーよ俺!」
「そりゃ~そうですよぉ~。
だってあたしは昨日の今日に、イサミと運命的かつ情熱的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったものぉ☆」
そのコトバにわたしは驚いた…勇も、セーブストーンを持ってたんだ!
「だーからこれ以上セールストークしたところで意味なっしんぐ!! セーブストーンはおひとりさまにひとつしかお売りできない仕組みなんですぅ。ま~お客様同士が売り買い譲渡されるのはぜーんぜんいーんですけどぉ」
「でも…
いまは『セーブストーンを買ったのより前』…のはずだよな?
だってオレ、今日みすずに…。
らぶれたぁ、出したはずなのに出してなくって…だから、も一度出して…。
なのになんで、これはもってるんだ? お前のことは、知ってるんだよ…」
――勇も、同じ目にあっている。
わけわかんないままもどされてる。
ということは“だれかさん”じゃない。
つまり「夕方さん」だったのだ――
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
「…ってことは、つまり???」
「だれかがデータロードをしたんですよ。
イサミがあたしから、セーブストーンを買った後に」
勇はぽんっと手を打った。
そのとき向こう側――この道への曲がり角で、ちかっと何かが光をはじく。
プリカがそちらへ手を掲げるとその光は引っ込んだ。
あれ、セーブストーン?
まさか“だれかさん”?!
わたしはなるべく静かに駆け出した。
回りこもう。正体を見極めるのだ。
もし“だれかさん”だったら――
だが、彼の後ろをとれた、と思ったとき、まぶしい光に目がくらんだ。
ヘッドライト。大型トラックだった。
それは、なんとあのトラック。運転席にいたのは、あの青年。
慎重な運転で、右折――勇のうちの前を通る道へとはいっていく。
その瞬間、黄色い閃光に視界が塗りつぶされた。
みすずの場合 1-9
『チャレンジ2回目~張り込みタイム~』
勇の家への最終コーナー(笑)をタテにするように、わたしは張り込みを始めた。
しばらくすると、勇が歩いてくる。
うーんと夜空に伸びをして一言。
「あ~。セーブしてぇ~」
「できますよ☆」
するとプリカがあらわれた。
「アプリコット…?」
「だいせいか~い! どんどんどんぱ~ふ~ぱ~ふ~☆」
これに驚くか、現実逃避するかと思われた勇はしかし、動じない。
むしろこんなことを言い出した。
「って、そーじゃねーだろこの会話っ。
だいたい俺たち初対面だろ?! どうしてこう、ふつーにお知り合い的会話してるんだよ?! つかなんっでこんな未知の生命体みてゼンゼンおどろかねーよ俺!」
「そりゃ~そうですよぉ~。
だってあたしは昨日の今日に、イサミと運命的かつ情熱的な出会いを果たしてぇ、セーブストーンをお売りしちゃったものぉ☆」
そのコトバにわたしは驚いた…勇も、セーブストーンを持ってたんだ!
「だーからこれ以上セールストークしたところで意味なっしんぐ!! セーブストーンはおひとりさまにひとつしかお売りできない仕組みなんですぅ。ま~お客様同士が売り買い譲渡されるのはぜーんぜんいーんですけどぉ」
「でも…
いまは『セーブストーンを買ったのより前』…のはずだよな?
だってオレ、今日みすずに…。
らぶれたぁ、出したはずなのに出してなくって…だから、も一度出して…。
なのになんで、これはもってるんだ? お前のことは、知ってるんだよ…」
――勇も、同じ目にあっている。
わけわかんないままもどされてる。
ということは“だれかさん”じゃない。
つまり「夕方さん」だったのだ――
「セーブストーンは絶対レベルの存在です。
一度取得がなされれば、どこかで取得以前のデータがロードされても消えはしません」
「…ってことは、つまり???」
「だれかがデータロードをしたんですよ。
イサミがあたしから、セーブストーンを買った後に」
勇はぽんっと手を打った。
そのとき向こう側――この道への曲がり角で、ちかっと何かが光をはじく。
プリカがそちらへ手を掲げるとその光は引っ込んだ。
あれ、セーブストーン?
まさか“だれかさん”?!
わたしはなるべく静かに駆け出した。
回りこもう。正体を見極めるのだ。
もし“だれかさん”だったら――
だが、彼の後ろをとれた、と思ったとき、まぶしい光に目がくらんだ。
ヘッドライト。大型トラックだった。
それは、なんとあのトラック。運転席にいたのは、あの青年。
慎重な運転で、右折――勇のうちの前を通る道へとはいっていく。
その瞬間、黄色い閃光に視界が塗りつぶされた。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-10
『チャレンジ3回目~疑惑~』
目覚ましの音が聞こえる。
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋。朝だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
もどされたのだ――さっきの誰かがロードしたのだ。
今度は、事故は起きてなかったのに。
わたしは身支度を済ませると、さくさくとトーストを平らげ、学校へと向かった。
時間が惜しい。歩きながら今までのことをまとめてしまおう。
●トラック青年はセーブストーンをもってなかった。
●「夕方さん」は勇。あのとき事故でロード。
●“だれかさん”は、あそこの角にいた人物。たぶん事故の目撃者。でも、事故じゃないのに突然ロードした。
勇とプリカの会話のあと――ふたりの会話をみたあとロード。
このロードはすくなくとも、セーブストーン取得をなかったことにする目的ではないはずだ。
(セーブストーンは絶対レベルの存在と、“だれかさん”自身もプリカのフォローで聞いているはずだ。だから、勇がセーブストーンを取得するより前のデータでロードしても、それはムダ。)
単にふたりのやりとりが面白くって聞いていたなら(笑)“だれかさん”がリセットしたかったことは、ふたりの会話よりももっと前に起きていたことである、ということになる。
ふたりの会話より前。でも、そんなに前でもないはず。
(もしそうならとっくにロードされてるはずだから)
――そこまで考えて。
どきん、とした。
ふたりの会話の直前、あったことといえば…
勇の告白。
セーブストーンらしき光が見えたとき、プリカが何気ないしぐさで手を掲げた。
すると、光は引っ込んだ。
プリカは、そこにその人がいるのを知っていた。
そのヒトの正体を知っていた。
そのひとは――
『でもぉするってぇとその“だれかさん”はミスズさんの身近な人である可能性も高いんですぅ。
“だれかさん”がデータロードしてる原因は、ミスズさんが無自覚に作ってたりして大ショック、とかありうるしぃ…』
わたしの、身近なヒトであるかもしれない。
勇の告白をなかったことにしたいと思うだれか。
まさか火曜夕方のロードもわたしたちのデートを目撃して…??
いやいや、プリカのあのコトバ。きっと、それはひき逃げをなかったことにしたかったのだ。
でもその後、わたしたちの関係に気づいて、見張るようになって…
告白が、成功したら…
社殿の影から勇の様子をうかがう淳司の姿が目に浮かんだ。
いや、そんな。
それは、ありえない。
だって淳司は、ずっと勇を応援してた。
それに淳司がわたしに向ける言葉やまなざしは、勇のそれとははっきり違う。
ふつうの“仲間”に対してのものでしかない。
――そのとき、黄色い閃光がわたしの思考をぶったぎった!
わたしは夕方に戻っていた。
かばんをかかえ、走っていた。
はるか前方にはトラック。
勇がロードしたんだ。
わたしは気づいた――これはチャンスだ!
前々回の、この後――
勇のうちへの角で。
あのトラックが事故を起こした。
で“だれかさん”がロードした。
“だれかさん”は事故を見ている。目撃者として現場にいたのだ。
(勇もトラック青年も“だれかさん”じゃなかったから、必然的にそうなる)
前回の、この後――
勇のうちへの角で。
“だれかさん”は勇とプリカの会話を見ていた。
つまり。
『“だれかさん”はおそらく、今回もそこにいる!』
今度こそ見極める。
わたしはかばんを投げ出し速度を上げた。
しかし、その瞬間。
またしても黄色い閃光がわたしを阻んだ。
みすずの場合 1-10
『チャレンジ3回目~疑惑~』
目覚ましの音が聞こえる。
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋。朝だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
もどされたのだ――さっきの誰かがロードしたのだ。
今度は、事故は起きてなかったのに。
わたしは身支度を済ませると、さくさくとトーストを平らげ、学校へと向かった。
時間が惜しい。歩きながら今までのことをまとめてしまおう。
●トラック青年はセーブストーンをもってなかった。
●「夕方さん」は勇。あのとき事故でロード。
●“だれかさん”は、あそこの角にいた人物。たぶん事故の目撃者。でも、事故じゃないのに突然ロードした。
勇とプリカの会話のあと――ふたりの会話をみたあとロード。
このロードはすくなくとも、セーブストーン取得をなかったことにする目的ではないはずだ。
(セーブストーンは絶対レベルの存在と、“だれかさん”自身もプリカのフォローで聞いているはずだ。だから、勇がセーブストーンを取得するより前のデータでロードしても、それはムダ。)
単にふたりのやりとりが面白くって聞いていたなら(笑)“だれかさん”がリセットしたかったことは、ふたりの会話よりももっと前に起きていたことである、ということになる。
ふたりの会話より前。でも、そんなに前でもないはず。
(もしそうならとっくにロードされてるはずだから)
――そこまで考えて。
どきん、とした。
ふたりの会話の直前、あったことといえば…
勇の告白。
セーブストーンらしき光が見えたとき、プリカが何気ないしぐさで手を掲げた。
すると、光は引っ込んだ。
プリカは、そこにその人がいるのを知っていた。
そのヒトの正体を知っていた。
そのひとは――
『でもぉするってぇとその“だれかさん”はミスズさんの身近な人である可能性も高いんですぅ。
“だれかさん”がデータロードしてる原因は、ミスズさんが無自覚に作ってたりして大ショック、とかありうるしぃ…』
わたしの、身近なヒトであるかもしれない。
勇の告白をなかったことにしたいと思うだれか。
まさか火曜夕方のロードもわたしたちのデートを目撃して…??
いやいや、プリカのあのコトバ。きっと、それはひき逃げをなかったことにしたかったのだ。
でもその後、わたしたちの関係に気づいて、見張るようになって…
告白が、成功したら…
社殿の影から勇の様子をうかがう淳司の姿が目に浮かんだ。
いや、そんな。
それは、ありえない。
だって淳司は、ずっと勇を応援してた。
それに淳司がわたしに向ける言葉やまなざしは、勇のそれとははっきり違う。
ふつうの“仲間”に対してのものでしかない。
――そのとき、黄色い閃光がわたしの思考をぶったぎった!
わたしは夕方に戻っていた。
かばんをかかえ、走っていた。
はるか前方にはトラック。
勇がロードしたんだ。
わたしは気づいた――これはチャンスだ!
前々回の、この後――
勇のうちへの角で。
あのトラックが事故を起こした。
で“だれかさん”がロードした。
“だれかさん”は事故を見ている。目撃者として現場にいたのだ。
(勇もトラック青年も“だれかさん”じゃなかったから、必然的にそうなる)
前回の、この後――
勇のうちへの角で。
“だれかさん”は勇とプリカの会話を見ていた。
つまり。
『“だれかさん”はおそらく、今回もそこにいる!』
今度こそ見極める。
わたしはかばんを投げ出し速度を上げた。
しかし、その瞬間。
またしても黄色い閃光がわたしを阻んだ。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-11
『チャレンジ4回目~To The Last Lot~』
目覚ましの音が聞こえる。
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋。朝だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
もどされたのだ――さっきの誰かがロードしたのだ。
今度は、事故は起きてなかったのに。
“ひょっとして、勇と“だれかさん”が、対抗しあっている?”
わたしは身支度を済ませると、さくさくとトーストを平らげ、学校へと向かった。
現時点ではこれ以上、まとめられることは何もない。
今回は、あの角のいっこ向こうで張り込もう。
そうして今度こそ、確かめる。
“だれかさん”は淳司じゃないって、証明するのだ。
しかし、わたしはそのまま校門をくぐることはできなかった。
通学路の途中で、またしても閃光にまかれ、朝をもう一度繰り返す羽目になったのだ。
くう~、いいかげんめんどっくさいよ!
まんいち淳司だったら。も~一発殴らせてもらおう(爆)
もちろん、事情を聞いたうえで、だけど。
異変は、その日の昼休みに起きた。
勇は、下駄箱に行った。
しかし、手紙の内容は一部変わっていた。
神社への呼び出しという点は一緒だが、呼び出しの日時は「またあらためて連絡します」だったのだ。
どうやら、具体的な行動に出たようだ。
『“だれかさん”は告白を見届けるべく神社に来るだろう。なら、そこでつかまえよう。
わたしのことは、まきこまないために呼ばない』
そんなつもりなのだろう。
でも。
わたしは知ってる。神社で様子を伺ってたのは、あのトラック青年と淳司だけのはず。
トラック青年は“だれかさん”じゃない。
すると、残るのは淳司になる。
淳司じゃ…ないよね?
でも、気になる。
わたしは、こっそりと勇をつけて神社に行った。
充分に、間を空けて。
はたしてわたしの前方には、淳司、ついでなぞのトラック青年があらわれ、勇を尾行し始めたのだった。
淳司は社殿の影に、トラック青年は前回の木立の逆にある茂みに陣取った。
わたしはふたりのさらに後ろ、小さいほこらの影に身を潜めた。
この状況…なんとなくおかしい(笑)
切羽詰ってるはずなのに、わたしはなんだか笑えてきてしまう。
勇はこれまでと同じく、大鳥居にもたれてだれかを待っている様子。
しかし、ふいに社殿のほうを振り返る!
「おい!!」
走ってくる。
淳司は逃げだした。社殿をまわりこんでそのまま木立にはしりこみ、勇をまくつもりらしい。
しかし、社殿の角を曲がったところで足を止める。
そこには勇が回り込んでいたのだ。
立ちすくみ、そして、あきらめたようにうつむく淳司。
しかし作戦勝ちを収めたはずの勇もまた、その場にぼうぜんと立ちすくんでいた。
しばし、沈黙。
きまずい沈黙が、ふたりをつつんだ。
ややあって、震える声が、問いを投げかけた。
「淳司……。
まさか、だよな?
俺のこと何度も何度も今朝に戻しやがった野郎は、おまえ…じゃないよな?」
「……………」
「お前、なのか?」
「…………………………何言ってるんだ?
おれにはわからないよ……。」
すると勇はゆっくりとひとつ深呼吸して、こんなことを言い出した。
「淳司。
お前もセーブストーンを持っているんだろ。
みすずへの告白のことで、ロードしたんだろ。
だから前前回の今朝俺が話した、みすずへの告白の日取りがはっきり記憶に残ってた。
…もし、そうでなかったら…
前回の今朝、お前なんで、『告白しないでいいのか』なんて聞いてきたんだ?!
まさにこの日、俺がみすずに告白するはずだと…
一体、なにから判断したんだ?!!」
「っ」
突如口調を荒げて一喝。淳司はびくっと身をすくませた。
そうして、あわあわとこたえて。
「えっ…あの…そう、直感だよ。
おまえの態度からなんとなく…」
「語るに落ちたな」
淳司は両手で口を押さえた。
勇は、すっと静かな表情になった。
そう、本当になにも知らないなら。
――セーブストーンを持っていないなら。
そもそも『前回の今朝』などというコトバが通じるはずもない。
ということは、つまり……
淳司が“だれかさん”だった、のだ。
みすずの場合 1-11
『チャレンジ4回目~To The Last Lot~』
目覚ましの音が聞こえる。
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋。朝だ。
そしてわたしは、自分のベッドに横になっていた。
もどされたのだ――さっきの誰かがロードしたのだ。
今度は、事故は起きてなかったのに。
“ひょっとして、勇と“だれかさん”が、対抗しあっている?”
わたしは身支度を済ませると、さくさくとトーストを平らげ、学校へと向かった。
現時点ではこれ以上、まとめられることは何もない。
今回は、あの角のいっこ向こうで張り込もう。
そうして今度こそ、確かめる。
“だれかさん”は淳司じゃないって、証明するのだ。
しかし、わたしはそのまま校門をくぐることはできなかった。
通学路の途中で、またしても閃光にまかれ、朝をもう一度繰り返す羽目になったのだ。
くう~、いいかげんめんどっくさいよ!
まんいち淳司だったら。も~一発殴らせてもらおう(爆)
もちろん、事情を聞いたうえで、だけど。
異変は、その日の昼休みに起きた。
勇は、下駄箱に行った。
しかし、手紙の内容は一部変わっていた。
神社への呼び出しという点は一緒だが、呼び出しの日時は「またあらためて連絡します」だったのだ。
どうやら、具体的な行動に出たようだ。
『“だれかさん”は告白を見届けるべく神社に来るだろう。なら、そこでつかまえよう。
わたしのことは、まきこまないために呼ばない』
そんなつもりなのだろう。
でも。
わたしは知ってる。神社で様子を伺ってたのは、あのトラック青年と淳司だけのはず。
トラック青年は“だれかさん”じゃない。
すると、残るのは淳司になる。
淳司じゃ…ないよね?
でも、気になる。
わたしは、こっそりと勇をつけて神社に行った。
充分に、間を空けて。
はたしてわたしの前方には、淳司、ついでなぞのトラック青年があらわれ、勇を尾行し始めたのだった。
淳司は社殿の影に、トラック青年は前回の木立の逆にある茂みに陣取った。
わたしはふたりのさらに後ろ、小さいほこらの影に身を潜めた。
この状況…なんとなくおかしい(笑)
切羽詰ってるはずなのに、わたしはなんだか笑えてきてしまう。
勇はこれまでと同じく、大鳥居にもたれてだれかを待っている様子。
しかし、ふいに社殿のほうを振り返る!
「おい!!」
走ってくる。
淳司は逃げだした。社殿をまわりこんでそのまま木立にはしりこみ、勇をまくつもりらしい。
しかし、社殿の角を曲がったところで足を止める。
そこには勇が回り込んでいたのだ。
立ちすくみ、そして、あきらめたようにうつむく淳司。
しかし作戦勝ちを収めたはずの勇もまた、その場にぼうぜんと立ちすくんでいた。
しばし、沈黙。
きまずい沈黙が、ふたりをつつんだ。
ややあって、震える声が、問いを投げかけた。
「淳司……。
まさか、だよな?
俺のこと何度も何度も今朝に戻しやがった野郎は、おまえ…じゃないよな?」
「……………」
「お前、なのか?」
「…………………………何言ってるんだ?
おれにはわからないよ……。」
すると勇はゆっくりとひとつ深呼吸して、こんなことを言い出した。
「淳司。
お前もセーブストーンを持っているんだろ。
みすずへの告白のことで、ロードしたんだろ。
だから前前回の今朝俺が話した、みすずへの告白の日取りがはっきり記憶に残ってた。
…もし、そうでなかったら…
前回の今朝、お前なんで、『告白しないでいいのか』なんて聞いてきたんだ?!
まさにこの日、俺がみすずに告白するはずだと…
一体、なにから判断したんだ?!!」
「っ」
突如口調を荒げて一喝。淳司はびくっと身をすくませた。
そうして、あわあわとこたえて。
「えっ…あの…そう、直感だよ。
おまえの態度からなんとなく…」
「語るに落ちたな」
淳司は両手で口を押さえた。
勇は、すっと静かな表情になった。
そう、本当になにも知らないなら。
――セーブストーンを持っていないなら。
そもそも『前回の今朝』などというコトバが通じるはずもない。
ということは、つまり……
淳司が“だれかさん”だった、のだ。
セーブストーン ~あの瞬間に戻りたい another
みすずの場合 1-12
『みすずの場合』
「お前もあいつからストーンを手に入れた。そうなんだな」
さらに問いを重ねられると、淳司は観念した様子で、答えを返す。
「そうだよ。
データロードを繰り返したのは、オレだ。
みすずに告白なんか…させられないから」
「なんでだ!!
お前まさか……
ホントはみすずのこと」
「ちっちがうよ!! そんなことはない!!」
「…え?」
あわてる淳司、ぼーぜんとする勇。
「……あ、その…
ほら、みすずは仲間じゃん。オレにとってはだから…そういう対象なんじゃなくて…別にオレはみすずを好きなんじゃない。これはホントだよ」
わたしはちょっとほっとしていた。よかった、やっぱりそうだった。
でも…
「じゃあ…なんで……?」
「…
言えないよ」
淳司はうつむいた。
「言えない。絶対に」
「おい」
「とにかく告白なんかするな。いいな!!」
「おいっ」
勇が淳司の肩をつかもうとする。淳司は間一髪ポケットに手を滑り込ませ……
目覚ましの音が聞こえる。
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋。朝だ。
わたしは、自分のベッドに横になっていた。
もどされたのだ――淳司がロードしたのだ。
いや、問題は、そのことじゃない。
どうしよう。
わたしは、気づいてしまったのだ。
淳司の理由に。
勇は気づいてなかった。でもわたしにはわかってしまった。
どうしよう。一体どうしたらいい?
それまでの淳司には、そんな様子は全くなかった。
セーブロードを繰り返すうちに、そうなったのだ。
だとしたら……
一体、どうしたらいいの??
勝手かもしれないけど、淳司にもわたしの前からいなくなってほしくなんかない。
わたしにとっては、淳司もかけがえのない、仲間なのだ――
悩んだ末に、わたしはセーブストーンを額に当てた。
『プリカ。…たすけて』
――その日。
わたしはふつうに学校に行った。
そしてそのまますごした。
下駄箱に手紙は入っていない。
わたしはクラスの友達とアイスを食べに行くことにした。
プリカは言ったのだ。
いまわたしにできることは、なにもない、と。
これは、勇と淳司の問題で。
事情を“知らない”わたしには、介入できない問題なのだ。
ふたりは今日明日にも、決定的な話し合いを持つだろう。
そのうえで、対応を考えるしかない。
わたしも、勇も、淳司も。
セーブストーンをもっている。
だから、もう、時は戻らない。
時間がたとえ、ロードで巻き戻ったとしても……
ココロの想いは巻き戻らない。
セーブロードの存在を知ってしまったものの、それは宿命なのだ。
でも、わたしにあきらめるつもりはない。
何度でも、チャレンジする。
勇と、淳司と、三人で――
もう一度笑いあうためならば。
そして。
このことがおちついたら――
勇にはわたしから告白しよう。
何度も何度も、もらった想い。
今度は、わたしから、渡すのだ。
終礼が終わるとわたしは、ふたりに手を振って、教室を出た。
~To Be Continued~
みすずの場合 1-12
『みすずの場合』
「お前もあいつからストーンを手に入れた。そうなんだな」
さらに問いを重ねられると、淳司は観念した様子で、答えを返す。
「そうだよ。
データロードを繰り返したのは、オレだ。
みすずに告白なんか…させられないから」
「なんでだ!!
お前まさか……
ホントはみすずのこと」
「ちっちがうよ!! そんなことはない!!」
「…え?」
あわてる淳司、ぼーぜんとする勇。
「……あ、その…
ほら、みすずは仲間じゃん。オレにとってはだから…そういう対象なんじゃなくて…別にオレはみすずを好きなんじゃない。これはホントだよ」
わたしはちょっとほっとしていた。よかった、やっぱりそうだった。
でも…
「じゃあ…なんで……?」
「…
言えないよ」
淳司はうつむいた。
「言えない。絶対に」
「おい」
「とにかく告白なんかするな。いいな!!」
「おいっ」
勇が淳司の肩をつかもうとする。淳司は間一髪ポケットに手を滑り込ませ……
目覚ましの音が聞こえる。
目を開けると、天井が見えた。
わたしの部屋。朝だ。
わたしは、自分のベッドに横になっていた。
もどされたのだ――淳司がロードしたのだ。
いや、問題は、そのことじゃない。
どうしよう。
わたしは、気づいてしまったのだ。
淳司の理由に。
勇は気づいてなかった。でもわたしにはわかってしまった。
どうしよう。一体どうしたらいい?
それまでの淳司には、そんな様子は全くなかった。
セーブロードを繰り返すうちに、そうなったのだ。
だとしたら……
一体、どうしたらいいの??
勝手かもしれないけど、淳司にもわたしの前からいなくなってほしくなんかない。
わたしにとっては、淳司もかけがえのない、仲間なのだ――
悩んだ末に、わたしはセーブストーンを額に当てた。
『プリカ。…たすけて』
――その日。
わたしはふつうに学校に行った。
そしてそのまますごした。
下駄箱に手紙は入っていない。
わたしはクラスの友達とアイスを食べに行くことにした。
プリカは言ったのだ。
いまわたしにできることは、なにもない、と。
これは、勇と淳司の問題で。
事情を“知らない”わたしには、介入できない問題なのだ。
ふたりは今日明日にも、決定的な話し合いを持つだろう。
そのうえで、対応を考えるしかない。
わたしも、勇も、淳司も。
セーブストーンをもっている。
だから、もう、時は戻らない。
時間がたとえ、ロードで巻き戻ったとしても……
ココロの想いは巻き戻らない。
セーブロードの存在を知ってしまったものの、それは宿命なのだ。
でも、わたしにあきらめるつもりはない。
何度でも、チャレンジする。
勇と、淳司と、三人で――
もう一度笑いあうためならば。
そして。
このことがおちついたら――
勇にはわたしから告白しよう。
何度も何度も、もらった想い。
今度は、わたしから、渡すのだ。
終礼が終わるとわたしは、ふたりに手を振って、教室を出た。
~To Be Continued~