Neetel Inside 文芸新都
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Runatic3
神の資格失効

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とは言え、事実、西戸の脳は狂気を帯びて、
今日、その異様な活動を示し始めた為に、
軽那や結津もまた、それに引き摺られるようにして、
同じく幻惑に似た頭脳の変調を来たすのも無理の無い話である。

「俺は神になりたいんだ!」

そう喚いた西戸は、皆で囲んだテーブルの上から、
三つの内、己の配当とされた麦茶をぐいぐいと煽る。
他の二人は、彼の喉が上下するのを、気のない顔で眺めていた。
実際、西戸のような痴れ者を相手にされられるのは全く迷惑の事であるから、
僅かな興味も見せない、能面の表情をしているとして、
西戸への失礼には当たらない筈である。
たとえ失礼であったとして、構わない。

「しかし、君が神になりたいとして、その資格はあるかい。」

そう零したのは、先から暗い空気を撒き散らして憚らない結津君である。
この男が物を言う時には、必ず相手の目を見ないようにして俯き、
しかも矢鱈と口の開閉を節約するため、
声がこもって、初対面の人には到底聞き取れないのであった。
実際、たった今も、単に物を言うといったよりかは、
いい加減な呟きを畳に向かって口から垂れ流したようであり、
聞き手に回った西戸は完璧には把握できず、どうにか聞き取れた部分を元に、
欠落した部分を憶測して補欠するという面倒を強いられた。

「もちろんある。神は全知全能万能だ。
 俺にだってそのくらいの力はあるぞ。」

「証明せよ。」

巌の如くごつごつした体つきに反して、
そうやんわりと言ったのは、口数少なの軽那君であった。
その身長はゆうに2メートルを超える、巨漢であるが、
現在は狭い室内に押し込められて、身体を縮こまらせている。
が、そんな苦労も知らず、西戸は、

「説明するまでもない。」

と絶対的で一方的かつ積極的に、ぴしゃりと言ってのける。

「説明をしなくても証明はできるだろう。」

軽那もなかなか引き下がらない。
しかし、あんまり乱暴な言い返され方をしたため、
少し居心地が悪く、先程より更に姿勢を小さくしている。

「じゃあ、今から霧を出してやる。良いか。」

ぐいぐいと迫るかのように勢い良く、そう言ってのけた。
神の資格の証明と、霧を出すとにどういった関連があるかは不明だが、
言ってのけてしまった以上は、仕方の無い話である。
軽那も結津も、「よかろう」と言ってまばらな拍手をしてくれた。
同席者が許諾してくれた以上、邪魔に成るものはない。
西戸は立ち上がるなり、二人の分の麦茶を分捕って、
いざとばかりに己の口に流し込んで、頬の中に溜め込んだ。
只でさえ大きいコップの中に、充分に注がれていたものを、
しかも二人分も含んでしまったので、頬は残酷な膨れ方をして、
血液が集中して赤々と染まりつつあり、
結ばれた唇は細かく振るえ、決壊の予兆を示している。

この行動の真意に気付かぬ二人ではない。
軽那は大柄に見合わない素早さを見せて、部屋を突破し、
庭にあった突っ掛けを履いて、何処へとも無く消え去った。
結津もそれにならって、座布団を蹴散らして走ったが、
生憎と突っ掛けは一人分しかない。
靴を履かずに土を踏むほどの勇気も無い。
振り向くと既に、麦茶を許容量限界まで溜め込んだ顔面が、眼前に肉薄している。
さればととっさに前転して、飛び掛る西戸を脇に交わし、
玄関方面へ向けて一目散に掛ける。
脚がもつれて、いくども転びかけるが、その度に巧みにバランスを取って、
危なげながらも疾駆するのだった。
後方から、とすとすと床を踏む音が近づく。
が、それを振り切るようにして足を速め、
急ぎ叩きに降りるなり、握りつぶすようにしてノブを掴み、
ドアを開け放すと、これもまた何処へとなく駆け行ったのであった。
残ったのは西戸只一人である。

西戸は廊下を回りこんで、元の部屋に収まると、
喉を微妙に運動させて、ゆっくりと口の麦茶を飲み込んでいった。
長い間大量の液体を頬に溜め込んでいたのは中々の苦労と見えて、
目尻には光るものが浮いていた。

外では、思いもよらず二人が合流して、
西戸の神失格について強く納得していた。

       

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