目を覚ますと、隣にマグロが寝ていた。
――マグロ?
そのマグロは寝息を立てて寝ている。たまに息が詰まり、ガッ、と、鼻が鳴る。
そういえば、昨日からこのマグロは居た。うん、寝ていた。
俺はそのマグロを食べたくなった。腹が減っているから。
幸いな事にこのホテルの部屋には簡易なキッチンがあり、勿論包丁もある。
包丁を持ってきて、テレビで見たマグロの解体ショーを思い出しながら、尾ヒレと胸ビレを切り落としたが、このマグロには背ビレが無い。
尾ヒレと胸ビレを切り落とした後、酷く汚れたので一度包丁を拭いた。
次に腹を開き、ハラワタを取り除く。このハラワタと先程切断したヒレを黒いゴミ袋に入れる。さすがにホテルもこんな物は捨ててくれまい。
ふと思い出した。確か胸ビレ辺りがトロだ。生憎俺は中トロまでしか食った事が無い。だから胸ビレ辺りを貪り食った。
なんだ、ちっとも美味くないじゃないか。脂も乗ってないし、妙に塩っぽい。
次にカブトを切り落とした。コンロはあるが、さすがにカブトをここで調理する訳にも行かないので、これも黒いゴミ袋に入れて持ち帰る事にした。
その後も適当な部分を切りならが食べてみるが、ちっともマグロの味がしない。それにこのマグロは、赤身ではなく白身である。腐ってるのかもしれない。
ある程度空腹が満ちたので、シャワーを浴びてホテルを出た。しっかりとゴミも持ち帰る。
家に帰り着いてしばらくすると小腹が減ったので、持ち帰ったマグロのカブトを食おうと思った。
コンロの上に網を置き、火を付ける。七輪で焼いた方が雰囲気があっていいと思ったが、生憎そんな物は持っていない。
カブトが入ったゴミ袋をコンロの前に持ってきて、中からカブトを取り出―――
茶色い髪、赤い口紅、付け睫毛、見慣れた顔。
――なんだ、マグロじゃねぇじゃん。
持ち上げたマグロの顔は、見慣れた彼女の顔だった。