Neetel Inside 文芸新都
表紙

S・S・D・S
【ニノベ三題噺企画没物語り】

見開き   最大化      

 ニートノベルで行われた三題噺企画用に書いたのですが、あの場へ出すにそぐわないと判断して没にした掌編群です。
 『ニーノベ三題噺企画会場(ID=8710)』に載せている作品を読んでいないと理解し難いかもしれません。
 『2』『3』『4』で個別に読めるようになってます。むしろ、個別に開いた方が読みやすいです。

 お品書き
・『2』お題③【気付いた】
・『3』お題①【復讐(仮)】
・『4』お題②【ラブコメはラブコメれない】

 詳しい没理由などはそれぞれの最下に記載。

     

お題③【気付いた】


 喧嘩なんていつもの事。
 つまらなくてくだらない、小さな嘘だった。
 それを見抜かれたのが今日の切っ掛け。
 顔はテレビに向けたまま、
「はんせいしてまーす」
 謝る言葉を口にするだけなら簡単で。
 怒られる事には慣れているし、受け流す事にも慣れている。
 だから、彼女もそうだと思って……甘えてたんだ。


 向かいの席から彼女が居なくなって、気付いた。
 ――気付いてからでは、遅い訳で。


 きっと電車に乗るだろう。
 ――急がないと。
 林を突っ切れば間に合うかな。
 ――追いかけないと。
 全力で走るが、すぐに身体がついてこなくなる。
 ――謝らないと。
 時折迫り出した枝や葉が頬を掠めていく。
 ――あーあ。
 林を抜けて遠目に見えた電車は、すでに走り出していた。


 気付いてから初めて、居なくなったんだと実感する。
 ――実感してからでも、遅い訳で。
 

 家に帰り着くと、彼女がドアに寄りかかりながらつま先を上下させていた。
「どこ行ってたの?」
「……煙草買いに」
「また嘘」
 俺の頭を指しながら彼女は言う。
「葉っぱ、付いてるよ」
 嘘はつけないって事にも気付いた。




※没理由:ラブコメじゃない。
 お題が出揃った時に書いた物で、一番最初に投稿する予定だったもの。
 四行目にあるテレビの件に「ラブコメ物のドラマ~」とか突っ込んでも良かったのですが、読感が悪かったので。

     

お題①【復讐(仮)】


 月明かりが影を薄くしている闇夜、私達しか居ない細い路地は切り取られた異世界のように感じられる。
 漸く目的を果せる時がきた。そんな今、ふと、頭に浮かんだ疑問。
 ――人は死に直面した時、何を思い浮かべるのか?
 この疑問に対して、私は自身が納得する回答を用意出来る心境でもないので、
「気分はどう?」
 数本の先の尖った杖に押さえつけられ、アスファルトの地面に這い蹲った彼へ問いかけてみたが、歯を食い縛りながら睨み上げてくるだけで何も返って来ない。
 口を開かないのは、もしかしたら何も思い浮かんでいないのかもしれないし、聞き方が悪かったのかもしれない。
 けれど、先ほど浮かんだ疑問に固執している訳でないので、言わないのなら言わないで一向に構わなかった。
 そう、私が固執してるのはそんな哲学染みた疑問ではなく、もっと単純な憎しみという感情なのだ。
 だから、彼への問いを変える。
「あなたのせいで、笑われた私の気持ちが分かる?」 
 『それ』を知った人は、皆笑う。
「今までどれ程苦しんだ分かる?」
 『それ』を知った人は、冗談半分にからかう。
「私がどれだけの事を強要されてきたか……分かる?」
 『それ』を知った人は、必ずある種の行為を押し付けてくる。
 私の吐露に反応し、組み伏せられてから初めて開かれた口は、
「お前は……こんな事してどうするつもりなんだ?」
 と、つまらない質問を零した。
 それに腹を立てたのは、私ではなく――
「教祖様に向かって『お前』とはなんだ!」
 杖で彼を押さえつけている、私の仲間の一人だった。
「……教、祖?」
 怒りだした仲間を手で制し、私は彼に歩み寄る。
「私は今、教祖なの。あなたに復讐する為に作った、団体の教祖よ!」
 それは宗教によく似ている――いや、宗教そのものだ。
 入信する者は私を教祖と崇め、私の為になんだってする。今から行われる事でさえ――
 私は信者という力を手に入れた。
 その力を手に入れる切欠になったのが、この人だったなんて、なんという皮肉かしら。
 でも、そんな力によって、彼は命を落とす事になる。それもきっと……皮肉。
 そう、諸悪の根源は、彼なのだ。
「あなたが……あんたが、悪いの」
 抑えていた感情は、もう歯止めが利かない程溢れている。
「あんたが……健一があんなあだ名をつけるから悪いの!」
 私は叫びながら手を振り上げる。
「や、やめ――」
 こいつの声なんてもう聞きたくない。
 私は手を振り下ろした。
 それを合図に信者達は、ラブコメ様万歳! と、聞きたくもない忠誠の言葉を吐きながら 健一の体へ杖を突き刺す。
 穿たれた穴から噴き出す体液の川は、心を癒す清流ではなかった。




※没理由:ラブコメじゃない。
 『ラブコメによるラブコメ?』の前に考えていたラブコメ物のオチ部分。
 当初、全く関係ない『トロンプ・ルイユ』を挟んでおいて、シリアスなのにくだらない内容で落とす三段オチの予定でした。

     

お題②【ラブコメはラブコメれない】


 私の名前は愛。『愛』と書いて『らぶ』って読むの。
 日本人だけど、生まれはアメリカ。アメリカって漢字で書くと『米』よね。
 だから、私のあだ名は『愛米』と書いて『ラブコメ』……。
「うっす、ラブコメ! パンを咥えながら曲がり角目掛けて走ってるか?」
 そんなあだ名をつけたのは、隣に住んでいた健一。
「おはよう、健一。殺すわよ」
「突っ込みが怖いわ! ラブコメなんだから、ラブコメらしい毎日を過ごすのがお前の義務だろ」
「そんな義務はお断り。私は平々凡々と生きていくのよ」
 そんなやり取りが毎朝あったけれど、健一はもう居ない。
 彼が入っていた宗教団体『死んだ振り吃驚教』は少しずつ活動内容を変えていき、ついには犯罪を行う集団へと成り果てた。
 その団体が行っていた犯罪は詐欺。当たり屋のような行為を繰り返し『死んだ死んだ詐欺』という名で報道された事もある。
 その実行者の一人として健一は逮捕され、私の前から姿を消した。
 あれから、どれ程の時間が過ぎただろうか――
 外はやっぱり曇り空。今日も仕事だというのに……疲れていれば、気をつけていても寝坊ぐらいする。
「はぁ、はぁ……遅刻しちゃう」
 またパンを咥えながら走っているのだから、私は成長していない。
 でも、きっと大丈夫。あいつが居なくなってから誰ともぶつかっていないんだから――
「いったぁーい……」
 久しぶりにやっちゃった。
「ラブ、コメ?……」
 ――え?
 顔を見ればすぐに分かる。いつも隣に居た男の子。
「はは、相変わらずみたいだな」
「……健一こそ。またそんなあだ名で呼んで」
 数日曇り続けていた空から小さな水の粒が、思い出される彼との記憶のように、無数に落ちてくる。
 降り出した雨も気にせず、私達は見つめ合ったままだ。
「なぁ、愛――」
 彼にちゃん名前を呼ばれる。それが私にとって特別な事だったなんて、ずっと前から気付いていた。
「ここでぶつかったのも……出会いだよな?」
 昔と変わらない照れるその仕草で、彼の言いたい事は分かる。
「もしよかったら、その、俺と――」
 でも、それ以上は言えないのだと思う。
「――なんてな。冗談だ」
 誤魔化しながら寂しそうな顔になったのは、私の左手に気付いたからだ。
 今日は殴らないでおいてやろう。その代わり――
「……馬鹿」
 口にした言葉を合図にして、頬を暖かい何かがゆっくりと落ちていく。
 傘を忘れた私には、それが何かは分からなかった。




※没理由:ラブコメじゃない。
 三題企画会場のコメント[32]を見て書いたラブコメシリーズ『完結編』。
 『ラブコメによるラブコメ?』からの流れで展開していますが、ラブコメシリーズは個別で理解出来る物にしたかった。
 と、言いつつ、没になった最大の理由は、こんな終わり方は誰も望んでいないと思ったから。

       

表紙

ジョン・B [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha