父と母。二つの頭骨に挟まれ女は微笑んでいた。
幸福。
それ以外の何も持ち合わせていない。
髪は乱れ、服は赤く染まり、体には無数の傷。
「やっと――」
零れ落ちる言葉に、血の滴る頭は答えない。
女は優しく二つの頭蓋を撫でながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
満たされた心を誰にも邪魔されないよう、深い眠りの底に沈んでいく。
畳を染めた色だけが、客観的に現状を表していた。
女と呼ぶにはあまりにも幼い体躯。そして醜い容姿。
女は自然と孤独になっていた。
親には無視され、学校では虐げられ、街を歩けば指を指された。
それでも女は生きている。
脚は前に進み、腕は振られ、体は動く。肺が酸素を吸い込み、心臓は動き、脳は考える。
今日というこの日を、女は微笑みながら過ごしている。
「コレ下さい」
笑顔でレジに差し出されるのは、ドライバー。
軽いビニール袋を確かめながら、楽しそうに岐路を急ぐ。
「お母さん、待ってるかなぁ」
心配そうに呟くと、更に脚は早く動いた。
女は表情を変える事なく、異臭を放つ母親に歩み寄る。
後ろ手に縛られた腕と綺麗に揃えられ括られている足。
足の付け根はうっすらと濡れている。
「ンー、ンー」
言葉にならない言葉を放つが女には届かない。
袋から取り出された物は、母親の体温を奪っていった。
扉を開けた父親は、部屋の色に目を見開いた。
その目もすぐに、開かなくなる。
目を閉じた父親が最後に感じたのは、背中から体内に侵入した冷たく硬い感触。
強張った表情を焼き付けたまま、心臓は止まった。
父と母。二つの頭骨に挟まれ女は微笑んでいた。
これほど楽しい日を彼女は過ごした事が無い。
「やっと仲良くできたね」
優しく二つの頭蓋を撫でながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
満たされた心を誰にも邪魔されないように、深い眠りの底に沈んでいく。
「明日は誰と仲良くしようかな……」
幸福を覚えた彼女を、誰が攻められようか。