「レイン、レイン」
はっと目を覚ましたレインの目に飛び込んできたのは、逆さまから覗き込んでいる心配そうな青い瞳。
「……ダ」
その名を呼びかけて、レインは頬に涙が伝っていることに気づいた。
「ああレイン、可愛そうに。怖い夢でも見たんだね」
とめどなく溢れる涙を、ダルクは自分も泣きそうな顔をしながら指先ですくい取る。
レインは、ダルクの膝に抱えられていることに安心したらしい。目を閉じ、口元にはうっすらと笑みを浮かべた。
可愛そうなレイン。
赤くなった目に赤くなった鼻先が痛々しい。幼いレインは何も知らず、殺されるために僕の元に連れてこられた。
「レイン、大丈夫。僕はずっとここにいるから」
ダルクの手は、レインの頭を優しく撫で続けている。レインは顔を上げた。
「……本当?」
「もちろんだよ。僕がレインに嘘を吐いたことがあるかい?」
レインは首を横に振る。
「私、ダルク様のことが好きよ」
「それは嬉しいな。ありがとう」
「ダルク様も、私のことが好き?」
「……そうだね。きっと、そうなのかもしれない」
傷つくことも傷つけることも出来ない臆病な吸血王は、曖昧に答えて微笑み返した。
可愛そうなレイン。
僕以外に頼れる者のいない、哀れで綺麗な僕の孤児。額にそっとおやすみのキスを落とせば、鈴の音のような声で笑う。彼女の血はさぞや甘美な味をしていることだろう。
「いい子だね、おやすみレイン」
ダルクは再び眠ってしまったレインを見つめ、その細い首筋にゆっくりと唇を近づけた。
可愛そうなレイン。
目を閉じたまま、空を見上げて欲しい。そのままじっとして。何もかもが見えるから。この世の全てが。あらゆるものが。そこに僕がいる。
レイン。
愛しいレイン。
彼女を奪えば、果たして僕は満たされるだろうか?
レイン、レイン。
色もなく、音もない世界で叫び続ける。
ああ、レイン!
ダルクは堪えきれずに泣き出した。