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崩れる、バランス(原作:あなたに血を、わたしに死を)/LV48

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 「レイン、レイン」

 はっと目を覚ましたレインの目に飛び込んできたのは、逆さまから覗き込んでいる心配そうな青い瞳。

 「……ダ」

 その名を呼びかけて、レインは頬に涙が伝っていることに気づいた。

 「ああレイン、可愛そうに。怖い夢でも見たんだね」

 とめどなく溢れる涙を、ダルクは自分も泣きそうな顔をしながら指先ですくい取る。

 レインは、ダルクの膝に抱えられていることに安心したらしい。目を閉じ、口元にはうっすらと笑みを浮かべた。

 可愛そうなレイン。

 赤くなった目に赤くなった鼻先が痛々しい。幼いレインは何も知らず、殺されるために僕の元に連れてこられた。

 「レイン、大丈夫。僕はずっとここにいるから」

 ダルクの手は、レインの頭を優しく撫で続けている。レインは顔を上げた。

 「……本当?」

 「もちろんだよ。僕がレインに嘘を吐いたことがあるかい?」

 レインは首を横に振る。

 「私、ダルク様のことが好きよ」

 「それは嬉しいな。ありがとう」

 「ダルク様も、私のことが好き?」

 「……そうだね。きっと、そうなのかもしれない」

 傷つくことも傷つけることも出来ない臆病な吸血王は、曖昧に答えて微笑み返した。

 可愛そうなレイン。

 僕以外に頼れる者のいない、哀れで綺麗な僕の孤児。額にそっとおやすみのキスを落とせば、鈴の音のような声で笑う。彼女の血はさぞや甘美な味をしていることだろう。

 「いい子だね、おやすみレイン」

 ダルクは再び眠ってしまったレインを見つめ、その細い首筋にゆっくりと唇を近づけた。

 可愛そうなレイン。

 目を閉じたまま、空を見上げて欲しい。そのままじっとして。何もかもが見えるから。この世の全てが。あらゆるものが。そこに僕がいる。

 レイン。

 愛しいレイン。

 彼女を奪えば、果たして僕は満たされるだろうか?

 レイン、レイン。

 色もなく、音もない世界で叫び続ける。

 ああ、レイン!





 ダルクは堪えきれずに泣き出した。
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