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春江ちゃん(泥辺五郎短編集より)/黄金水

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 春江ちゃんは幼女でした。少しばかり奇女でありました。

 行き倒れにはペプシソを与えてやり、一人寂しく病に伏している者がいれば尻にネギを突っ込んでやり、幼女の身体に欲情する奴がいれば変態変態変態呼ばわりしながらパンツを見せてやりました。彼女はもう百年以上生きてるそうですが外見は幼女です。おそらく化物か妖怪の類でありましょう。

 私ですか、私も春江ちゃんには何度も迷惑……お世話になりました。四十歳を超えて無職童貞、新都社の文芸に駄分を投稿するしかする事のないくずでございますから、それはもう春江ちゃんの奇想天外ぶりには何度も命の危機に晒されました。彼女はナイ乳を見せて私の愚息が僅かにでも反応すると、ロリコン変態犯罪者呼ばわりしつつ股間を蹴り上げます。そのようなプレイを恥とも思っておりません、Mですから。この町には春江ちゃんの他に女といえば皆鬼女かスイーツですから。男達は皆三次元に絶望して二次元に走ってしまったものですから。

 わかっています、わかっています、話を進めましょう。あの日最後に春江ちゃんと会っていたのは私です。その日も彼女とはプレイの予定でした。春江ちゃんは私の部屋に入るなり「三丁目のコンビニに豆乳置いてねエ! 終わってるヨ!」と甲高い声で叫びました。私は今構想中の小説にどうしたらFAをたくさんもらえるか春江ちゃんに相談したのですが「まだ一文字も書いてねーのに寝言は寝て言えってノォ! それよりその糞プロットから何とかしろヨ、そんなんだからいつもコメが一桁なんだロォ」

 はい、申し訳ございません。新都社の話は今問題ではありませんでした。もう金輪際新都社のwikiは荒らしません。春江ちゃんの話をしましょう。結局その日、私たちはプレイしませんでした。春江ちゃんは「アニメの録画予約を忘れたヨ!」と言って帰り支度を始めました。私の部屋にはテレビがないものですから。神●万象チョコを二人で十個ばかり食べました。一つレアカードが入っておりました。チョコは春江ちゃんに言われてボックスを、通販で買ったものです。最近はネット通販がありますから、私のような引き篭もりでも生きていられるのです。

 しかし春江ちゃんが殺されたなどとはまだ信じられません。この町に住む私の知っている連中は、私のような無職引き篭もりのくずばかりです。春江ちゃんはそんな私らを唯一構ってくれる狂……仏のような方でした。

 小説の話を聞きたい? どうしてでございましょうか? ああ、春江ちゃんがくそみそ呼ばわりしてたからどんなに酷いか見てみたいと。まあ春江ちゃんはそう言いましたが私は今回のプロットは自信がありましてですね。どうでしょうか?

 ああ、はい、そうですか、ありがとうございます。

 ええと、ああ、春江ちゃんを恨む人間に心当たりですか? みんな何度も死にそうな目にあっていますから恨みを持つ者も少なくは……いえ全くございません。先ほど述べたように私たち皆春江ちゃんには大変迷惑なほどお世話になっていましたものですから。おかげで、死にたいとか消え入りたいといった気持ちはほとんどなくなっております。無職でも引き篭もりでも、嗚呼生きているって素晴らしいと、皆口を揃えて言っておりました。何度も死にかければそう思いますよね。

 これから春江ちゃんと最近つき合いのあった連中のもとを回るのですか、そうですね、思いつくばかりでも二十人くらいの犠牲者がいましょうか。肉体関係ですか? いや、百何歳とはいえ身体は幼女ですから。無理と言いますか下手な事すれば彼女に殺されます。たまにロリコンな人が春江ちゃんに良からぬ事をしようとしますが、たいてい彼女は優しく笑った後「エッチしたい? いいヨ、エッチと言ってもHELLのHの事だけどナ! イヤッハァァァァァ!!」と叫んで刃物を持って襲いかかるのがオチですので。

 ええ、何度も言うように、春江ちゃんが二十本ものアイスピックでメッタ刺しになっていたことに関してですが、いつもの悪戯だと思います。そうやって他人を驚かせるのが好きなんですよ、暇なんですよ。どう見ても死んでいた? 呼吸が止まっていた? 先ほど申しましたように彼女は化物か妖怪の類ですので、一時的に呼吸や心臓を止める事など造作もありません、まして。
 あ……後ろ……。


「背後が隙だらけだよポリスメーンッ! イヤッハァァァァァ!!」





 警察の人達は慌てふためいて逃げていきました。春江ちゃんは小さな身体で元気に刃物を振り回しつつ、楽しそうに追いかけていきます。お尻から生えた狐のような尻尾がふわふわと風に舞っています。とりあえず彼女の暇つぶしに付き合って下さった警官には感謝しましょう。いつも私達ばかりこんな目にあうのはたまりません。はい、無職でも税金は払ってますよ。

(了)
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