「あ、起きたかい?おそよう」
ハンデレラが目を覚ますと、そこは研究室のソファーの上でした。
目の前では長谷川が、心配してるのかしてないのか、遠い目をしてこっちを見て
います。
「…」
ハンデレラはソファーから起きあがろうとしました。
しかし、頭は割れるように痛く、おまけに強烈な吐き気がします。
よく思い出せませんが、昨日はかなり飲み過ぎでしまったようです。
ハンデレラはまたソファーに倒れ込みました。
「…みず」
「ん?何だって?」
「…みずを、くれ」
「あーはいはい、ちょっと待ってて。」
長谷川はそう言って立ち上がると、冷蔵庫の方へと水を取りに行きました。
ハンデレラはひとり、ソファーの上、ぼんやりと天井を見つめています。
(…ヤバい、吐く)
その時です、ハンデレラの霞む視界の隅に、ぼんやりとした白いものが浮かんで
きました。
(マズい…幻覚が見えてきた)
その白いものは徐々に輪郭をはっきりとさせてきます。
それはのっぺりとしたかたまりで、部屋の隅にふわふわと浮かんでいます。
よく目を凝らしてみると、目や手足のようなものまでついています。
(何だ、あれ?)
ハンデレラはついにお迎えが来たのかと思い、小さく身構えました。
しかし手に力が入らず、必死に握った拳は儚くほどけてしまいました。
(いつか神に会ったら、今までの怨みを全てぶちまけ、拳が砕けんばかりに力の
限りぶん殴ってやろうと思っていたのに…)
ハンデレラは悔しさに唇を噛みました。
宿敵ともいえる相手が目の前にいるというのに、体はアルコールに痺れています
。
(さあ殺せ!私を連れて行くが良い!)
ハンデレラは心の中で叫びました。
すると、その白いふわふわしたものから手のようなものがすっとのびてきて、ハ
ンデレラの頭に触れました。
(…っ!)
「ほら、水。持ってきたよ。」
長谷川が水の入ったペットボトルを差し出しました。
ハンデレラは無言でそれを引ったくると、貪るように飲み干しました。
あの白いものはもうどこにも見えません。
「あの野郎…」
ハンデレラは、空になったペットボトルを乱暴にゴミ箱へと投げ捨てると、そう
小さく呟きました。
あの白いふわふわしたものが頭に触れた瞬間、深い深いため息をついたのをハン
デレラは確かに聞いたのです。
(神め…次は逃がさん…)
まだ力の入りきらない拳に怒りを込めて、ハンデレラはひとり、リベンジを誓っ
たのでした。
長谷川は遠い目をして、そんなハンデレラを見つめていました。