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文藝夏企画 作者変え&FN祭会場
23回目の如月(原作:永遠の如月)/しう

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永遠の如月 -23回目の如月 The 23rd Fwbruary-



▼これが私の望んだ世界だ▼


 息荒く、男は私の上で踊る。
 私は不快な気持ちのまま男に身を委ねていた。
 男は私の胸に吸いつき、臭い息を吐く顔を近寄らせ執拗にキスをねだったが、私はそれを拒絶し続けた。

 男の動きが激しくなり、息が荒くなる。何てことは無い、こいつは今から射精したいだけなのだ。
 ”ガッ”と腰を打ちつけ体に衝撃が走った、男が今何をしているのか目を閉じても分かる。
(最低な男だ…)
 私に同意を求める事も無く、男は私の中に汚物を吐き出したんだ。
 例え様の無い気持ち悪さで喉の奥が熱くなる。 ”気持ち悪い…”
 どこにぶつければ良いのか分らないこの怒りを紛らわす為に、私はシーツを強く握った。
 私のその姿を見て喜ぶかのように、男は再び私の中を突く。

「あぁ…」
 男は少し痙攣して私の上に覆いかぶさった。
 鼻に付く酸っぱい匂いして、思わず息を止めた。
 少しの間、私の上で息荒く静止していた男は用事が済むと無言でシャワールームへ向かった。

 腰から下にかけて、まだ少し痺れの様なものが残っている。
 今はまだ股間に手を向ける勇気が出ない。
 顔を横に向けると瞳に溜めこんでいた涙が頬を伝ってシーツまで流れた。
(何てことは無いさ、どうせまた元に戻る…)


 五分程して男が部屋に戻る。
 相変わらず言葉をかける様子は無い。
 男は黙ってスーツに身を包む、私は裸のまま身動き一つしていない。
 その姿を見て男は私を見下したような眼をしたのを私は見逃さなかった。
 
「また相談事があったらいつでも電話してよ」
 男はベットの上に五万円と名刺を置いて部屋から出る。
 ”ガチャン”とドアを閉じる音を聞いてからもボンヤリと天井を見つめている私。
 股間に手を伸ばし、指に絡みつく白い粘液を見た時、私は始めて声を出して泣いた。
 



▼時間はあの日から止まったままなんだ▼


「弥生!馬鹿、何やってんの」
 ホテルから虚ろな顔で出て来た私の前に、凛とした美しい顔立ちの女が出て来た。
 彼女は私の手を掴み、両眼で睨みつける。
 何故だろう、その時に私の中の胸の奥で溜まり溜まった欝憤が一気に爆発する。
「私に付きまとわないでよ、貴方は早く天国にでもどこにでも行けばいいのよ」
 彼女の腕を叩いて、掴まれていた手を振り払う。そのまま私は一目散にその場から走り去った。
 何と言うか、彼女の眼がすごく怖かったから…逃げたかったんだと思う。
 周りの目など関係無しに走って走って、繁華街を抜けて人通りが少なくなった所で足を止めて、壁に手をつけた。 
 息も荒ければ熱っぽくも感じる、股間はまだ少し痛む、それに久しぶりに全力疾走をした為か脇腹が痛い。
 何だか馬鹿らしくも情けない思いがして、壁際にうずくまって、顔を伏せて泣いた。


”どうしてこんな事になったのだろう…”
 今日は二月二日、明日は節分。
 私は何度今日を過ごしたのだろう、頭の中で数を数える。
「二十三回目かぁ…」
 誰にも聞かれないように、両足と両腕、それに頭で作った小さな空間の中で一人つぶやく。
 神様の意地悪で、無限に続く二月を繰り返し過ごす女。
 それが私。

 最初の一、二回はあまり気にしなかった。
 むしろ前向きに、この異常を楽しもうとした。
 いろんな事を考えた、一カ月しか無いと言っても私は未来を知ってる訳だし、この能力を使ってお金を増やそうとか考えた。
 実際に大学生には不釣合いな程の貯金が手に入った、でもそれは二月二十八日の23:59:59を一秒でも過ぎるとリセットされて二月一日00:00:00へと移る。
 当然お金は無くなり、全て二月一日の時と同じ状態へと戻る。
 やりこんだゲームのセーブデータが消えてしまうのと同じぐらいの絶望感。
 どんなに築き上げてもまたゼロに戻る。
 昔見た「世にも奇妙な物語」に同じような話があったなぁ…と三回目の二月にDVDを借りて見てみた。
 内村演じる冴えない男性が同じように、この異常事態に苦しんでいた。
 彼は同じ一日が繰り返されると言う私の以上より更に厳しい異常に苦しみ、最後は…結局何をしても解決出来ないままで終わっていた。
 私はこの話のどこかにヒントは無いかと何度も見たが、結局何も分からないまま今ここに居る。

「やぁ、君は家出でもしたのかい」
 顔を上げると数人の軽そうな男が私を囲んで気味の悪い笑い声を上げていた。
(…どうにでもなればいい…)
 立ち上がり「そうよ」とだけ答える。
 私より背が高い男達が私を見る目は、ついさっき別れたばかりの男と同じ様な目に見えて吐き気を催す。

「大丈夫かよ、俺の家近くだからそこで休んでいくといいよ」
 男が私の肩に手を回すと背筋に悪寒が走り、反射的に手を払いのける。
 その瞬間、脳内で危険信号がやかましく鳴り出し、体中に震えが走る。
(や、やっぱり駄目。怖い…)
 体を丸め再びしゃがみ込み、念仏のように誰かに助けを求めた。



▼強く手を振ってあの日の背中にさよならを▼


 ”トン”
 肩に誰かの手が触れる、私の中の緊張の糸は切れ、自分でも信じられない程の悲鳴を上げた。

「ちょっと、ちょっと弥生。私だよハルカだよ」
「えっ…ハルカ」
 涙をぬぐい声の主の顔をじっと見る…確かにハルカだ。
「えっ…あれ、さっきまで変な奴らが…」
 ハルカは”ニッ”と笑い、明るい声で私に言葉をかけた。
「ハハッ、問題無い。私が追っ払った」
「…どうやって」
「私は女神だぞ」
 ”あっ”と思い、再び彼女の顔を見た。だがしかし、”女神”と言うだけで全て解決と言うのも何だろう…

「立てるかい」
「バカにしないでよ」
 まだ震えが止まらない足を隠すようにゆっくりと立ち上がる。
「いやぁ、ほら。弥生が悲鳴上げたからさ、変な野次馬が集まって来てて恥ずかしいのよね。ちょっと悪いけど」
 ハルカは言葉を言い終わる前に、私を背中におんぶしてその場から逃げるように駆けだした。



 ハルカはいい人だ、それは分っている。でも同時に許せない人でもある。
「歩けるかい」
「大丈夫だよ」
 私はゆっくりと地に足を付けて、ハルカの背中から降りた。
 彼女は、私の家まで十分も背負ったまま歩いて来てくれた。
「ありがとう」
「気にしないでよ、好きでやってるんだから。じゃあ…またね」
 どうしてハルカは私を見捨てないの、どうしてホテルでの事を聞かないの…
 彼女の背中を見ていたら涙が出た。 


 ありがとう




▼不器用な旅路の果てに正しさを祈りながら▼


 ハルカはいつも口やかましかった。
 協力者を探そうと言いだしたのは彼女だったし、選ぶのも彼女だった。
 そしていつも成功する事無く、再び二月一日へ戻って行く。
 
 私は何度も二月を繰り返す事に疲れ、彼女とケンカした。
 初めて自分で選んだ協力者は真面目そうなサラリーマン、私を頭が悪い子だとでも思ったのだろう、そして私も自暴自棄だった。
”どうせまた元に戻っちゃうんだ…”
 何も考えずに男と寝てしまう。

 でも、分った事もあった。
 ハルカは決して自分の意志だけで私を苦しめる真似をしている訳では無い。
 多分彼女も苦しんでいるんだ、人の運命を誰よりも考えてくれているんだって思うようになれた。


 二月三日の朝から再び私は彼女と共に行動した。
 今回はもう協力者は無し。
 二人だけで精一杯運命に逆らおうと、一所懸命に足掻いた。
 ”運命に負けないように彼女と一緒に笑いながら”


 そして二月二十八日の運命の日

「後一時間だね」
「そうだねぇ」
 部屋の電気を消した部屋にハルカと私は二人きりで運命の時を待つ。
「大丈夫さ、今度こそ三月になるよ」
 ハルカの優しげな声に私も笑みを返す。
「でもまぁー、今回は二月に戻って欲しいかも…」
「バァーカ、そんな事は考えちゃだめよ。上手く行く事だけを考えなさい」
 目を細めて私を睨んで来てる、ただの冗談ですってば。
「二月を越えたら、あんたの中の嫌な思い出とか、そう言うの全部消してあげるから安心しなさい」
「分りましたよー、女神様」
 舌を出して笑って見せると彼女も一緒に笑ってくれた。

 刻一刻と、運命の時は近ずく。今はもう23:58を越えた。

 いつもと同じように緊張して体が震えだす、この世の中にどれだけの人が三月に入る瞬間を恐れる人がいるだろうか。
 刑務所の死刑囚か、戦場へ行く兵隊か…
 ”明日、自分は死ぬ…”
 その覚悟を求められる人間以外いないと思う。

 私の気持ちを察したのか、ハルカが私の隣に座って肩を抱いた。
「一緒に三月を迎えよう。な!」
 彼女の体も少し震えているようだった。…怖いのは私だけじゃないんだ。
 手を握り返し、目を閉じる。
 もしも時計のアラームが鳴れば私達はこの異常から抜け出せるんだ。
 手から伝わる温もりを勇気に変えて、二人は運命の時を待つ




 ぴぴぴぴ・・・・ぴぴぴぴぴ・・・・




 私は、カーテンから透けて見える朝日と目覚ましのアラームによって目を覚ます事になる。
 夢だったのかどうか、今までの事も昨日の事も。
 ベットから跳ね起き、目覚まし時計の日付けを確認する。

 ぴぴぴぴ・・・・ぴぴぴぴぴ・・・・
 カチン…



「ごめんな、やっぱりだめだった…」
 机の椅子には、顔を伏せて泣いているハルカがいた。
 今まで一緒に居て始めてみた彼女の泣いている姿。
 私も目に涙が溢れ出した。

 気取られぬ様に、それをパジャマの裾で拭き取る。
 後悔は無いよ、今回は駄目だったけどまた一緒に解決方法を探そうよ。
 いつか必ずこの不器用な旅路を乗り越えて笑いあえるよ。


「ただいま」
 今度は私がハルカの肩を抱く、泣いているなんてお前らしくないぞっと
 不細工な泣き顔を見て、思わず噴き出す。
 ハルカは慌てて涙を拭いた。
 そして、鼻の詰まった情けない声で返事をしてくれた。

「おかえり」



 今日が新しい私達の初めの一歩だから…ねっ!
 
 



▼終わり▼
 




       

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