Neetel Inside 文芸新都
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反社会同盟
第四話 転換

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 木島は目覚めた。彼はしばらく、うとうとしながら立ち上がらなかった。眠いからという理由もあったが、頭が混乱していたのである。
 脳裏には、昨日の様々な出来事が甦ってきた。彼は、ふとその出来事はすべて夢だったのではないかと思った。だが、しかし現実であった。
 彼が信じられなかったのも無理はない。なぜなら、あまりにも重大な出来事が、二つも襲ってきた。
 まず、一つは会社を首になった事。もう一つは離婚をせまられた事だ。この二つの出来事が、彼の人生を大きく変える事に疑いの余地はない。
 現に彼の価値観は、大きく変わった。それまで彼は、会社に忠誠を尽くせば、報われる。そう思っていた。世間から見るとだいぶ古い考えだ。が、彼はそれを信じて働いてきた。が、その考えはあっさりと崩れた。社長は、何も言わずに夜逃げしてしまった。
 そして、家族愛などというものが存在していないものを思い知った。彼は、嫌われていた。その事は彼も知っていたはずだ。が、あそこまで冷たいとは思っていなかった。なにしろ、昔は結構仲のいい家族だったのだから。だいぶ昔の話だが……。

 彼は、眠気がなくなり、一通り頭の整理が終わるとようやくよろよろ立ち上がった。そして、力なく洗面所に顔を洗いにいく。
 気のせいかもしれない。が、彼には自分の顔が昨日の朝よりも、ふけこんでいるように見えた。皺も増えているように見えた。自分を励ますように呟いた。
「気のせいだ。ただの気のせい」
 そう言って丁寧に顔を洗い、ふらふらと玄関に向かった。新聞を取るためだ。新聞を取って見る。
 見出しには政治の不祥事が書かれていた。彼は、さらに細かい内容に見ようとした。が、それは無理だった。なぜなら、老眼鏡を洗面所に置いたままにしていたからだ。老眼のせいで細かい文字が裸眼では見えないのだ。
 しかたなく、洗面所に戻る。彼はとてつもなくだるそうだった。なんとか老眼鏡を取り、新聞を眺める。そこに書かれていた事はいつもと同じような事だった。
 だが、しかし今日の彼の怒りはいつもと同じではなかった。彼は歯ぎしりした。俺が、苦しんでいるときに、政治家の連中は遊んでやがるんだ……。ふざけるなよ。そんな、思いが込め上げていた。

 ふと彼は、自分の腹が減っている事に気づいた。何を作ろうか考え始めた。が、やがて何も作れない事に気づいた。当然と言えよう。彼は結婚以来料理などしていないのだから。
 しょうがなく、彼は冷凍庫を開けた。冷凍食品を取り出すために。グラタンを取り出し、電子レンジの中に入れ、温める。
 彼は、冷蔵庫からビールを取り出した。医者に、酒はほどほどにしてくださいと、彼は言われていた。が、もうどうでも良くなった。グビッ、グビッとどんどん飲んでいく。やがて、ピーッと言う音がした。グラタンができたのだ。
 グラタンを食いながら、ビールを飲む。デザートも食べた。最近、太ってきたのでカロリーを抑えていたのに。が、食事を終えたときに、彼には不思議な満足感があった。
 だが、しかし酔いが醒めてくるにつれ、自分の状況が思い出されてきた。悲惨で、絶望的な状況が思い出されてきた。
 
 彼は、それから逃れるためにテレビをつけた。が、テレビ番組は自殺者数が急増したというニュースだった。すぐにテレビは切られた。そんな、ニュース見たくないのだ。
 彼は思った。俺もあの統計上の数字に加わるのかなと。
 ぼんやりしていた、彼はもう十時である事に気づいた。集合時間は十二時だ。家から、東京駅までは一時間以上かかる。そろそろ、行かないといけない。
 彼は着替えると、家から出た。

 駅まで歩いていく。いつもと同じだ。電車に乗る。一緒だ。
 ここまでは、一緒だった。これまでと。が、ここからは違った。彼はいつもは通過する東京駅で降りた。それは、彼の人生が大きく変わってきたことの現れだった。
 幸いにも定期券のおかげでお金を払わずにすんだ。

 集合時間の三十分前に、彼は集合場所に到着することができた。まだ、誰もいなかった。
 が、やがて一人の男がやってきた。木島に声をかける。
「木島か」
「あ、ああ。そうです。あなたは誰ですか」
 その男は苦笑いしながら言った。
「稲葉だよ。稲葉清。忘れちまったのかよ」
 木島は思い出した。稲葉のことを。木島の一年先輩だ。が、昔の稲葉の面影はまったくと言っていいほどなかった。二人は昔話を始めた。
 やがて、他の人たちもやってくる。そして、皆昔話をする。皆楽しそうにする。
 そうこうして集合時間の五分前には全員が集まった。

       

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